草履ざうり)” の例文
平次の態度の眞劍さに引ずられたやうに、推名近江守は、草履ざうりを呼んで駕籠を立出でると、平次の指した石垣の上を仰いで居ります。
わしはその前刻さつきからなんとなくこの婦人をんな畏敬ゐけいねんしやうじてぜんあくか、みち命令めいれいされるやうに心得こゝろえたから、いはるゝままに草履ざうり穿いた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎはだまつて草履ざうり脱棄ぬぎすてゝ座敷ざしきけあがつて、戸棚とだなからちひさなふる新聞紙しんぶんしふくろさがして、自分じぶんひらすこ砂糖さたうをつまみして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一人はステツキを持ち草履ざうり穿き、一人は日和下駄ひよりげたを穿いて、藪蔭を通り墓地を拔けて、小松の繁つてゐる後ろの山へ登つた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
さてまた憑司は其夜昌次郎を立せやり草履ざうりに血の付たるをもちて傳吉宅へしのこみには飛石とびいしへ血を付置き夫より高田の役所へ夜通よどほしに往てうつた捕方とりかた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とうさんはそのあたらしい草履ざうりをはいたあしで、おうち臺所だいどころそとあそんでにはとりきました。おほきな玉子たまごをよくとうさんに御馳走ごちさうしてれたにはとり
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
杖と草履ざうりとを、我と手に取て、縁之下屋に置申、罷出時まかりいづるとき取出し、我とはき申て出入仕候位にて、中々今日之世上不相成候。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
斗滿川とまむがはいへ半町餘はんちやうよところり。朝夕あさゆふ灌水くわんすゐおもむくに、如何いかなる嚴寒げんかん大雪おほゆきこういへども、浴衣ゆかたまとひ、草履ざうり穿うがつのみにて、何等なんら防寒具ばうかんぐもちゐず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
みち階級だん/\ある所にいたれば主人もわらぐつにはきかふる、此げたわらぐつは礼者にかぎらず人々皆しかり。雪まつたきゆる夏のはじめにいたらざれば、草履ざうりをはく事ならず。
十二月三十日じふにぐわつさんじふにちきち坂上さかうへ得意場とくいばあつらへの日限にちげんおくれしをびにきて、かへりは懷手ふところでいそあし草履ざうり下駄げたさきにかゝるものは面白おもしろづくにかへして、ころ/\ところげる
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
巴里の三越と云つてよい大きなマガザンのルウヴルの三階などにならべられて居るので、まで珍しくも無いであらうが、白足袋を穿いて草履ざうりで歩く足附が野蠻に見えるらしい。
巴里にて (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
巴里パリイのノオトル・ダムを観る暇の無かつた晶子はこれ見恍みとれて居る。周囲の礼拝らいはい室に静かに黙祷もくたうに耽つて居る五六人の女が居た。響くものは僕等の靴と草履ざうりの音だけである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
お定はすぐ起きて、寢室ねまにしてゐる四疊半許りの板敷を出た。手探りに草履ざうりつゝかけて、表裏の入口を開けると、厩では乾秣やたしがる馬の、破目板をる音がゴトゴトと鳴る。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
松崎村の寒戸さむとといふ所の民家にて、若き娘梨の樹の下に草履ざうりを脱ぎおきたるまま行方を知らずなり、三十年あまり過ぎたりしに、ある日親類知音の人々その家に集まりてありし処へ
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
侍は法師の姿を見ると、草履ざうりの足をめたなり、さりげないやうに声をかけた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だまつてゐな、おら馬鹿ばかすきだ……其儘そのまゝかへつて綿服めんぷくけ、先方むかうくと寄附よりつきへとほすか、それとも広間ひろまとほすか知らんが、鍋島なべしま唐物からものなにいてるだらう、かこひへとほる、草履ざうりが出てやう
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それでは車を呼んで來ませう。」と草履ざうりをぱたぱたさせて出て行つた。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
主人は格子戸かうしどの中のたたきの上に、今帰つた客の靴を直す為めに、据ゑてある根府川石ねぶかはいしの上から、わきへいざらせたらしい千代田草履ざうりのあるのに目を着けて、背後うしろひざいてゐる女中をかへり見て問うた。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
戸外そとのどよめきが流れる中を、草履ざうりの音を高く、加代は走り出す。
ちつともかないわ、わたし草履ざうり穿いてたんですもの」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
敷石を静かに歩いて草履ざうりを、片すみにそろへてぬいだ。
(新字旧仮名) / 素木しづ(著)
そいつが空腹の草履ざうりをひきずりあるいて
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
夏川をこすうれしさよ手に草履ざうり
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
きふひくくなりますからをつけて。こりや貴僧あなたには足駄あしだでは無理むりでございましたか不知しらよろしくば草履ざうりとお取交とりかまをしませう。)
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
口小言を言ひ乍ら、平次も草履ざうりを突つかけて、路地の外まで出て見ましたが、若い娘の姿はおろか、その邊には雌犬めすいぬ一匹居なかつたのです。
かれすぐ自分じぶんちか手拭てぬぐひかぶつたおつぎの姿すがたおもむろにうごいてるのをた。それ同時どうじひそか草履ざうりおと勘次かんじみゝひゞいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
