脊中せなか)” の例文
ある、かわずはいけかんで、太陽たいようひかり脊中せなかしていました。そのとき、太陽たいようは、やさしく、かわずにかっていいました。
太陽とかわず (新字新仮名) / 小川未明(著)
乳母 はれ、頭痛づつうがする! あゝ、なんといふ頭痛づつうであらう! あたま粉虀こな/″\くだけてしまひさうにうづくわいの。脊中せなかぢゃ。……そっち/\。
其時原口さんはうしろから、平手ひらてで、与次郎の脊中せなかたゝいた。与次郎はくるりとかへつて、まくすそもぐつて何所どこかへ消え失せた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼は子供を毛布にグルグルとくるんで、顔ばかり出し、口には出来るだけ柔かに猿轡をはめ、乳母を手伝わして脊中せなかへしっかと結び付けた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ほれるというものは妙なもので、小増が煙草を一ぷく吸付けてお呑みなはいと云ったり、また帰りがけに脊中せなかをぽんと叩いて
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
工場の塀にひたと脊中せなかをくっつけて立っていて、その塀の上の、工場の窓から、ひとりの女工さんが、上半身乗り出し、酔った弟を、見つめている。
I can speak (新字新仮名) / 太宰治(著)
その脊中せなか模樣もやう一組ひとくみ其他そのたのものとおなじことであつて、女王樣ぢよわうさまにはれが、園丁えんていか、兵士へいしか、朝臣てうしんか、また御自分ごじぶんのお子供衆こどもしゆうのお三方さんかたであつたかを
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
挨拶あいさつしました。美濃みの中津川なかつがはといふまちはうから、いろ/\なもの脊中せなかにつけてれるのも、あのうまでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なさるべしといと忠實まめやかに申けるにぞ父母ふたおや其切そのせつなる心に感じ眼を屡叩しばたゝ然程迄さほどまで我が身を捨ても親をすくはんとは我が子ながらも見上たりかたじけなしとお文の脊中せなか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
われは馭者と脊中せなかあはせに乘りたれば、古祠の柱列ちゆうれつのやうやく遠ざかりゆくを見やりつゝ、耳には猶少女の叫びし聲を聞きて、限なき心の苦しさを忍び居たり。
相談の敵手あいてにもなるまいがかゆ脊中せなかは孫の手に頼めじゃ、なよなよとした其肢体そのからだを縛ってと云うのでない注文ならば天窓あたまって工夫も仕様しようが一体まあどうしたわけ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「おい、ちやああぶないぞ‥‥」と、わたし度毎たびごとにハラハラしてかれ脊中せなかたたけた。が、瞬間しゆんかんにひよいといて足元あしもとかためるだけで、またぐにひよろつきすのであつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
私たちの田舎ずまいは、一銭銅貨の表と裏とのように、いろんな家畜小屋と脊中せなか合わせだった。ときどき家畜らが交尾をした。そのための悲鳴が私たちのところまで聞えてきた。
麦藁帽子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
竹村たけむら大久保おほくぼ出発前しゆつぱつぜん奈美子なみこをつれこんでゐた下町したまち旅館りよくわんで——それにも多少たせう宣伝的意味せんでんてきいみがあつたが、そこでなかに、さやごと短刀たんたう奈美子なみこ脊中せなかつたなぞのはなし
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
入口いりくちそと軒下のきした橢圓形だゑんけい据風呂すゑぶろがあつて十二三の少年せうねんはひつるのが最初さいしよ自分じぶん注意ちゆういいた。この少年せうねんけた脊中せなかばかり此方こちらけてけつして人車じんしやはうない。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ね、貢さん、阿母さんや此の脊中せなか桃枝もヽえたよりにするのはお前一人ひとりだよ。阿父おとうさんはあんなかただからうちの事なんかかまつて下さら無い。此の下間しもつまうちを興すもつぶすもお前の量見ひとつに在る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
いともの。)といひかけて親仁おやぢ少年せうねんそばへにぢりつて、鉄挺かなてこたやうなこぶしで、脊中せなかをどんとくらはした、白痴ばかはらはだぶりとして、べそをかくやうなくちつきで、にやりとわらふ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ましてや土方どかた手傳てづたひしてくるま跡押あとおしにとおやうみつけてもくださるまじ、あゝつまらぬゆめたばかりにと、ぢつとにしみてもつかはねば、とつちやん脊中せなかあらつておれと太吉たきち無心むしん催促さいそくする
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その翌日よくじつになると、日出雄少年ひでをせうねんは、稻妻いなづまといふよき朋友ともだち出來できたので、最早もはやわたくしそばにのみはらず、朝早あさはやくから戸外こぐわいでゝ、なみあをく、すなしろ海岸かいがんへんに、いぬ脊中せなかまたがつたり、くび抱着いだきついたりして
縮めた首筋から脊中せなかへかけてびっしょり濡れる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼女は天青の脊中せなかへひいとかじりついた。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「うむ、脊中せなかのもだよ」
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
脊中せなか花笠はながさ
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「さあ、しっかりとわたし脊中せなかにおさりなさい。」と、天使てんしはいいました。少年しょうねんは、天使てんししろ脊中せなかにしっかりときつきました。
町の天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自己が自己に自然な因果を発展させながら、その因果の重みを脊中せなかしょって、高い絶壁の端まで押し出された様な心持であった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……おゝ、脊中せなかが、脊中せなかが! ほんに貴孃こなたうらめしいわいの、とほとほところ太儀たいぎ使者つかひさッしやって、如是こんぬるやうなおもひをさすとは!
