とま)” の例文
それで、その山へ登るつもりで嘉義かぎという町へ行ったのだが、嘉義で無駄むだに二日とまって、朝の五時半ごろに汽車でその町を出発した。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
「ねえ、」とおかあさんがった。「あの田舎いなかきましたの、ミュッテンの大伯父おおおじさんのとこへ、しばらとまってるんですって。」
さうして座敷ざしきすみ瞽女ごぜかはつて三味線さみせんふくろをすつときおろしたとき巫女くちよせ荷物にもつはこ脊負しよつて自分じぶんとまつた宿やどかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
徐々そろ/\ぬぎかけ座敷へ上らんとするに下男の彌助心のうち彌々いよ/\迷惑めいわくに思ひきやつに何とか云て何れにもとまらぬやう追出して仕廻しまはんともじ/\手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むらさめ吹通ふきとほしたかぜに、大火鉢おほひばち貝殼灰かひがらばひ——これは大降おほぶりのあとの昨夜さくやとまりに、なんとなくさみしかつた——それがざかりにもさむかつた。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三三 白望しろみの山に行きてとまれば、深夜にあたりの薄明うすあかるくなることあり。秋のころきのこを採りに行き山中に宿する者、よくこの事に逢う。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そしてその爲めの支度が、困難ではあるが出來なくはないと分つたので、私は彼女にとまりたいと云つた。丁度その時客間の呼鈴ベルが鳴つた。
汽車の中で小倉の宿は満員らしいと聴いたので、別府べっぷの温泉宿にとまり、そこから毎朝一番の汽車で小倉通いをすることにした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
もう宿の善悪よしあしえらぶにいとまなく、ただ泊めて呉れさえすれば宜しいとうので無暗むやみ歩行あるいて、どうこうか二晩とまって三日目に小倉に着きました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これから半町ばかり跡へけえると寮が有りやすが、其の寮へ往っておとまんなんしよ、ばアさまが一人居て、困る人はみな其処そけえ往って泊りやんすよ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今夜はね、根岸ねぎしさとへ行って来るって胡魔化ごまかして来たのよ。私だって、たまにはゆっくりとまって見たいもの。——大丈夫よ。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
商売に来たのも、見物に来たのも、とまり客は大抵たいてい外出してしまう。下宿しているつとにんたちも勿論午後までは帰って来ない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『このうちとまれるかね。疲れちまつて、暗いところを歩くのもいやだから、今夜泊つて、明日あしたの一番で歸へらうと思ふんだが、うだらうね。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
だが、どうせ歩く道はひとつなので、その晩は須原の駅にとまりをとって、同じ部屋にくつろぐと、晩酌ばんしゃくの話にまた源内流の旅行要心談がでる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうさんもその書院しよゐんましたが、曾祖母ひいおばあさんがひとりでさびしいといふときにははなれの隱居部屋ゐんきよべやへもとまりにくことがりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
夜遅く下関へ着いて、駅前の名もない宿へとまる。すぐ前は、何とかホテルという大きい洋館だった。暗い電燈でんとうの下で、教室の連中へ葉書を書く。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それでぼうさんも、かけによらないこれはいいうちとまり合わせたと、すっかり安心あんしんして、くりかえしくりかえしおばあさんにおれいをいっていました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そして踊りまってがら家されで来ておれ実家じっかさ行ってとまって来るがらうなこっちで泣いてたのんでみなよ。おれの妹だって云えばいいがらよ。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人ふたり少年せうねんとまつたいへは、隣村りんそんにもだたる豪家がうかであつた。もんのわきにはおほきなひいらぎが、あをそらにそヽりたつてゐた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
一首の意は、今、参河の安礼あれさきのところをぎめぐって行った、あの舟棚ふなたなの無い小さい舟は、いったい何処にとまるのか知らん、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
これをとまり山といふ。(山にとまりゐて㕝をなすゆゑ也)さて夏秋にいたればつみおきたるたきゞかわくゆゑ、牛馬ぎうばつかひてたきゞを家にはこびて用にあつる也。
そして気味わるく物凄ものすごい顔をした、雲助のような男たちにおびやかされたり、黒塚くろづか一軒家いっけんやのような家にとまって、白髪しらがおそろしい老婆ろうばにらまれたりした。
若園君とまる。私は一夜ねむり得ず、若園君又ねつかれざるものの如し。深夜に至るも全く暑熱が衰えざるためである。
「喜八郎と入れかはつたのだよ、喜八郎は百人町の百兵衞のところにとまつて、俺は此處へ戻つて來たまでのこと、喜八郎の聲色こわいろを使ふのに骨を折つたぞ」
