投出なげだ)” の例文
さいわい怪我けがもなかったので早速さっそく投出なげだされた下駄げたを履いて、師匠のうちの前に来ると、雨戸が少しばかりいていて、店ではまだあかりいている。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
欣〻にこにことして投出なげだす、受取る方も、ハッ五万円、先ずこれ位のものをお納めして置きますればわたくしも鼻が高うございますると欣〻にこにこして受取る。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
富岡老人釣竿つりざお投出なげだしてぬッくと起上たちあがった。屹度きっと三人の方を白眼にらんで「大馬鹿者!」と大声に一喝いっかつした。この物凄ものすごい声が川面かわづらに鳴り響いた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
返事はきこえなかつたが、つぎつゝみ投出なげだす音がして、直様すぐさま長吉ちやうきち温順おとなしさうな弱さうな色の白い顔をふすまあひだから見せた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
一本ストンと投出なげだした、……あたかよしほかの人形など一所いっしょに並んだ、中にまじつて、其処そこに、木彫にうまごやしを萌黄もえぎいた、舶来ものの靴が片隻かたっぽ
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
投出なげだした、——彼女には夫があったのだ、その夫は村のやくざだ、人と喧嘩をすることを、職業のようにしている男だ
生意氣なまいき謂ツてゐら………」と投出なげだすやうに謂ツて、「して、何かえ。其の、お百度の御利益ごりやくがあツたのかえ。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
罵りたてた壮太、いきなり先にいる奴の衿に手がかかると、「やっ‼」と叫びざま、二三間先に投出なげだした。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うで下品げひんそだちましたなれば此樣こんことしておはるのでござんしよと投出なげだしたやうなことば無量むりようかんがあふれてあだなる姿すがた浮氣うはきらしきにず一ふしさむろう樣子やうすのみゆるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まれにはしびれたあし投出なげだしてきもかせもしなくてはなし反覆はんぷくしてのみるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「……かくしてMが、この斎藤博士の後任となって九大に着任すると間もなく、この学界空前の実験は決行された。そうしてその結果の全部が、この通り吾輩の前に投出なげだされた」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
投出なげだして、やおら、って、またかさをさして歩み出したが、最早もう何事もなく家に帰った、昔からも、よくいうが、こんな場合には、気をたしかに持つことが、全く肝要の事だろうよ。
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
そこで用意ようゐとゝなふと、吾等われらに/\一個いつこづゝ爆裂彈ばくれつだんたづさへて立上たちあがつた。かね用意ようゐとりにくを、十きんばかり鐵檻てつおりあひだから投出なげだすと、しよくゑたる猛獸まうじうは、眞黒まつくろになつてそのうへあつまる。
加之しか眼眩まばゆきばかりに美しく着飾った貴婦人で、するすると窓のそば立寄たちよって、何か物を投出なげだすような手真似をしたが、窓は先刻せんこく私がたしかじたのだから、とても自然にく筈はない。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
殘らず取出し盜賊の前に差出せば次郎は莞爾につこと打笑ひ夫れで能い心持こゝろもちだらうドリヤ路用ははずんでくれようと額銀がくぎん一ツ投出なげだしサア是で何處へなりとゆきをれへ言捨道玄次郎は悠々いう/\と金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二階の縁側に置いてある籐椅子とういすの上に足を投出なげだして、目の前の川をくだるボートを見るのが楽しみだった。夕方叔父が会社から帰って来る頃は、祖母に手を引かれて河岸かしに出て待っていた。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
造れるはかまを解きて投出なげだ
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
胸もあらはに投出なげだした
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
師走しはす算段さんだん𢌞まはつて五味坂ごみざか投出なげだされた、ときは、懷中くわいちうげつそりとさむうして、しんきよなるがゆゑに、路端みちばたいし打撞ぶつかつてあしゆび怪我けがをした。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思えば暴虐極まる制度が随分長く続いたものですね。私はこういった旧制度の犠牲者達、命も身分も投出なげだした恋の戦士達に同情したい心持で一パイです。
「あゝ、僕あもう絶望ぜつぼうだよ!」投出なげだすやうな調子てうしで友は云ツた。私の胸はなまりのやうにおもくなツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ふみ投出なげだして嘆息たんそくしけるが、じんすけむかひてはなほさらかなしげに、姉樣ねえさまはあくまで吾助ごすけくみて、あれほど御覽ごらんれしうたに一たびのお返歌へんかもなく、あまつさへ貴君あなたにまで
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
卯平うへい藁屑わらくづと一つに投出なげだしてある胴亂どうらんから五りん銅貨どうくわしてやるのがれいであるが、與吉よきち自分じぶんぜにさうとして胴亂どうらんおほきな金具かなぐ容易よういかないのでおこつてしてたり
