人家じんか)” の例文
広々ひろ/″\したかまへの外には大きな庭石にはいし据並すゑならべた植木屋うゑきやもあれば、いかにも田舎ゐなからしい茅葺かやぶき人家じんかのまばらに立ちつゞいてゐるところもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
みちの両側しばらくのあいだ、人家じんかえては続いたが、いずれも寝静まって、しらけた藁屋わらやの中に、何家どこ何家どこも人の気勢けはいがせぬ。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これはもと人家じんか栽培さいばいしてあったものが、いつのまにかその球根が脱出して、ついに野生やせいになったもので、もとより日本の原産ではない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ゆきって、や、はたけをうずめてしまうと、すずめたちは、人家じんか軒端のきばちかくやってきました。もう、そとちているがなかったからです。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほらざれば家の用ふさ人家じんかうづめて人のいづべきところもなく、力強ちからつよき家も幾万斤いくまんきんの雪の重量おもさ推砕おしくだかれんをおそるゝゆゑ、家として雪をほらざるはなし。
られては野宿のじゆくでもしなければなるまい、宿屋やどや此近所このきんじよにはなし、うムむかうにえるが人家じんかがあるのだらう。
くさおほはれたをかスロープ交錯かうさくし合つておだやかなまくのやうに流れてゐた。人家じんかはばう/\としたくさのためにえなかつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
ただうみに一そう漁船ぎょせんもなく、またおかに一けん人家じんかえないのが現世げんせちがっているてんで、それがめになにやら全体ぜんたい景色けしき夢幻ゆめまぼろしちかかんじをあたえました。
この田舍ゐなかみづ不自由ふじいうなところでした。たにそこはうまでけばやまあひだながれて谷川たにがはがなくもありませんが、人家じんかちかくにはそれもありませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
糢糊もこたる暁色げうしよくの中に藍鼠あゐねずみ色をした円錐けいの小さい島の姿が美しかつた。山麓に点点てんてんたる白い物は雪であらうと云つて居たが、望遠鏡で望むと人家じんかであつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
が、この出來事できごとわたし眠氣ねむけ瞬間しゆんかんましてしまつた。やみなか見透みすかすと、人家じんか燈灯ともしびはもうえなくなつてゐた。Fまち夢中むちうとほぎてしまつたのだつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
人家が独立して周囲に立木たちきがある為に、人家じんか櫛比しっぴの街道筋を除いては、村の火事は滅多めったに大火にはならぬ。然し火の一つ飛んだらば、必焼けるにきまって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
病氣びやうきくない、』『あめりさうですから』など宿やどものがとめるのもかず、ぼく竿さをもつ出掛でかけた。人家じんかはなれて四五ちやうさかのぼるとすでみちもなければはたけもない。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
渓流に架かっているつたのかけはし、そこをわたると部落の盆地、あなたに四、五けんかわべりに七、八軒、また傾斜けいしゃの山のにも八、九軒、けむりを立てている人家じんかがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またうみのつよいかぜ濱邊はまべすなばして、砂丘さきゆうつくつたり、その砂丘さきゆうすなをまた方々ほう/″\はこんで、大事だいじはたや、ときによると人家じんかまでもうづめてしまふことがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
この村を通り過ぎると、次の村まではまた暫くの間人家じんかが無かつた。次の村の入口には、こはれた硝子戸がらすどを白紙でつくろつた床屋とこやがあつた。其の村は前の村よりも貧しさうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
見惚みとれるともなく見惚れながらぼんやりたたずんでゐるのであつたが、ちやうど此のあたりは国道筋でも人家じんかまばらになつてゐて、南側の方には食用蛙を飼ふ池があり、北側の方には
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
捨る覺悟かくごなれども今こゝ阿容々々おめ/\凍死こゞえしなんは殘念なり人家じんかは無事かとこゞえし足をひきながらはるか向ふの方に人家らしきところの有を見付みつけたれば吉兵衞是に力を艱苦かんくしのび其處を目當にゆき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さりとて山の中に人家じんかはない筈である。亭主は不図ふと思ひあたつた。この女は久圓寺くえんじに住んでゐるに相違ない。山のとうげには観音かんのんまつつた寺がある。女はなにかの仔細があつて其寺に隠れてゐるか。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
普通の考えからいうとどういう困難な道でもまず人家じんかのある方には行かないのがよいのですけれども、しかし人家がないからといって全く道のない所に出てしまってはまた困難な場合に陥るから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うちのすぐ近くに宿屋が一軒と人家じんかが二軒と、それから広っの向う側に小屋が一つあるきりで、あとは停車場ていしゃばへ行くまで半道はんみちもの間うち一軒ありません。——私は商売できまった期間だけ町に行きます。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
深藪に人家じんかあかりあかあかと入りとどかねば啼かぬ雀か
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
人家じんかの軒へあやめぐさ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
みち兩側りやうがはしばらくのあひだ、人家じんかえてはつゞいたが、いづれも寢靜ねしづまつて、しらけた藁屋わらやなかに、何家どこ何家どこひと氣勢けはひがせぬ。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
