かつ)” の例文
はらはらとその壇のもとに、振袖、詰袖、揃って手をつく。階子の上より、まず水色のきぬつまもすそを引く。すぐにみのかつぎたる姿見ゆ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤い毛布ケットかつぎ、「カリメラ」の銅鍋どうなべや青いほのおを考えながら雪の高原を歩いていたこどもと、「雪婆ゆきばンゴ」や雪狼ゆきオイノ雪童子ゆきわらすとのものがたり。
見送ってから官兵衛は、持宝院じほういんへ上がって行った。そして秀吉の昨夜の室をうかがうと、秀吉はふすまかつがず手枕で眠っていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝髪を洗つたと見えて、智恵子は房々した長い髪を、束ねもせず、緑の雲をかついだ様に、肩から背に豊かになびかせた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
赤沢に至るまでみんな処女の森を作っている、最も幾抱えもあるような大木は見えなかったが、水をわたって森に入ると、樅の皮は白いこけの衣をかついでいる
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
先刻さつきまで改札の柵の傍に置いてあつた写真器は裏側の出札口の前に移されて、フロツクコートの男が相変らず黒いきれかついだり、レンズをのぞいたりして居る。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かの人のねやとおぼしいあたりへようやい寄ることが出来たが、こゝらであろうと見当を付けてまさぐると、きぬを引きかついで横に長くしている姿が手に触った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
形塩尻のごとき浮岳は勃崒ぼつそつとして指顧のあひだに聳ゆ——雲をかつぎて眠れるがごときもの漸く醒め来れば半面の微紅は万畳の波に映じ、朝霧のはれわたるままに
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
先づ衣桁いこうに在りける褞袍どてらかつぎ、夕冷ゆふびえの火もこひしく引寄せてたばこふかしゐれば、天地しづか石走いはばしる水の響、こずゑを渡る風の声、颯々淙々さつさつそうそうと鳴りて、幽なること太古の如し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
或る者は真黒な喪服をすっぽりとかついで、悄然と力ない歩調あしどりをしているかと思うと、一方には華やかに着かざって、饒舌おしゃべりをしたり高笑いをしたりしながらやって来る者もある。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
われはこの観念を以て我文学を愛す。富嶽を以て女性の山とせば、我文学も恐らく女性文学なるべし。雪の衣をかつぎ、白雲の頭巾づきんを冠りたる恒久の佳人、われはその玉容をたのしむ。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
夕ぐれにフルヰアの媼歸りて、われに一裹ひとつゝみ文書もんじよ遞與わたして云ふやう。山々は濕衾ぬれぶすまかつきたるぞ。巣立するには、好き折なり。往方ゆくては遙なるに、禿げたる巖のおもてには麪包パンの木生ふることなし。
私は思はず眼を見開いてその方を見遣つたが、油のやうな闇で何にもわからぬ。と、やがて疊の音がする。此方へ來るのかなと想ふと私は一時にかつと逆上のぼせて吾知らず枕を外して布團をかついだ。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
頭より打かつぎて、夜もすがら悲憤哀歎の声を漏らしぬ。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
蒲団を引っかついで二日も三日も家に寝ていたりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かろくかつぎて、——母ぎみの
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
薄絹うすぎぬかつぐ眉にせむ
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
……加うるに、紫玉がかついだ装束は、貴重なる宝物ほうもつであるから、驚破すわと言わばさし掛けて濡らすまいための、鎌倉殿の内意であった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「笠をかつぎ、みのなど携えている村人の老幼男女があれに見える。後に、褒美をつかわすゆえ、渡せと申して、笠や蓑をある限り集めて来い」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
澄み切つた鋼鐵色の天蓋をかついで、寂然と靜まりかへつた夜の盛岡の街を、唯一人犬の如く彷徨うろつく樂みは、其昔、自分の夜毎に繰返すところであつた。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
貴族院議員の愛娘まなむすめとて、最も不器量ふきりようきはめて遺憾いかんなしと見えたるが、最も綺羅きらを飾りて、その起肩いかりがた紋御召もんおめし三枚襲さんまいがさねかつぎて、帯は紫根しこん七糸しちん百合ゆり折枝をりえだ縒金よりきん盛上もりあげにしたる
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かつぐはしたる蜜の音
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
玉藻かつぎて美人たをはめ
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
……加ふるに、紫玉がかついだ装束は、貴重なる宝物ほうもつであるから、驚破すわと言はばさし掛けてらすまいための、鎌倉殿の内意ないいであつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
家康は、最前の広間へもどって、一杯の冷酒をのみほすと、そのまま身を横たえて、侍女のかけるふすまをひきかつぐなり、いびきをかいて眠ってしまった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちらほらここからも小さく見えますね、あの岸の松も、白いみのかついで、渡っておいでの欄干は、それこそ青くこおって瑪瑙めのうのようです。
時には、借る宿もなく、木蔭に油単ゆたんを敷いて、更着かえぎかついでしのぐ晩もあり、木賃きちん屋根やねの穴に星を見つつ臥す晩もあるが、寺院は最良な旅籠はたごだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うなじてたとまふなばた白銀しろがねに、珊瑚さんごそでるゝときふねはたゞゆきかついだ翡翠ひすゐとなつて、しろみづうみうへぶであらう。氷柱つらゝあし水晶すゐしやうに——
