到底たうてい)” の例文
わたくしやうなものには到底たうていさとりひらかれさうにりません」とおもめたやう宜道ぎだうつらまへてつた。それはかへ二三日にさんちまへことであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかもその名前なるものが、はなはだ平凡をきはめてゐるのだから、それだけでは、いくら賢明な車夫にしても到底たうてい満足に帰られなからう。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もう貴様も到底たうてい村では一旗挙げる事は難しい身分だから、一つ奮発して、江戸へ行つて皆の衆を見返つて遣らうといふ気は無いか。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
コロボツクルはいづれの仕方にしたがつて火を得たるか。直接ちよくせつ手段しゆだんにては到底たうてい考ふ可からず。コロボツクルの遺物中ゐぶつちうには石製の錐有り。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
勘次かんじ例令たとひ品物しなものつたところで、自分じぶん現在いまちからでは到底たうていそれはもとめられなかつたかもれぬと今更いまさらのやうに喫驚びつくりしてふところれてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さうおもへば益〻ます/\居堪ゐたまらず、つてすみからすみへとあるいてる。『さうしてから奈何どうする、あゝ到底たうてい居堪ゐたゝまらぬ、這麼風こんなふうで一しやう!』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
鋼索こうさく化學用くわがくようしよ劇藥げきやく其他そのほか世人せじん到底たうてい豫想よさうがた幾多いくた材料ざいりよう蒐集中しうしふちうなりしが、何時いつとも吾人われら氣付きづかぬその姿すがたかくしぬ。
何分なにぶん此頃このごろ飛出とびだしがはじまつてわしなどは勿論もちろん太吉たきちくら二人ふたりぐらゐのちからでは到底たうていひきとめられぬはたらきをやるからの、萬一まんいち井戸ゐどへでもかゝられてはとおもつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『事実? 到底たうてい其様なことは有得べからざる事実だ。』と銀之助は聞入れなかつた。『何故と言つて見給へ。学校の職員は大抵出処でどこきまつて居る。 ...
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし目に見えない将来の恐怖きようふばかりにみたされた女親をんなおやせまい胸にはかゝ通人つうじん放任はうにん主義は到底たうていれられべきものでない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
このあたりも、一もん、一たふこと/″\く口合式パンニングしき警句けいくにして、到底たうてい原語通げんごどほりにはやくしがたきゆゑ、義譯ぎやくとす。)
「ですけれど、わたしはドウやら悩みに悩むで到底たうてい、救の門の開かれる望がない様に感じますの」梅子はだ風なくて散るくれなゐの一葉に、層々みだれ行く波紋をながめて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
なんのためだとおもふと、しづめる妙法めうはふで——露骨ろこつに、これを説明せつめいすると、やきもちしづめ——そのしぶさ、ゆかしさ、到底たうてい女人藝術げいじゆつ同人どうじんなどの、かんがへつくところのものではない。
なるほど外部ぐわいぶからひと生活状態せいくわつじやうたいると至極しごく景氣けいきいやうにえるけれども其状態そのじやうたいがどれだけつゞくかとふことをかんがへてると、到底たうていながつゞるものではない。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
文学者ぶんがくしやもくして預言者よげんしやなりといふは野暮やぼ一点張いつてんばり釈義しやくぎにして到底たうていはなし出来できるやつにあらず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
取分とりわけて申候迄まうしさふらうまでもなし実際においてかゝる腑甲斐ふがひなき生活状態の到底たうてい有得ありうべからざるとなり申候まうしそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
そのうへならず、うまあたま髭髯しぜんめんおほ堂々だう/\たるコロンブスの肖像せうざうとは、一けんまるでくらものにならんのである。鉛筆えんぴついろはどんなにたくみにいても到底たうていチヨークのいろにはおよばない。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
僕等のの性格がほろぼされない以上、僕等は到底たうてい幸福かうふくな人となることは出來ない。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
インドにおいては、地理ちり歴史れきし關係くわんけいから、北部ほくぶ南部なんぶとでは根本こんぽんから言語げんごがちがふので、インドじん同士どうし英語えいごもつ會話くわいわこゝろみてゐるのをてインドが到底たうてい獨立どくりつざるゆゑんをさとつた。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
なん難有ありがた信仰しんかうではないか。つよ信仰しんかうつて法師ほふしであつたから、到底たうてい龍神りうじんごときがこのおれしづめることは出來できない、波浪はらう不能沒ふのうもつだ、としんじてうたがはぬぢやから、其處そこでそれ自若じじやくとしてられる。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
到底たうてい、勝戦なきを思ひ
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むなしもどるが如き事ある可し因て到底たうていなほらずとも藥の功驗きゝめで二月三月起らずにゐれば其後に假令たとへはつする事ありともはやそれまでには夫婦ふうふの中に人情にんじやうと云がおこり來れば癲癇てんかんありとて離縁りえんには成る氣遣きづかひも有まいからと云れて見れば其やうな物とも思ひ上治うはなほして致してやらねば其親子が折角せつかく得たる出世しゆつせの道のさまたげ爲やう思はるれば先の家へは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たゞくちびるがあまり厚過あつすぎるので、其所そこ幾分いくぶんゆるみがえた。そのかはかれには、普通ふつう人間にんげん到底たうているべからざる一種いつしゆ精彩せいさいひらめいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼等かれら最初さいしよんだつち強大きやうだい牽引力けんいんりよく永久えいきう彼等かれらとほはなたない。彼等かれら到底たうていつちくるしみとほさねばならぬ運命うんめいつてるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何故なぜかと云ふと夢中の出来事は、時間も空間も因果の関係も、現実とは全然違つてゐる。しかもその違ひ方が、到底たうてい型にはめる事が出来ぬ。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大革命だいかくめいともなづけられるくらゐだ、防腐法ばうふはふ發明はつめいによつて、大家たいかのピロウゴフさへも、到底たうてい出來得できうべからざることみとめてゐた手術しゆじゆつが、容易たやすられるやうにはなつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その航路かうろりて支那海シナかい印度洋インドやう方面はうめんすゝみしにあらずやとのうたがひあり、もとより今回こんくわい企圖くわだて秘中ひちう秘事ひじにして、到底たうてい測知そくちきにあらざれども
