時節じせつ)” の例文
宿し奉りし處御部屋住おんへやずみなれば後々召出さるべしとの御約束にて夫迄それまでは何れへ成とも身をよせ時節じせつを待べしとの上意にて御墨附おんすみつき御短刀おたんたう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふゆになっても、むすめのきた地方ちほうは、ゆきりませんでした。いつもあたたかないい天気てんきがつづいて、北国ほっこくはる時節じせつのような景色けしきでした。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しばらく、あめながらいたこのあをは、そのまゝにながめたし。「ばんまでかないで。」と、めたかつた。が、時節じせつがらである。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
來年らいねんまたかへつてまではないから、隨分ずゐぶんけて」とつた。そのかへつて時節じせつには、宗助そうすけはもうかへれなくなつてゐたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうどひつじが子どもにちちを飲ませる時節じせつで、ひつじいのうちには、ひつじの乳をかってにしぼって飲むことをゆるしてくれる者もあった。
いつか時節じせつたら、あなたにはきっとなん大事だいじのお仕事しごとさずけられますよ。うぞそのつもりで、今後こんごもしっかり修行しゅぎょうせいしてください。
沫雪あわゆきくだりにいへるごとく、冬の雪はやはらにして足場あしばあしきゆゑ、熊をとるは雪のこほりたる春の土用まへ、かれが穴よりいでんとするころほどよき時節じせつとする也。
武士の娘が茶屋女に——とは思ったが、それも時世ときよ時節じせつでしかたがないとあきらめたお艶は、田原町の喜左衛門からこうして毎日三社前に通っているのである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「またの時節じせつがあります。もう、すこしも、ご猶予ゆうよは危険です。さ、この城から逃げださねばなりませぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気をつけていらっしゃい。こういうとき、あたしなら十三号車に乗りますわ。こういう時節じせつのわるいときには、わるい番号の車に乗るとかえって魔よけになるのよ」
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「だが、これも時代ときよ時節じせつというもの、そのうちにはまたいいこともめぐってきましょう。あまりきなきな思って、あなたまで煩わぬようにされるがようござりましょうぞ」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
とよ今戸橋いまとばしまで歩いて来て時節じせついままさ爛漫らんまんたる春の四月である事を始めて知った。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
段々だん/\べへらして天秤てんびんまで仕義しぎになれば、表店おもてだな活計くらしたちがたく、つき五十せん裏屋うらや人目ひとめはぢいとふべきならず、また時節じせつらばとて引越ひきこしも無慘むざんくるまするは病人びやうほんばかり
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
年忌ねんきとはいっても、時節じせつがら客をまねいたり、坊さんをよんだりするのではない。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
言葉ことばの一々を雲飛は心にめいし、やゝ取直とりなほして時節じせつるのをまつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
先生の本旨ほんしは、右二氏の進退しんたいに関し多年来たねんらい心に釈然しゃくぜんたらざるものを記して輿論よろんただすため、時節じせつ見計みはからい世におおやけにするの考なりしも、爾来じらい今日に至るまで深く筐底きょうていして人に示さざりしに
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
往来おうらいにはつめたい風が吹いているし、今はもうれの売出うりだしの時節じせつです。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
其節そのせつ申上もうしあげ候通り、いずこれ時節じせつ見計みはからい、世におおやけにするつもり候得共そうらえどもなお熟考じゅくこう仕候つかまつりそうろうに、書中或は事実の間違は有之間敷哉これあるまじきや、又は立論之旨りつろんのむねに付御意見は有之間敷哉これあるまじきやしこれあらば無御伏臓ごふくぞうなく被仰聞おおせきけられ被下度くだされたく
今月いっぱいで店をたたんで、はあ、ツール在の土となるまでの巣を見つけて買い取りましたよ。巴里にも三十年、まあ三十年もまめに働けばもう、楽に穴にもぐって行く時節じせつが来たというものですよ。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
とき時節じせつの心付けを貰つて、水商賣の用心棒を兼ねてゐたのもあつたのですから、お秀は親分の平次に頼んで、ガラツ八を用心棒に雇ひきり、晦日みそかにでもなつたら、二朱か一分も包んでやらうといつた
百姓ひやくしやうごろ時節じせつ餘計よけいひまなんざねえから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
流し何事も是皆前世の因縁いんえんづくと斷念あきらめをれば必ず御心配は下さるまじ併しながら時節じせつ來りて若旦那の御家督かとくと成れなば其時には此久八を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ほんとうに、おとうさんのおっしゃったように、時節じせつがわるいのだ。こんなにあつくなったので、すぐかわいて、れるかもしれない。」
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はまなべ、あをやぎの時節じせつでなし、鰌汁どぢやうじる可恐おそろしい、せい/″\門前もんぜんあたりの蕎麥屋そばやか、境内けいだい團子屋だんごやで、雜煮ざふにのぬきでびんごと正宗まさむねかんであらう。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さけ時節じせつにて、小千谷をぢや前川ぜんせんは海にてうするの大河なれば今とりしをすぐに庖丁はうちやうす。あぢはひ江戸にまされり。一日さけをてんぷらといふ物にしていだせり。
しかし良人おっとわたくしよりもきに歿なくなってり、それにまたかみさまが、時節じせつればわしてもやるとまうされましたので、そちらのほう断念あきらめ割合わりあいはやくつきました。
