つう)” の例文
其頃そのころ東京とうきやういへたゝむとき、ふところにしてかねは、ほとんど使つかたしてゐた。かれ福岡ふくをか生活せいくわつ前後ぜんごねんつうじて、中々なか/\苦鬪くとうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ときには北朝方へかんつうじたり、ときにはあいまいな中立的偽態にかくれて、生涯、自分の信ずる歩みをつらぬき通したからだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「波が高いから、漁夫りょうし達を集めて船をずっと陸の方へ引上げるんです。姉さんはそんなことも知らないんですか、つうぶってるくせに。」
月明 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
不肖ふしょうじゃございますが、この近江屋平吉おうみやへいきちも、小間物屋こそいたしておりますが、読本よみほんにかけちゃひとかどつうのつもりでございます。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
〔評〕官軍江戸をつ、關西諸侯兵を出して之に從ふ。是より先き尾藩びはん宗家そうけたすけんと欲する者ありて、ひそかに聲息せいそくを江戸につうず。
ればさはれば高慢かうまんしたたゞらしてヤレ沙翁シヱークスピーヤ造化ざうくわ一人子ひとりごであると胴羅魔声どらまごゑ振染ふりしぼ西鶴さいくわく九皐きうかうとんびトロヽをふとンだつうかし
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
けれども、北陸線ほくりくせんつうじなかつた時分じぶん舊道きうだう平家物語へいけものがたり太平記たいへいき太閤記たいかふきいたるまで、だたる荒地山あらちやまかへる虎杖坂いたどりざか中河内なかのかはちひうちたけ
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つうじると、田舎いなか者らしい小女こおんなの取次で、洋館の方の応接間へ案内されたが、そこには静子が、ただならぬ様子で待構えていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つうじけるに名主も駈來かけきた四邊あたり近所きんじよの者も追々おひ/\あつまり改め見れば何樣いかさま酒に醉倒ゑひたふ轉込まろびこみ死したるに相違さうゐなきていなりと評議一決し翌日よくじつ此趣このおもむきを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
聴衆のつうな人たちが休憩時間に廊下へ出て、その絢爛けんらんたる演奏に眩惑されたまま、つい激賞する気になったのも無理のないことである。
おまえにもいろいろ世話せわになりました……。』こころなかでそうおもっただけでしたが、それはかならずうまにもつうじたことであろうとかんがえられます。
草木さうもくおよ地上ちじやうしもまばたきしながらよこにさうしてなゝめけるとほ西にし山々やま/\ゆき一頻ひとしきりひかつた。すべてをつうじて褐色かつしよくひかりつゝまれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もし自分じぶん文字もんじつうじてゐたなら、ひとつ羊皮紙やうひしれて、それにしたゝめもしよう。さうして毎晩まいばんうんとうまものべてやる。
つうたつとでも言いましょうか、江戸始まって以来の奇才と評判される多忙多端たたんの源内先生が、明和七年正月十六日の朝ぼらけ
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
重要会議で伯爵が巴里パリに滞在中の出来事なんですが、どこの土地でも、どこそこつうと名のつく道楽者が一人や二人はいますわね。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
私だつて、絵はきらひではないし、いや、きらひどころか、かなりつうのつもりでゐたのだが、穂庵を知らなかつたとは、大失態であつた。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
書いてはすて、書いてはすて、博士はなんども書きなおして、やっと一つう手紙てがみをかきあげると、ふうをして、宛名あてなをしたためた。
「宗匠は、なんでもくわしいが、チト当社のつうでも並べて聞かしたら如何どうかの。そのうちには市助いちすけも、なにかさかなを見附けて参るであろうで……」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
また、母親ははおやは、こえ真心まごころつうじて、子供こども苦痛くつうがやわらげられるものなら、どんなにでもして、うたってやろうとおもいました。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
律が仏蘭西留学中のつうを振り廻して出した一九一〇年産のブルゴーニアを注いださかずきを手にして、その音楽に冷笑を送っていた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
ハンブルグは西洋に例の少ない公娼こうしょう制度の行わるる所である。ゆえに友人はその道につうなる人の案内でその制度をに行った。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
例之たとへば弟汝楩の子万年まんねんの女類は夭折の年月或は契合すべく、更に下つて万年の子くわん三の女つうとなると、明に未生みしやうの人物となる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして、つう氣取りで裏門から這入り、奧二階へあがると、番頭は階段ぎはの西洋間へ三人を入れた。疊の上に食卓一つしかない殺風景な室だ。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
辰巳たつみに遊ぶ通客は、潮来節の上手な船頭をえらんで贔屓ひいきにし、引付けの船宿を持たなければつうを誇ることができませんでした。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なんだって八つぁん、おめえゆめてるんじゃねえか。つめだの糠袋ぬかぶくろだの、とそんなことァ、おれにゃァてんでつうじねえよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
