そら)” の例文
あおい、うつくしいそらしたに、くろけむりがる、煙突えんとつ幾本いくほんった工場こうじょうがありました。その工場こうじょうなかでは、あめチョコを製造せいぞうしていました。
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『朝日新聞』にて『そらだき』をお書きなすってから、作風も筆つきも殊更ことさらに調ってきて、『空だき』の続稿の出るのがまたれました。
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
勿論、兇器きょうきは離さない。うわそらの足がおどつて、ともすれば局の袴につまずかうとするさまは、燃立もえた躑躅つつじの花のうちに、いたちが狂ふやうである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのうつくしいそらうばはれてゐたを、ふと一ぽん小松こまつうへすと、わたし不思議ふしぎなものでも見付みつけたやうに、しばらくそれにらした。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
そらこが狼火のろし……そして最後さいご武運ぶうんいよいよきてのあの落城らくじょう……四百年後ねんご今日こんにちおもしてみるだけでも滅入めいるようにかんじます。
たとへば鳩の、願ひにさそはれ、そのつよき翼をたかめ、おのがこゝろに身を負はせてそらをわたり、たのしき巣にむかふが如く 八二—八四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
子家鴨こあひるはみんながれだって、そらたかくだんだんとのぼってくのを一心いっしんているうち、奇妙きみょう心持こころもちむねがいっぱいになってきました。
ところがまるで、追つかけるやうに、藤原の宮は固より、目ぬきの家並みが、不時の出火で、痕形もなく、そらものとなつてしまつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
雜木林ざふきばやしあひだにはまたすゝき硬直かうちよくそらさうとしてつ。そのむぎすゝきしたきよもとめる雲雀ひばり時々とき/″\そらめてはるけたとびかける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『いや/\、わたくしかへつて、天外てんぐわい※里ばんり此樣こんしまから、何時いつまでも、君等きみら故郷こきようそらのぞませることなさけなくかんずるのです。』と嘆息たんそくしつゝ
三日目の日盛ひざかりに、彼は書斎のなかから、ぎら/\するそらいろ見詰みつめて、うへからおろほのほいきいだ時に、非常に恐ろしくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
静かにさす午後の日に白くひかって小虫こむしが飛ぶ。蜘糸くものいの断片が日光の道を見せてひらめく。甲州の山は小春こはるそらにうっとりとかすんで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこで女はいら立たしいながらも、本堂一ぱいにつめかけた大勢の善男善女ぜんなんぜんにょまじって、日錚和尚にっそうおしょうの説教にうわそらの耳を貸していました。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうちずんずんそらあかるくなってきて、ひがしそら薄赤うすあかまってくると、どこかのむらにわとりてるこえがいさましくこえました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そらにあるつきちたりけたりするたびに、それと呼吸こきゅうわせるような、奇蹟きせきでない奇蹟きせきは、まだ袖子そでこにはよくみこめなかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あなたが少しもお立ち留りなさらずに、わたくしを引きって、そらけるような生活の真中まんなかへ駈込んでおしまいなさったのですもの。
その雪途ゆきみちもやゝ半にいたりし時猛風まうふうにはかにおこり、黒雲こくうんそら布満しきみち闇夜あんやのごとく、いづくともなく火の玉飛来りくわんの上におほひかゝりし。
その前に、じっと俯向うつむいて聞いていた新九郎は、今に至っても、そらんじているほど、その時の母の言葉が脳裡に深く彫り込まれた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はまるで心もそらの様子であった。一つ所に一分と立っていることもできなければ、一つのものに注意を集中することもできなかった。
ひがしそらのききょうのはなびらはもういつかしぼんだようにちからなくなり、あさ白光しろびかりがあらわれはじめました。ほしが一つずつきえてゆきます。
いちょうの実 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
からははひにあともとゞめずけぶりはそら棚引たなびゆるを、うれしやわが執着しふちやくのこらざりけるよと打眺うちながむれば、つきやもりくるのきばにかぜのおときよし。
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
稜を鋭く何箇所かそらに目がけて切り立つて、孔雀石と翡翠の明暗を隈つた半島が此方の海岸かいがんに詰め寄せるかのやうにあざやかに浮出してゐる。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
そらっとぼけるな。この野郎……」と、半七は叱り付けた。「貴様は今夜この為吉をらすつもりでここへ連れ出したのだろう」
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あのごつごつした岩の上へ、己は花を咲かせて見る事も出来る。あのそらに漂っている白い雲を己は追いけてしまう事も出来る。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
四年ぜんに彼は一度山下で狼に出遇であった。狼は附かず離れず跟いて来て彼の肉をくらおうと思った。彼はその時全く生きているそらは無かった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
