)” の例文
小さくはあるが、奥深く澄み切った眼で、じっと顔を見られると、周平はを失ってしまった。仕方なしに眼を伏せて、頭を掻いた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ラプンツェルは、まだ一も、おとこというものをたことがなかったので、いま王子おうじはいってたのをると、はじめは大変たいへんおどろきました。
かたつかんで、ぐいとった。そので、かおさかさにでた八五ろうは、もう一おびって、藤吉とうきち枝折戸しおりどうちきずりんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
女の子はいかにもつらそうにを大きくして、も一こっちをふりかえって、それからあとはもうだまって出て行ってしまいました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼女はを過した酒のために平素のつゝましさを取り失って、そんなことを云う言葉の調子がまるでおきゃんなお転婆娘のようであった。
「一ならず、二不思議ふしぎたせてらせたに……」ばあさんのこゑついひゞいた。勘次かんじもおつぎもたゞ凝然ぢつとしてるのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
世間せけんに、そのこえたほどの大金持おおがねもちでありましたから、いい医者いしゃという医者いしゃは、いずれも一んで、みてもらいました。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
写真班しやしんはん英雄えいゆうは、すなはちこの三岐みつまたで一自動車じどうしや飛下とびおりて、林間りんかんてふ逍遥せうえうする博士はかせむかふるために、せて後戻あともどりをしたところである。——
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天竺てんじくでも、シナでも、一山かにかくれればもうだれもいかけてものはなかったのですが、こんどはそういきませんでした。
殺生石 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いもうとも一げだしたんですけれど、やつぱりつかまつてしまひました。ちやうど大森おほもり鉱泉宿くわうせんやどへつれられてつたときのことでした。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
それでびっくりしてかおげ、もう一そのおかしな常談じょうだんをいってやろうとした。すると、ゴットフリートのかおが目の前にあった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ものうさのをある所まで通り越して、動かなければさびしいが、動くとなお淋しいので、我慢して、じっと辛抱しているように見えた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すべからざるはウスノロ改めマドロス氏で、今以ていぎたない酔睡よいねから覚めやらず、長椅子にフンゾリ返った無遠慮千万の行状です。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
婆さんの前では小娘の様にうれさう顔附かほつきをして物言ものいひも甘えたやうな調子である。そして一日に幾となく額や手に接吻を交換して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
『もうないから、萬望どうぞはなして頂戴ちやうだいな』とあいちやんは謙遜けんそんして、『二くちれないわ。屹度きつとそんな井戸ゐどひとくらゐあつてよ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
その度を通り過ぎると今度は本当にしんから軟くなって味が出るのです。丁寧ていねいにすると何でもその軟くなるまで煮なければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
けんこっちへ来てテントの張ってある五、六軒の家を眺め、どうも縁なき衆生しゅじょうし難しと釈迦牟尼如来しゃかむににょらいがおっしゃってござるが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
、三このいのりをりかえしてうちに、わたくしむねには年来ねんらいみこと御情思おんなさけがこみあげて、わたくし両眼りょうがんからはなみだたきのようにあふれました。
その面を魯粛は「がたき大将」とさげすむように睨みつけていた。そのらんたる白眼はくがんにも刻々と生暖かい風はつよく吹きつのってくる。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マアこんな意味合いみあいもあって、骨董は誠に貴ぶべし、骨董好きになるのはむしろ誇るべし、骨董を捻くるにも至らぬ人間は犬猫牛豚同様
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一「セカンド」は大抵たいていみやく一動いちどうおなじ。さて時計とけい盤面ばんめんを十二にわかち、短針たんしん一晝夜いつちうやに二づゝまはり、長針ちやうしんは二十四づゝまは仕掛しかけにせり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
ところが花前はなまえ評判ひょうばんは、若衆わかしゅうのほうからも台所だいどころのほうからもさかんにおこった。花前は、いままでに一もふたりの朋輩ほうばいと口をきかない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼等は咄嗟とっさに二組に分れて、一方はこの男を囲むが早いか、一方は不慮の出来事にを失った素戔嗚へ、紛々とこぶしを加えに来た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勿論もちろん今日こんにちおいても潜水器せんすいき發明はつめいいま充分じゆうぶん完全くわんぜんにはすゝんでらぬから、この手段しゆだんとて絶對的ぜつたいてき應用おうようすること出來できぬのはまでもない。
返事へんじいから二けましたがそれでも返事へんじいからじゆくではどうなつたことかと非常ひじやう心配しんぱいして責任せきにんつたものは一ねむらなかつたくらゐ
