ふく)” の例文
拜借はいしやく仕つり度是迄推參すいさん候といふに強慾がうよく無道ぶだうの天忠和尚滿面まんめんゑみふくみ夫は重疊ちようでふの事なりさてわけは如何にと尋ぬるに大膳はひざすゝめ聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかしてこの人なることばはあるいは高尚こうしょうな意味に用いることもあれば、またすこぶる野卑やひなる意味をふくませることもある。たとえば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
火口かこういけ休息きゆうそく状態じようたいにあるときは、大抵たいてい濁水だくすいたゝへてゐるが、これが硫黄いおうふくむために乳白色にゆうはくしよくともなれば、熱湯ねつとうとなることもある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
なみだ各自てんでわけかうぞと因果いんぐわふくめてこれもぬぐふに、阿關おせきはわつといてれでは離縁りゑんをといふたもわがまゝで御座ござりました
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平次の態度には、商賣柄にも似ぬ、噛んでふくめるやうな物優しさがありました。娘はハツと顏を伏せましたが、思ひ定めた樣子で
濡色ぬれいろふくんだあけぼのかすみなかから、姿すがたふりもしつとりとしたをんなかたに、片手かたて引担ひつかつぐやうにして、一人ひとり青年わかものがとぼ/\とあらはれた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「さう? でもうちぢや小供こどもがないから、夫程それほどでもなくつてよ」とこたへた御米およねのりふくました刷毛はけつてとん/\とんとさんうへわたした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それと結びついて政治学に伴う困難は、政治で語られる言葉が、多少とも現実と合わなかったり欺瞞ぎまんふくんでいることである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
ぼくの姓は坂本ですが、七番の坂本さんと間違まちがやすいので、いつも身体からだの大きいぼくは、侮蔑ぶべつ的な意味もふくめて、大坂ダイハンと呼ばれていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
一通り出来るようじゃな、と老人がおだやかな微笑をふくんで言う。だが、それは所詮しょせん射之射しゃのしゃというもの、好漢いまだ不射之射ふしゃのしゃを知らぬと見える。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この感覚かんかくうちにおいて人生じんせい全体ぜんたいふくまっているのです。これをにすること、にくむことは出来できます。が、これを軽蔑けいべつすることは出来できんです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたくしはただ自分じぶんうかがいましたままをおつたえするだけでございますから、そのてんはよくよくおふくみのうえ取拾しゅしゃしていただぞんじます。
「うむ、さうだあ、そんだからさあつとがさ/\すんだよ」ういつておつぎのこゑすこ明瞭はつきりとしてた。おつぎははぢふくんだ容子ようすつくつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『あいつは他國人たこくじん交際かうさいしてゐる。』『あのをとこ他縣人たけんじん懇意こんいにしてる。』そしてそれがいつも批難ひなん意味いみふくんでゐた。
ぴきの鯉魚にも天地の全理がふくまれるのを知ると同時に、恋愛のみが全人生でなく、そういう一部に分外にとどまるべきでないとも知ることです。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
井戸水は塩分を多分にふくんで、顔を洗うと、ちょっと舌が塩っぱかった。水は二階のはんどがめの中へ、二日分位み入れた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
先生せんせい此等これら言葉ことば其實そのじつ平凡へいぼんせつですけれど、ぼく先生せんせい生活せいくわつ此等これらせつくと平凡へいぼん言葉ことば清新せいしんちからふくんでることをかんじました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「よい。泰親が願意、聴きとどけて取らせ申そう。ただしこれを仕損じたら彼は重罪じゃ。それらのことも入道より彼にとくと申しふくめられい」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
間もなく低いうねり道をめぐって来るその人なる者の姿が見えた。なにか一念に誦経ずきょうの低声を口にふくんでわき眼もふらずに登ってくるのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
され共東天やうやく白く夜光全くり、清冷の水は俗界のちりを去り黛緑たいりよくの山はえみふくんて迎ふるを見れば、勇気いうき勃然ぼつぜん為めに過去の辛苦しんくを一そうせしむ。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
日本につぽん古代こだい人々ひと/″\は、かういふふうに、一首いつしゆうたについても、なにかみこゝろあるひは、さとしがふくまれてゐるのだ、といふかんがくせつてゐました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「これは水気が来ておりますから、……綿わたふくませたせいもあるのでございましょう。」——おくさんはぼくにこういった。
滝田哲太郎君 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このあいだからると、だいぶおおきくなった。あのあななか子供こどもがいるんだね。あついときは、水盤すいばんみずふくんでいって、うえやしているよ。
ある夏の日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
たちまち次の電光は、マグネシアのほのおよりももっと明るく、菫外線きんがいせん[※6]の誘惑ゆうわくを、力いっぱいふくみながら、まっすぐに地面に落ちて来ました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その叫び声の中には、仲間なかまの救いを求める合い図がふくまれたことであろう。しかし他のおおかみはついに姿を見せない。
