戸口とぐち)” の例文
あるのこと、戸口とぐちからりながらはいってきたいぬがあります。なんのなしに、そのいぬますと、正雄まさおおどろいてこえをあげました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて、事のなりゆきがわかりますと、おかあさんのところへあるいていって、すそをくわえて、戸口とぐちに引っぱっていきました。
代助のひにた平岡も其戸口とぐちからあらはれた。先達て夏服なつふくて、相変らず奇麗なカラとカフスをけてゐた。いそがしさうに
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
勘次かんじわざ卯平うへいせつけるやうとやいたときとりかごせて、戸口とぐち庭葢にはぶたうへに三も四いたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鈍痴漢とんちんかんの、薄鈍うすのろ奴等やつらくすり絲瓜へちまるものか、馬鹿ばかな、輕擧かるはずみな!』ハヾトフと郵便局長いうびんきよくちやうとは、權幕けんまく辟易へきえきして戸口とぐちはう狼狽まご/\く。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
『——それ、あたまねとばせ』と女王樣ぢよわうさま一人ひとり廷丁てい/\まをされました、が帽子屋ばうしや姿すがたは、廷丁てい/\戸口とぐちまでかないうちえなくなりました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、大声でいいながら、戸口とぐちでぶるぶるっと雪をはらって、時計屋とけいやのテッディ・ヘンフリイがさむそうにはいってきた。
女房にようばうは、幾度いくど戸口とぐちつた。路地ろぢを、行願寺ぎやうぐわんじもんそとまでもて、とほり前後ぜんごみまはした。人通ひとどほりも、もうなくなる。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そうしづかにはちのこつたみづゆかかたむけた。そして「そんならこれでおいとまをいたします」とふやいなや、くるりとりよ背中せなかけて、戸口とぐちはうあるした。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
というのは、廊下へ通ずる戸口とぐちの蔭に、ミチ子と、それから何ということだろう、友江田先生とが、ピッタリって深刻な面持おももちで密談をしていたではないか。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
潜門くぐりもんの板屋根にはせた柳がからくも若芽の緑をつけた枝をたらしている。冬の昼過ぎひそかに米八よねはちが病気の丹次郎たんじろうをおとずれたのもかかる佗住居わびずまい戸口とぐちであったろう。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
次の日にも信者たちの戸口とぐちの十字架を画いた貼り紙をはぎ取って廻るというようなことをやった。それらに対しては信者たちは、領主の指示に従い、無抵抗の態度を取った。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
踏分々々ふみわけ/\彼お三婆のかたいたりぬ今日はけしからぬ大雪にて戸口とぐちへも出られずさぞ寒からんと存じ師匠樣ししやうさまよりもらひし酒を寒凌さぶさしのぎにもと少しなれど持來もちきたりしとてくだん徳利とくり竹皮包かはづつみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
えるされむに住む靴匠くつしょうでござったが、当日は御主おんあるじがぴらと殿どの裁判さばきを受けられるとすぐに、一家のものどもを戸口とぐちへ呼び集めて、勿体もったいなくも、御主の御悩みを、笑い興じながら
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで、王女は戸口とぐちにいる学者の所まで出かけていって、太陽や月やにんげんの内部と外部のことで語りあいました。そして学者は、いかにもはっきりと、りっぱに答えました。
実際かの大会においても、拳骨げんこつなぐり合いが会場の戸口とぐちで二、三度あったというし、またボストンの公園地における会合も、僕の去ったのちで巡査が来て解散したかも知れない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
このほかいへつかはれてゐるもの大勢おほぜいぐすねいてつてゐます。いへうちをんなどもがばんをし、おばあさんは、ひめかゝへて土藏どぞうなかにはひり、おきな土藏どぞうめて戸口とぐちひかへてゐます。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
さて翌年よくねん正月元日しょうがつがんじつあさ、おきさきはいつものように御殿ごてんの中をあるきながら、おうまや戸口とぐちまでいらっしゃいますと、にわかにお産気さんけがついて、そこへ安々やすやすうつくしいおとこ御子みこをおみおとしになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「では一時間はんで帰ってくるよ」といながらくら戸口とぐちを出ました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
むこうがわ戸口とぐちけだそうとしたが、すわ、大へん。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヂュリ いま戸口とぐちからてゆかうとしてゐるのはれ?