谷山は大角柱の側によると、まるで見世物の口上でも述べる調子で、そらうそぶきながら、角柱の向側で、カチカチと音をさせた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こうなってはいかな左膳でも、そらけ、地にもぐる術のない以上、一本腕のつづくかぎり、斬って斬って斬りまくらねばならない……。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「まア、そらとぼけるなんて卑怯ひけふだわ。そ、そんな贅澤ぜいたく壁掛かべかけなんかをまぐれにおひになる餘裕よゆうがあるんならつてふのよ」
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
水のひろがりはそらの霊を顕わし示す。それは上から絶えず新しいいのちと運動とを受けとっている。それは大地と空との中間的性質をもつ。
かどのパレエの大時鐘おほどけい、七時を打つた——みやこの上に、金無垢きんむく湖水こすゐと見える西のそら、雲かさなつてどことなく、らいのけしきの東の空。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
其翌五日そのよくいつか奮然ふんぜんとしてたゞ一人ひとりつた。さむいかぜき、そらくもつた、いやであつたが、一人ひとりで一生懸命しやうけんめいつたけれど、なにぬ。
但馬守たじまのかみなつかしさうにつて、築山つきやま彼方かなたに、すこしばかりあらはれてゐるひがしそらながめた。こつな身體からだがぞく/\するほどあづまそらしたはしくおもつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そんなはなし最中さいちうにサァーツとおとをたてゝうるしのやうにくらそらはうから、直逆まつさかさまにこれはまた一からすがパチパチえてる篝火かがりびなかちてきた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「何か使走りの男が、手紙のやうなものを持つて來たやうですが、それを見ると急にソワソワして、私の言葉もうはそらに飛出してしまひました」
そう思ってゆくてをみると、白い道が夕もやの中へきえて、そのさきそらには二つ三つ、きいろい星が光りだしているばかり。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
死んだとばかし思っていた、まわりのマレー人や安南人が、狂人のようにはね起き、そらを仰いで飽くほど雨を飲んでいる。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そらというより、くうをみつめていたと言った方がよろしいかもしれぬ。空には何も見えないのであったが、眼もまた何も見ていないごとくであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
せっかく自分が好意ずくで話しかけるのを、うわそらで聞き流して、眼中にも、脳裏にも、置いていないようにも取れる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
にはとり神様かみさま夜明よあけらせること仰付おほせつかつたのがうれしさに、最初さいしよよる、まだお月様つきさまがゆつくりとそらあそびまはつてゐるのに、ときつくつてきました。
青年わかものの目と少女おとめの目とそらに合いし時、少女はさとそのかおを赤らめ、しばしはためらいしが急に立ちあがりかの大皿のみを左手ゆんでに持ちて道にのぼり
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
波が高まると妹の姿が見えなくなったその時の事を思うと、今でも私の胸は動悸どうきがして、そら恐ろしい気持ちになります。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
嘉代吉は若い男を振りかえって「あねそら(上)へ行けやい」とあごで指図しながら、杖をコツンと石について考えている。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
思ひの外なる御驚おんおどろききに定めてうわそらともおぼされんが、此願ひこそは時頼が此座の出來心できごゝろにてはつゆさふらはず、斯かる曉にはとかねてより思決おもひさだめし事に候。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
見て吉兵衞は杢右衞門に向ひ兵庫ひやうごおきを今日出帆しゆつぱんせんは如何といふ杢右衞門は最早もはや三が日の規式ぎしき相濟あひすみ殊に長閑のどかなるそらなれば御道理ごもつともなりとて水差みづさし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この仇無あどないとしらしき、美き娘のやはらかき手を携へて、人無き野道の長閑のどかなるをかたらひつつ行かば、如何いかばかり楽からんよと、彼ははや心もそらになりて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
伯母さんの考へによれば即ち私が極楽にゐた時の名まへであるところの 一喚即応童子いつくわんそくおうどうじ といふのをそらに覚えさせた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
先刻さつきまであをかつたそらも、何時いつとはなし一めん薄曇うすぐもつて、其処そこらがきふ息苦いきぐるしく、頭脳あたまは一さうおしつけられるやうになる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
此の母親のツベコベ云うのをうわそらで聞き流して、さも面白そうに新聞を読んで見せるのが、私には愉快で堪らない。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
吉彦よしひこさんがいった。四郎五郎しろごろうさんのいえ正男まさおさんは、うみ荒鷲あらわし一人ひとりで、いまみなみそら活躍かつやくしていらっしゃるのだ。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
河面かはづら対岸たいがんそらかゞや朝日あさひビールの広告くわうこくと、東武電車とうぶでんしや鉄橋てつけううへえず徃復わうふくする電車でんしや燈影ほかげてらされ、かしボートをわか男女だんぢよ姿すがたのみならず
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)