宿やど)” の例文
わたしは、ぼっちゃんに、わたしっているようなと、わたしむね宿やどっているようなたましいけてあげますように、かみさまにおねがいしましょう。
はてしなき世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
じつおどろきました、んなお丈夫ぢやうぶさまなおかたうして御死去おなくなりになつたかとつて、宿やどものよろしうまうしました、さぞ力落ちからおとしで……。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「やい、宿やど六、めしをだしてくれ、めしを。はらがぺこぺこだ。え。こんなにくらくなつたに、まだランプもけやがらねえのか。え、おい」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
こんな籠城の中からでさえ、宿やどったものは、ついに生ぶ声をあげずにいない。しかも木の根や草で養われた胎内の子ではなかったか。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ミハイル、アウエリヤヌイチは一人ひとりして元気げんきよく、あさからばんまでまちあそあるき、旧友きゅうゆうたずまわり、宿やどには数度すうどかえらぬがあったくらい
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「このたびはまア……とんでもないことで……それにおくやみにもまだ上がりもいたしませんで……あいにく宿やど留守るすなものですから」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さうして座敷ざしきすみ瞽女ごぜかはつて三味線さみせんふくろをすつときおろしたとき巫女くちよせ荷物にもつはこ脊負しよつて自分じぶんとまつた宿やどかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
貴女が僕のたね宿やどしたということが判ったなら、僕は一体どうなると思うのです。社会的地位も名声も、灰のように飛んでしまいます。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やゝひくく、やまこしながれめぐらして、萌黄もえぎまじりのしゆそでを、おもかげごと宿やどしたのは、つい、まのあたりちかみね向山むかひやまひとぶ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宿やどじつとしてゐるのは、なほ退屈たいくつであつた。宗助そうすけ匆々そう/\また宿やど浴衣ゆかたてゝ、しぼりの三尺さんじやくとも欄干らんかんけて、興津おきつつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おれたちはな、おまえらみたいな宿やどなしが、一生かかってするよりも、もっといいことを一時間のうちにやってのけるんだぞ!」
べて神聖しんせいものはてよろこびる。われらがしゆきみはこのあかいばらうへに、このわがくちに、わがまづしい言葉ことばにも宿やどつていらせられる。
遠くいなかへ出れば、夜になって宿やどをたのむこともできよう。けれどこうパリの近くでは……このへんで宿をたのむことはできない。さあ
おなじ宿やどに木村篤迚、今新潟始審裁判所の判事つとむる人あり。臼井六郎が事をつまびらかに知れりとて物語す。面白おもしろきふし一ツ二ツかきつくべし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いまだに宿やどとてもさだまるまじく、はゝ此樣こんになつてはづかしい紅白粉べにおしろい、よし居處ゐどころわかつたとてひにてもれまじ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
五八も驚きしつかといだは若旦那にてありしか私し事は多く御恩ごおんあづかり何かと御贔屓下ごひいきくだされし者なれば先々まづ/\わけあとの事手前の宿やどへ御供を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「正直のこうべに神宿やどる」というが、わずか百円で三方よいことをしたことになった。とんだ落語の『三方一両損』のようなはなしである。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
わたくしももう店をしまつて戻るのでござります。御差支おさしつかへなければ途中までおともいたしませう。お宿やどはどちらでござります。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
義雄は、かの未見みけんの敵であつた山の客がした如く、敷島の部屋を宿やど見た樣にして、晝間は氷峰や、勇や、入院中の森本などをまはり歩いた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
ひとこゝろ宿やどところこひをすらわらふべくしんずべからざるものならば、人生じんせいつひなんあたひぞ、ひとこゝろほど嘘僞きよぎものいではないか。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ほしなほり、ほしひめつむり宿やどったら、なんとあらう! ひめほゝうつくしさにはほし羞耻はにかまうぞ、日光にっくわうまへランプのやうに。
戸外そとへ寝るのも非常に寒くて困難ですからどうか一夜の宿やどりを願いたいと言ったところが、案外快くそんならばまずこちらにお入りなさい
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こう答えた時私は、私の今までの全経歴、全経験を、私の胸の中にぱっとひろげられたのを感じた。不覚ふかくにも私は、かすかな涙を私の眼に宿やどした。
かれの心はその造られし時、いくる力をもてたゞちに滿たされたりしかば、母に宿やどりゐてこれを豫言者たらしめき 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かつて天皇の行幸に御伴をして、山城の宇治で、秋の野のみ草(すすきかや)を刈っていた行宮あんぐう宿やどったときの興深かったさまがおもい出されます。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そのために幾度いくたびまぶたぢ/\した。なみだおもむろにあふれでゝもう直視ちよくししようとはしない眼瞼まぶたひかり宿やどしてまつてゐた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「殿様、恐れ多いことでございます。宿やども、殿様がお気の毒だ、お前はよくして上げなければならないと、いつでも申しておりますでございます」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
