やうや)” の例文
わたくしやうやくほつとしたこころもちになつて、卷煙草まきたばこをつけながら、はじめものうまぶたをあげて、まへせきこしおろしてゐた小娘こむすめかほを一べつした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やうやつとそれを遣り過して、十間も行つてから思切つて向側に駆ける。先づ安心と思ふと胸には動悸が高い。して乗つた時の窮屈さ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
徳川氏以後世運のやうやく熟し来りたるを以て、こゝに漸く、多数の預言者を得て孚化ふかしたる彼等の思想は、漸く一種の趣味を発育し来れり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
寅五郎殺しの下手人は、——俺にやうやく判つたやうな氣がするよ。——俺は此處から引返す。お前は眞つ直ぐに目白へ行つて、松藏を
五つ六つ、七八なヽやつで母親を亡くした人を見ては、ひかるもああなるのではあるまいかと運命を恐れながらやうや十三歳じうさんに迄なるのを見ました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
にたゝへておたかくとはいひしぬ歳月としつきこゝろくばりし甲斐かひやうや此詞このことばにまづ安心あんしんとはおもふものゝ運平うんぺいなほも油斷ゆだんをなさず起居たちゐにつけて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あかつきころになつてやうやみづきたので、二人ふたりそのなかり、いま何處いづく目的めあてもなく、印度洋インドやう唯中たゞなかなみのまに/\漂流たゞよつてるのである。
あつちややうや内儀かみさんのまへまれた。被害者ひがいしや老父ぢいさん座敷ざしきすみ先刻さつきからこそ/\とはなしをしてる。さうしてさら老母ばあさんんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それからあとわたしうしたからなかつたんですが、其後そののちやうやいてると、おどろきましたね。蒙古もうこ這入はいつて漂浪うろついてゐるんです。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つばめうれしさうにとうさんを尻尾しつぽはね左右さいうふりながら、とほそらからやうやくこのやまなかいたといふはなしでもするらしいのでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
合はせんばかりにして、やうやくみんなをなだめました。しかし代官さまとれふしどもの仲は一向よくならないで、ますます悪くなりました。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
……なんとかや——いとんでさがして、やうやたけだいでめぐりひ、そこもはれて、三河島みかはしまげのびてゐるのだといふ。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つまあをざめた顔色かほいろやうやはなのためにやはらぎ出した。しかし、やがて、秋風あきかぜが立ち出した。はな々はを落す前に、そのはならすであらう。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
数多い墓のうちから、やうやく父の墓をさがし出してその前に立つた。墓は小さな石で、表面に姓名、裏に戦死した年月日ねんぐわつひと場所とが刻んであつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ソノはぎハナハダ白カリシカバたちまチニ染著せんぢやくノ心ヲ生ジテ即時ニ堕落シケリ、ソレヨリやうやク煙火ノ物ヲ食シテ鹿域ろくゐきなか立却たちかへレリ
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
得たれば久々ひさ/″\にて一ぱいのまふと或料理屋あるれうりや立入たちいり九郎兵衞惣内夫婦三人車座くるまざになりさしおさへ數刻すうこく酌交くみかはせしがやゝ戌刻過いつゝすぎやうやく此家を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もしやと聞着けし車の音はやうやちかづきて、ますますとどろきて、つひ我門わがかどとどまりぬ。宮は疑無うたがひなしと思ひて起たんとする時、客はいとひたる声して物言へり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
くさ邪魔じやまをして、却々なか/\にくい。それにあたらぬ。さむくてたまらぬ。蠻勇ばんゆうふるつてやうやあせおぼえたころに、玄子げんし石劒せきけん柄部へいぶした。
自分一人がやうやく食べてゆけるだけの貧乏人でありましたから、いくら一生懸命に働いても、さう沢山の犬を養ふことはとても出来ませんでした。
犬の八公 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
され共東天やうやく白く夜光全くり、清冷の水は俗界のちりを去り黛緑たいりよくの山はえみふくんて迎ふるを見れば、勇気いうき勃然ぼつぜん為めに過去の辛苦しんくを一そうせしむ。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
そして叔父からいろ/\をしへをけると同時に、いよ/\長さきかへるといふ時に、さん/″\母にせびつてやうやつてもらつたのが二円五十錢の
慶応三年の冬、此年頃醞醸うんぢやうせられてゐた世変がやうやく成熟の期に達して、徳川慶喜よしのぶ大政たいせいを奉還し、将軍の職を辞した。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
有難ありがたう、てると却々なか/\面白おもしろ舞踏ぶたうだわ』とつてあいちやんは、やうやくそれがんだのをうれしくおもひました、『わたし奇妙きめう胡粉ごふんうた大好だいすきよ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かくてやうや明日あすの朝薩摩富士の見ゆべしと云ふ海にきたさふらふ。これにて船中せんちゆうふでとどめ申しさふらふ。かしこ。(十月廿七日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かゞやかしかつたかれ文壇的運命ぶんだんてきうんめいが、やうやくかげりかけようとしてゐたところで、かれもちよつときづまつたかたちであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
皆天には霧の球、地には火山の弾子だんし、五合目にして一天の霧やうやれ、下によどめるもの、風なきにさかしまにがり、故郷を望んで帰りなむを私語さゞめく。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
