くば)” の例文
にたゝへておたかくとはいひしぬ歳月としつきこゝろくばりし甲斐かひやうや此詞このことばにまづ安心あんしんとはおもふものゝ運平うんぺいなほも油斷ゆだんをなさず起居たちゐにつけて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たゞる、日本橋にほんばし檜物町ひものちやう藤村ふぢむら二十七疊にじふしちでふ大廣間おほひろま黒檀こくたん大卓だいたくのまはりに、淺葱絽あさぎろ座蒲團ざぶとんすゞしくくばらせて、一人ひとり第一番だいいちばん莊重さうちようひかへてる。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「そうは思わないよ。黙っていたまえ君は……。おう、進君、やがて水をくばる時間だ。第四の樽を開けて置いてれたまえ」
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それで彼等かれらよる時刻じこくると、目明めあき手曳てびきがだんだんと家々いへ/\くばつてあるく。さうしては手曳てびきがそれをあつめてれてかへつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ただ雨の夜道を遠く帰らねばならない使いの人らに、気をくばるはりあいで、お政はわずかに自分をうしなわずにいるのである。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
晝食ちうじきに歸るには餘りに遠過ぎたので、普段の食事に定められてゐるのと同じほどの、吝々けち/\した分量の冷肉とパンのお辨當が、禮拜の合間にくばられた。
「兎も角お神さんのお余野を医者へやってあっしは其辺中に眼をくばりましたがね。何を見付けたと思います、親分」
此時このとき宗助そうすけつて、醫者いしやるのをいまいまかとけるこゝろほどつらいものはなかつた。かれ御米およねかたみながらも、えずおもて物音ものおとくばつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
万はそう言って、妻のおきんが運んで来た餅桶の中から二切れずつの餅を取っては、子供達の手にくばって行った。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
急いで鼻緒をすげてしまった頃には、二人のうしろ影はもう小半丁も遠くなっているのを、見失うまいと眼をくばりながら、長三郎は足早に追って行った。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
洋一は唐物屋の前まで来ると、飾り窓をうしろたたずみながら、大通りを通る人や車に、苛立いらだたしい視線をくばり始めた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
くばり曾て外々ほか/\の者とは事變り其辛抱は餘所目よそめにも見ゆる程なれば近所近邊の者に至るまで伊勢五の忠義ちうぎ々々/\と評判高く一年々々ととしかさなりて終に二十年を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つまりあのかた見失みうしわないようにしてみんながくばってる証拠しょうこなの。さあさ、そんなにあしゆび内側うちがわげないで。
二人とも、そこに突っ立ったまま、両手をポケットに入れ、素知そしらぬ顔で、踏段ふみだんのほうに気をくばっている。と、やがて、にんじんは、レミイをひじ小突こづく。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
狼狽の眼を、急に、あたりへくばると、梅軒は、顔のまえで強くカラカラ廻っている風車に、初めて気づいて
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女優B′ 先生はまだお一人でいらつしやるんだらうから、身の廻りのお世話なんか、よく気をくばつてね。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そこには、や、ぶとや、はちや、小鳥ことりなどがんでいます。それらにたいしても、このいけおうさまであるかわずは、いちいちくばらなければなりませんでした。
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分ばかりが博識ものしりがるものなり、菊塢きくう奥州おうしうよりボツト出て、堺町さかひてう芝居茶屋しばゐぢやや和泉屋いづみやかんらうかた飯焚めしたきとなり、気転きてんくより店の若衆わかいしゆとなり、客先きやくさき番附ばんづけくばりにも
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
尤も今も云うように瞳は或る一点をにらみつめたまゝであり、わずかに視野に這入って来るものを眼のすみに感じたゞけであるが、それでいて彼は人々の様子に気をくば
それにまだ世間せけんには売物ばいぶつにないと結構けつこうなお下物さかなでせうなんだか名も知らない美味物許うまいものばかりなんで吾知われしらず大変たいへんつちまひました、それゆゑ何方様どちらさまへも番附ばんづけくばらずにかへつたので
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
灌仏というのは、四月八日の釈迦の誕生日に寺で灌仏会かんぶつえというものを修じ、参詣人に甘茶などをくばるのである。これはその灌仏の日に寺に一人の児がいるのが人の目につく。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
吉良上野介は、お掛縁かけえんに控えて、最後に、すべてのくばりはよいかと、あたりを見廻した。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたくし少年せうねんも、今猶いまなほ十數日すうにち以來いらい疲勞つかれかんじてるので、其樣そんな高歩たかあるきする氣遣きづかひはないが、ましてこの注意ちうゐがあつたので、一層いつそうこゝろくばり、食後しよくごは、日記につきいたり、少年せうねん二人ふたり
乳母 御方樣おんかたさま只今たゞいま居間ゐまらせられます。けた、もし、油斷ゆだんなうこゝろくばって。
各の町に一體づつの觀世音を祭る、物日にはそれぞれある店の一部を借りて開帳し、これに侍づくわかい娘たちは參詣の人にくろ豆をくばり、或は小屋をかけていろいろのもよふしをする。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
