)” の例文
居室へやかへつてると、ちやんと整頓かたづいる。とき書物しよもつやら反古ほごやら亂雜らんざつきはまつてたのが、もの各々おの/\ところしづかにぼくまつる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
込み上げて来る悲しさを、たもとの端で、じっと押えて、おろおろと、その場を立去りもせず、死ぬる思いを続けたことでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれはブランカの死体をさがしにきたが、それをられなかったうらみに、戸外五十メートルのところで、番犬をさき殺して去った。
億圓おくゑん正貨せいくわたことは、輸入超過ゆにふてうくわ日本にほんつては出來過できすぎであると批評ひひやうがあるが、それはまさしく左樣さやうであらうとおもふ。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
グルーシェンカの悪党には、一つも言えない肉体の曲線美があるんだ。そいつが足にも、左足の小指の先にまで現われているのだ。
天晴あつぱ一芸いちげいのあるかひに、わざもつつまあがなへ! 魔神まじんなぐさたのしますものゝ、美女びじよへてしかるべきなら立処たちどころかへさする。——
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
君が御名みなさちの井の、ゐどのほとりの常磐木ときはぎや、落葉木らくえふぼく若葉わかばして、青葉あをばとなりて、落葉おちばして、としまた年と空宮くうきうに年はうつりぬ四十五しじふいつ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まるで、異った事の様であるが、人をいましめる時に叱るのと、恥かしめるとの差を明かにとくして居る人が少ないのに驚いた。
雨滴 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
子供こどもには、はなしたあとでいろ/\のことはれて、わたくしまたむことをずに、いろ/\なことこたへたが、それをこと/″\くことは出來できない。
寒山拾得縁起 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「露国の名誉ある貴族たる閣下に、御遺失なされ候物品を返上致す機会をそうろうは、拙者の最も光栄とする所に有之これありそうろうなお将来共しょうらいとも。」
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
楼上には我を待つ畸人あり、楼下には晩餐ばんさんの用意にいそがしき老母あり、弦月は我幻境を照らして朦朧もうろうたる好風景、も言はれず。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
んなことで一かう要領えうりやうず、山頂さんてうはうでは、わづかに埴輪はにわ破片はへん雲珠うず鞆等ともなど)を見出みいだしたのみ、それで大發掘だいはつくつだいくわいをはつた。
きみたちのいうことは、よくわかった。一ぽうは、理科りか知識ちしきるためだというのだし、一ぽうはかわいそうだからたすけるというのだ。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
転輪てんりん王此玉をこゝろみに高きはたかしら挙著あげおきけるに、人民等じんみんら玉の光りともしらず夜のあけたりとおもひ、おの/\家業かせぎをはじめけりとしるせり。
現世げんせ夫婦ふうふならあいよくとの二筋ふたすじむすばれるのもむをぬが、一たん肉体にくたいはなれたうえは、すっかりよくからははなれてしまわねばならぬ。
ヴァイオリニストとしてあまりに有名で作曲は忘られがちだが、ウィーン風のヴァイオリン小曲にも言われない可憐かれんなのがある。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
闔廬かふろいはく、『こころみに婦人ふじんもつてすきか』と。いはく、『なり』と。ここおいこれゆるす。宮中きうちう美女びぢよいだし、百八十にんたり。
もっとあとだって、昨夜ゆうべは大財産をなすったなんて、財産と散財と、とんちんかんなのを、どうしてもとく出来なかったものさえある。
彼女かのぢよよろこびも心配しんぱいも、たゞそのためにのみしてれた努力どりよくページをあらためてつてみてひそかにほこりなきをないのであつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
わたしはかれがつえの先で追い立てた場所から、そのまま動きなかった。食卓しょくたく背中なかを向けたまま、わたしはかれの顔を見た。
B あゝ、あれは駄目だめだよ。葉書はがきまいぐらゐの短文たんぶんで、ちよつといた面白おもしろことやう名士めいしいくらもないからな。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
先ほどからへさきへ出て、やや呑み過ごした酔心地えいごこちもいわれぬ川風に吹払わせていた二人の門人種員たねかず仙果せんかは覚えず羨望せんぼうまなこを見張って
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとい金丸長者の死に損いが、如何に躍起となったにしたところが、とても大阪三輪鶴の千両箱を三十も一所いっしょに積みはせまい。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さびしきまゝにこと取出とりいだひとこのみのきよくかなでるに、れと調てうあはれにりて、いかにするともくにえず、なみだふりこぼしておしやりぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
併し氣が凝つたり、氣が散つたりして、そして碌に何事も出來でかさずに五十年を終つて仕舞ふのが、所謂凡人である、恨む可き事である。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「——解りませんわ。」とおくみは、自分の感じる心持をどうにも纏めてう言はないので、困つたやうに極り悪くかう言つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
