偶然ぐうぜん)” の例文
こうした周囲しゅうい空気くうきは、ぼくをして、偶然ぐうぜんにもこころふかかんじたいっさいをける機会きかいをば、永久えいきゅうにうしなわしてしまったのでした。
だれにも話さなかったこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふしぎな偶然ぐうぜんの出来事が、ふしぎにいくつも重なって起ったような感じだが、それもみんな、清少年の運命であったにちがいないのだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
廣い兩國橋の上、萬といふ群衆の押し合ふなかで、この二人の小娘が、何にかを見てゐたとしら、これは實に有難過ぎるほどの偶然ぐうぜんです。
此時このときうれしさ! ると一しやくぐらいのあぢで、巨大きよだいなる魚群ぎよぐんはれたために、偶然ぐうぜんにも艇中ていちう飛込とびこんだのである。てんたまものわたくしいそ取上とりあげた。
小六ころくから坂井さかゐおとうと、それから滿洲まんしう蒙古もうこ出京しゆつきやう安井やすゐ、——談話だんわあと辿たどれば辿たどほど偶然ぐうぜんはあまりにはなはだしかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これを頭韻とういんといつて、日本につぽんうたでは、あらかじ計畫けいかくしてかういふことをするのはすくないが、偶然ぐうぜんこんなかたち出來できることがあります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
これは偶然ぐうぜんせう寫眞術しやしんじゆつ」の沿革史えんかくしの一せつにも書いてあることだつたが、うちで寫眞しやしんうつすといふと、いつもその上寫眞館しやしんくわんへ出かけたもので
わたし医者いしゃで、貴方あなた精神病者せいしんびょうしゃであるとうことにおいて、徳義とくぎければ、論理ろんりいのです。つま偶然ぐうぜん場合ばあいのみです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
なにより先に、あなたとの思い出が書きたく、すでに書きめの原稿紙げんこうしも五六十枚になった頃、偶然ぐうぜん、新宿の一食堂で、中村さんに逢いました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
これけだし、すでに腹の畑はこやしができ、掘り起こされて土壤どじょうが柔かになり、下種かしゅの時おそしと待っているところに、空飛ぶ鳥が偶然ぐうぜんりゅうおとしたり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「男は弱く、女は強い。そして偶然ぐうぜんが、全能の力をもっている」とは、晩年近い作『けむり』の中に見える言葉ですが
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
まちをつと末男すゑをは、偶然ぐうぜんにも彼女かれとおなじ北海道ほくかいだううまれたをとこであつた。彼女かれはそれを不思議ふしぎ奇遇きぐうのやうによろこんだ。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
これはたんなる偶然ぐうぜんか、それとも幽冥ゆうめい世界せかいからのとりなしか、かみならぬには容易ようい判断はんだんかぎりではありません。
周三は或時あるとき偶然ぐうぜんに、「人は何のために生まれたのだらう、そして何のためにき、何うして死んで了ふのだらう。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そして、その渾名の中には、入浴時のある発見や偶然ぐうぜんのできごとを機縁きえんにして命名めいめいされたものも少なくはなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
西暦せいれき千七百四十八年せんしちひやくしじゆうはちねん一農夫いちのうふ偶然ぐうぜん發見はつけんによりつひ今日こんにちのようにほとんど全部ぜんぶ發掘はつくつされることになつたのである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
若い男とささやきあうような口先で、秘密をつくるようなことはしなかった……。ただ、偶然ぐうぜんに、讐敵しゅうてきに会ったような、寅年の二人の肉体が呼びあったのだ。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
勘次かんじはどれほど嚴重げんぢうにしてもおつぎがかはやかよ時間じかんをさへせまにはなかはなつことをこばむことは出來できなかつた。執念深しふねんぶかい一にん偶然ぐうぜんさういふ機會きくわい發見はつけんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
った同じ年に偶然ぐうぜんある災難が起りそれより後は決して写真などを写さなかったはずであるから
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
またどうすゞをまぜるとるのに容易よういで、しかもかたくつて丈夫じようぶであるといふことも、最初さいしよ偶然ぐうぜんつたらしいのでありますが、幾度いくどかの經驗けいけんどう九分くぶすゞ一分いちぶをまぜあはすと
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
日ごと問題の図書館(それは、その後二百年にして地下に埋没まいぼつし、さらに二千三百年にして偶然ぐうぜん発掘はっくつされる運命をもつものであるが)に通って万巻の書に目をさらしつつ研鑽けんさんふけった。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
浄瑠璃の行われる西の人だったから、主人は偶然ぐうぜんに用いた語り物の言葉を用いたのだが、同じく西の人で、これを知っていたところの真率で善良で忠誠な細君はカッとなっていかった。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「これはいったい何事だろう?」と、いつのまにか自分の部屋にい戻っていたわたしは、ほとんど無意識に、そう声に出して言った。——「ゆめなのか、偶然ぐうぜんなのか、それとも……」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
一人女ひとりをんな」「一人坊主ひとりばうず」は、暴風あれか、火災くわさいか、難破なんぱか、いづれにもせよ危險きけんありて、ふねおそふのてうなりと言傳いひつたへて、船頭せんどういたこれめり。其日そのひ加能丸かのうまる偶然ぐうぜんにん旅僧たびそうせたり。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分の心がすこしも要求してゐない幸福を頭から無理にひはせまい。長吉ちやうきち偶然ぐうぜんにも母親のやうな正しい身の上の女と小梅こうめのをばさんのやうな或種あるしゆの経歴ある女との心理を比較した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その石のせいがどうしてまよって出てたのです。なにかわたしに御用ごようがあるのでしょうか。偶然ぐうぜんながら、こうして一晩ひとばんのお宿やどねがったおれいに、なにかしてげることがあればなんでもしましょう。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