きた相手あいてにいうごとく、如何いかにもなつかしそうに、人形にんぎょうあおいだおせんのには、なさけつゆさえあだ宿やどって、おもいなしか、こえは一にふるえていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そこで、若者わかものたびにでかけました。しばらくして、とあるおしろのまえにきましたので、ひとばん宿やどをたのみました。
正直しやうぢきかうべかみ宿やどる——いやな思をしてかせぐよりは正直しやうぢきあそんでくらすが人間にんげん自然しぜんにしていのらずとてもかみまもらん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
己のような素質を持った人間の頭に宿やどって居る、美しい幻影や空想の世界の中に、藝術が存在するのではなくして、何等の主観をも想像をも交えずに
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その逆旅たる人生に在っても江戸に住むも近江に住むも悉く旅中の一小宿やどりたるに過ぎなかった彼に在っては、死の外に帰る棲家すみかはなかったのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「お泊まりなすっておいでなさい。奈良井ならいのお宿やどはこちらでございます。浪花講なにわこう御定宿おじょうやどはこちらでございます。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
宿やどの者此人を目科めしなさん」とて特に「さん」附にして呼び、帳番も廊下にて摺違すれちがうたびに此人には帽子を脱ぎて挨拶あいさつするなどおおい持做もてなしぶりの違う所あるにぞ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
それから船で淀川を下り、夕刻大坂の八軒屋けんやに着き、上仲仕かみなかしの幸助という男の家へ、ひとまず宿やどをとりました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「でもまるで浅茅あさぢ宿やどよ。でなけや、こほろぎの家よ。あの時、畳の上一面にぴよんぴよん逃げまはつたこほろぎはまあどうでせう。恐しいほどでしたわ」
……わたしはこの温泉宿やどにもう一月ひとつきばかり滞在たいざいしています。が、肝腎かんじんの「風景」はまだ一枚も仕上しあげません。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おなじような片歌かたうたはなしが、やまとたけるのみことにもあります。このみこと東國とうごく平定へいていとき甲斐かひくに酒折さかをりみや宿やどられて、もやしてゐたおきなに、いひかけられました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ひめがあれをただ海神かいじんいかりとのみかんじたのはいささか間違まちがってるが、それはそうとして、あの場合ばあいひめ心胸むねにはまことになみだぐましい真剣しんけんさが宿やどっていた。
其の翌十八年の夏酷暑と悪病を避けて有馬の温泉に浴す。はしなく会人あいづのひと無々君と邂逅して宿やどを倶にす。君は真宗の僧侶にして、学識ふたつながら秀で尤も説教に長ぜりと。
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
どの横町も灰色の夜陰やいんに閉ぢられて灯影ほかげすくなく、ゴルキイの「よる宿やど」の様な物凄さを感じないでもない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しかし路が狹いので、それが行き過ぎるまでと思つて坐つてゐた。その頃は私もまだ若かつたから! いろ/\な明るいまた暗い空想が、私の心に宿やどつてゐた。
その代り、そうするには何処か人知れぬ心の隠家かくれがを求めて、時々生命いのちの洗濯をする必要を感じた。宿やどなしの乞食でさえも眠るにはなお橋の下を求めるではないか。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
明るいところにまないごとく、花前のような生活には虚偽きょぎ罪悪ざいあくなどいうものの宿やどりようがない。大悟徹底だいごてっていというのがそれか。絶対的ぜったいてき安心あんしんというのがそれか。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたし途中とちう宿やどちかくで自動車じどうしや乗棄のりすてた。そしてI宿やどつた。I洋服姿ようふくすがたひとりでゐた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
われ江戸に逗留とうりうせしころ、旅宿りよしゆくのちかきあたりに死亡ありて葬式さうしきの日大あらしなるに、宿やどあるじもこれにゆくとて雨具あまぐきびしくなしながら、今日けふほとけはいかなる因果いんくわものぞや
ところで、不幸なことに、この男、細君さいくんがあった。そうした種類の人間に、宿やどの妻という奴は、いや笑いごとじゃない。まさに不幸といッつべきだよ。いや、まったく。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私たちは侍女じじょなんです。今日きょう、森へ遊びにお姫様ひめさまをおつれもうしましたところ、道にまよってとうとうここへきてしまいました。どうか、今晩こんばんだけ宿やどをかしてください。
巨男の話 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
三人の娘をともないてこの高原に来たり、今の来内らいない村の伊豆権現いずごんげんの社あるところに宿やどりし夜、今夜よき夢を見たらん娘によき山を与うべしと母の神の語りて寝たりしに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ここの旅館丸杉は、以前未醒画伯の宿やどったことがある家だという。早速宿ることとして旅装をとく。