受し者なればお里のお豐は洗濯せんたくをし又惣内の甚兵衞は日傭ひよう駈歩行かけあるき手紙使てがみづかひつちこね草履ざうり取又は荷物にもつかつぎ何事に依ず追取稼おつとりかせぎを爲し漸々其日を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とうさんの子供こども時分じぶんには祖母おばあさんのつてくださる着物きものぢいやのつくつてれる草履ざうりをはいて、それで學校がくかうかよひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
みち階級だん/\ある所にいたれば主人もわらぐつにはきかふる、此げたわらぐつは礼者にかぎらず人々皆しかり。雪まつたきゆる夏のはじめにいたらざれば、草履ざうりをはく事ならず。
れだがしようさんれがいてもわたし長吉ちようきち草履ざうりげられたとつてはいけないよ、もし萬一ひよつとつかさんがきでもするとわたしかられるから、おやでさへつむりはあげぬものを
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
巴里パリイの三越と云つてよい大きなマガザンのルウヴルの三階などにならべられて居るので、まで珍しくも無いであらうが、白足袋たび穿いて草履ざうりで歩く足附あしつきが野蛮に見えるらしい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いざ狼の立塞がぬ間にと、草履ざうり片足で裏門から逃げ出さぬとも限らない。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
一人ひとりかみの二三ずんびたあたまして、あしには草履ざうり穿いてゐる。いま一人ひとりかはんだばうかぶつて、あしには木履ぽくり穿いてゐる。どちらもせてすぼらしい小男こをとこで、豐干ぶかんのやうな大男おほをとこではない。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
舞ごろも五たりあけ草履ざうりして河原に出でぬ千鳥のなかに
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
平次はそんなことを言つて、草履ざうりを突つかけるのです。其處にはもうきね太郎も、お葉も、間が惡かつたのか、姿を隱して顏も見せません。
綺麗きれいだわ、綺麗きれいだわ、綺麗きれいむしだわ。」とせられたやうにひつゝ、草履ざうりをつまつやうにして、大空おほぞらたかく、ゑてあふいだのである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とうさんがそのちいさなむらさきいろのはなまへ自分じぶん草履ざうりひもむすばうとしてりますと、伯父をぢさんはとうさんのそばて、こしこゞめて手傳てつだつてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
われ何處どこくんだ。こうれ」勘次かんじつかまうとしたがおつぎはねぢつてさつさとく。勘次かんじあわてゝ草履ざうり爪先つまさきつまづきつゝおつぎのあといた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見留みとめ之幸これさいはひと傳吉の罪におとさんとはかりたるも知るべからず殊に其夜は傳吉も同じ河原をかへりしをしる其者草履ざうりに血を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長吉ちようきちづれが草履ざうりどろひたいにぬられてはまれたもおなじだからとて、そむけるかほのいとをしく、本當ほんと堪忍かんにんしておくれ、みんなれがるい、だからあやまる、機嫌きげんなほしてれないか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
馬のみにあらず、わらべどもゝ雪のはじめより外遊そとあそびする事ならざりしに、夏のはじめにいたりてやう/\冬履ふゆげた稿沓わらくつをすてゝ草履ざうりせつたになり、いかのぼりなどにかけはしるはさもこそとうれしさうなれ。
が、便所の草履ざうりをはいて細工をしたり、匕首あひくちを聟の部屋の花瓶くわびんに入れるやうなことは、品吉でなければ出來ない藝當です。
まあ、おはやくいらつしやい、草履ざうりうござんすけれど、とげがさゝりますと不可いけません、それにじく/\湿れててお気味きみわるうございませうから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お節は勝手の草履ざうりを穿いたまゝ其小窓のところへ行つた。無花果いちじくの枝、うるしの葉、裏長屋の屋根などが雑然ごちや/\入組んで見える町裏を通して朝らしい光を帯びた鱗形うろこがたの雲が望まれた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼奴あいついて口惜くやしがつた、れはいてさへ口惜くやしい、おまへかほ長吉ちようきち草履ざうりげたとふではいか、野郎やらう亂暴らんぼうにもほどがある、だけれど美登利みどりさん堪忍かんにんしておれよ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
馬のみにあらず、わらべどもゝ雪のはじめより外遊そとあそびする事ならざりしに、夏のはじめにいたりてやう/\冬履ふゆげた稿沓わらくつをすてゝ草履ざうりせつたになり、いかのぼりなどにかけはしるはさもこそとうれしさうなれ。
うへからなぞは、とおもひながら、せばいゝのに、——それでも草履ざうり遠慮ゑんりよしたが、雪靴ゆきぐつ穿いた奥山家おくやまが旅人たびびとで、ぐい、と踏込ふみこむと、おゝつめたい。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
成程敷居には外から打ち込んだのみの跡があり、庭にはしめつた土の上に、あきらかに草履ざうりの足跡があるのですから、曲者が外から入つたに疑ひはありません。
うしてもおまへにははないよ、長々なが/\御世話おせわさま此處こゝからおれいまをします、ひとをつけ、もうだれことてにするものか、左樣さやうなら、とつてたちあがりくつぬぎの草履ざうり下駄げたあしひきかくるを
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
男なら盥をまたいでやるところだ。不思議でたまらないから柄杓ひしやくか茶碗を貸してくれといふと、チヨコチヨコと刻み足に駈け出して、草履ざうりを内輪に脱いだ