あま)” の例文
旧字:
そのころ良人おっとはまだわこうございました。たしか二十五さい横縦よこたてそろった、筋骨きんこつたくまましい大柄おおがら男子おとこで、いろあましろほうではありません。
たとへにも天生峠あまふたうげ蒼空あをぞらあめるといふひとはなしにも神代じんだいからそまれぬもりがあるといたのに、いままではあまがなさぎた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いたにはあまり人がりませぬで、四五にんりました。此湯このゆ昔風むかしふう柘榴口ざくろぐちではないけれども、はいるところ一寸ちよつと薄暗うすぐらくなつてります。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
汎米連邦からは、一人の外国人もあまさず追放されたのに、久慈は、大胆にも、ひそかにワシントンの或る場所に、とどまっていたのである。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勿論もちろんあま正直しょうじきにはつとめなかったが、年金ねんきんなどうものは、たとい、正直しょうじきであろうが、かろうが、すべつとめたものけべきである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
嘉永版かえいばんの『東都遊覧年中行事とうとゆうらんねんちゅうぎょうじ』にも、『六月朔日ついたち賜氷しひょうせつ御祝儀ごしゅうぎ、加州侯より氷献上、おあまりを町家ちょうかに下さる』と見えている。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
するとすぐくさにとりついてべるのは子供こどもで、ゆるゆると子供こどもべさせておいたあとで、あましをべるのは母親ははおやだということだよ。
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
不在に主僧がそのへやに行ってみると、竹の皮に食いあましの餅菓子が二つ三つ残って、それにいっぱいにありがたかっていることなどもあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
尤もありや、あまり大きな声をしちや、不可いけないんだつてね。本来が四畳半の座敷に限つたものださうだ。所が僕が此通り大きな声だらう。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ゾオラが偶々たま/\醜悪しうあくのまゝをうつせば青筋あをすじ出して不道徳ふだうとく文書ぶんしよなりとのゝしわめく事さりとは野暮やぼあまりに業々げふ/\しき振舞ふるまひなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
一体いったい蝸牛かたつむりは形そのものがあまりいい感じのものではない。しかもその肉は非常にこわくて弾力性に富んでいる。これを食べるには余程よほどの勇気がいる。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たゞすこ遠慮勝えんりよがちなのと、あまおほ口数くちかずかぬのが、なんとなくわたしには物足ものたりないので、わたしそれであるから尚更なほさら始末しまつわるい。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのとし有名なる岸田俊子きしだとしこ女史(故中島信行氏夫人)漫遊しきたりて、三日間わがきょうに演説会を開きしに、聴衆雲の如く会場立錐りっすいの地だもあまさざりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
と、そのむさぼるにまかせ、兵みなくちしずくし、眼底を濡らすを見るや、大薙刀おおなぎなたの石づきを、なおあませる巨瓶おおがめの腹にさし向け
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若者わかものはよろこんで、それなら北海道ほっかいどうへゆくのにあまるほどだといって、主人しゅじん時計とけいってもらうことにしたのでした。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一時間目の修身しゅうしん講義こうぎんでもまだ時間があまっていたら校長が何でも質問しつもんしていいと云った。けれどもだれだまっていて下をいているばかりだった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
十九にもなつて独身ひとりみでゐると、あまされ者だと言つて人に笑はれたものであるが、此頃では此村でも十五十六の嫁といふものは滅多になく、大抵は十八十九
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あまりに月が大きくあかるいから、大名屋敷だいみやうやしきへいはうが遠くて月のはうかへつて非常に近く見える。しか長吉ちやうきちの見物も同様どうやうすこしも美しい幻想げんさうを破られなかつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それ以外には入聟いりむこおよび入夫にゅうふの制、是は女しかおらぬ家を見つけて、そこへあまったヲンヂたちを配るのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
元来親分気のある将門が、首を垂れ膝を折つて頼まれて見ると、あまかんばしくは無いと思ひながらも、仕方が無い、口をきいてやらう、といふことになつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
蝦夷松えぞまつ椴松とどまつ、昔此辺の帝王ていおうであったろうと思わるゝ大木たおれて朽ち、朽ちた其木のかばねから実生みしょう若木わかぎ矗々すくすくと伸びて、若木其ものがけい一尺にあまるのがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一度いちどは綿と交易してつぎの替引の材料となし、一度は銭と交易して世帯の一分いちぶを助け、非常の勉強に非ざれば、この際に一反をあまして私家しかの用に供するを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
高田の俳友はいいう楓石子ふうせきしよりの書翰しよかんに(天保五年の仲冬)雪竿を見れば当地の雪此せつ一丈にあまれりといひきたれり。
まさに大雨を下さんとす、明夜尚一回露宿ろしゆくをなさざれば人家ある所にいたるをず、あます所の二日間尚如何なる艱楚かんそめざるべからざるや、ほとん予測よそくするを得ず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
