ごと)” の例文
かつらならではとゆるまでに結做ゆひなしたる圓髷まるまげうるしごときに、珊瑚さんご六分玉ろくぶだま後插あとざしてんじたれば、さら白襟しろえり冷豔れいえんものたとふべきく——
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
Kさんのその時分じぶんうたに、わがはしやぎし心は晩秋ばんしう蔓草つるくさごとくから/\と空鳴からなりするといふやうなこゝろがあつたやうにおぼえてゐます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ひるがへつて歐米おうべいれば、さすがに母語ぼごくまでもこれを尊重そんてうし、英米えいべいごときはいたるところに母語ぼごりまはしてゐるのである。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
内山君うちやまくん足下そくか此位このくらゐにしてかう。さてかくごとくにぼくこひ其物そのもの隨喜ずゐきした。これは失戀しつれんたまものかもれない。明後日みやうごにちぼく歸京きゝやうする。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
らうこゝろをつけて物事ものごとるに、さながらこひこゝろをうばゝれて空虚うつろなりひとごとく、お美尾みを美尾みをべばなにえとこたゆることばちからなさ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あいちやんはたゞちにれが扇子せんすつて所爲せいだとことつていそいで其扇子そのせんすてました、あだかちゞむのをまつたおそれるものゝごとく。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かれ生活せいくわつかくごとくにしていた。あさは八き、ふく着換きかへてちやみ、れから書齋しよさいはひるか、あるひ病院びやうゐんくかである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その泥海の中へ埠頭ふとうごとく伸びていて、もう直き沈没しそうに水面とすれすれになっているところもあり、地盤の土が洗い去られて
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あたかも戸外の天気の様に、それが静かにじっと働らいていた。が、その底には微塵みじんごとき本体の分らぬものが無数に押し合っていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はトゥロイ人のごとく勇敢にあの船の廊下の敷蒲団マットレスの蔭で敵に備えていた。彼はいかなる命令にも黙々として、頑固に、よく従った。
食おうにもほとんど甘汁なく、粒のような小い貧弱な実の生る今日いうかのタチバナのごときは決して彼れの目的物では無かった筈だ。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
今日は前日のごとき元気なく、そっと大原の側に寄り「満さん、あんまり遅いから心配して迎いに来たのよ」と打萎うちしおれて悲し気に言う。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かくごとく新しき事態が間断なく継起し、新しき問題がそれと共に続出して来ると、はじめの志向や欲求はそれによって漸次変化を受け
歴史の矛盾性 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
流石さすが忽然こつぜんとして暗夜に一道の光明を見出すがごとく例の天才——乳母車をひっくり返した幸運なてあいのことを思いださずにいなかった。
銀座の大通おほどうりに空家あきやを見るは、帝都ていと体面たいめんに関すと被説候人有之候とかれそろひとこれありそろへども、これは今更いまさらの事にそろはず、東京とうけふひらけて銀座の大通おほどほりのごと
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
西遊記さいゆうきに似て、しかも其の誇誕こたんは少しくゆずり、水滸伝に近くして、而もの豪快は及ばず、三国志のごとくして、而も其の殺伐はやゝすくなし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いまかならずしも(六四)其身そのみこれもらさざるも、しかも((説者ノ))((適〻))かくところことおよばんに、かくごとものあやふし。
ただ、その席にいたクウシュウ(前に言ったごとくハイカイというものを日本から持って帰って、それをパリの詩界に移し植えた人)
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
両者が矛盾するがごとく見ゆるのは、少しも神の言葉にあるにあらずして、みな人間の心にあるのである。神の言葉は常に単純である。
返事をきくと、おいとれですつかり安心したものゝごとくすた/\路地ろぢ溝板どぶいた吾妻下駄あづまげたに踏みならし振返ふりかへりもせずに行つてしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
芳子の美しい力に由って、荒野のごとき胸に花咲き、び果てた鐘は再び鳴ろうとした。芳子の為めに、復活の活気は新しく鼓吹された。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「……貴公のごとき前世紀の怪物かいぶつが花岡伯爵家の子弟教育に従事するは身のほど知らず、ふとどき千万せんばんなり。時勢を見よ。時勢を見よ……」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小原は校長の方へ向きなおっていった、そのまっ黒な顔に燃ゆるごときほのおがひらめいた、広い肩と太い首が波のごとくふるえている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
教授とはいながら、実は教うるがごとく学ぶが如く、共に勉強して居る中に、私は幕府の外国方がいこくがた(今で云えば外務省)に雇われた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あわてて枕許まくらもとからがったおせんのに、夜叉やしゃごとくにうつったのは、本多信濃守ほんだしなののかみいもうとれんげるばかりに厚化粧あつげしょうをした姿すがただった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さく三十七ねん十二ぐわつ某夜ばうやことなりき、れいごと灌水くわんすゐへてじよくねむりきしもなく、何者なにものきたりて七福しちふくあたふとげたりとゆめむ。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
