暗夜やみ)” の例文
と両袖を突張つっぱって肩でおどけた。これが、さかり場の魔所のような、廂合ひあわいから暗夜やみのぞいて、植込の影のさす姿見の前なんですが。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
錠でも外すような音がいよ/\耳につきますから、またそっと伸あがって木戸のあたりをすかして見ますると、暗夜やみ判然はっきりとは分りませんが、なんだか白いふわり/\としたものが見えました。
島、海、沢、やぶをかけた集り勢、これほどの数が込合ったら、月には波立ち、暗夜やみにはひそんで、ひそひそと身の上話がはじまろう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いやもうたった一人の娘をなくしてまるきり暗夜やみになったようで、お前さんを見ると思い出します、しかしまア私の娘の方は事が分って、うやって二七日ふたなぬかも済ましたが、遂々つい/\娘の事ばかり思って居て
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから屋敷町の暗夜やみへ忍んだ、勿論、小禄らしい。約束のつぶてを当てると、男が切戸から引込んで、すぐ膝に抱く、泣伏す場面で
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はなまるい、ひたひひろい、くちおほきい、……かほを、しかいやいろえたので、暗夜やみました。……坊主ばうず狐火きつねびだ、とつたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……大きな建物ばかり、四方に聳立しょうりつした中にこの仄白ほのじろいのが、四角に暗夜やみいた、どの窓にも光は見えず、もやの曇りで陰々としている。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗夜やみだか、月夜だか、覚えていません。が、松の樹はすやすやと息を立てて、寝姿かと思うしずかさで、何だか、足音を立てるのも気の毒らしい。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二三度続け様に、水道尻居まわりの屋根近やねぢかな、低い処で、からすいた。夜烏も大引けの暗夜やみだろう、可厭いやな声といったら。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
根雪に残るのじゃあございません、ほんの前触れで、一きよめ白くしましたので、ぼっとほの白く、薄鼠に、梟の頂が暗夜やみに浮いて見えました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
川筋さえけて通れば、用水に落込む事はなかったのだが、そうこうする内、ただその飛々とびとびの黒い影も見えなくなって、後は水田みずた暗夜やみになった。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惜しや暗夜やみなら松明たいまつを、ともして威勢はからんなど、語り合いつつ畦伝い、血の痕を踏んで行く程に、雪の下に近づきぬ。金時真先まっさきに二の足踏み
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つちの下の、仄白ほのじろい寂しい亡霊もうれいの道が、草がくれの葉がくれに、暗夜やみにはしるく、月にはかすけく、冥々めいめいとしてあらわれる。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
えだ所々しよ/\にごつた月影つきかげのやうな可厭いやいろもやからんで、ほしもない……やまふか谷川たにがはながれのぞんだおもひの、暗夜やみ四谷よツやたにそこ時刻じこくちやうど一ごろ
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お妻は石炭くずで黒くなり、枝炭のごとく、すすけた姑獲鳥うぶめのありさまで、おはぐろどぶ暗夜やみに立ち、刎橋はねばしをしょんぼりと、嬰児あかんぼを抱いて小浜屋へ立帰る。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田舎の暗夜やみには通りものの提灯ちょうちんを借りたので、蠣殻道かきがらみちを照らしながら、安政の地震に出来た、古い処を、鼻唄で、つちが崩れそうなひょろひょろ歩行あるき。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
た※渺々べう/\としてはてもない暗夜やみなかに、雨水あめみづ薄白うすじろいのが、うなぎはらのやうにうねつて、よどんだしづかなみが、どろ/\と線路せんろひたしてさうにさへおもはれる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前樣まへさま暗夜やみに、われらのかたちがけ樣子やうすえた瓦斯燈がすとうえますのも、みなひとつのかげなので。もないことには、はなつままれたとてわかりませぬが。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
並べて、女房と名告なのって、一所にまいる西河岸の、お地蔵様が縁結び。……これで出来なきゃ、日本は暗夜やみだわ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
団扇うちわにしては物寂しい、おおきひとりむしの音を立てて、沖の暗夜やみ不知火しらぬいが、ひらひらと縦に燃える残んの灯を、広いてのひらあおあおぎ、二三ちょう順に消していたのである。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入道にふだうの、のそ/\と身動みうごきするのが、暗夜やみなかに、くもすそひく舞下まひさがつて、みづにびつしより浸染にじんだやうに、ぼうと水気すゐきつので、朦朧もうろうとしてえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
踏切の坂をひきあげて、寛永寺横手の暗夜やみに、石燈籠に囲まれつつ、わだちが落葉にきしんだ時、車夫くるまやが振向いた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十畳と八畳に、廻縁まわりえんを取廻して、おおきの字形に、襖を払った、会場の広間は、蓮の田に葉を重ねたように一面で、暗夜やみに葉うらの白くほのめくのは浴衣ゆかたである。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
汽車きしやはたゞ、曠野あらの暗夜やみ時々とき/″\けつまづくやうにあわたゞしくぎた。あとで、あゝ、あれが横濱よこはまだつたのかとおもところも、あめれしよびれた棒杭ぼうぐひごと夜目よめうつつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
社殿の雪洞ぼんぼりも早や影の届かぬ、暗夜やみの中にあらわれたのが、ややかがみなりに腰をひねって、その百日紅のこずえのぞいた、霧に朦朧もうろうと火が映って、ほんのりと薄紅うすくれないしたのは
