さだま)” の例文
火入ひいれにべた、一せんがおさだまりの、あの、萌黄色もえぎいろ蚊遣香かやりかうほそけむりは、脈々みやく/\として、そして、そらくもとは反對はんたいはうなびく。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今やかしこに、己が射放つ物をばすべて樂しきまとにむくるつるの力我等を送る、あたかもさだまれる場所におくるごとし 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
さだまりの女買おんながい費込つかいこんだ揚句あげくはてに、ここに進退きわまって夜更よふけて劇薬自殺をげた……と薄気味悪るく血嘔ちへどを吐く手真似で話した。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
本人ほんにん自營獨立じえいどくりつこゝろさへさだまつてれば、どんな塲所ばしよしても、またどんな境遇きやうぐうしよしても差支さしつかへなく、變通自在へんつうじざいでありませう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
フルマイは今では物を食わせることのごとく解せられるが、やはりさだまった吉凶行事のある日のことで、ただこれには必ず御馳走が伴っただけである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
淫慾いんよく財慾ざいよくよくはいづれも身をほろぼすの香餌うまきゑさ也。至善よき人は路に千金をいへ美人びじんたいすれどもこゝろみだりうごかざるは、とゞまることをりてさだまる事あるゆゑ也。
その二は既に高等専門の学業をもへ志さだまりて後感ずる事ありて小説を作るものなり。桜痴福地おうちふくち先生は世の変遷に経綸けいりんの志を捨て遂に操觚そうこの人となりぬ。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いつも形勢が既にさだまって動かすべからずなって、其形勢に制せられて始て決心するのだから、学校を除籍せられたばかりでは、未だ決心が出来なかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
殺せし由すでに白状に及び最早もはや罪の次第もさだまりし上は力及ばずと聞しお專は狂氣の如く又與惣次も力をおとたがひになげかなしめ共今は詮方せんかたなく種々に心をいためたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きぬはなして、おきぬ愈々いよ/\小田原をだはらよめにゆくことにまつた一でうかされたときぼく心持こゝろもちぼく運命うんめいさだまつたやうで、今更いまさらなんともへぬ不快ふくわいでならなかつた。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
角右衞門殿が臨終いまわきわに何にもいう事はねえが、おらうちの相続人は多助とさだまっている、此度こんどおらア死病と定って居るから、一言いちごん云わねえければならねえと云うものは
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鐵車てつしやが、いよ/\永久紀念塔えいきゆうきねんたふ深山しんざんいたゞきてんがめに、此處こゝ出發しゆつぱつするのは明朝めうてう午前ごぜん六時ろくじさだまつたが、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさは、海底戰鬪艇かいていせんとうてい運轉式うんてんしき間近まぢかせまつてるので
謙蔵はびっくりして立ち止まったが、その眼は視線がさだまらなかった。続いて数人の男女の叫ぶ声がした。それは酒造屋さかやの内からであった。謙蔵はり返って店の中をのぞいた。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
実はおれう考へて居る。会員には済まん様なものだが、眞田家の親子六人、命を賭けて迄維持せねば成らぬ事も有るまい。会員の中には詩の実力のさだまつた連中が大分にある。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
非常に漠然と取りつき場もなく擴がつてゐるやうに思はれた、私の仕事といふのも、彼が話を進めるにつれて※つて來、彼の手に形づくられて一つのさだまつた形をとるやうになつた。
この場合、世界のあらゆる男の方が来られても、私の真の味方になれる人は一人もない。命掛の場合にどうしても真の味方になれぬという男は、無始の世からさだまった女のかたきではないか。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
静かなる事さだまって、静かなるうちに、わが一脈いちみゃくの命をたくすると知った時、この大乾坤だいけんこんのいずくにかかよう、わが血潮は、粛々しゅくしゅくと動くにもかかわらず、音なくして寂定裏じゃくじょうり形骸けいがい土木視どぼくしして