況や、たみのほねをくだける白米しらよね、人の血をしぼれるごとくなるふるさけを、ほとけ法華經ほけきやうにまいらせ給へる女人によにんの、成佛得道疑べしや。
じつ著者ちよしやごときは、地震學ぢしんがく今日こんにち以上いじよう進歩しんぽしなくとも、震災しんさいほとんど全部ぜんぶはこれをまぬか手段しゆだんがあるとかんがへてゐるものゝ一人ひとりである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
そこは、宗像博士の依頼者接見室で、三方の壁の書棚には博士の博識を物語るかのごとく、内外の書籍がギッシリと詰まっている。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
通俗の伝統主義の誤謬ごびゅう——この誤謬はしかしシェリングやヘーゲルのごときドイツの最大の哲学者でさえもが共にしている——は
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
餘程よほど大火おほびかなければ、馬籠まごめにてたるごとあとのこすものでない。かまどとか、とか、それくらゐため出來できたのではおそらくあるまい。
其他そのた阿片あへんにしろ大麻だいまにしろ何れも麻酔作用を有するものであつて、大麻のごときは古来印度の僧侶が「じやう」に入るときに用ひたものである。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
仮屋の周囲には京都の老若男女がごとくに集って見物した。落首の中に「比類なき名をば雲井に揚げおきつやごゑを掛けて追腹おひばらを切る」
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
といったところでおれの月給はいろいろな勘定を差引かれているからたいしてはない、天青のもくだんごとしというくらいだったんだろうさ。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
此時このときにふと心付こゝろつくと、何者なにものわたくしうしろにこそ/\と尾行びかうして樣子やうす、オヤへんだと振返ふりかへる、途端とたんそのかげまろぶがごとわたくし足許あしもとはしつた。
「わア!」僕は飛鳥のごとく、動力機関の前までのがれた。僕は、もはやこれまでとおもって、その場にあったハンマーをると
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
と、一番後に居た一人二人が、脱兎だっとごとく元来た道に逃げ出した。機銃は、その物音に再び火を吐いた。が、それは死角だった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
おまわりさんが来るといって泣く子をおどした時代から、一時は急転して飴屋あめやなどのごとく、警官に親しみを感じていた時もあったのである。
くだんごとけいの字も古く用ひたれば、おほかたの和文章わぶんしやうにも鮭の字を用ふべし、鮏の字はあまねくは通じがたし。こゝにはしばらく鮏にしたがふ。
たゞ、瑠璃子夫人に対する——夫人の移りやすきこと浮草のごとき不信に対する憎みと、恨みとで胸の中が燃え狂っていたのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
知る者にあらずいかでか料理通の言なりというべき就中なかんずく小説のごときは元来その種類さまざまありて辛酸甘苦いろいろなるを五味を愛憎する心を
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
きつねごときは実に世の害悪だ。たゞ一言もまことはなく卑怯ひけふ臆病おくびゃうでそれに非常にねたみ深いのだ。うぬ、畜生の分際として。」
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
それを石橋いしばしわたしとでしきり掘出ほりだしにかゝつた、すると群雄ぐんいう四方しはうよりおこつて、ひゞきの声におうずるがごとしです、これ硯友社けんいうしや創立さうりつ導火線だうくわせんつたので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
僕のとなりは、大月松右衛門おおつきまつえもん殿だ。その名のごとく人品こつがらいやしからぬ中年のおっさんだ。東京の新聞記者だとかいう話だ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
箇月かげつらずの短時日たんじじつおいかくごとまへ好結果かうけつくわあらはしたとふことをかんがへると、國民自體こくみんじたい非常ひじやうよろこんでいことであらうとかんがへる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
明治の聖代せいだいになって、西洋諸国との交通が開かれた。眠れる国日本は急に眼覚めて巨人のごとく歩み出した。一歩はゆうに半世紀を飛び越えた。
ナリン殿下薨去ノ趣前掲通牒ノごとクナレドモ、御遺骸移送ニ際シテハ特ニ慎重ナルキ旨、イキトス号船長ヨリノ無電ニ接ス。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
二人はいろいろと智慧を絞ったが、どうしてどうして彼は我々ごとき青二才の机上きじょうの計画に乗るような事はなかった。で、いつでも失敗だった。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
といって、のこのこその店へ入り込んで、天下の重大事であるごとく、誤記を指摘訂正してやる勇気をもたぬ性分でもある。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
俗界ぞくかいける小説せうせつ勢力せいりよくくのごとだいなればしたがつ小説家せうせつかすなはいま所謂いはゆる文学者ぶんがくしやのチヤホヤせらるゝは人気じんき役者やくしやものかづならず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)