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして、渋紙の蒲団ふとんを引きかつごうとすると、その下から、なにか電光のような眼をした生き物が飛びだし、自分の頭を越えたので、彼女は、きゃっといって俯伏うっぷした。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一旦いったん出て、浜へ上って、寝た獅子の肩のところへしゃがんでいたが、対手あいて起返おきかえると、濡れた身体からだに、かしらだけ取って獅子をかついだ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
流れる水のすがたにも似ている今の境遇を、矢矧川やはぎがわの柳の蔭に寄せて、くさとまかついで一夜を舟に過していたその男は、中村の家を出たきり、便りも知れなかった日吉であった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ツィ——と寂しそうに鳴いて、目白鳥めじろただ一羽、雪をかついで、くれないに咲いた一輪、寒椿かんつばきの花に来て、ちらちらと羽も尾も白くしながら枝をくぐった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小屋のわき手に積んである兵糧ひょうろうだの陣具だの濡らしてならない品を囲んである中に、紺糸縅こんいとおどしのよろいに、黒革の具足をつけた武士が、幕を引っかついで眠っていたが、むっくりと起きあがって
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はるかに見える高山の、かげって桔梗色ききょういろしたのが、すっと雪をかついでいるにつけても。で、そこへまず荷をおろしました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
じっると、水底みなそこに澄ました蛙は、黒いほどに、一束ねにしてかついでいます。処々に、まだこんなに、蝌蚪おたまじゃくしがと思うのは、みんな、ほぐれた女のかみのけで。……
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胸の隅々くまぐまに、まだその白いはだ消々きえぎえに、うっすらと雪をかついで残りながら、細々と枝を組んで、肋骨あばらぼねが透いて見えた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの中島なかじまは、むらがつたはなゆきかついでるのです。きしに、はなかげうつところは、松葉まつばながれるやうに、ちら/\とみづれます。小魚こうをおよぐのでせう。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
高嶺たかねはるかに雪をかついで、連山の波の寂然と静まった中へ、島田髷しまだに、すすきか、白菊か、ひらひらとかんざしをさした振袖の女が丈立ちよくすらりとあらわれた、と言うと
時彦ははじめのごとく顔の半ばに夜具をかつぎ、仰向あおむけに寝て天井を眺めたるまま、此方こなたを見向かんともなさずして、いともしずかに、ひややかに、着物の袖も動かさざりき。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
銑吉が立停たちどまったのは、花の莟を、蓑毛みのけかついだ、舞の烏帽子えぼしのようにかざして、葉の裏すく水の影に、白鷺が一羽、婀娜あだに、すっきりと羽を休めていたからである。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて、若葉わかば青葉あをばくもいろ/\の山々やま/\ゆきかついだ吾妻嶽あづまだけ見渡みわたして、一路いちろながく、しか凸凹でこぼこ、ぐら/\とする温泉みちを、親仁おやぢくのだから、途中みちすがら面白おもしろい。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みちでも、むらけて、やぶまへなどとほをりは、兩側りやうがはからたふして、たけも三じやくゆきかついで、あるひは五けんあるひは十けんあたか眞綿まわた隧道トンネルのやうであつたを、はらかさはら
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
楕圓形だゑんけいは、羽状複葉うじやうふくえふふのが眞蒼まつさをうへから可愛かはいはなをはら/\とつゝんで、さぎみどりなすみのかついで、たゝずみつゝ、さつひらいて、雙方さうはうからつばさかはした、比翼連理ひよくれんり風情ふぜいがある。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はげて、くすんだ、泥絵具で一刷毛ひとはけなすりつけた、波の線が太いから、海をかついだには違いない。……鮹かと思うと脚が見えぬ、かれい比目魚ひらめには、どんよりと色が赤い。赤鱏あかえいだ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この会場にるものは、位ある有髯ゆうぜん男子も脱帽して恭敬の意を表せざるべからざるに、かれは何者、肩掛ショオルかつぎ、頭巾目深に面を包みて、顔容かおかたちは見えざれども、目はひややかに人を射て
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右手に大溝おおどぶがあって、雪をかついで小家こいえが並んで、そして三階づくりの大建物の裏と見えて、ぼんやりあかりのついてるのが見えてね、刎橋はねばしが幾つも幾つも、まるでの花おどしよろいの袖を、こう
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なかほどともなく、上面うわつらともなく、一条ひとすじ、流れの薄衣うすぎぬかついで、ふらふら、ふらふら、……はすに伸びて流るるかと思えば、むっくり真直にを立てる、と見ると横になって、すいと通る。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒雲くろくもかついだごとく、うし上口あがりくちれたのをあふいで、うへだんうへだんと、両手りやうてさきけながら、あはたゞしく駆上かけあがつた。……つきくらかつた、矢間やざまそともり下闇したやみこけちてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おなたかさにいたゞきならべて、遠近をちこちみねが、東雲しのゝめうごきはじめるかすみうへたゞよつて、水紅色ときいろ薄紫うすむらさき相累あひかさなり、浅黄あさぎ紺青こんじやう対向むかひあふ、かすかなかゆきかついで、明星みやうじやう余波なごりごと晃々きら/\かゞやくのがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
背後うしろかこつた、若草わかくさ薄紫うすむらさき山懐やまふところに、黄金こがねあみさつげた、ひかり赫耀かくやくとしてかゞやくが、ひとるほどではなく、太陽たいやうときに、かすかとほ連山れんざんゆきかついだ白蓮びやくれんしべごとくにえた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)