辛苦しんく)” の例文
され共東天やうやく白く夜光全くり、清冷の水は俗界のちりを去り黛緑たいりよくの山はえみふくんて迎ふるを見れば、勇気いうき勃然ぼつぜん為めに過去の辛苦しんくを一そうせしむ。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
そして楼蘭ろうらんを中心とする一帯の発掘に惨憺さんたんたる辛苦しんくをなめた上に、更に楼蘭を起点とする古代支那路線をたずね、「塩の結晶の耀かがや無涯むがい曠野こうや
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
意富祁おおけ袁祁おけのお二人を左右のおひざにおかかえ申しながら、お二人の今日こんにちまでのご辛苦しんくをお察し申しあげて、ほろほろとなみだを流してきました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
顔は蒼褪あおざめ肉は落ち、衣裳は千切れよごれて、土牢の内で永い間苦しめられた辛苦しんくさまがまざまざとして現われている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ため辛苦しんくの程察し入る呉々もよろこばしきことにこそして其のくしは百五十兩のかたなれば佛前へそなへて御先祖其外父御てゝごにも悦ばせ給へと叔母女房ともくち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
以前はそれがために類少たぐいすくない女を一人、いけにえにしたくらいですから、今度は自分がどんな辛苦しんくも決していとわない。いかにもしてその花が欲しいですが。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
露西亜ロシアと戦争が始まって若い人達は大変な辛苦しんくをして御国みくにのために働らいているのに節季師走せっきしわすでもお正月のように気楽に遊んでいると書いてある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あなたのお疲れのお顔を見ると、私までなんだか苦しくなります。この頃、私にも少しずつ、芸術家の辛苦しんくというものが、わかりかけてまいりました。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すると、帰郷、分別、冷静、辛苦しんく練達れんたつなどの考えは、かれの顔が肉体的なむかつきの表情にまでゆがめられたほどに、かれを不愉快でたまらなくした。
あしたほしをいただいてで、ゆうべに月を踏んで帰るその辛苦しんくも国家のためなりと思ってあまんずればよいが、なかなか普通人情としてあまんじてのみいるものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ずつと以前いぜんさかのぼつて、弦月丸げんげつまる沈沒ちんぼつ當時たうじ實况じつけう小端艇せうたんてい漂流中へうりうちうのさま/″\の辛苦しんく驟雨にわかあめこと沙魚ふかりの奇談きだんくさつた魚肉さかな日出雄少年ひでをせうねんはなつまんだはなし
自他じたぶんあきらかにして二念にねんあることなく、理にも非にもただ徳川家の主公あるをしりて他を見ず、いかなる非運に際して辛苦しんくなむるもかつて落胆らくたんすることなく
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
積もる日の辛苦しんくに、たださえ気の弱いお艶、筋ならぬ人の慰め言と空耳そらみみにきいても、つい身につまされて熱い涙の一滴に……ややもすれば頬を濡らすのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小そのが永年の辛苦しんくで一通りの財産も出来、座敷の勤めも自由な選択が許されるようになった十年ほど前から、何となく健康で常識的な生活を望むようになった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さら開墾かいこんだい一の要件えうけんである道具だうぐいま完全くわんぜんして自分じぶんげられてある。かれういふ辛苦しんくをしてまでも些少させう木片もくへんもとめて人々ひとびとまへほこりかんじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
同志の方々はそれぞれ仲間小者、ないし小商人に身を落して、艱難かんなん辛苦しんくをされるのも皆おしゅうのためだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
につけよと、上官じょうかんからいわれたのであるが、何事なにごとにも内気うちきで、遠慮勝えんりょがちな清作せいさくさんは、おな軍隊ぐんたいにおって朝晩あさばん辛苦しんくをともにした仲間なかまで、んだものもあれば、また
村へ帰った傷兵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
およそ半年はんとしあまり縮の事に辛苦しんくしたるは此初市のためなれば、縮売ちゞみうりはさら也、こゝにあつまるもの人のなみをうたせ、足々あし/\ふまれ、肩々かた/\る。よろづ品々しな/″\もこゝにみせをかまへ物をる。
しかも辛苦しんくの内に成長したればか、非常にませし容貌なりとの事を耳にしたれば、アア何たる無情ぞ何たる罪悪ぞ、父母共に人にすぐれし教育を受けながら、己れの虚名心に駆られて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
これまでの辛苦しんくをなめながら、いかで、手をむなしく引っ返すべき。梨ノ木峠を、西すれば、吾妻野あずまのから大海川おおみがわ——の北に出で、能登街道の加賀の口、末森城すえもりじょうの、側面に出る。ようし。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この静かなる緑の島を独占し、無論幾多の辛苦しんく経営の後とはいいながら、ついには山々の一滴の水、または海の底の一片のの葉まで、ことごとく子孫の用に供せしめ得たということは
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
廣介がどの様な辛苦しんくをなめたか、幾度事業を投げ出そうとしては、からくも思い止ったか、彼と妻の千代子の関係が如何に救い難き状態に陥ったか、それらの点は物語の速度を早める上から
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わずかの給料でみずかららい、弟を養い、三年の間、辛苦しんくに辛苦を重ねた結果は三十四年に至って現われ、五郎は技手となって今は東京芝区のぼう会社に雇われ、まじめに勤労しているのである。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
飢餓きが冷遇れいぐうしのびながら、職を求めて漂泊し、人の世のさんたる辛苦しんくめつくして、しかも常に魂のたされない孤独こどくに寂しんでいたヘルンにとって、日本はついにそのハイマートでなかったにしろ
きたり辛苦しんくさこそなるべけれど奉公大切ほうこうだいじつとたまへとおほせられしがみゝのこりてわすられぬなりれほどにおやさしからずばれほどまでにもなげかじとがたきづなつらしとてひとひまには部屋へやのうちにづみぬいづおとらぬ双美人そうびじんしたはるゝうれしかるべきを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きよこれを! いま現在げんざいわたしのために、荒浪あらなみたゞよつて、蕃蛇剌馬ばんじやらあまん辛苦しんくするとおなじやうなわかひとがあつたらね、——おまへなんふの!なんふの?