随分書きにくかろうと墨汁ぼくじゅうふくませて見たのが機会きっかけになって、僕は間もなくこの猫柳で厄介な書信を認める運命に陥った。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
初めて本になったのは一八三九年十二月二十日で、(表紙の日付は一八四〇年となっている)そのときはわずかに二十夜をふくむごく小さい本であった。
絵のない絵本:02 解説 (新字新仮名) / 矢崎源九郎(著)
それはおそらくたゝかふ者の誇と名にかけて、または男の地にかけてであつたらう。が、現在げんざいでは對局たいきよくの陰に實際的じつさいてきな生くわつ問題もんだいまでふくまれて來たらしい。
初めて本になったのは一八三九年十二月二十日で、(表紙の日付は一八四〇年となっている)そのときはわずかに二十夜をふくむごく小さい本であった。
それで内部ないぶいろのあるえきふくんで、そのつよひかりさへぎるわけで、つまり若葉わかば自分自身じぶんじしん保護ほごをするのです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
まったく途方とほうれたのであろう。春信はるのぶかおあげたおせんのまぶたは、つゆふくんだ花弁かべんのようにうるんでえた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
かれその木の實を咋ひ破り、赤土はにふくみてつばき出だしたまへば、その大神、呉公むかでを咋ひ破りて唾き出だすとおもほして、心にしとおもほしてみねしたまひき。
それから怒氣どきふくんだこゑきこえました——うさぎの——『小獸ちび小獸ちびや!おまへ何處どこるんだい?』するとれないこゑで、『此處こゝるよ!林檎りんごつて!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
何だか変な会合だとお感じの方もおありのことと存じますが、その点あらかじめおふくみを願っておきます。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
はじめ緑色の二枚の子葉しようが開展し、その中央からくきが出て葉をける。そしてその胚には油をふくんでいる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それを命があんなにけいべつして広言こうげんをおきになったので、山の神はひどくおこって、たちまち毒気どくきふくんだひょうを降らして、命をおいじめ申したのでした。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そして当時平静へいせいに仕事をしていたけれども、その裏面にはいきどおりをふくんでいたことが言いたかったのだ。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
その中には、悲しみも、喜びも、未来の予感も、希望も、生のおそれも、何から何までがふくまれていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
と云ったその言葉は極めて簡単であったが、打水の涼しげな庭の景色けしきを見て感謝の意をふくめたような口調くちぶりであった。主人はさもさもうまそうに一口すすって猪口ちょくを下に置き
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかもその対話の中には、いつも人生の最も悲哀な言葉がふくまれていた。そしてその悲哀の意味を知ってるものは、世界にただ二人の、妻と良人よりなかったのである。
ルーヴルには圖書館としよかん附設ふせつされてないかはりに、ふる博物館はくぶつかんふくまれてをります。ことにこのふるほうでは、ほかにこれとかたならべるほどのものはないといはれてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
縱令たとひ化物ばけものても、それ理性的りせいてき乾燥無味かんさうむみなものであつて、情的ぜうてき餘韻よいんふくんでない。したがつてすこしも面白味おもしろみい。ゆゑ文運ぶんうん發達はつたつしてると、自然しぜん化物ばけものくなつてる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
盃を口にした重吉は、しばらくは口をつぐみ、口じゅうにその酒の味をゆっくりとみわたらせるかのようにじっとふくんでいて、やがてぐっとうなずくようにして飲みこんだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
「いずれまた電話で。」と重吉は女中と共に梯子段はしごだんを降りると、直様すぐさま慶応義塾病院に電話をかけ、お千代を呼出して、「家へは帰って来てはいけない」と言ってあんにその意をふくませ
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その夜、源助町乱闘の注進を受けた大岡様は、直ちに金山寺屋の音松を呼んで何事かふくめ、至急に黒門町の壁辰の許へ走らせた。表向おもてむきは、この喬之助召し捕りを壁辰に命じたのである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの追放人おひはらはれ無頼漢ならずものんでゐるマンチュアに使つかひおくり、さるをとこふくめて尋常よのつねならぬ飮物のみもの彼奴あいつめにませませう、すればやがてチッバルトが冥途めいど道伴みちづれ。さうなれば其方そなたこゝろなぐさまう。
インキ瓶を火鉢に縁に、載せて、瓶の口から水蒸氣ゆげが立つ位にして置いても、ペンにふくんだインキが半分もなくならぬうちに凍つて了ふ、葉書一枚書くにも、それは/\億劫なものであつた。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただしたれそろ横田清兵衛が子孫遺恨いこんふくみいては相成らずと仰せられ候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
製法は何れも手づくね素燒すやきなり。土質中には多少たせう雲母きららふくむを常とす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
んだか深遠しんえん人生じんせい意味ゐみふくまれてゐるやうな氣がしてならなかツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)