其内そのうち定期ていきの三週間しうかんぎて、御米およね身體からだおのづからすつきりなつた。御米およね奇麗きれいとこはらつて、あたらしいのするまゆふたゝかゞみらした。それは更衣ころもがへ時節じせつであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それから春になってルミ、またいっしょに出かけようよ。まあ当分は勇気ゆうき忍耐にんたい必要ひつようだ。わたしたちはこれまでちょうどつごうの悪い、あい時節じせつばかり通って来た。
「いや顧雍こよう。それは気が小さいことばだぞ。むかし漢の高祖は項羽こううから封を受けたこともあったが、後には漢中の王になられたではないか。みな時世ときよ時節じせつと申すものだ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とよ今戸橋いまどばしまで歩いて来て時節じせついままさ爛漫らんまんたる春の四月である事を始めて知つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さなくて卒爾うちつけふみなどまゐらせたるを如何いかいとはしとおぼしながらかへしせざらんもなさけなしとてれよりはそれとなく御出おいでのなきか此頃このごろのおうたこゝろ如何いかしげるわかいまこそはらけれど時節じせつ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そういう時節じせつに、僕がこの本を上梓じょうしすることが出来たのは、たいへん意義のあることだと思う。この本は、良きにも悪しきにも、科学小説時代を迎えるまでの捨て石の一つになるであろう。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
六年生の秋の修学旅行は、時節じせつがらいつもの伊勢いせまいりをとりやめて、近くの金毘羅こんぴらということにきまった。それでも行けない生徒がだいぶいた。働きにくらべて倹約けんやく田舎いなかのことである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「あの先生せんせいがついていらっしゃいますから、だいじょうぶですし、まだ、土用波どようなみ時節じせつでもありませんから。」と、宿やどひとは、いいました。
海と少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いで、戰場せんぢやうのぞときは、雜兵ざふひやういへど陣笠ぢんがさをいたゞく。峰入みねいり山伏やまぶしかひく。時節じせつがら、やり白馬しろうまといへば、モダンとかいふをんなでも金剛杖こんがうづゑがひととほり。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さけ時節じせつにて、小千谷をぢや前川ぜんせんは海にてうするの大河なれば今とりしをすぐに庖丁はうちやうす。あぢはひ江戸にまされり。一日さけをてんぷらといふ物にしていだせり。
わたくしやま修行しゅぎょう随分ずいぶんながくつづきましたが、やがてまたこの修行場しゅぎょうばにもわかれをぐべき時節じせつがまいりました。
その根方ねがたところを、草鞋わらぢがけの植木屋うゑきや丁寧ていねいこもくるんでゐた。段々だん/\つゆつてしもになる時節じせつなので、餘裕よゆうのあるものは、もう今時分いまじぶんから手廻てまはしをするのだといた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其方懷姙くわいにんのよし我等血筋ちすぢ相違さうゐ是なしもし男子なんし出生に於ては時節じせつを以て呼出よびいだすべし女子たらば其方の勝手かつてに致すべし後日ごにち證據しようこの爲我等身にそへ大切に致候短刀たんたう相添あひそへつかはし置者也依而よつて如件くだんのごとし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつまた、それが蛾次郎の手から、じぶんの手へ返ってくる時節じせつがあるかわからない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
如何に幸福な平和な冬籠ふゆごもり時節じせつであったろう。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
あるところにぜいたくな人間にんげんんでいました。時節じせつをかまわずに、なんでもべたくなると、人々ひとびと方々かたがたはしらしてそれをもとめたのであります。
北の国のはなし (新字新仮名) / 小川未明(著)
……なかがせゝつこましく、物價ぶつか騰貴とうきしたのでは、そんな馬鹿ばか眞似まねはしてられない。しかし時節じせつのあのこゑは、わたしおもれずきである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それには、時節じせつがわるい。そんなことがわからなくてどうする。」と、父親ちちおやは、不興ふきょうげにいって、かえって、賢吉けんきちは、しかられたのであります。
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『まだ/\、まだ/\、やまなか約束やくそくは、人間にんげんのやうに間違まちがはぬ。いま時鳥ほとゝぎす時節じせつい。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
時節じせつがら、みなさまのにもなってみまして、てまえどもは、べていければいいという精神せいしんで、ご奉公ほうこうをしています。』と、主人しゅじんは、いった。
アパートで聞いた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
蜀江しよくこうにしき呉漢ごかんあや足利絹あしかゞぎぬもものともしないで、「よそぢや、この時節じせつ一本いつぽんかんでもないからね、ビールさ。ひさしぶりでいゝ心持こゝろもちだ。」と熱燗あつかん手酌てじやくかたむけて
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もはや、一にちましに、あつくなる時節じせつであって、まちうえそらは、銀色ぎんいろにうるんでいました。そして、たび心細こころぼそさをまさしめる、つばめがいていました。
ガラス窓の河骨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
竹屋たけやふぢ時節じせつにあらず、金格子きんがうし東海樓とうかいろうとほつたみち青樓おちややさの、ところ今日けふ腹工合はらぐあひと、懷中くわいちう都合つがふつて、天利てんりといふので午餉ひるにしよう、しろうめとやれ
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「また、あのおまつりの時節じせつになった。ほんとうに月日つきひのたつのははやいものだ。」と、おかあさんはいわれました。
海ほおずき (新字新仮名) / 小川未明(著)