えうするに、このごろにいたつて地震ぢしんおそろしさがやうやかつたので、かみまつつてそのいかりをかんとしたのであらう。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
路次の中には寄席よせもあつた。道がやうやく人一人行き違へるだけの狭さなので、寄席の木戸番の高く客を呼ぶ声は、通行人の鼓膜を突き破りさうであつた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
長男の竜一がやうやく小学校に上つたばかりであり、次の昌平は悪戯いたづら盛りで、晩年のお産のためか軍治は発育が悪く、無事に育てばよいがと思はれる程だつた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
やうや雪解ゆきどけがすんだばかりなので、ところどころでちよろ/\小流こながれが出来てゐた。掘返へしても掘返へしても、かなり下の方まで土がぢく/\ぬれれてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
私は彼れとの会話がさう容易には融合の中心へと這入はいつては行かないらしい事を、私は彼れの様子によつてやうやく察したので、自分の聞きたい話も要求せず
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
五郎兵衛ゴロベイどんもやうやく気がついたと見えて、「さうだつけ、モウちつとで忘れるとこだつけ」といふ様な訳さネ。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
進んで和文世に出でゝ言語と文章のやうやく親密にちかづきし事情を叙する所、鋭敏なる観察力は火の如く耀かゞやけり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
一秒間いちびようかん四五回しごかい往復振動おうふくしんどうになつてやうや急激きゆうげき地動ちどうとしてわれ/\の身體しんたいにはつきりとかんずるようになる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
彼の狂暴ないら立たしい心持は、この家へ移つて来て後は、やうやく、彼から去つたやうであつた。さうして秋近くなつた今日では、彼の気分もおのづから平静であつた。
私は疲れた足をひいてやうやく自分の家へ辿りついた。床をのべてそして静かに身を横へた。私はひて思ふまい、また強ひて祈るまい、私の感謝の道は別にあらう。
愛は、力は土より (新字旧仮名) / 中沢臨川(著)
武士はやうやく実力がありながら官位低く、屈して伸び得ず、藤原氏以外の者はたまたま菅公が暫時栄進された事はあつても遂に左遷を免れないで筑紫つくしこうぜられた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
定跡ぢやうせきの研究が進み、花田・金子たちは近代将棋といふ新しい将棋の型をほぼ完成した。さうして、棋界がやうやにぎはつたところへ、関根名人が名人位引退を宣言した。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
資本の奴隷どもは、やうやく真人間の仲間入をしようとする権利を得ながら、半途にしてこの宗教といふ下等な火酒くわしゆの中に溺没できぼつしてしまふのである。とさへののしつてゐる。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
つぎの第一義的効果は、死霊退散にあつたのだから、後やうやく、つぎ自身呪文の様な威力を持つて来た。
そうしてさらに「およそ斯くの如きは、山の手に至りては特に甚だしく、下町もまたやうやく浸蝕せられ、たゞ浅草区のみは、比較的にかゝる田舎漢に征服せらるゝの少きをみる」
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
一同瞑目めいもくせり、拱手きようしゆせり、沈思せり、疑団の雲霧はやうやく彼等の心胸しんきように往来しめけるなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
如上うへのごとき文人の作なほいまだ西欧の評壇に於ても今日の声誉せいよを博する事あたはざりしが、爾来じらい世運の転移と共に清新の詩文を解する者、やうやく数を増し勢を加へ、マアテルリンクの如きは
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
転子かるこ長棹ながさをつてたりして突出つきだすと、また桟橋さんばしもどつてる、いく突放つツぱなしてももどつてるから、そんなこつてはいけないとふので、三人掛にんかゝつてやうや突出つきだしたところが
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
明治めいぢ三十七ねん戰爭せんさうおこるや、又一またいち召集せうしふせられ、ゆゑかはりてこのきた留守るす監督かんとくすることとなれり。わが牧塲ぼくぢやう事業じげふやうやそのちよきしものにて、創業さうげふ困難こんなんくはふるに交通かうつう不便ふべんあり。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
と犬の小便の眞似をするかと思ふと疊の上に長く垂らしたふんどしの端をやうやく齒の生え始めた、ユウ子さんにつかまらしてお山上りを踊り乍ら、K君々々と私を見て、……君は聞いたか、寒山子
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
北の方初めの程は兎角のおんいらへもなく打沈みておはせしが、度々の御尋ねにやうやく面を上げ給而たまいて、さんざふらふわらはが父祖の家は逆臣がために亡ぼされ、唯一人の兄さへ行衛も不知しらずなり侍りしに
そのゲイ爺さんは百一歳の時、十六人目の女房かないに亡くなられて、こつそり十七人目の後添のちぞひを貰はうとしたが、親類縁者の者に留立とめだてされて、ぶつ/\ぼやきながらやうやく思ひとまつたといふ事だ。
明治座の舞台稽古は、衣裳やかつらの都合で、ひどく遅くなつたのです。私は其の間、早く稽古を済して、帰りたいと思つてゐました。それでやうやく稽古が済んだのは、もう五日の午前二時頃でした。
忘れ難きことども (新字旧仮名) / 松井須磨子(著)
日光につくわうやはらかにみちびかれ、ながれた。そのひかりやうや蒲團ふとんはしだけにれるのをると、わたしかゞんでその寢床ねどこ日光につくわう眞中まなかくやうにいた。それだけの運動うんどうで、わたしいきははづみ、ほゝがのぼつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)