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼の運命までも蹂躙じゅうりんし去った二人組の黒装束は、若い倉川男爵が、涙のうちに大枚三千円の懸賞金を投出なげだして、復讐を誓ったにも拘わらず、その後三回までも東京郊外を荒しまわって
老巡査 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
持歸りし後に其帛紗包ふくさつゝみが落て有しと申に夫は此金かと財布さいふまゝ投出なげださるゝを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
滊車きしやまどから投出なげだしたことなどを懷想くわいさうして、つくづくとなさけなくなつてた。
祐吉ゆうきちはむっとして、部屋の隅の長椅子いすへどかっと体を投出なげだした。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
投出なげだしたま
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自棄やけ突立つゝたつて、胴體どうたいドタンと投出なげだすばかり、四枚よまい兩方りやうはうひきずりけた、ひぢかけまどへ、ねるやうに突掛つゝかゝつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
殿から頂いた褒美三百両の大金を投出なげだした上、老女砧の首根っこを掴むようにして、縁結びの当日、簾の外に投出した赤い紐三本のうち、小浪の名札を結んだのへ
此子このこ笑顏ゑがほのやうに直接ぢかに、眼前まのあたり、かけあしとゞめたり、くるこゝろしづめたはありませぬ、此子このこなん小豆枕あづきまくらをして、兩手りやうてかたのそばへ投出なげだして寢入ねいつてとき其顏そのかほといふものは
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「だけど、貧乏びんぼういやだわ。」とお房は、臆病おくびやうらしく投出なげだすやうにいふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
胡坐あぐらかいた片脛かたずねを、づかりと投出なげだすと、両手で逆に取つて、上へそらせ、ひざぶしからボキリボキリ、ミシリとやる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かへしには何時いつでもい、薄馬鹿野郎うすばかやらうめ、弱虫よはむしめ、こしぬけの活地いくぢなしめ、かへりには待伏まちぶせする、横町よこてうやみをつけろと三五らう土間どま投出なげだせば、をりから靴音くつおとたれやらが交番かうばんへの注進ちうしんいまぞしる
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あしわすれたか投出なげだした、こしがなくば暖簾のれんてたやうにたゝまれさうな、年紀としそれて二十二三、くちをあんぐりやつた上唇うはくちびる巻込まきこめやう、はなひくさ、出額でびたひ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あしみづなか投出なげだしたからちたとおも途端とたんに、をんな脊後うしろから肩越かたこしむねをおさへたのでしつかりつかまつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「うむ、」と一声ひとこゑだう枯蘆かれあしこしおとして、ほとんど痙攣けいれんおこしたごとく、あし投出なげだしてぶる/\とふるへて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
散策子は答えにきゅうして、実は草の上に位置も構わず投出なげだされた、オリイブ色の上表紙うわびょうしに、とき色のリボンで封のある、ノオトブックを、つまさぐっていたのを見たので。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まへまあちつやすんでと、深切しんせつにほだされて、なつかしさうに民子たみこがいふのを、いゝえ、さうしてはられませぬ、お荷物にもつ此處こゝへ、もし御遠慮ごゑんりよはござりませぬ、あし投出なげだして
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かゝとくろいのを眞向まむきにせて、一ぽんストンと投出なげだした、……あたかよしほか人形にんぎやうなど一所いつしよならんだ、なかまじつて、其處そこに、木彫きぼりにうまごやしを萌黄もえぎいた、舶來はくらいもののくつ片隻かたつぽ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不気味ぶきみ投出なげださうとするとずる/″\とすべつてゆびさきすひついてぶらりとさがつたはなれたゆびさきから真赤まつかうつくしい垂々たら/\たから、吃驚びツくりしてしたゆびをつけてじつとると
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
げたときかれは、鼓打つゞみうちである従弟いとこが、業体げふたいひ、温雅をんが上品じやうひんやさしいをとこの、さけ酔払ゑひはらふと、場所ばしよえらばず、外套ぐわいたういで、威勢ゐせいよくぱつと投出なげだす、帳場ちやうば車夫しやふなどは
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まくらならべ、仰向あをむけになり、むねうへ片手かたてちからなく、片手かたて投出なげだし、あしをのばして、くちむすんだかほは、片影かたかげになつて、一人ひとりすや/\とるのを、……一目ひとめると、それ自分じぶんであつたので
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大形の浴衣の諸膚脱もろはだぬぎで、投出なげだした、白い手の貴婦人の二の腕へ、しっくりくいついた若いもの、かねて聞いた、——これはその人の下宿へ出入りの八百屋だそうで、やっぱり情人の一人なんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
法衣ころも破目やぶれめくゞらすごとく、ふところからいて、ポーンと投出なげだす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
戞然からりと、どき/\した小刀こがたな投出なげだす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)