キキョウは山野さんや向陽地こうようちに生じている宿根草しゅっこんそうであるが、その花がみごとであるから、観賞花草として人家じんかえられてある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そこ此処こゝに二三けん今戸焼いまどやきを売る店にわづかな特徴を見るばかり、何処いづこ場末ばすゑにもよくあるやうな低い人家じんかつゞきの横町よこちやうである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
○吾が郡中ぐんちゆうにて小千谷をぢやといふ所は人家じんか千戸にあまる饒地よきとちなり、それゆゑにさいの神の(斎あるひは幸とも)まつりも盛大せいだいなり。
いままで、生魚なまざかなでなければべなかった、ぜいたくなねこは、ふいに、人家じんかもないさびしい場所ばしょへ、ただひとかれたので、おどろいてしまいました。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはめったにないくらいおおきな時化しけで、一三浦みうら三崎みさきたい人家じんか全滅ぜんめつしそうにおもわれたそうでございます。
と、左手ひだりてはう人家じんか燈灯ともしびがぼんやりひかつてゐた——Fまちかな‥‥とおもひながらやみなか見透みすかすと、街道かいだう沿うてながれてゐるせま小川をがは水面みづもがいぶしぎんのやうにひかつてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
むら人達ひとたち——ことをんな人達ひとたちとほ裏道うらみちならんだ人家じんかふてむら裏側うらがはほそくついてました。とうさんのおうち裏木戸うらきどから、竹籔たけやぶについてまはりますと、そのほそ裏道うらみちました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
唯有とあ人家じんかに立寄って、井戸の水をもらって飲む。桔槹はねつるべ釣瓶つるべはバケツで、井戸側いどがわわたり三尺もあるかつらの丸木の中をくりぬいたのである。一丈余もある水際みずぎわまでぶっ通しらしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日本につぽんきつね日本につぽん固有こゆうのものでやまあなんでゐます。からだ二尺にしやくぐらゐでながく、からだの半分はんぶん以上いじようもあります。食物しよくもつおも野鼠のねずみですが、人家じんかちかいところではにはとりなどをかすめることもあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
亭主は再び眉をしわめた。山の入口に人家じんかのある筈はない。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「おお、こんなところに人家じんかがある」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいはまた、「煬帝春游古城在。壊宮芳草満人家。〔煬帝ようだい春游しゅんゆうせる古城こじょうり。壊宮かいきゅう芳草ほうそう 人家じんかつ。〕」
○吾が郡中ぐんちゆうにて小千谷をぢやといふ所は人家じんか千戸にあまる饒地よきとちなり、それゆゑにさいの神の(斎あるひは幸とも)まつりも盛大せいだいなり。
けれど、またまち人家じんか店頭みせさきつくってれるころになると、みんないえなか天井てんじょうなかはいってやすみます。
つばめの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとつでない、ふたつでもない。三頭みつ四頭よつ一齊いつせいてるのは、ちやう前途ゆくて濱際はまぎはに、また人家じんかが七八けん浴場よくぢやう荒物屋あらものやなど一廓ひとくるわになつてそのあたり。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
人家じんか栽培さいばいしている蔓草つるくさのアサガオは、ずっと後に牽牛子けんぎゅうしとして中国から来たもので、秋の七種ななくさ中のアサガオではけっしてないことを知っていなければならない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
かぜはなかつた。空氣くうきみづのやうにおもしづんでゐた。人家じんかも、燈灯ともしびも、はたけも、もりも、かはも、をかも、そしてあるいてゐる我我われわれからだも、はひとかしたやうな夜霧よぎりうみつつまれてゐるのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
誰が何時来ておがむのか。西行さいぎょうならばたしかに歌よむであろ。歌も句もなく原を過ぎて、がけの下、小さなながれ沿うてまた一つ小屋がある。これが斗満最奥さいおく人家じんかで、駅逓えきていから此処ここまで二里。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
澤山たくさんつばめとうさんのむらへもんでました。一、二、三、四——とても勘定かんぢやうすることの出來できないなんといふつばめむらいたばかりのときには、ぐに人家じんかりようとはしません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
土手どてあがつた時には葉桜はざくらのかげは小暗をぐらく水をへだてた人家じんかにはが見えた。吹きはらふ河風かはかぜさくら病葉わくらばがはら/\散る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
だ! だ!」エーは、くちのうちでささやきながら、いそいで、きたみちをもどると、中途ちゅうとから、人家じんかえるむらをさして、したのであります。
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一面いちめんくさしげつて、曠野あらのつた場所ばしよで、何故なぜ一度いちど人家じんかにはだつたか、とおもはれたとふのに、ぬま眞中まんなかこしらへたやうな中島なかじまひとつたからです。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
薬鑵やくわん土瓶どびん雷盆すりばちなどいづれの家にもなし、秋山の人家じんかすべてこれにおなじ。今日秋山に入りこゝにいたりて家を五ツ見しが、あはひえかりこむころなれば家にる男を見ず。
ゆきは、ちらちらとりはじめました。はたけに、えさがなくなると、からすは、ひもじいとみえて、カアカアいて、人家じんかのあるほうんできました。
赤いガラスの宮殿 (新字新仮名) / 小川未明(著)
池にのぞむ人家じんかにはもうがついている。それが美しく水に映る。自分はありあり友達夫婦のひたいを照らす、ランプの火影ほかげを思い浮べた。火影は実に静かである。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されども雪いまだきえざるゆゑしよくにたらず、をりふしは夜中人家じんかにちかより犬などとり、又人にかゝる事もあり、これ山村さんそんの事なり。里には人多きゆゑおそれてきたらざるにや。