わざ)” の例文
わざりて篠山さゝやまえきのプラツトホームを歩行あるくのさへ、重疊ちようでふつらなやまれば、くまおもひがした。酒顛童子しゆてんどうじ大江山おほえやま
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その弊所をごく分りやすく一口に御話すれば生きたものをわざと四角四面のかんの中へ入れてことさらに融通がかないようにするからである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
髷も女優卷でなく、わざとつい通りの束髮で、薄化粧の淡洒あつさりした意氣造。形容しなに合はせて、煙草入も、好みで持つた氣組の婀娜あだ
すれば、當國このくに風習通ならはしどほりに、かほわざかくさいで、いっち晴衣はれぎせ、柩車ひつぎぐるませて、カピューレット代々だい/\ふる廟舍たまやおくられさッしゃらう。
まだ其上に腕車くるまやら自転車やらお馬やらお馬車やら折々はわざと手軽に甲斐々々しい洋服出立のお歩行ひろひで何から何まで一生懸命に憂身うきみやつされた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
と言捨て逃げる拍子に、泥濘ぬかるみへ足を突込む、容易に下駄の歯が抜けない様子。「それ見たか」と私は指差をして、思うさま笑ってやりました。わざ
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
されどわざとならぬ其罪をあがなはんとてこそ、車上の貴人あてびとは我に字を識り書を讀むことを教へしめ給ひしなれ。
彼奴あいつ己のこせえた棚の外から三つや四つ擲ったッて毀れねえことを知ってるから、先刻さっき打擲ぶんなぐった時、わざッと行灯のかげになって、くれい所で内の方からたゝきやアがったのは
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この仮面めん一個ひとつが中心となって、芸術本位の親父おやじや、虚栄心に富んだ近代式の娘などが作り出される事になったので……狂言の種を明せばそれだけです。頼家の最期はわざと蔭にしました。
松枝に不意を突かれたくない用心から、わざと、恬淡らしく「やあ!」と言った。
鋳物工場 (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
わざ々其の時計を捲いたのが怪しい、余は初めに其の顔の美しさに感心し、外の事は心にも浮かばずに居たが、追々斯様な怪しさが浮かんで来た、猶此の外に怪しい箇条が有るかも知れぬ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
私事恥を恥とも思はぬ者との御さげすみをかへりみず、先頃して御許おんもとまでさんし候胸の内は、なかなか御目もじの上のことばにも尽しがたくと存候ぞんじさふらへば、まして廻らぬ筆にはわざと何もしるし申さず候まま
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
デミトリチは彼等かれら厨房くりや暖爐だんろなほしにたのであるのはつてゐたのであるが、きふなんだかうではいやうにおもはれてて、これ屹度きつと警官けいくわんわざ暖爐職人だんろしよくにん風體ふうていをしてたのであらうと
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
落とせしがわざわらひまぎらし再び亭主にむかひ此印籠は拙者が心當りの人の所持品に相違なしりながらかく申せしばかりにては不審は晴まじ彼の夫婦の面體は斯樣々々かやう/\には有ざりしやと云うに亭主は手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わざとならぬ女の魂見えて床し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
で、たもとから卷莨まきたばこつて、燐寸マツチつた。くちさき𤏋ぱつえた勢付いきほひづいて、わざけむりふかつて、石炭せきたんくさいのをさらつて吹出ふきだす。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わざとらしく教訓をねらって書いたものではないが、自然と出来上った其作品の中において、余は如上の教訓を認め得たと云うなれば、私は作家として満足である。
予の描かんと欲する作品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
怒ったふり気取けどられたくないと、物を言おうとすれば声は干乾ひからびついたようになる、たん咽喉のどへ引懸る。わざせき払して、可笑おかしくも無いことに作笑つくりわらいして、猫を冠っておりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それとも、まり手輕てがるったとおおもひなさるやうならば、わざこはかほをして、にくさうにいやはう、たとひお言寄いひよりなされても。さもなくば、世界せかいかけていやとははぬ。
母は心のうちでは不憫でならんが、義理にからんで是非もなく/\わざと声をあらゝげまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「何ぢや、失敬な事かす、」と肱枕君はむつくと起直りてわざとらしく拳を固め
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
巡査じゆんさや、憲兵けんぺいひでもするとわざ平氣へいきよそほふとして、微笑びせうしてたり、口笛くちぶえいてたりする。如何いかなるばんでもかれ拘引こういんされるのをかまへてゐぬときとてはい。れがため終夜よつぴてねむられぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
少し気がひるんだけれど、素より幽霊などの此の世に在る事を信せず、殊には腕力も常人には勝れ、今まで力自慢で友人などにも褒められて来た程だから「ナアニ平気な者サ」とわざと口で平気を唱え
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
如何いかなるくはだてか、内證ないしようはずわざ打明うちあけて饒舌しやべつて、紅筆べにふで戀歌こひうた移香うつりがぷんとする、懷紙ふところがみうや/\しくひろげて人々ひと/″\思入おもひいれ十分じふぶんせびらかした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……仇敵同士かたきどうしいづれにあるぞ? カピューレット! モンタギュー!……い、これみな汝等おぬしたち相憎惡にくみあひ懲罰こらしめてんわざ子供等こどもらあいしあはせ、もっ汝等おぬしら歡樂よろこびをばころさせられたわ。
巡査じゅんさや、憲兵けんぺいいでもするとわざ平気へいきよそおうとして、微笑びしょうしてたり、口笛くちぶえいてたりする。如何いかなるばんでもかれ拘引こういんされるのをかまえていぬときとてはい。それがため終夜よっぴてねむられぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わざと磊落らしく笑ひながら口のうちにて、(実は自分にも解らない!)
