つゆ)” の例文
ところが慌てて福神漬の口の方を下にしたもんだから、おつゆがおなかの中へこぼれてぐぢやぐぢやなの。氣味が惡いつたらなかつたわ。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
にごれるみづいろへて極彩色ごくさいしき金屏風きんびやうぶわたるがごとく、秋草模樣あきくさもやうつゆそでは、たか紫苑しをんこずゑりて、おどろてふとともにたゞよへり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
空を横切るにじの糸、野辺のべ棚引たなびかすみの糸、つゆにかがやく蜘蛛くもの糸。切ろうとすれば、すぐ切れて、見ているうちはすぐれてうつくしい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夕闇の底に拡がるむら花のほの白さが真珠のとこのやうに冷たくかすかに光り、匂やかなつゆをふくんでをとめのかの女を待つてゐた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
気永く構えて耳と目の及ぶだけ気を附けたれどつゆほども余の疑いを晴す如き事柄は聞出しもせねば見出しもせずに晩餐を終りたり。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
二号にがう活字くわつじ広告くわうこく披露ひろうさるゝほかなんよくもなき気楽きらくまい、あツたら老先おひさきなが青年せいねん男女なんによ堕落だらくせしむる事はつゆおもはずして筆費ふでづひ紙費かみづひ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
春枝夫人はるえふじんいた心配しんぱいして『あまりに御身おんみかろんじたまふな。』と明眸めいぼうつゆびての諫言いさめごとわたくしじつ殘念ざんねんであつたが其儘そのまゝおもとゞまつた。
そのばん伯父をぢさんも友伯父ともをぢさんもばれてきましたが、『押飯おうはん』とつてとりにくのおつゆあぢをつけた御飯ごはん御馳走ごちさうがありましたつけ。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
葉末はずゑにおくつゆほどもらずわらふてらすはるもまだかぜさむき二月なかうめんと夕暮ゆふぐれ摩利支天まりしてん縁日ゑんにちつらぬるそであたゝかげに。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ケンタウルス、つゆをふらせ。」と叫んで走ったり、青いマグネシヤの花火を燃したりして、たのしそうに遊んでいるのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
流石さすがに物堅き重二郎も木竹きたけでは有りませんから、心嬉しく、おいさの顔を見ますと、つぼみの花の今なかひらかんとする処へつゆを含んだ風情ふぜい
嫁も起きでて泣きながらいさめたれど、つゆしたがう色もなく、やがて母がのがれ出でんとする様子ようすあるを見て、前後の戸口をことごとくとざしたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
壁辰の娘お妙——あの、つゆを持った野百合のゆりの花のような、たおやかなお妙のすがたに、人知れず思いを寄せている幸吉である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小手こてをかざしてみれば、いちめんの高原植物こうげんしょくぶつ、月光とつゆ繚乱りょうらんたるなかに、ぽちりと、ひとりの少女のすがたが、ありありと立って見えた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、風はモミの木にキスをして、つゆはその上になみだをこぼしました。けれども、モミの木には、なんのことかさっぱりわかりませんでした。
なんといふしづかさだらう!もなくひさしからつゆる。水晶すゐしやうくだけてちるやうに、いやひかりそのものがるやうに……。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
酒を飲うが歌おうが、おつゆ可愛かあいがって抱いて寝ようが、それで先生の資格なしとやかましく言う者はこの島に一人もない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
およそ天よりかたちしてくだものあめゆきあられみぞれひようなり。つゆ地気ちき粒珠りふしゆするところしもは地気の凝結ぎようけつする所、冷気れいき強弱つよきよわきによりて其形そのかたちことにするのみ。
青い野菜はつゆの中に浮んでいた。灸は自分の小さい箸をとった。が、二階の女の子のことを思い出すと彼は箸を置いて口を母親の方へ差し出した。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
思ひの外なる御驚おんおどろききに定めてうわそらともおぼされんが、此願ひこそは時頼が此座の出來心できごゝろにてはつゆさふらはず、斯かる曉にはとかねてより思決おもひさだめし事に候。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
あの高原こうげんにいるころ、あかつきかぜが、あたまうえそらわたり、葉末はずえつゆのしずくのしたたるとき、ほしひかりが、無数むすうにきらめいていた。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから鼻息のつゆれた胡麻塩髯ごましおひげでまわして、ゆがみかけた釣鐘マントのえりをゆすり直すと、又も、スタスタと学校の方へ線路を伝い初めた。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
きた相手あいてにいうごとく、如何いかにもなつかしそうに、人形にんぎょうあおいだおせんのには、なさけつゆさえあだ宿やどって、おもいなしか、こえは一にふるえていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひっそりした裏庭の芝生しばふの上にも、ただ高い棕櫚しゅろの木のこずえに白い月が一輪浮んでいるだけです。白は昔の犬小屋の前に、つゆれた体を休めました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