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
山葵の刺撃でつぶれるというほどの力をもちます。それですから西洋料理に唐辛のような物を使う時はその配合法がさだまっていてその力を胃の刺撃にのみ用ゆるような工風くふうがしてあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
不図ふと立聞たちぎきして魂魄たましいゆら/\と足さだまらず、其儘そのまま其処そこ逃出にげいだし人なき柴部屋しばべやに夢のごといると等しく、せぐりくる涙、あなた程の方の女房とは我身わがみためを思われてながら吉兵衛様の無礼過なめすぎた言葉恨めしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
娘のうたを歌ひながら一心にはたおつて居る小屋など、一つ/\あらはれるのを段々先へ先へと歩いて行くと、高低さだまらざる石の多い路の凹処くぼみには、水が丸で洪水こうずゐ退いた跡でもあるかのやうに満ち渡つて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
其中お互に身がさだまりましたら改めて御交際を願ひませうと。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
既にさだまっていた良家への縁談は腹違いの妹にと移された。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
花に又ことしのつれもさだまらず 野水
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それとなく胸中の鬱悶うつもんらした、未来があるものとさだまり、霊魂の行末ゆくすえきまったら、直ぐにあとを追おうと言った、ことばはしにもあらわれていた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或はこれが日本文の最後のさだまつた形式として少くとも或る地盤を作るものであらうか。自分は知らない。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
悉皆のこりなく呼出よびだされ村井長庵は兩度りやうど拷問がうもんにても白状はくじやうせざる事故身體しんたいつかはてかゝる惡人あくにんなりといへどてんさだまりて人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お勢は黄八丈の一ツ小袖に藍鼠金入繻珍あいねずみきんいりしゅちんの丸帯、勿論もちろん下にはおさだまりの緋縮緬ひぢりめん等身ついたけ襦袢、此奴こいつも金糸で縫のッた水浅黄みずあさぎ縮緬の半襟をかけた奴で、帯上はアレハ時色ときいろ縮緬
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
村「私のようなものと死ぬのは外聞がわるかろうけれども、友さんさだまる約束と諦めて、どうぞ死んで彼世あのよとかへ行っても、どうぞ見捨てないで女房にょうぼと思っておくんなさいよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それだから自然にこの類の話も出来たのであろうが、不思議なのはこの馬を粗末にした報い、そうでなければ親不孝の罪でという風に、原因がおおよそさだまっていたことである。
市日には遠近ゑんきんの村々より男女をいはず所持しよぢのちゞみに名所などころしるしたる紙簽かみふだをつけて市場に持より、そのしな買人かひてに見せて売買うりかひ直段ねだんさだまれば鑑符きつてをわたし、その日市はてゝかねふ。
元來ぐわんらいこの孤島はなれじままへにもやうに、だ、世界輿地圖せかいよちづ表面ひやうめんにはあらはれてらないほどで、櫻木大佐さくらぎたいさ一行いつかうが、はじめて發見はつけんしたまでまつたくの無人島むじんとうで、何國いづこ領地りようちともさだまつてらぬところだから
勿論当時の人間には国籍も住所もさだまっていない。水草を追うて浮動する小部隊が錯落さくらくとして散在した事であろう。今日う所の如き「家」とか「社会」とかいう観念のなかったのは勿論である。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「私の家は日本中サとえば豪気だが、どことさだまって屋根は持たぬ。差当り四谷よつや近辺の橋の下で犬と寝ている女乞食。」「え!」「たんと申す、お転婆さ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
曇りがちであった十一月の天気も二三日前の雨と風とにすっかりさだまって、いよいよ「一年ノ好景君記取セヨ」と東坡とうばの言ったような小春の好時節になったのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼是あれこれと考えると蝋燭のしんのたつ様で、しまいにゃア桂庵婆けいあんばゞあ追遣おいつかわれるように成るだろうと大抵てえ/\心配さ、愚痴をいうようだがおまえの身がさだまらないではときまりを付けようと思っても