一体疳性かんしょうだから夜具やぐ蒲団ふとんなどは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。小供の時から、友達のうちへとまった事はほとんどないくらいだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それはさてき、みことはそのさい二晩ふたばんほどおとまりになって、そのままおかえりになられましたが、やがてみかどのお裁可ゆるしあおぎてふたた安芸あきくににおくだあそばされ
その頃、東国から大番(京都守衛の役)のために上京する武士達が、日高い頃に、かいづにとまった。そして、乗って来た馬どものあしを、湖水で冷していた。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼は千葉にとまって、翌朝房総線の一番に乗った。停車場に下りると、お馨さんの兄さんが待って居た。兄さんは赤い紙に書いた葛城から来た電文を見せた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
りくはうると、いつしかふねみなと目近まぢかすゝんで、桑港さうかう町々まち/\はついはなさきえる。我等われらとまるべきフェアモント・ホテルはたかをかうへつてる。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
折角せつかく着込きごんでつた探檢服たんけんふくに、すこしもどろけずしてたくへと引揚ひきあげた。大學連中だいがくれんぢうみなとまみである。
二人づれの労働者のような酔っぱらいをやり過して、歩こうとして右側を見ると赤いにじんだような行燈あんどんが眼にいた。それは昔とまったことのある旅館であった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
自分のとまつて居る家には主婦の外に三四人も若い女が居るが、お天気のい日の朝などは皆庭へ出て附髷つけまげを膝に載せて結ひ替へて居る事なども目に附いて来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
パレスといふ小岩こいはあそしづめてゐたころ折々をり/\とまりにきやくなので、調子てうしもおのづからこゝろやすく
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
あしられて幽靈ゆうれいならぬのすきよりいづこともなるまじとて今宵こよひ此處こゝとまこととなりぬ、雨戸あまどとざおと一しきりにぎはしく、のちにはきもる燈火ともしびのかげもえて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今夜は、私の所におとまよ。明日になったら、印度の小父さんの所へ伴れて行くつもり。私はお前を
一三八さるから消息をしり侍らねど、など今まできては侍らじ。今夜こよひの御とまりに、一三九かの菩提ぼだいをとぶらひ給へ。誰も一四〇随縁ずゐえんしたてまつらんといふ。禅師いふ。
この小女力者、大女力者を試すのに、はまぐり五十斛を捕つて、船にせてゆき、少川のまちとまつた。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ずっと前のある夜、私は友の家の離れの茶室ちゃしつとまりました。私は夜中にふと目をさましました。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
普通の女にとってたゞ男がとまるということでも、それは只事ただごとではなかったのであろう。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
漸く帰りかけると、もう遅いからとまっていらっしゃいと保子が云った。いや帰りますと彼は答えた。そんなら幾日に来て頂戴と保子は云った。その日に障子を張りかえるのだった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
天皇てんのうは、神樣かみさまでいらつしやる。それでこの普通ふつうならば、そらくもなかつてゐるかみなり、そのかみなりであるところのやまうへに、小屋こやがけをして、おとまりになつてゐることよ。えらい御威勢ごいせいだ。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
知縣ちけん官舍くわんしややすんで、馳走ちそうになりつゝいてると、こゝから國清寺こくせいじまでは、爪先上つまさきあがりのみちまた六十ある。くまでにはりさうである。そこでりよ知縣ちけん官舍くわんしやとまることにした。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼女かのじょはデムート館というホテルにとまっていたのである。むかしの思い出が、わたしの胸の中でうごめき始めた。……わたしは、あくる日すぐにも、かつての『想いびとパッシア』を訪ねようと心にちかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
めずらしかとじゃろな、二三日とまって見たらどうかな」
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
とまところよや
横浜市歌 (新字新仮名) / 森林太郎(著)
とまりし宿屋の
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
武生たけふ富藏とみざう受合うはあひました、なんにしろおとまんなすつて、今夜こんや樣子やうす御覽ごらうじまし。ゆきむかまぬかが勝負しようぶでござります。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今度こんどお客がとまつたら茗荷めうがはせよう、さうしたら無闇むやみに物を忘れてくだらう、ナニ此方こつち泥坊どろばうたのぢやアないからつみにはならねえや。
(和)茗荷 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
あからめイヱ/\五ヶねん前私し在所ざいしよ柏原の宿へ一夜とまりたれども其節そのせつ父銀五郎病中にて私しは十二さい一夜の旅宿はたごいかで然樣さやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ええ、なんですか、たいへんきたがって、わたしに、六週間しゅうかんだけ、とまりにやってくれッていますの。先方むこうけばきっと大切だいじにされますよ。」