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
もしもし、つばめさん、おまへさんは一ねんに一づゝ、このむらるではありませんか。とほくにはうつてて、日本にほん言葉ことばわすれたのですか。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ちやうど桃の実のれる頃で、果物好きな乙羽は、汽車の窓から桃の実をしこたまひ込むで、次ぎから次ぎへともなく貪り食つた。
汗は止めなく流れて、皆ゆだったような顔をしている。喉は渇くが水がない。矢川の部落まで行くと漸く谷川が流れていた。
臼木は老眼鏡のもあまり強くならない中、紙幣を数える指先もまだたしかである中、将来家族の困らぬだけの恒産をつくって置かねばならない。
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある日、私はつまと二人で郊外かうぐわいへ家を見付みつけに出て行つた。おな見付みつけるからには、まだ一も行つたことのない方面はうめんが良いといふ相談さうだんになつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
最初さいしよ此地このち探檢たんけんしたのは、三十五ねんの十二ぐわつ二十六にちであつた。それからほとん毎週まいしうは、表面採集ひやうめんさいしふかよつてた。
時間の都合で、博士が飯を食はずに出て行くことがあると、母君は數日間悔むのである。さういふわけで、今朝けさも湯の小言を言つたのである。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
欧州人と日本人と、果して如何いかなるにまで、思想、感情の相違があるか。政治的能力、道徳的能力の上に相違があるか。
列強環視の中心に在る日本 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
般若の哲学 これから申し上げるところは、「観自在菩薩かんじざいぼさつじん般若波羅蜜多をぎょうずる時、五うんは皆空なりと照見しょうけんして、一切の苦厄くやくしたもう」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
阿房たわけものめが。いわ。今この世のいとまを取らせる事じゃから、たった一本当の生活というものをとうとばねばならぬ事を、其方そちに教えて遣わそう。
まわれ/\水車みづぐるま小音こおんうたす、美登利みどり衆人おほく細螺きしやごあつめて、さあう一はじめからと、これはかほをもあからめざりき。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とめがないほどつづき、大きなそのくしゃみは畑にいる時は谷を越えて家々にまで響いてきて村の人たちの笑いを誘い
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
駒込の安泊やすどまりに居るってえんで、何だか目が潰れてしまって、本郷の切通きりどおしを下りるにも三とか四たびとか転んだが、下へ転がり切らなけりゃア
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なんでも、ものというものは、一もまだつたことがない、この金魚きんぎょがはじめてものだなんていいましてね。わたしは、これじやいけない。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
博士はくしまどをしめ、もう一つくえのまえにすわった。一時間ほどたったとき、玄関げんかんのベルがはげしくなった。応対おうたいにでていくお手伝いの足音がした。
『西洋事情』初篇三巻がこの『唐人往来』と同時代に——文久帰朝後起稿されたものであることは高橋誠一郎たかはしせいいちろう氏の考証(『福沢先生伝』)がある。
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「そりゃ君の説は勘定かんじょうが少し違うぜ、地球の曲線カーブは一マイルについていくらいくらだぜ。君の先の例に取ったなんマイル以上にある船の帆柱ほばしら云々うんぬん
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一度乾いていた涙が、またもなく流れる。しかし、それはもう悲しみの涙ではなくて、永久に魂に喰い入る、淋しい淋しいあきらめの涙である。
秋の歌 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
びんやら、行李こうりやら、支那鞄しなかばんやらが足のも無い程に散らばっていて、塵埃ほこりの香がおびただしく鼻をく中に、芳子は眼を泣腫なきはらして荷物の整理を為ていた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
なく飛び降りつづけるのである。ちょっと油断すれば先行者の姿は草か倒木の下に隠れて見失うのである。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
三十八年のはるに一家が東けううつるやうになつてから、やがて二目に買つてもらつたのが、前のにちよつとのは※たくらゐの五円ばかりの箱形寫眞器はこかたしやしんき
ただ二ヶげつに一だけ、理髪師とこやのセミョン、ラザリチばかりここへる、そのおとこはいつもってニコニコしながらってて、ニキタに手伝てつだわせてかみ
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
火星くわせいにも北極ほつきよくのやうなさむいところがある。『極冠きよくくわん』とんでる。まんなかのは火星くわせいにのぼつたつきだ。火星くわせいさむいところは零下れいか四十から零下れいか七十さむさだ。
がふほどをりやうとした但馬守たじまのかみは、めづらしく二三銚子てうしへたが、一かうふといふことをらなかつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わづかに其地をれば味ひならず、その味ひ美なるものは北海より長江ちやうかうさかのぼりて困苦こんくしたるのにあたれるゆゑならん。うを急浪きふらう困苦くるしめば味ひかならず甘美うまきもの也。