現実界に触れて実感をると、他愛もなくげて了う、げて木地きじあらわれる。古手の思想は木地を飾っても、木地を蝕する力に乏しい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
嫁入よめいり支度したく忙殺ばうさつされるのみならず、屹度きつと貧殺ひんさつされるだらうとかはなしになると、子供こどものない宗助そうすけみゝには夫程それほど同情どうじやうおこなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その城の影がさかさまに水に映って居るので夕暮の景色は実にも言われぬ面白い風情である。その城の下のある家について泊りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「そのかわり、この大役を首尾しゅびよくすましたら、伊那丸いなまるさまにおねがいして、そちも武士ぶしのひとりに取り立ててさすであろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとよりその職業につく目的をもって進みきたり、かつ現在の職業にあまんずる人は百人に一人あるや否や我らは大いに疑わざるをない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「そりや、はあ、さうだが」たゞこれだけいつて寡言むくち卯平うへい自分じぶんたといふやう始終しじうくぼんだしがめてからは煙管きせるはなさなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
上當年五十三歳に相成候と云たるてい顏色がんしよくことほか痩衰やせおとろにくおちほねあらはれこゑ皺枯しわがれて高くあげず何樣數日手強てづよき拷問に掛りし樣子なり大岡殿此體このてい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今から考えると、いかにもそれらはばかげているように見えますけれども、しかし古い時代にはそれもむをなかったのでありましょう。
ロバート・ボイル (新字新仮名) / 石原純(著)
お目にかけましたら、その自然からおになるところがあって、絵がずいぶん御上達なさいますでしょうと思います。富士、それから何々山
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それがまた、も云われぬ嘲笑的な図形であって、まさにお筆にとれば刻印に等しく、永世滅し切れぬと思われるほど嘲笑的なものだった。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
四宮理学士の絞殺も同一手段で行われたのであったが、学士が女史の犯跡はんせきを握っていたので、むをず殺害したものらしい。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黄金丸がつけし、まなこの光に恐れけん、その矢もはなたで、あわただしく枝に走り昇り、こずえ伝ひに木隠こがくれて、忽ち姿は見えずなりぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
このため兩少年りようしようねん各自かくじ家屋かおくのみならず、重幸少年しげゆきしようねんごときは隣接りんせつした小學校しようがつこう二十戸にじゆつこ民家みんかとを危急ききゆうからすくたのであつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
もしまた梅の花が見えて居るのに「かをる」といひたりとすればそは昔より歌人の陥り居りし穴をいまだいでずに居る者なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
余は初めより目科の背後うしろに立てる故、気を落着けて充分に倉子の顔色を眺むるを、少しの様子をも見落さじとつとめたるに
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
老人としよりといふものは、こんな場合にも、栗鼠が狂者きちがひだつたとか、臍がうつかりしてゐたとか、て言訳をしたがるものなのだ。
いにしへ國民こくみん地震ぢしんつても、科學的素養くわがくてきそやうけてゐるから、たゞ不可抗力ふかかうりよく現象げんしやうとしてあきらめるだけで、これに對抗たいかうする方法はうはふ案出あんしゆつない。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
そこにフランシスがこれも裸形のままで這入はいって来てレオに代って講壇に登った。クララはなお顔を上げなかった。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
次の奴は「西竹林のけい三ぞくは、ある甲斐もなきかたわに生まれ、人の情けをこうむらで、竹の林に独りぬる/\」
じつわたくし貴方あなたとの談話だんわおいて、此上このうへ滿足まんぞくましたのです。で、わたくし貴方あなたのおはなし不殘のこらずうかゞひましたから、此度こんど何卒どうぞわたくしはなしをもおください。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
じつ感謝かんしやえません。』とわたくし不測そゞろ憘涙うれしなみだながるゝをきんなかつた。無邪氣むじやきなる日出雄少年ひでをせうねんをまんまるにして、武村兵曹たけむらへいそう肩上かたをどると。
「私のは少しむずかしいかもしれませんよ。いわく、王者にして、その声天地にあまねく、その姿すがた捕捉ほそくすべからず」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ふたたび起こる喝采かっさいの声! かくてM大尉エムたいいは第一等の栄冠えいかんて、予定通りわが日本のために万丈ばんじょう気炎きえんをはきました。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
遠い昔に度々聞きそうして中頃忘れ去られた笛の音色が卒然と再び耳の底へ響いて来たような、も云われない懐かしの情! 思慕の情が湧いて来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)