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拔足
起し其夜家内は
寢鎭まり
良丑刻半共思ふ
頃不※起出で
豫て勝手は知りしゆゑ
拔足さし足して奧へ忍び行き
佛壇の下より三百五十兩の大金を盜み
出し是を
折要歩は、
密と
拔足するが
如く、
歩行に
故と
惱むを
云ふ、
雜と
癪持の
姿なり。
齲齒笑は
思はせぶりにて、
微笑む
時毎に
齲齒の
痛みに
弱々と
打顰む
色を
交へたるを
云ふ。
若旦那は、くわつと
逆上せた
頭を、
我を
忘れて、うつかり
帽子の
上から
掻毮りながら、
拔足に
成つて、
庭傳ひに、
密と
其の
窓の
下に
忍び
寄る。
内では、
媚めいた
聲がする。