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところが、大漁といううちにも、その時は、また夥多おびただしく鰯があがりました。獅子浜在の、良介に次吉じきちという親子が、気を替えて、烏賊釣いかつりに沖へ出ました。暗夜やみの晩で。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こゝろ暗夜やみ取合とりあつて、爾時そのときはじめて、かげもののはなしは、さか途中とちうで、一人ひとり盲人めくらかされたことまをして、脊恰好せいかつかうとしごろをひますと、をんなは、はツと
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一体、名所の松といえば、それが二本松、三本松でも、実際また絵で見なくても、いい姿はわかるものです、暗夜やみ遠燈とおびの、ほの影に、それにもやをかけた小雨なんです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その美しい令室おくがたが、人にじ、世に恥じて、一室処ひとまどころ閉切とじきって、自分を暗夜やみに封じ籠めます。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時鳥ほとゝぎす矢信やぶみ、さゝがに緋縅ひをどしこそ、くれなゐいろにはづれ、たゞ暗夜やみわびしきに、烈日れつじつたちまごとく、まどはなふすまひらけるゆふべ紫陽花あぢさゐはな花片はなびら一枚ひとつづゝ、くもほしうつをりよ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なれども、僧都が身は、こうした墨染の暗夜やみこそけれ、なまじ緋の法衣ころもなどまとおうなら、ずぶぬれ提灯ちょうちんじゃ、戸惑とまどいをしたえいうおじゃなどと申そう。おしも石も利く事ではない。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……そこが仄明ほのあかるいだけ、大空の雲の黒さが、此方こなたに絞った幕の上を、底知れぬ暗夜やみにする。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
画工 (飲みながら、うつつにて)ああ、日が出た、が、俺は暗夜やみだ。(そのまま寝返る。)
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
扮装いでたちばかり凜々りりしいが、足許はやっぱり暗夜やみじゃの。」とすそも暗いように、また陰気。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
画工 (飲みながら、うつつにて)あゝ、日が出た、が、俺は暗夜やみだ。(其まゝ寝返る。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
僧都 いや、荒海を切って影をあらわすのは暴風雨あらしの折から。如法にょほうたいてい暗夜やみじゃに因って、見えるのは墓の船に、死骸しがいうごめ裸体はだかばかり。色ある女性にょしょうきぬなどは睫毛まつげにもかかりませぬ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この町のにぎやかな店々のかっと明るいはてを、縦筋たてすじに暗くくぎった一条ひとすじみちを隔てて、数百すひゃく燈火ともしび織目おりめから抜出ぬけだしたような薄茫乎うすぼんやりとして灰色のくま暗夜やみただよう、まばらな人立ひとだちを前に控えて
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裸脱はだぬぎの背に汗を垂々たらたらと流したのが、ともしかすかに、首を暗夜やみ突込つっこむようにして
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月夜つきよかげ銀河ぎんが絶間たえま暗夜やみにもくまある要害えうがいで、途々みち/\きつねたぬきやからうばられる、と心着こゝろづき、煙草入たばこいれ根附ねつけきしんでこしほねいたいまで、したぱらちからめ、八方はつぱうくばつても、またゝきをすれば
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
りゅう暗夜やみの中に悄然しょんぼりと立って、池にのぞんで、その肩を並べたのである。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
りう暗夜やみなか悄然しよんぼりつて、いけのぞむで、かたならべたのである。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くらさはつきぬけに全都ぜんと暗夜やみに、荒海あらうみごとつゞく、ともはれよう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
飛退とびのひまに雀の子は、荒鷲あらわしつばさくぐりて土間へ飛下り素足のまま、一散に遁出にげいだすを、のがさじと追縋おいすがり、裏手の空地の中央なかばにて、暗夜やみにもしるき玉のかんばせ目的めあてに三吉と寄りて曳戻ひきもどすを振切らんと
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、つきにしろ、暗夜やみにしろ、、おもれで、つてくとると、めぐり田圃たんぼをうろついて、きつねつままれたとおもはれるやうな時代じだいことではまぬ。たれなんあやしまれようもれないのである。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
じつ六十幾歳ろくじふいくさい婆々ばゞで、かもじをみだし、しろぬのを裸身はだかみいた。——背中せなかに、引剥ひつぺがした黒塀くろべいいた一枚いちまい背負しよつてる。それ、トくるりと背後うしろきさへすれば、立處たちどころ暗夜やみ人目ひとめえたのである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
暗夜やみ幻影まぼろし、麻布銀座のあかりがさすか、その藍と紺の横縞の、おめし……ですか、その単衣に、繻子しゅすではないでしょうが、黒の織物に、さつきの柳の葉がまつわったような織出しの優しい帯をしめている。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五月雨さみだれはじと/\とる、そと暗夜やみだ。わたし一寸ちよつと悚然ぞつとした。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小児こどもはばかるか楽書のあとも無く、朦朧もうろうとして暗夜やみにも白い。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空を仰ぐと、天井は底がなく、暗夜やみ深山みやまにある心地。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
墓所の暗夜やみ——
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)