夜具やぐ)” の例文
一同はそれから、すみずみからいろいろな器具を発見した、そのうちにドノバンが夜具やぐをうちかえすと、一さつの手帳があらわれた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
おまけに、もえ夜具やぐぶろしきを上被うはつぱりにかけて、つゝんでた。ひとつはそれにたいする敵愾心てきがいしんくははつたので。……奮發ふんぱつした。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
障子を開いてみると、果してそこに寝床が一つ敷いてあった。頭が痛いというのに、松山は頭から夜具やぐをひっかぶって寝ていた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雨がれると水に濡れた家具や夜具やぐ蒲団ふとんを初め、何とも知れぬきたならしい襤褸ぼろの数々は旗かのぼりのやうに両岸りやうがんの屋根や窓の上にさらし出される。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
御米およねはすぐ枕元まくらもとて、うへからのぞむやうに宗助そうすけた。宗助そうすけ夜具やぐえりからかほまつたした。つぎ御米およねほゝ半分はんぶんらしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
引開れば是はまた家は裳脱もぬけのからころもつゝなれにし夜具やぐ蒲團ふとんも其まゝあれど主はゐず怪有けふなる事の景況ありさまに是さへ合點がてんゆかざりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と、みょうなことに、この中にも蛾次郎がじろうのところと同じように、一組の夜具やぐが敷きのべてあって、その蒲団ふとんの上にも、やはりひとりの少年がいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
せなかに大きな桔梗ききょうもんのついた夜具やぐをのっしりと着込きこんで鼠色ねずみいろふくろのようなはかまをどふっとはいておりました。そして大きな青いしま財布さいふを出して
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたしどもは貧乏びんぼうで、おきゃくさまにおきせする夜具やぐもふとんもないのでございますが、せがれが猟師りょうしなもので、今夜こんやは、どこかやま小舎こやまりますから
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わしは水洟みずばなをすすり、炭をつぎ足すために炭取りに手をのばす。婆やが夜具やぐを落す音が、重く心にのしかかって来た。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
清澄の茂太郎が、自分の身体が押しつぶされるほどの夜具やぐ蒲団ふとんになって、お銀様のいるところへやって来たのです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
劇烈げきれつ病苦びやうくめにそのちからない死體したいはげつそりとひどやつれやうをしてた。卯平うへいたゞぽつさりとしてそれをた。死體したいまたきたな夜具やぐよこたへられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
父は叔母のために、旅に立つ荷造りをし、私の家にあった一番上等の夜具やぐまでもその中に包み込んだ。
執達吏は其の産衣うぶぎをも襁褓むつきをも目録に記入した。何物をも見のがさじとする債権者の山田は押入おしいれ襖子からかみを開けたが、其処そこからは夜具やぐの外に大きな手文庫が一つ出て来た。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
かます鉈豆煙管なたまめぎせるを取出した亀吉は、もう一度にやりと笑うと、おつねの出してくれた煙草盆で二三服立続けにすぱりすぱりとやっていたが、頭から夜具やぐかぶった歌麿が
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
この戸棚とだな夜具やぐ蒲団ふとんもあるよとなにからなにまでのこらずしてすだすつてよ、つた当座たうざだから療治れうぢはないや、退屈たいくつだらうと思つて岩田屋いはたや御夫婦ごふうふて、四方山よもやまの話をしてると
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
家政學かせいがくのいくたてもまなびしは學校がくかうにてばかり、まことあけくれみゝりしはいたかぬのきやく風説うはさ仕着しき夜具やぐ茶屋ちやゝへのゆきわたり、派手はで美事みごとに、かなはぬはすぼらしく
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
戸の外を、桜樹立こだちがぐるりと囲む……桜が……しんしんと咲き静まった桜樹立が真夜中に……むねあっして桜樹立が……桜樹立がしんしんと……私は、ぞっとして夜具やぐをかぶった。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
机と書笈ほんばこ夜具やぐ人力車くるませて笠のこわれた洋灯らんぷを君が手に持って書生の引越のように車の後からいて来ればそれで済むだろう。マアともかくも一遍ってその家を見て来給え。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「お泊まりなんし、お泊まりなんし、銭が安うておまんまが旨うて、夜具やぐうてお給仕が別嬪、某屋なにやはここじゃお泊まりなんし」と、旅人を呼び立て袖を引く、留女とめおんなの声のかまびすしい
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
○秋山の人はすべて冬もきのるまゝにてす、かつ夜具やぐといふものなし。冬は終夜よもすがら炉中ろちゆうに大火をたき、そのかたはらねふる。甚寒にいたれば他所より稿わらをもとめて作りおきたるかますに入りて眠る。
どこやらの溝池どぶいけでコロコロとかわず鳴音なくねを枕に、都に遠い大和路の旅は、冷たい夜具やぐの上——菜の花の道中をば絶望と悔悟かいごつ死の手に追われ来た若者……人間欲望の結局に泣いて私は
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
夜は二階の広間で、土井が着たこともないやうな友禅縮緬の夜具やぐが、四つ並べてあるところへ、彼は夜更けに仕事を終へて、離れから次兄達の夢をおどろかさないやうに、そつとはいつて来た。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこは青い絹の夜具やぐを敷いたへやであった。
馬の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜具やぐの上に草木くさきの散りぼふが見えて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