戸口とぐちているきつねたぬきうのだそうだ。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
湿潤しめりも暗き戸口とぐちより浮びいでつつ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ごはんがにえたら、おかあさんにあげて、さきべておしまい。」と、父親ちちおやは、戸口とぐち兄弟きょうだい注意ちゅういして、そらをながめていましたが
ペスときょうだい (新字新仮名) / 小川未明(著)
鈍痴漢とんちんかんの、薄鈍うすのろ奴等やつらくすり糸瓜へちまもあるものか、馬鹿ばかな、軽挙かるはずみな!』ハバトフと郵便局長ゆうびんきょくちょうとは、この権幕けんまく辟易へきえきして戸口とぐちほう狼狽まごまごく。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
かれやつとのことで戸口とぐちつた。勘次かんじばうとしてたらうちはひつそりとくらい。戸口とぐちてゝたらかぎかけてあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
其故それゆゑあいちやんは其菓子そのくわし一個ひとつみました、ところがぐにちゞしたのをよろこぶまいことか、戸口とぐちからられるくらゐちひさくなるやいなうちからして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
其所そこは風とほしのわるい、あつい、陰気なせまい部屋であつた。代助は此所こゝ烟草たばこを一本かした。編輯室といた戸口とぐちが始終いて、ひとたり這入はいつたりした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
巡査じゅんさのはた色が悪いとみたウォッジャーズは、おく病風びょうかぜにふかれて、戸口とぐちのほうへげだした。そこへ
潜門くゞりもん板屋根いたやねにはせたやなぎからくも若芽わかめの緑をつけた枝をたらしてゐる。冬の昼過ひるすひそかに米八よねはちが病気の丹次郎たんじらうをおとづれたのもかゝる佗住居わびずまひ戸口とぐちであつたらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ある日のこと、その婦人が広間ひろまにすわって、糸をつむいでいると——これは、そのころの習慣しゅうかんだったんだ——ひとりのまずしい百姓ひゃくしょうがはいってきて、戸口とぐちこしかけに腰をおろした。
渠等かれらおのれこばみたるもの店前みせさきあつまり、あるひ戸口とぐち立並たちならび、御繁昌ごはんじやう旦那だんなけちにしてしよくあたへず、ゑてくらふもののなになるかをよ、とさけびて、たもとぐれば畝々うね/\這出はひいづるくちなはつかみて
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「何故、僕を見て逃げようとしたのだ。署の戸口とぐちを覗うなんて、何事かッ」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれは、こういって、ぶらぶらしていました。そして、に、幾度いくどということなく、戸口とぐちたり、はいったりしていました。
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)
またあしみつけ/\のつそりあるいて戸口とぐちしきゐしばらつてずつとばしたくびすこかたむけて卯平うへいてついと座敷ざしきつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二人ふたりだまる。厨房くりやからダリユシカがにぶかぬかほて、片手かたて頬杖ほゝづゑて、はなしかうと戸口とぐち立留たちどまつてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
眞箇ほんとにそんなでした。あいちやんはいまわずか一しやくあるかなしの身長せいになつたので、これならそのうつくしい花園はなぞのこのちひさな戸口とぐちからけてかれるとおもつて、そのかほうれしさにかゞやきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さわぎは黒馬旅館くろうまりょかんの中だけではなかった。このごろアイピング村では、日が暮れるがはやいか人びとは、しっかりと戸口とぐちじょうをかけ、いつまでもないでいる子どもにむかって
りるのを待ち兼ねて、与次郎は美禰子を西洋戸口とぐちの所へれて来た。車力しやりきおろした書物が一杯積んである。三四郎が其なかへ、向ふむきにしやがんで、しきりに何か読み始めてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
年とった女の人たちは戸口とぐちにすわって、紡車つむぎぐるまをつかわずに、ただ一本の糸まき竿ざおで、糸をつむいでいました。商店しょうてんは、ちょうど露店ろてんのようなぐあいに、通りにむかって開いていました。
三人が樽ロケットをでると、この大きな部屋の一方に戸口とぐちができていた。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女かのじょは、もはや、こうして、じっとして、いえなかにすわっていることができなかった。それで、戸口とぐちからそとました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
二人ふたりだまる。厨房くりやからダリュシカがにぶかぬかおて、片手かたて頬杖ほおづえをして、はなしこうと戸口とぐち立留たちどまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
女は顔をそむけた。二人ふたり戸口とぐちの方へあるいてた。戸口とぐちる拍子にたがひの肩が触れた。男は急に汽車で乗り合はした女を思ひした。美禰子のにくれた所が、ゆめうづく様な心持がした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
通路の正面のとびらがあいている。そこを入ると、戸口が見える。その戸口とぐちもあいていた。そして、あけかかった空を背にして、雪山がひどくかたむいていた戸口までいくと、はっきり事情がわかった。
氷河期の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まち人々ひとびとは、戸口とぐちてみると、さきってあるいているのはさんです。背中せなかおおきなかみげていました。それには
クラリネットを吹く男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
アンドレイ、エヒミチは戸口とぐちところすすんで、けた。するとニキタが躍上おどりあがって、そのまえ立塞たちふさがる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
伯父おぢは振り向きもせず、矢張りかさした儘、旅宿やど戸口とぐちて、格子こうしけてなか這入はいつた。さうして格子をぴしやりとめて、うちから、長井直記なほきは拙者だ。何御用か。と聞いたさうである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だんだんと語勢ごせいを強くして、博士は手をあげ、戸口とぐちを指した。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばらく、戸口とぐちって、見送みおくっていたおじいさんは自分じぶんにも、あちらでせがれの結婚けっこんしたよめのあることをおもいました。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)