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
大鞆は心中に己れ見ろと云う如きえみを隠してわざと頭を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
まげ女優巻じょゆうまきでなく、わざとつい通りの束髪そくはつで、薄化粧うすげしょう淡洒あっさりした意気造いきづくり形容しなに合せて、煙草入たばこいれも、好みで持つた気組きぐみ婀娜あだ
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
デミトリチは彼等かれら厨房くりや暖炉だんろなおしにたのであるのはっていたのであるが、きゅうなんだかそうではいようにおもわれてて、これはきっと警官けいかんわざ暖炉職人だんろしょくにん風体ふうていをしてたのであろうと
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『浮雲』の文章に往々多少の露臭ろしゅうがあるのはこれがためであろうが、そこが在来の文章型を破った独創の貴とさである。美妙のは花やかにコッテリしてわざとらしい厭味いやみのある欧文の模倣にちていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
会の趣が趣であるから、わざと遠慮をしたらしい。が、ちょうど発起人を代表して、当夜の人気だった一俳優あるやくしゃが開会の辞をべ終った処であった。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ほんの蝋燭おてらしだ、旦那だんな。」さて、もつと難場なんばとしたのは、山下やました踏切ふみきりところが、一坂ひとさかすべらうとするいきほひを、わざ線路せんろはゞめて、ゆつくりと強請ねだりかゝる。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
足巻あしまきと名づける針金に似た黒い蚯蚓みみずが多いから、心持こころもちが悪くつて、わざと外を枕にして、並んで寝たが、う夏の初めなり、私には清らかに小掻巻こがいまき
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わざとらしいと思いますから、友だちの見ない間に、もとへ戻して、立掛けて、拝んで挨拶をして、その日は済みました。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山茶花さざんかの枝をわざと持って、悪く気取って歩行あるくよりはましだ、と私が思うより、売ってくれた阿媽おっかあの……栄螺さざえこぶしで割りそうなのが見兼みかねましてね
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実際、其処にしゃがんだ、胸のはばただ、一尺ばかりのあいだを、わざとらしく泳ぎまわって、これ見よがしの、ぬっぺらぼう!
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きさまとても、少しは分つてらう。分つて居て、其の主人が旅行と云ふ隙間すきまねらふ。わざと安心して大胆な不埒ふらちを働く。うむ、耳をおおうてすずを盗むと云ふのぢや。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
初心うぶらしくわざ俯向うつむいてあかつた。おくみも、ほんのりと、いろめた、が、には夕榮ゆふばえである。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「また、おわずらいになるといかん。四十年来のおくりもの、わざと持参しましたが、この菊細工の人形は、お話の様子によって、しばらくお目に掛けますまい。」
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みちすがらも、神祕しんぴ幽玄いうげんはなは、尾花をばなはやしなかやまけた巖角いはかどに、かろあゐつたり、おもあをつたり、わざ淺黄あさぎだつたり、いろうごきつつある風情ふぜい
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
初心うぶらしくわざ俯向うつむいてあかつた。おきみも、ほんのりといろめたが、には夕榮ゆふばえである。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、ものめづらしげにみまもつたのは、わざひろふために、に、此處こゝあらはれたうつくしいひとともおもつたらう。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よき折から京方かみがたに対し、関東の武威をあらはすため、都鳥をて、こうはねたかの矢をむなさきに裏掻うらかいてつらぬいたまゝを、わざと、蜜柑箱みかんばこと思ふが如何いかが、即ち其の昔
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
折要歩せつえうほは、そつ拔足ぬきあしするがごとく、歩行あゆむわざなやむをふ、ざつ癪持しやくもち姿すがたなり。齲齒笑うしせうおもはせぶりにて、微笑ほゝゑときつね齲齒むしばいたみに弱々よわ/\打顰うちひそいろまじへたるをふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何時いつも、この会を催しますのに、わざとらしく、凄味、不気味の趣向をしますと、病人が出来たり、怪我があったりすると言います——また全くらしゅうございますからね。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わびしさは、べるものも、るものも、こゝにことわるまでもない、うす蒲團ふとんも、眞心まごころにはあたゝかく、ことちと便たよりにならうと、わざ佛間ぶつま佛壇ぶつだんまへに、まくらいてくれたのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あめれたり、ちやうど石原いしはらすべるだらう。母様おつかさんはあゝおつしやるけれど、わざとあのさるにぶつかつて、またかはちてやうか不知しら。さうすりやまた引上ひきあげてくださるだらう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たゞ挨拶あいさつをしたばかりのをとこなら、わしじつところ打棄うつちやつていたにちがひはないが、こゝろよからぬひとおもつたから、そのまゝに見棄みすてるのが、わざとするやうで、めてならなんだから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一葉女史なんざ草双紙を読んだ時、この人は僕と違つて土蔵があつたさうで、土蔵の二階に本があるので、わざ悪戯いたづらをして、剣突けんつくを食つて、叱られては土蔵へはふり込まれるのです。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)