大佐たいさは、今朝けささだまれる職務しよくむまゐるが、昨夜さくや取紛とりまぎれてかたらず、今朝こんてう御睡眠中ごすいみんちうなれば、この水兵すいへいもつ申上もうしあげるが、この住家すみかの十ちやう以内いないなれば、何處いづくかるゝも御自由ごじいうなれど、その以外いぐわい
しかし御存ごぞんじの通り、西洋へ行ってもこれとさだまった職業は覚えず、学位の肩書も取れず、取集めたものは芝居とオペラと音楽会コンセール番組プログラムに女芸人の寫真と裸体画はだかえばかり。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのかわり、衣服きものは年上の方が、紋着もんつきだったり、おめしだったり、時にはしどけない伊達巻だてまき寝着ねまき姿と変るのに、若いのは、きっしまものにさだまって、帯をきちんとめている。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
足元のさだまらぬ処から無礼を致しやして申し訳がありやせん、どうか御勘弁を願いやす
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
のかはり、衣服きもの年上としうへはうが、紋着もんつきだつたり、おめしだつたり、ときにはしどけない伊達卷だてまき寢着姿ねまきすがたかはるのに、わかいのは、きつしまものにさだまつて、おびをきちんとめてる。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぽんびきと云うのか、源氏というのかよく知らぬが、とにかく怪し気な勧誘者を追払うために、わたくしは口から出まかせに吉原へ行くと言ったのであるが、行先のさだまらない散歩の方向は
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
井生森又作という三十五歳に相成あいなりましてもいまだ身上みのうえさだまらず、怪しいなり柳川紬やながわつむぎあわせ一枚で下にはシャツを着て居りますが、羽織も黒といえばていいけれども、紋の所が黒くなって
それあつければうめ、ぬるければたけきやくまつ揚場あがりばに、奧方おくがたはおさだまりの廂髮ひさしがみ大島おほしままがひのお羽織はおりで、旦那だんな藻脱もぬけかごそばに、小兒こども衣服きものあかうらを、ひざひるがへしてひかへてる。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その又前の年の夏には、赤坂見附のほりに、深更人のさだまった後、大きな蝦蟇がまが現れ悲痛な声を揚げて泣くという噂が立ち、或新聞の如きは蝦蟇を捕えた人に金参百円の賞を贈ると云う広告を出した。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なんでえ、つてけ。」と、舞袴まひばかまにぴたりとひぢつて、とろりと一にらにらむのがおさだまり……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
途名古屋ニ留ルコト数日、君逆旅げきりょノ主人ヲ介シテソノ著ス所ノ『徳川氏史稿』四巻ヲ以テシテ謁ヲヘリ。すなわち命シテコレヲク。円顱方袍えんろほうほう。挙止安詳。坐さだまルヤコレトともニ古今ノ得失ヲ談ズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あまとほところではありませぬ。人通ひとどほりのない、故道松並木ふるみちまつなみき五位鷺ごゐさぎは、ひと居處ゐどころから五本目ほんめえだとまります、道中だうちうさだまり。……消殘きえのこりましたのは、お前樣まへさまから、うへへ五本目ほんめぞんじます。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こちこちと寂しいが、土地がら、今時はおさだまりの俗にとなうる坊さん花、あざみやわらかいような樺紫かばむらさき小鶏頭こげいとうを、一束にして添えたのと、ちょっと色紙の二本たばねの線香、一銭蝋燭いちもんろうそくを添えて持った
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
床店とこみせ筋向すじむこうが、やはりその荒物店あらものみせでありますところ戸外おもてへは水を打って、のき提灯ちょうちんにはまだ火をともさぬ、溝石みぞいしから往来へ縁台えんだいまたがせて、差向さしむかいに将棊しょうぎっています。はし附木つけぎ、おさだまりの奴で。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちょッ面倒だ。宿銭とまりびたでおさだまり、それ、」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)