最後さいごに、偶然ぐうぜんにも、それは鶴見驛つるみえきから線路せんろして、少許すこしつた畑中はたなかの、紺屋こうや横手よこて畑中はたなかから掘出ほりだしつゝあるのを見出みいだした。普通ふつう貝塚かひづかなどのるべき個所かしよではない、きはめて低地ていちだ。
今年こそきっといいのだ。あんなひどい旱魃かんばつが二年つづいたことさえいままでの気象きしょう統計とうけいにはなかったというくらいだもの、どんな偶然ぐうぜんあつまったって今年まで続くなんてことはないはずだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
世間せけんはひろく歩いてみるものだ、——秀吉ひでよしにはにらまれている身の上、家康いえやす恩顧おんこをうけるほかに生き道はないと考えていたら、これは、偶然ぐうぜんとはいえ、ねがってもないことにぶつかったものだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、偶然ぐうぜんの一致さ。暗合コインシデンスだよ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
偶然ぐうぜんのことで、新時代しんじだいは、そこまできながら、だれよりも、まじめにむかえたであろうおばあさんに、れずにしまいました。
おばあさんとツェッペリン (新字新仮名) / 小川未明(著)
勿論もちろん此樣こんなことにはなにふか仔細しさいのあらうはづはない。つまり偶然ぐうぜん出來事できごとには相違さうゐないのだが、わたくしなんとなく異樣ゐやうかんじたよ。
わたし醫者いしやで、貴方あなた精神病者せいしんびやうしやであるとふことにおいて、徳義とくぎければ、論理ろんりいのです。つま偶然ぐうぜん場合ばあひのみです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夢は偶然ぐうぜんなる現象にあらず、まったくくうのものにあらず、病的のものにあらず、ばかげたるものにあらず、人生の一部としてかえりみるべきもの
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
夫婦ふうふがこんなふうさみしくむつまじくらしてた二年目ねんめすゑに、宗助そうすけはもとの同級生どうきふせいで、學生時代がくせいじだいには大變たいへん懇意こんいであつた杉原すぎはらをとこ偶然ぐうぜん出逢であつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
めくっていると、偶然ぐうぜんこの一節が眼にとまりました。何だか関係があるような気がしたので読んでみたんです。それだけのことで、べつに感想はありません。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一方山名国太郎の失踪については、喜多公を変電所へ張って行った刑事から、偶然ぐうぜん手懸りがついた。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そればかりなら偶然ぐうぜんの廻り合せとも思つたでせうが、續いて昨日の十五日、三番目の十八になる娘が、親類の家へ泊りに行つて居て、其先から誘拐かどはかされてしまつたのです。
俺に取ツちや眞箇まつたく偶然ぐうぜんに得られた資格で、阿父からいふと必要に迫まられてあたへた資格なんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そのとき、全く偶然ぐうぜんで、すぐ前にいたあなたに、ぼくが「活動みていたんですか」ときいた。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
もし偶然ぐうぜんかような位置いち居合ゐあはせたならば、機敏きびん飛出とびだすが最上策さいじようさくであること勿論もちろんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ところが人類じんるいはまた偶然ぐうぜん岩石がんせきあひだにあるきんだとかどうだとかのような金屬きんぞく發見はつけんして、こんどはその金屬きんぞくをもつて器物きぶつつくるようになりましたが、これはいしほね器物きぶつくらべると
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
偶然ぐうぜんおこつたかれ破廉耻はれんち行爲かうゐにはか村落むら耳目じもく聳動しようどうしても、にもかくにも一處理しよりしてかねばならぬすべてのものは、彼等かれら共通きようつうきたがりりたがる性情せいじやうられつゝも
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
中學時分につた寫眞器しやしんきも、そのすこし以前或る寫眞好しやしんずきの友たちおくつてしまつたので、それ以來しばらわたしの手もとには寫眞器しやしんきかげがなくなつてしまつたがそのよく年のこと、わたし偶然ぐうぜんある人から
偶然ぐうぜん結果けつくわではあるが、此責任このせきにんうてつべく出來上できあがつたとしんじる。
の人々の中に長吉ちやうきち偶然ぐうぜんにも若い一人の芸者が、口には桃色のハンケチをくはへて、一重羽織ひとへばおり袖口そでぐちぬらすまいめか、真白まつしろ手先てさきをば腕までも見せるやうに長くさしのばしてゐるのを認めた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お浪が云ったことば偶然ぐうぜんであったのだが、源三は甲府へ逃げ出そうとしてこころげなかった後、恐ろしい雁坂を越えて東京の方へ出ようと試みたことが、すでに一度で無く二度までもあったからで
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その習慣しゆうかんが、ひさしくつゞいてて、ごく近代きんだいおよんでゐます。だから偶然ぐうぜんおこつてた、ひとつゞきのうた文句もんくにも、たゞうた表面ひようめん意味いみ以外いがいに、なにかはつた内容ないようがありそうなかんじをつたのであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
京方きょうがた討手うってがこの地方へしのんだとき、どうしても自天王の御座所が分らないので、山また山をさがし求めつつ、一日偶然ぐうぜんこの峡谷へやって来て、ふと渓川たにがわを見ると、川上の方から黄金が流れて来る
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その擧動ふるまひのあまりに奇怪きくわいなのでわたくしおもはず小首こくびかたむけたが、此時このとき何故なにゆゑともれず偶然ぐうぜんにもむねうかんでひとつの物語ものがたりがある。