敗軍に及んで自害もなさらずに召し捕られるとは、日頃の御身にも似合わしからず存ずると、重ねて本多殿が云うと、汝は武略をつゆ知らざる者よな
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
盡されしとはつゆ程も知らざればほか増花ますはなの出來もやせしかもし御煩おわづらひでも成れはせぬかと山口巴の若い者や女中ぢよちうに樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜になり月がのぼって、池の面が白くかぎろいはじめるころ、若者は恋人をともなって、芝草しばくさの上のつゆをふみながらふたたびいずみのほとりにやってきた。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そしてちかうち黄道吉日こうどうきちにちえらんで、婚礼こんれいしきげようとしていたさいに、不図ふとおこりましたのがあの戦乱せんらんもなく良人おっととなるべきひと戦場せんじょうつゆ
モン長 げに、幾朝いくあさも/\、まだつゆなみだ置添おきそへ、くもには吐息といきくもくはへて、彷徨うろついてゐるのを見掛みかけたとか。
しかし白髪婆さん達はそんなことになっていようとはつゆ知らず、お互に姉妹達のうちの誰かが眼を取ったものと思い込んで、また新しく喧嘩を始めました。
それはおつゆと云う女に関係した浪人の萩原はぎわら新三郎の名が、荻原新之丞をもじったものであるにみても判ろう。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
(三)おきのひとよ。おかさであるとまをげい。この宮城野みやぎのうへからふりちるつゆあめ以上いじようである。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
だい覇圖はと夢物語ゆめものがたり奉天城外ほうてんじやうぐわいつゆえてしまつたが、れい張作霖ちやうさくりん非常ひじやう麻雀好マアジヤンずきだつたとふ。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
我が国などでも蛆虫うじむしのようなものは汚いごみのなかから自然に湧いて生まれてくるようにいならわしたり、昆虫は草の葉のつゆから生まれるなどとも考えたのでした。
チャールズ・ダーウィン (新字新仮名) / 石原純(著)
しかるに名利はこちらから追い駆けて、あるいは他人をきずつけたり、またおのれの本心にそむいて得るものと、天よりくだつゆのごとくにおのずから身に至るものとあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
背子せこ大和やまとると小夜さよけてあかときつゆにわがれし 〔巻二・一〇五〕 大伯皇女
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もうすっかりあかるくなって、日がのぼりかけました。くさの上のつゆがきらきらかがやしました。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
つゆいささかしき道には踏み込まざりしわたくし母子おやこに病をくだして、ついに最愛の者を奪い、かかる始末に至らしむるとは、何たる無情のなされかたぞなど、はてしもなき涙にき暮れぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
団兵衛のすることをつゆのがさじと見ていた大蛇嶽闇右衛門、やがて眼の覚めたように
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
つゆしたゝりさうな眞白の實を花の形に切り、ナイフの尖端さきに刺して小池の前に差し出した。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
下手な雑俳をたしなつゆ正吉しょうきちという中老人、これは野幇間のだいこのような男ですが、筆蹟が良いので瓢々斎に調法がられ、方々の献句けんくの代筆などをして、毎日のように入りびたっておりました。
十畳敷じゅうじょうじきもあろうかと思われるほど大きな百合ゆりの形をした花で、そのビロードのような花びらは、赤や青や黄やむらさきやさまざまの色をして、その上に金色の花粉かふんつゆのように散りこぼれていて
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一葉女史いちえふぢよしはおのれとおな園生そのふにありてはぎつゆにおほしたてられし下葉したはなりはぎ中島なかじまつねにいにしへぶりのしなたかきををしへさとしたまへれど性來せいらいのすきこゝろによのみゝちかくぞく今樣いまやう情態じやうたい
うもれ木:01 序 (旧字旧仮名) / 田辺竜子(著)
戦争の沙汰どころか、国中くにじゅう湿しめりにしめってつゆもしとどのありさまだった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
宝塚ホテルの帳場子は、帆村がそんな目に会っているとはつゆ知るまい。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
妻は自分の留守中にこうまで私の手配りが届いているとは、つゆいささかも気が付かなかったのであろう。コツコツといつものごとくかかとの高い靴で絨毯じゅうたんを踏んで、二階へ上って行く音が私の耳を打ってくる。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
その中で勝利を得たのが椎茸畑しいたけばたけの番人政十郎まさじゅうろうの娘おつゆであった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
うまし言葉ことば清酒きよみきつゆとしたみて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
つゆむ華の護符まもりきえましや。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あはれくみしれつゆたもつ身は
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)