不可能ふかのうであるならば、あのとき爲替相場かはせさうば四十三ドルぶんの三は到底たうてい維持ゐぢ出來できないのであつて、段々だんだんさがつてることはあきらかなことで、あの時期じき爲替相場かはせさうば極端きよくたんさがつたならば
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
芸者なんぞになつちやいけないと引止ひきとめたい。長吉ちやうきちは無理にも引止ひきとめねばならぬと決心したが、すぐそばから、自分はおいとに対しては到底たうていそれだけの威力ゐりよくのない事を思返おもひかへした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
到底たうてい相談のならない法外な給料増加の請求を坑夫等に教唆けふさし、其の請求の貫徹をはかると云ふ口実のもとに、同盟罷工をらせると云ふのが、篠田の最初からの目的なので御座りまする
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「人間は完全に自然を発展すれば、必ずその最後は悲劇に終る。すなはち自然その者は到底たうてい現世の義理人情に触着しよくちやくせずには終らぬ。さすれば自然その者は、遂にこの世において不自然と化したのか」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
どういふふうくものやら全然まるで不案内ふあんないであつたがチヨークでいたたことは度々たび/\あり、たゞこれまで自分じぶんかないのは到底たうてい自分じぶんどものちからおよばぬものとあきらめてたからなので
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
到底たうてい單純たんじゆん理屈りくつぺんりつすることが出來できない。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
到底たうてい少年せうねん咽喉のどからたのではない。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
狐疑こぎしてるやうなその容貌ようばうとは其處そこあへ憎惡ぞうをすべき何物なにもの存在そんざいしてないにしても到底たうてい彼等かれら伴侶なかますべてと融和ゆうわさるべき所以ゆゑんのものではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あに到底たうてい相談さうだんになつてれるひとぢやない、自分じぶん大學だいがく卒業そつげふしないから、ひと中途ちゆうとめるのは當然たうぜんぐらゐかんがへてゐる。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この本はかういふ因縁いんねんもとに出来あがつたものであるから到底たうてい実際日本の土を踏んだ旅行家の紀行ほど正確ではない。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
奈何どうして這麼處こんなところに一週間しうかんとゐられやう、して一ねん、二ねんなど到底たうてい辛棒しんぼうをされるものでないとおもいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
年を取つたものと若いものゝあひだには到底たうてい一致されない懸隔けんかくのある事をつくづく感じた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
今の社会が言ふ所の威信とか名誉とか言ふのは何を指すのです、僕は此の根本を誤つてる威信論や名誉論を破壊し尽さぬ間は、到底たうてい道義人情の精粋を発揮することは出来ぬと思ふです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これ船長せんちやう報告ほうこくするなどは海上かいじやう法則はふそくからつて、到底たうていゆるからざることである。
自然児は到底たうていこの濁つた世にはられぬのである。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
一体光悦くわうえつをどう思つてゐるのだか、光悦寺をどう思つてゐるのだか、もう一つついでに鷹ヶ峯をどう思つてゐるのだか、かうなると、到底たうてい自分には分らない。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いはんや両氏の作品にもはるかに及ばない随筆には如何いかに君にいながされたにもせよ、到底たうてい讃辞を奉ることは出来ない。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
都々逸詩人を以て任じてゐては到底たうてい北原氏などに追ひつくものではない。次手ついでに云ふ。今の小説が面白くないから、大衆文芸が盛んになつたと云ふのはうそだ。
亦一説? (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あの六篇の小品を読むと、文壇離れのした心もちがする。作者が文壇の塵氛ぢんぷんの中に、我々同様呼吸してゐたら、到底たうていあんな夢の話は書かなかつたらうと云ふ気がする。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
早い話が堀川のお邸の御規模を拝見致しましても、壮大と申しませうか、豪放と申しませうか、到底たうてい私どもの凡慮には及ばない、思ひ切つた所があるやうでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
書物さへすでにさうである。いはんや書画とか骨董こつとうとかは一度も集めたいと思つたことはない。もつともこれはと思つたにしろ、到底たうてい我我売文の徒には手の出ぬせゐでもありさうである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
(中略)しかし随筆と云ふものが、芥川氏や、その他の諸氏の定義して居るやうに難かしいものだとすると、(中略)到底たうてい随筆専門の雑誌の発刊なんか、思ひも及ばないことになる
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この方面の小説家では、英吉利イギリスに Algernon Blackwood があるが、到底たうていビイアスの敵ではない。(二)彼は又批評や諷刺詩ふうししを書くと、辛辣無双しんらつむさうな皮肉家である。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)