先刻さつきうつくしいひとわきせきつたが、言葉ことばつうじないことがわかつたところで、いま日本語にほんごのよくはなせるお転婆てんばさんらしいおんな入替いれかわつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
大いにつうをきかしたつもりで樋口ひぐちを遊ばしたからおもしろい、鷹見君のいわゆる、あれが勝手にされてみたのだろうが、鸚鵡まで持ちこまれて
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
注意ちういはらふ」だの「ちか將來しやうらい」などは、おかしいけれどもまだ意味いみかるが、めうつてまはつて、意味いみつうじないのは、まことにまる。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
次の間から勘弁勘次が柄になくつうめたい口をきいた。縁に立って、軒に下げたあおい懸崖けんがいをぼんやり眺めていた釘抜藤吉。
そして、見物人けんぶつにん自分じぶん隨意ずいいにぼたんをすときは、電氣仕掛でんきじかけにつうじて機械きかいうごし、見物人自身けんぶつにんじしん實驗じつけん自由じゆう出來できるようになつてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
いきがつたり、つうがつたりする趣味は全然無かつたし、女と見れば物にしないでは置かない人々の所業も、彼の内部にひそむ人道主義が許さなかつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
本来宣教師せんきょうしにして久しく函館はこだてり、ほぼ日本語にもつうじたるを以て仏公使館の訳官となりたるが、これまた政府にちかづきて利したることすくなからず。
「太郎さん、お前は何を那麽そんなにポケットに入れて置くの? 大変ふくらんでるじゃないか。宛然まるでつう懐中ふところのようだよ」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お徳にはおつうという妹がございまして、これも今年十七になりましたので、この正月から奉公に出ました。桂庵けいあんは外神田の相模屋という家でございます。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あいちやんはけて、それが鼠穴ねずみあなぐらゐちひさなみちつうじてることをり、ひざをついてまへたことのあるうつくしい花園はなぞのを、そのみちについてのぞみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
おもふに此山なかばより上は岩をほねとしてにくつちうす地脉ちみやく気をつうじて破隙われめをなすにや、天地妙々の奇工きこう思量はかりしるべからず。
昔は銀座四丁目の角から三十間堀の方へずらりと出たもので私はぶどう餅が大の好物でそれも亥之助のでないといけないなどとつうをふり廻したものである。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
ところが、ふと、いとこからは、もう一つう手紙てがみがきていることにがつきました。それをいそいでよんだ諭吉ゆきちかおには、のけがよみがえってきました。
一人、相当の年輩で釣りの名人であり、あらゆる森の知識のつうである男がいたが、彼はわたしの家を釣師の便宜のために立っている家だと思いこんでくれた。
つうな遊びは小格子こごうしってえますからね、大店おおみせは田舎者の遊ぶところだから、ばかな金をふんだくられるだけでさ、そこへいくと小格子はちょくで情があって——
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(以下、口合パンニング邦語はうご直譯ちょくやくしてはつうぜざれば、りて義譯ぎやくす。後段こうだんにもかるれいしば/\あるべし。)
それはともかくとして、このうたは、あなたがたがおみになつても、大體だいたいわかるほど、意味いみがよくつうじます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
うした言葉ことばつうじないつばめも、むられて、家々いへ/\のきをつくり、くちばしの黄色きいろ可愛かあい子供こどもそだてる時分じぶんには、大分だいぶ言葉ことばがわかるやうになりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
燻製つうの博士がこれまでに味わった百十九種の燻製のそのいずれにも属せず、つそのいずれもが足許あしもとにも及ばないほどの蠱惑的こわくてき味感みかんを与えたものであるから
股引ももひきすそから二、三寸はみ出させて、牛肉のすき焼きをたべるのだから残念ながらいきとかつうとかという方面からいえば、三もんの価値もないのであるが、といって
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
中津の旧藩にて、上下の士族が互に婚姻こんいんよしみつうぜざりしは、藩士社会の一大欠典にして、その弊害へいがいはほとんど人心の底に根拠して動かすべからざるもののごとし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
(一三)區區くくせいもつて、(一四)海濱かいひんり、(一五)くわつうざいみ、くにましへいつようし、(一六)ぞく好惡かうをおなじうすゆゑ(一七)其稱そのしよういはく、(一八)
葛籠つゞらの底に納めたりける一二枚いちにまいきぬうちかへして、浅黄あさぎちりめんの帯揚おびあげのうちより、五つう六通、数ふれば十二つうふみいだしてもとの座へもどれば、蘭燈らんとうのかげ少し暗きを
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仮に之を北里にたとえて見たら、京町一丁目も西河岸がしに近いはずれとでも言うべきものであろう。聞いたばかりの話だから、鳥渡ちょっとつうめかして此盛場の沿革を述べようか。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あたしは両棲りょうせい動物よ」と云うだけあってそう云うことには誰よりもつうであり、貞之助や井谷を相手に東京弁と大阪弁とのあざやかな使い分けをして見せるのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)