その)” の例文
とその家庭かてい苦痛くつう白状はくじやうし、ついにこのしよ主人公しゆじんこうのち殺人さつじん罪人ざいにんなるカ……イ……をともなひてその僑居けうきよかへるにいた一節いつせつきはめて面白おもしろし。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
くはかついで遺跡ゐせきさぐりにあるき、貝塚かひづかどろだらけにつてり、その掘出ほりだしたる土器どき破片はへん背負せおひ、うしていへかへつて井戸端ゐどばたあらふ。
「ぢやあそのきくやうとおもつて学校がくかうへおいで。はなにはね、ものをいはないからみゝこえないでも、そのかはりにはうつくしいよ。」
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのかは小六ころくさん、はゞかさま座敷ざしきてて、洋燈ランプけて頂戴ちやうだいいまわたしきよはなせないところだから」と依頼たのんだ。小六ころく簡單かんたん
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
芝生の上へ円形にその花を落すサンバじゆなどの蔭を踏むと、極楽鳥と云ふるゐの美しい鳥が𤍠帯に棲んで居るのも不思議でない気がする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
東京天王寺てんのうじにて菊の花片手に墓参りせし艶女えんじょ、一週間思いつめしがこれその指つきを吉祥菓きっしょうかもたたも鬼子母神きしぼじんに写してはと工夫せしなり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
驚いてその仔細をただしたが、彼女かれは何にも答えなかった。赤児は恐らく重蔵のたねであろうと思われるが、男の生死しょうしは一切不明であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其後「血笑記けっしょうき」を除く外、翻訳物は大抵見た。「その面影おもかげ」はあまり面白いとも思わなかった。「平凡へいぼん」は新聞で半分から先きを見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その晩は場末の安宿に泊り翌日父は私をY中学の入学式につれて行き、そして我子を寄宿舎にたくして置くと、ぐ村へ帰つて行つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
らうと云つたそのお幸の父も、お幸とお幸より三つ歳下とししたの長男の久吉ひさきちがまだ幼少な時に肺病にかかつて二年余りもわづらつて歿くなりました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
山と雲との影があやに織り出されたり消されたりして、その間を縫って銀光沢を帯びた青緑色のヤンマの一種がのように飛び交うている。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
かつ如此かくのごとき事をこゝろみし事なし、こゝろみてそのはなは馬鹿気ばかげきつたる事をみとめたれば全然ぜん/\之を放棄はうきせり、みちおこなことみちく事なり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
初期の通信は、前にも言った通りみな細字ほそじで書かれ、その書体も均一で、Doctor, The Teacher, と署名してあった。
ベンヺ いや、これは和睦わぼくさせうためにしたことぢゃ。けんをさめい、でなくば、そのけんもっわしともに、こいつらを引分ひきわけておくりゃれ。
中にも『喫茗雑話』から抄したものは、漁村の撰んだ抽斎の墓誌の略で、わたくしはそのうちに「道純いみな全善、号抽斎、道純そのあざななり
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ろとは、大島小學校おほしませうがくかう神聖しんせいなる警語けいごで、その堂々だう/\たる冲天ちゆうてんいきほひと、そのくまで氣高けだかい精神せいしんと、これが此警語このけいご意味いみです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
昌作はヂロリとそのはうを見た。そして信吾が山内に挨拶して出てゆくと、不快な冷笑を憚りもなく顔に出して、自暴やけに麦煎餅を頬張つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
統計とうけいによれば、餘震よしんのときの震動しんどうおほいさは、最初さいしよ大地震だいぢしんのものに比較ひかくして、その三分さんぶんいちといふほどのものが、最大さいだい記録きろくである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ただう口の中で云っただけでも私の心は踊り立つ。それほど私はその町を——見捨てられたような其町を限り無く好いているのであった。
温室の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
キツプリング、ブラツクウツド、ビイアスと数へて来ると、どうも皆そのつくゑ抽斗ひきだしには心霊学会の研究報告がはひつてゐさうな心持がする。
近頃の幽霊 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「昼間の景色が本当のもので、今月光に照らされているのは、その昼間の景色が鏡に写っている、鏡の中の影だとは思いませんか」
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
父も家庭に対するくるしみ、妻子に対するくるしみ、社会に対するくるしみ——所謂いはゆる中年の苦痛くるしみいだいて、そのの狭い汚い町をとほつたに相違さうゐない。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
急に口へもってゆこうとして厳しく叱られたりしたというが、その時も、おそのの店の赤いものに目がついて、しゃがんで二つ三つとった。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おちつけずや母樣はゝさまにはねがはんとてはなたまはず夫樣おくさままたくれ/″\のおほせにそのまゝの御奉公ごほうこう都會みやこなれぬとてなにごとも不束ふつゝかなるを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたし自分じぶん不安ふあん苦痛くつううつたへたが、それかひはなく、このまゝ秘密ひみつにしてくれとつま哀願あいぐわんれて、此事このことは一そのまゝにはふむることにした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