抜刀ぬきみさやに納め、樫棒かしぼうを持ちまして文治の脊中せなかを二つつ打ちましたが、文治は少しも動く気色けしきもなく、両手をいたまゝ暫く考えて居りました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
中学時代に、あの馬鹿の竹一から、ワザ、ワザ、と言われて脊中せなかを突かれ、地獄に蹴落けおとされた、その時の思い以上と言っても、決して過言では無い気持です。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
麁略そりやくにせず力の入事いることなどはさせざりけり然ともお花は身をにしてなり恩をはうぜんものと思へば如何なるいやしわざをも少しもいとはず客が來れば夜具の上下あげさげ風呂ふろれば脊中せなか
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
馬方うまかたうまめまして、うま脊中せなかにあるくらをはづしてやつたりうまかほでゝやつたりしました。それから馬方うまかたおほきなたらひつてまして、うま行水ぎやうずゐをつかはせました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
足袋二枚はきて藁沓わらぐつつま先に唐辛子とうがらし三四本足をやかため押し入れ、毛皮の手甲てっこうしてもしもの時の助けに足橇かんじきまで脊中せなかに用意、充分してさえこの大吹雪、容易の事にあらず、吼立ほえたつ天津風あまつかぜ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或人あるひと義母おつかさん脊後うしろからその脊中せなかをトンとたゝいて『義母おつかさん!』とさけんだら『オヽ』とおどろいて四邊あたりをきよろ/\見廻みまはしてはじめて自分じぶん汽車きしやなかること、旅行りよかうしつゝあることにくだらう。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ましてや土方の手伝ひして車の跡押あとおしにと親はうみつけても下さるまじ、ああつまらぬ夢を見たばかりにと、ぢつと身にしみて湯もつかはねば、とつちやん脊中せなか洗つておくれと太吉は無心に催促する
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
次ぎ次ぎに産まれる妹たちを脊中せなかに縛りつけられ、遠遊びをしたこともあったが、負ぶったまま庭の柘榴ざくろの木に登り、手をかけた枝が析れて、はずみで下の泉水へどさりとっこちたこともあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
みんなに、おかあさんがあるのに、どうして、自分じぶんにばかり、おかあさんがないのか? それで、しょうちゃんは、女中じょちゅう脊中せなかにおぶわれながら
遠方の母 (新字新仮名) / 小川未明(著)
代助は脊中せなかからみづかぶつた様にふるへた。社会から逐ひはなたるべき二人ふたりたましひは、たゞ二人ふたりむかひ合つて、たがひを穴のく程眺めてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
続いてあとから追掛けて来ました盗人は、よう/\追付おっついて、ドンとお町の脊中せなかを突きましたから、お町はのめるはずみに熊のんでいる穴の中へ落ちました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
脊中せなかにおぶさっているあかぼうが、はらったのでしました。乞食こじきは、どうしたらいいか、ほんとうにこまってしまいました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自己が自己に自然な因果を発展させながら、其因果のおもみを脊中せなかしよつて、高い絶壁のはじ迄押し出された様な心持であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此の婦人に惚れて入湯の跡を追掛おいかけて来て入込みの湯の中で脊中せなかなどを押付おっつける人があります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うしは、いつのまに小舎こやなかからもりたものか、その脊中せなかには二人ふたり子供こどもたちがって、一人ひとり太鼓たいこをたたき、一人ひとりふえいていました。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
発車間際まぎはに頓狂な声を出して、馳け込んでて、いきなりはだいだと思つたら脊中せなかに御灸のあとが一杯あつたので、三四郎の記憶に残つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なにより効験きゝめの強いのは和蘭陀おらんだでカンタリスという脊中せなかに縞のある虫で、是は豆の葉に得て居るが、田舎でエゾ虫と申し、斑猫のことで、効験が強いのは煎じ詰めるのがよかろうと申しましたので
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まつにまじってえている雑木ぞうきをたずねてあるいていると、一ぽんのかしわのがあって、そこにかぶとむしまっているくろ脊中せなかられました。
玉虫のおばさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
見馴れない四十恰好がっこうの女が、姉のうしろから脊中せなかさすっている傍に、一本の杉箸すぎばしを添えた水飴みずあめの入物が盆の上に載せてあった。女は健三に会釈した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ほんとう?」と、達吉たつきちは、寝耳ねみみみずおもいで、あかぼうったまますと、脊中せなかは、のつくようにした。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
大きな雁首がんくびゆびおさへて、二吹許ふたふきばかり濃いけむりひげなかからしたが、やがて又丸い脊中せなかを向けて近付ちかづいた。勝手な所を自由に塗つてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こっちにきかかったあねは、くるしんでいるおじいさんをました。あねはさっそく、そのおじいさんにちかづいて、しろ脊中せなかをなでてやりました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗助そうすけあつ綿わたうへで、一種いつしゆしづかさをかんじた。瓦斯ガスえるおとかすかにして次第しだい脊中せなかからほか/\あたゝまつてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
脊中せなか子供こどもをおぶわされては、びまわることもできず、くらくなるまで子守こもりをするのは、いやであった。それをいやといえば、母親ははおやにしかられる。
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)