宿屋やどや夜具やぐのこころよさかな
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ボリ/\みつゝ、手酌てじやくで、臺附だいつき硝子杯コツプかたむけたが、何故なぜか、とこなか夜具やぐかぶつて、鹽煎餅しほせんべいをおたのにした幼兒をさなごとき思出おもひだす。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雨がれると水に濡れた家具や夜具やぐ蒲団ふとんを初め、何とも知れぬきたならしい襤褸ぼろの数々は旗かのぼりのように両岸の屋根や窓の上にさらし出される。
手文庫には文殻ふみがらとノートがぎっしり詰っていた。空地くうちのあるのは夜具やぐ蒲団ふとんのしまってある一けんの戸棚だけであった。細君は苦笑して立ち上った。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
満腹まんぷくすると、雨谷君の両方のまぶたがきゅうに重くなり、すみにたたんで積んであった夜具やぐをひきたおすと、よくしきもせず、その中へもぐりこんでしまったのだ。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこに夜具やぐもある、火のもある、ものもある、男世帯おとこじょたいの屋敷ですから、きにしてお泊りなさい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤の花を一面にえがいた大屏風おおびょうぶを引きのけて見ると、手ぎわよくたたまれた縮緬ちりめん夜具やぐ蒲団ふとん
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うちたゞ陰氣いんきときはしまくつた夜具やぐつめたくつてた。かれやうや火鉢ひばち麁朶そだくべた。かれそば重箱ぢゆうばこ小鍋こなべとがかれてあるのをた。ふたをとつたら重箱ぢゆうばこにはめしがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たのみ外へ遣置やりおき急立せきたつこゝろしづめて覗見のぞきみるにへい四郎は夜具やぐもたれて鼻唄はなうたうたひ居るにぞよく御出おいでなんしたと屏風びやうぶの中にいりぬしに御聞申事がある布團ふとんの上へあがりけれどもなんの氣もつかところ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜中よなかに、夜具やぐからはみだしても、いままでのように、だれがかけてくれるだろう。
真吉とお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
すでにむかしもかゝる事ありしと砂石集させきしふに見えし事など、人にきゝたるをおぼろげにおぼえて一ツ二ツかたりきかせなどして、夜もふけゝれば一ツの夜具やぐをふたりしてかづきうちふしけり。
わがころも夜具やぐ仕換しかへてつつましくいねてけり月夜つくよ夜ざくら
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
やあきたねどぶだ。おそろしい石灰いしばひだ。ひどみちだ。三階さんがいがあるぜ、浴衣ゆかたばかしの土用干どようぼしか、夜具やぐうら眞赤まつかな、なん棧橋さんばし突立つツたつてら。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
宗助そうすけ夜具やぐかぶつたまゝ、ひとりかたくなつてねむつてゐた。かれこのくらなかで、坂井さかゐからいたはなし何度なんどとなく反覆はんぷくした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
昼寐ひるね夜具やぐきながら墓地ぼちはう見下みおろすと、いつも落葉おちばうづもれたまゝ打棄うちすてゝあるふるびたはか今日けふ奇麗きれい掃除さうぢされて、はな線香せんかうそなへられてゐる。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
気がついて四囲あたりを見まわすと、自分は白い清浄せいじょう夜具やぐのなかにうずまって、ベッドの上に寝ていた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みな夜具やぐたゞ壁際かべぎははしくつたまゝきつけてある。卯平うへい其處そこ凝然ぢつた。箱枕はこまくらくゝりはかみつゝんでないばかりでなく、切地きれぢ縞目しまめわからぬほどきたなく脂肪あぶらそまつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
別に一ツ目小僧も出ては来なかった、これは確かに夜のもの、夜具やぐ蒲団ふとんの一団と認定のできた大包み、それを引出して解いて見ると、果してその通り、絹紬きぬつむぎのまだ新しい夜具が現われる。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あけて見るに絹布けんぷ木綿もめん夜具やぐ夥多おびたゞし積上つみあげてあり鴨居かもゐの上には枕のかず凡そ四十ばかりも有んと思はれます/\不審ふしん住家すみかなりと吉兵衞はあやしみながらも押入おしいれより夜具取出して次の間へこそふしたりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれは、おぼえず、夜具やぐのえりに、かおめてちいさくなりました。
少女がこなかったら (新字新仮名) / 小川未明(著)
待遇もてなすやうなものではない、銚子ちょうしさかずきが出る始末、わかい女中が二人まで給仕について、寝るにも紅裏べにうら絹布けんぷ夜具やぐ枕頭まくらもとかおりこうく。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一体疳性かんしょうだから夜具やぐ蒲団ふとんなどは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。小供の時から、友達のうちへとまった事はほとんどないくらいだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ポケットから点火器ライターをとりだして、カチッと火をつけると、左手で静かに枕元の方へさしだし、一方の右手を伸ばして夜具やぐえりをグッとつかむと、ソッと持ちあげてみた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
道子みちこ廊下らうか突当つきあたりにふすまのあけたまゝになつたおくへ、きやくともはいると、まくらふたならべた夜具やぐいてあつて、まど沿壁際かべぎは小形こがた化粧鏡けしやうかゞみとランプがたのスタンドや灰皿はひざら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「へえ、ただいま夜具やぐ蒲団ふとんを里まで借りにやりましたから」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)