どう足音あしおとしのばせて、ふすまけたてにもくばりながら、つぎった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
なにたかとひながらも、を四はうくばつてると、掘出ほりだしたかひは、一々いち/\ふるひふるつて、かひかひだけとして、やまごとんである。破片はへん其所此所そこここ散亂さんらんしてる。むね土器々々どき/\である。
松明たいまつんだ火串ほぐしは円形にその草野を包んで立てられた。集った宮人みやびとたちには、鹿の肉片と、松葉で造った麁酒そしゅもそろの酒がくばられ、大夫たいぶ使部しぶには、和稲にぎしねから作った諸白酒もろはくざけが与えられた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
おんつぁんは始終あたりに眼をくばらなければならないやうな境涯にゐたのだ。
(新字旧仮名) / 有島武郎(著)
但馬守たじまのかみ與力よりきどもをおどかしけていて、それから町家ちやうかうへくばつた。すると其處そこには、あらゆる腐敗ふはいが、鼻持はなもちもならぬまでにどろ/\と、膿汁うみしるのやうな臭氣しうきを八ぱうながしてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
自然のくばたまものの一番上等なものですのに。3105
火星くわせいでは一日に二くわい 食物しよくもつ市民しみんくばります
荷物にもつといふは大八だいはちたゞひとくるまきたりしばかり、兩隣りやうどなりにおさだめの土産みやげくばりけれども、いへうち引越ひつこしらしきさわぎもなく至極しごく寂寞ひつそりとせしものなり。
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひろくもないはたけのこらずが一くはれるのでおの/\たがひ邪魔じやまりつゝ人數にんずなかば始終しじうくはつゑいてはつてとほくへくばりつゝわらひさゞめく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
……何よりの証拠には、まず敵は、七尾とこことの中間、敷浪しきなみにも兵をやり、津幡とこことの間の川尻かわじりにも、逸早いちはやく、兵をくばっている。なんのためか、存じておるか
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くばまづ品川新宿板橋千住の大出口おほでぐち四ヶ所へは人數千人づつかためさせ其外九ヶ所の出口でぐちへは人數五百人づつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
せきくばつた、座蒲團ざぶとんひとひとつのたくうへに、古色こしよくやゝ蒼然さうぜんたらむとほつする一錢銅貨いつせんどうくわがコツンと一個いつこにひらきをいて、またコツンと一個いつこ會員くわいゐんすうだけせてある。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は、お茶の時にくばられた貴重な黒パンのきれを二人の請求者の間に分けたことが幾度もあつた。
「薬がおさまるようになれば、もうしめたものだ。だがちっとは長びくだろうし、床上とこあげの時分は暑かろうな。こいつは一つ赤飯せきはんの代りに、氷あずきでもくばる事にするか。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも、彼女は、ルピック氏から眼を離さずに、心を四方にくばっているのである。彼女は、気がきくという点で、彼を感心させ、自分の値打ちを認めてもらおうというのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
また、先頭せんとうのからすは、にあった野原のはらや、かわや、海浜かいひんや、むらや、まちなどにも注意ちゅういくばらなければなりません。いつ、どんなものが、自分じぶんたちをねらうかわからないからです。
翼の破れたからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのくら部屋へや片隅かたすみへ、いましもおせんが、あたりくばりながら、むねぱいかかしたのは、つい三日前みっかまえよる由斎ゆうさいもとから駕籠かごせてとどけてよこした、八百お七の舞台姿ぶたいすがたをそのままの
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
銘々めい/\勝手かつてわかつた々々と自分じぶん議論ぎろん都合つがふはうにのみくばつて、がう學術的研究がくじゆつてきけんきうおこなはれず、一ぱうあとから彌生式やよひしき混入こんにふしたとひ、一ぱうは、いなしからずとひ。水掛論みづかけろんをはつてしまつた。
その翌日よくじつは、漂流へうりう以來いらいはじめてすここゝろ落付おちついて、れい雨水あめみづみ、沙魚ふかにく舌皷したつゞみちつゝ、島影しまかげきか、滊船きせんけむりへぬかと始終しじうくばる、けれどこの何物なにものまなこさへぎるものとてはなく
なにをいうにも狭いところに大勢ごたごたしているのと、他の人達はみな自分たちが係り合いの踊り子にばかり気をくばっていたのとで、おていがいつの間にどうしたのか誰も知っている者はなかった。
我門に来さうにしたりくばもち 一茶
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
氣をくばつて居るだけのことです。
ひとはなしひと猶更なほさらなからんをなにつとか馬鹿ばからしさよと他目よそめにはゆるゐものからまだ立去たちさりもせず前後ぜんごくばるは人待ひとまこゝろえぬなるべし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
主の高氏から受けて来た密命も、あえないムダ骨折りに終ったかと、一時は落胆の余り茫然としたが、次の日からは、城内にいてくばる眼も、おのずから違って来ていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白は犬殺しに目をくばりながら、じりじりあとすざりを始めました。そうしてまた生垣いけがきの蔭に犬殺しの姿が隠れるが早いか、可哀かわいそうな黒を残したまま、一目散いちもくさんに逃げ出しました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)