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ことに人夫は皆藤原村及小日向村中血気けつき旺盛わうせいの者にして、予等一行と辛苦しんくを共にし、古来こらい未曾有みそういう発見はつけんをなさんと欲するの念慮ねんりよある者のみをえらびたるなり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
というは、旅はつらい、難儀なんぎである、可愛かわいい子にはこの辛苦しんくめさせ、鍛錬たんれんさせよとの意味である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
中津なかつに居る間は漢学修業のかたわらに内職のような事をして多少でも家の活計を助け、畑もすれば米もき飯も炊き、鄙事ひじ多能たのう、あらん限りの辛苦しんくして貧小士族の家に居り
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
乱れた白髪よごれた布衣ほい、永い辛苦しんくを想わせるような深いしわと弱々しい眼、歩き方さえ力がない。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はやく、その未知みちしまにゆきたいものだとみんなはこころおもいました。どんな困難こんなん辛苦しんくがこののちあってもそれをけてゆこうという勇気ゆうきがみんなのこころにわいたのであります。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
おつぎははりつやうにつてからはき/\としてにはかにませてたやうにえた。おつぎはもう十六である。辛苦しんくあひだだけ去年きよねんからではほど大人おとなびて勘次かんじたすけるかれない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いま、積年の辛苦しんくをかけたそちたち多くの軍士にわかれて、尊氏のもとへゆくのは、たえがたい悲しみと屈辱ではあるが、それをさえは忍んで行くのだ。そちもまた、忍んでくれい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
棄ても歎願たんぐわんせねば第一しんだ母親の位牌ゐはいの前へも言譯なし久左衞門とか云人のなさけによりてかく迄に成人ひとゝなりたる者なるか親は無とも子はそだつとの諺言ことわざも今知られけるとは云物の是迄は苦勞くらう辛苦しんく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくしじつは、この使命しめいの十ちう八九まではげらるゝことかたきをつてる、また、三年さんねん以來いらいしたしんで、ほとんど畜類ちくるいとはおもはれぬまであいらしくおもこの稻妻いなづまに、いさゝかでも辛苦しんくせたくないのだが
貴重きちよう尊用そんようはさら也、極品ごくひん誂物あつらへものは其しなよくじゆくしたる上手をえらび、何方いづく誰々たれ/\ゆびにをらるゝゆゑ、そのかずに入らばやとて各々おの/\わざはげむ事也。かゝる辛苦しんくわづかあたひため他人たにんにする辛苦しんく也。
とて取次とりつふみおもりてもなみだほろほろひざちぬ義理ぎりといふものかりせばひたきこといとおほわかれしよりの辛苦しんく如何いかときはあらぬひとまられてのがればのかりしときみさをはおもしいのち鵞毛がもうゆきやいばりしこともありけり或時あるときはお行衛ゆくゑたづねわびうらみは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
らざる事だ。何もそんな困難な英書を辛苦しんくして読むがものはないじゃないか。必要な書は皆和蘭オランダ人が飜訳するから、その飜訳書を読めばソレで沢山たくさんじゃないかとう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
たゞすぢでもいはして男瀧をたきすがりつかうとするかたち、それでもなかへだてられてすゑまではしづくかよはぬので、まれ、られてつぶさに辛苦しんくめるといふ風情ふぜいはう姿すがたやつかたちほそつて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明晩からふじて目的の地にいたるを得、其間の辛苦しんくじつに甚しかりしものあればなり。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
深く感じ再度勸むる言葉もなく其意にまかせて打過けり斯て光陰つきひたつ程に姑女お八重は是まで種々さま/″\辛苦しんくせしつかれにや持病のしやく打臥うちふし漸次しだいに病氣差重りしにぞお菊は大いに心を痛め種々療養れうやうに手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
辛苦しんくになれている竹童には、野に樹下じゅかにねむることも、なんのいとうところではなく、また鞍馬くらまたにらした足には、近江街道おうみかいどう折所せっしょ東海道とうかいどう山路やまじなども、もののかずにはならないので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もと travail すなわち辛苦しんくという字より起こったとかねて耳にし、東西人の旅に対する観念の一致せることを面白く思うが、今日こんにちは旅行ほど愉快なものはなくなり、児童は見学にかけ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
加賀の金沢の鈴木儀六すずきぎろくと云う男は、江戸から大阪に来て修業した書生であるが、この男が元来一文なしに江戸に居て、辛苦しんくして写本でもって自分の身を立てたその上に金を貯えた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ一筋ひとすじでも巌を越して男滝おだきすがりつこうとする形、それでも中をへだてられて末まではしずくも通わぬので、まれ、揺られてつぶさに辛苦しんくめるという風情ふぜい、この方は姿もやつかたちも細って
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「寒天の節、遠路辛苦しんくの使い、何とも大儀であったよ。満足満足」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或は婦人がみだりに男子の挙動を疑い、根もなき事に立腹して平地に波を起すが如き軽率もあらんか、是れぞ所謂嫉妬心なれども、今の男子社会の有様は辛苦しんくしてそのを窺うに及ばず
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)