此時このときにふと心付こゝろつくと、何者なにものわたくしうしろにこそ/\と尾行びかうして樣子やうす、オヤへんだと振返ふりかへる、途端とたんそのかげまろぶがごとわたくし足許あしもとはしつた。
まへにもべたやうに、金解禁きんかいきん準備中じゆんびちうに、海外かいぐわいから思惑投機おもわくとうきごときは、その巨額きよがくならざることもおよあきらかになつてることであるから
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
西鶴が『五人女』の中で「広間をすぎてえんよりかけはしのはるかに熊笹くまざさむら/\としてその奥に庭籠ありてはつがん唐鳩からばと金鶏きんけいさま/\の声なして」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
王樣わうさまその女王樣ぢよわうさまかひなにかけされられ、おそる/\まをされました、『かんがへても御覽ごらんなさい、え、たか一人ひとり子供こどもではないか!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
私は、日本文学の発生点を、神授(と信ぜられた)の呪言ジユゴンに据ゑて居る。しかその古い形は、今日溯れる限りでは、かう言つてよい様である。
月光げつくわうそのなめらかなる葉のおもに落ちて、葉はながら碧玉へきぎよくあふぎれるが、其上そのうへにまた黒き斑点はんてんありてちら/\おどれり。李樹すもゝの影のうつれるなり。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「茶は高貴の人に応接するが如し、烹点ほうてん共に法をみだればその悔かへるべからず」これが、彼の茶に対するときの心構へであつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
二人はそこを出ると、これはと目ざす旅館をことごとく廻り歩いた。その日は朝から小雨が降っていたが、十時頃から本降りになった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
化物學ばけものがくといふ學問がくもんがありとすれば、いままでべたことは、その序論じよろんるべきものであつて、こゝにはたゞ序論じよろんだけをべたことになるのである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
お茶の用意をした部屋には、お由利が抱きしめて居たという曙染の振袖がそのままにしてあり、其処には血潮の跡もありません。
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しなはどうかしてすこしでも蒟蒻こんにやくらしてきたいとおもつた。おしなそのうちきられるだらうとかんがへつゝ時々とき/″\うと/\とる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いつでも嬢様を尋ねるときはおもてに喜びの色輝やきて晴/\としてゐるが、その皮一重下にかくるゝ苦痛は如何ばかりぞと思ふと実に同情する子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
女子がアッパッパと称する下着一枚で戸外に出歩く奇風については、友人佐藤慵斎ようさい君の文集に載っているその論に譲って、ここには言うまい。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あたかも言附られし役目を行うが如くに泰然自若として老人の死骸のもとに行き、そのそばひざまずきてそろ/\と死骸を検査し初めぬ。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
考へだにせば、儒を聞きて儒を疑ひ、仏を聞きて仏を疑ひてもし。疑へばいつかその疑の解くることあり、それが道がわかるといふものに候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
もつて、あゝ云ふ世界を頭から拒絶してしまふのは、むしろあゝ云ふものに敗ける事だよ。その点では僕はもつと勇敢だ。僕はこれからダンスを始めるよ。
私の社交ダンス (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
驚いてその方を見ると、右手の林の中で、一人の怪漢が片手に角灯を持ち、片手に小刀ナイフを振上げて、一人の農夫のような男を刺殺さしころす有様が見えた。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして、それが出来上るとその翌日、七里も先方さき牧場まきばへ庄吉をつれて行つて、豚の一番ひとつがひ荷車に乗せて運んで来た。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
そして又太鼓をたたいて踊り始めたのです。けれども馬鹿七は、さつさと山へ上つて行きました。そして土を掘つて叮嚀ていねいに、その杉苗を植ゑました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
近近に実枝が主人で茶の会をするので、円通寺の茶室を借りるため、けふはその依頼なり下調べなりに行くといふのだつた。
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
機関砲の砲手は、砲架ほうかの前に緊張そのもののような顔をしていた。しかしその後は何者も邪魔をするものが現われなかった。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
亭主は直ぐに家中いへぢうにある一番良いきれを切つてお神さんの着物をこしらへてその上に靴から帽子手提袋まで作つて与へますとお神さんは大喜びでそれを
金剛石 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
なほ此後こののちもこれにつくさんのれうにせまほしとておのれにそのよしはしかきしてよとこはれぬかゝるかたこゝろふかうものしたまへるを
うもれ木:01 序 (旧字旧仮名) / 田辺竜子(著)
白雲が忙しそうにその間を去来して一種無常の観相かんそうをば附加える。しばらく景色を見ていた皆は、高野山の好い山であるということに直ぐ気がついた。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
が、それでいて、その失敗の過去が、私に取っては何処か床しい処がある、後悔慚愧はらわたおもいが有りながら、それでいて何となく心を惹付ひきつけられる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)