そのぐるりのかべりめぐらしたかずが、一かぞえて三十あまり、しかもおとこのつくものは、半分はんぶんいてあるのではなく、おんなと、いうよりも、ほとん全部ぜんぶ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
親属故旧の音信祭礼仏事等に百匁程、都合一貫五百十四匁ばかりを費して、僅かに七十三匁六分をあませり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
嬉しと心を言へらんやうの気色けしきにて、彼の猪口ちよくあませし酒を一息ひといき飲乾のみほして、その盃をつと貫一に差せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人目ひとめ附易つきやす天井裏てんじやうゝらかゝげたる熊手くまでによりて、一ねん若干そくばく福利ふくりまねべしとせばたふせ/\のかずあるのろひの今日こんにちおいて、そはあまりに公明こうめいしつしたるものにあらずや
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
こうわれたので、王子おうじあまりのかなしさに、逆上とりのぼせて、前後ぜんごかんがえもなく、とううえからびました。
といって二十日も一月も晴天が続くと川の水が減少して鮎のせまくなりますのに硅藻があま生長せいちょうすぎこわくなりますから鮎はやっぱり餌に飢て味が悪くなります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と伯父は手にあましていた。寛一君は予想以上に事が大きくなっていると思って益〻恐縮した。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
気が附いて見ると、男子は大股おおまたひろい文明の第一街を歩いている。哀れなる女よ、男と対等に歩もうとするにはあまりに遅れている。我我は早くこのこみちより離れて追いすがりたい。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
こうしてありあまる仕事のあるうえ、エチエネットにはまた一つ、看護婦かんごふの役がえた。
あまり腕が痛いので、東京に出たついでに、渋谷の道玄坂で天秤棒を買つて帰つた。丁度股引尻からげ天秤棒を肩にした姿を山路愛山君やまぢあいざんくんに見られ、理想を実行すると笑止な顔で笑はれた。
水汲み (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
今からおよそ十年あまりも前に、広島県安芸あきの国〔県の西部〕の北境ほっきょうなる八幡やはた村で、広さ数百メートルにわたるカキツバタの野生群落やせいぐんらく出逢であい、おりふし六月で、花が一面に満開して壮観そうかんきわ
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その千にもあま跣足はだしの信者どもは、口を真黒に開いていて、互いのくびに腕をかけ、肩と肩とを組み、熱意に燃えて変貌したような顔をしていたが、その不思議な行進には佩剣はいけんの響も伴っていて
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それで、野村は悪友達から二川の事をいわれるのをあまこのまなかった。
「そうか、ぼくはあまり感心しないよ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
悲しさあまりて られぬまくら
七里ヶ浜の哀歌 (新字新仮名) / 三角錫子(著)
すると良人おっとわたくし意見いけんちがいまして、それはあま面白おもしろくない、是非ぜひ若月わかつき』にせよとって、なんもうしてもれないのです。
吃驚びつくりして、つて、すつとうへくと、かれた友染いうぜんは、のまゝ、仰向あふむけに、えりしろさをおほあまるやうに、がつくりとせきた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは勿論もちろん、これは我々われわれだけのはなしだが、かれあま尊敬そんけいをすべき人格じんかくおとこではいが、じゅつけてはまたなかなかあなどられんとおもう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかるを何だ、あまり馬鹿々々しいとはういう主意を以てかくの如く悪口あっこうを申すか、この呆漢たわけめ、何だ、無礼の事を申さば切捨てたってもよい訳だ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼のいまの気分は、彼に時々とき/″\おこごとく、総体のうへに一種の暗調を帯びてゐた。だからあまりにあかすぎるものに接すると、其矛盾に堪えがたかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
世間せけんからては、病的びやうてき頭脳づのう狂人きちがひじみた気質きしつひともないことはなかつた。竹村自身たけむらじしんにしたところで、このてんでは、あま自信じしんのもてるはうではなかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しろいぬは、最初さいしょ遠慮えんりょするようにえましたが、ねこのちゃわんへすすって、あまりのごはんをきれいにべてしまいました。そして、いってしまったのです。
小ねこはなにを知ったか (新字新仮名) / 小川未明(著)
葬列はとどこおりなく、彼が家の隣の墓地に入った。此春墓地拡張の相談がきまって、三あまりの小杉山をひらいた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
余はあまりに数理的なる西洋音楽の根本的性質と、落花落葉虫語鳥声等の単純可憐かれんなる日本的自然の音楽とに対して、づその懸隔のはなはだしきに驚かずんばあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さて雪頽なだれを見るにさのみにはあらぬすこしのなだれなれば、みちふさぎたる事二十けんあまり雪の土手どてをなせり。
瓦廻かはらまわしをる、鞦韆飛ぶらんことびる、石ぶつけでも、相撲すまふでも撃剣げきけん真似まねでも、悪作劇わるいたずらなんでもすきでした、(もつと唯今たゞいまでもあまきらひのはうではない)しかるに山田やまだごく温厚おんこう
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)