いそ)” の例文
あるとき、一のつばめは、ふねろうとおもって、とおいところから、いそいでんできましたが、すでにふねってしまったあとでした。
赤い船とつばめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
達二たつじは早く、おじいさんの所へもどろうとしていそいで引っかえしました。けれどもどうも、それは前に来た所とはちがっていたようでした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あいちやんはたゞちにれが扇子せんすつて所爲せいだとことつていそいで其扇子そのせんすてました、あだかちゞむのをまつたおそれるものゝごとく。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
陰陽博士おんやうはくしで聞えた安倍晴明あべのせいめいの後裔が京都の上京かみぎやうに住んでゐる。ある時日のかたいそあしで一条戻り橋を通りかゝると、橋の下から
彼女の魂は普通の人々が長い生涯の間生活するのと同じほどの景を、非常に短い時間の内に生活しようと、いそいでゐるやうに見えた。
それからすぐの家の門へ入るまで私は、まるで駈けると同じ様な速さで、何も考えるいとまもなくいそいだ。祖母の顔を見るとすぐ
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こうひとごといながら、みちばたのいしの上に「どっこいしょ。」とこしをかけて、つづらをろして、いそいでふたをあけてみました。
舌切りすずめ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しぼるやうな冷汗ひやあせになる気味きみわるさ、あしすくんだといふてつてられるすうではないから、びく/\しながらみちいそぐとまたしてもたよ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何處どこへゆく何處どこへゆく、げてはならないと坐中ざちうさわぐにてーちやんたかさんすこたのむよ、かへるからとてずつと廊下らうかいそあしいでしが
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そうともそうとも。こうなったら、いそいでくれろとたのまれても、あしがいうことをきませんや。あっしと仙蔵せんぞうとの、役得やくとくでげさァね」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
さゝ、ヂュリエットをおこして、着飾きかざらせい。おれてパリスどのに挨拶あいさつせう。……さゝ、いそげ/\。婿むこどのは最早もうせたわ。いそいそげ。
大佐閣下たいさかつか鐵車てつしや見事みごと出來できましたれば、ぜんいそげでいまからぐと紀念塔きねんたふてに出發しゆつぱつしては如何どうでせう、すると晴々はれ/″\しますから。
しなはやしいくつもぎて自分じぶんむらいそいだが、つかれもしたけれどものういやうな心持こゝろもちがして幾度いくたび路傍みちばたおろしてはやすみつゝたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
折々をり/\には會計係くわいけいがゝり小娘こむすめの、かれあいしてゐたところのマアシヤは、せつかれ微笑びせうしてあたまでもでやうとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そも/\天上のつるぎたるや、斬るに當りていそがずおくれじ、たゞ望みつゝまたは恐れつゝそを待つ者にかゝる事ありと見ゆるのみ 一六—一八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
呼て只今番頭樣ばんとうさまより今日はことによき日和ひよりゆゑ出帆しゆつぱんすべしとの事なり我等も左樣さやうに存ずればいそ出帆しゆつぱんの用意有べしといふ水差みづさし是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いそぐつて先月ぢうに越すはづの所を明後日あさつての天長節迄待たしたんだから、どうしたつて明日中あしたぢうさがさなければならない。どこか心当りはないか」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すると元木は教師の腕をとらえて「先生、あたいの絵よくできてんのかい?」とまた催促した。しかし杉本はいそがしく瞬きしながら言うのである。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
わたくしいそいでいわからりてそこへってると、あんたがわず巌山いわやまそこに八じょうじきほどの洞窟どうくつ天然てんねん自然しぜん出来できり、そして其所そこには御神体ごしんたいをはじめ
段々野良のらの仕事がいそがしくなつて欠席の多くなるべき月に、これ以上歩合を上せては、郡視学に疑はれるおそれがある。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
なかには主人あるじ宗匠そうしやう万年青おもとはちならべた縁先えんさき小机こづくゑしきり天地人てんちじんの順序をつける俳諧はいかいせんいそがしいところであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
どうしていそがしくって、そんなに早くはとてもなんて、いやに急がしがってる奴を、無理に頼み込んで、明日の午後四時までに出来上る約束をした。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
いづれ唯事たゞごとならじと思へば何となく心元こゝろもとなく、水汲みていそぎ坊に歸り、一杖一鉢、常の如く都をさして出で行きぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
彼はいそいで着物を着ました。それがまた金の布地で仕立てた堂々たる衣装に変ったので、彼は夢中になりました。
「わたしがいそいでるのを知ってるくせに、やっぱりうるさくきまとうんだね。ほんとになさけない子だよ!」
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
すると、むこうでは、このあたらしくやってものをちらっとると、すぐつばさひろげていそいでちかづいてました。
彼女かのぢよ若々わか/\しくむねをどきつかせながら、いそいでつくゑうへ手紙てがみつてふうつた。彼女かのぢよかほはみる/\よろこびにかゞやいた。ゆがみかげんにむすんだ口許くちもと微笑ほゝゑみうかんでゐる。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
思いかけず期におくるることなどあらんも計られずと、あやぶみおもいて、須坂に在りてたんといわれし丸山氏のもとへ人をやりて謝し、いそぎて豊野の方へいでたちぬ。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのひとのよろこびつたらありませんでした。いそいで、それをぶらさげてかへらうとちあがりました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
そんな訳であるから、さっき帰ってからまだ二晌ふたときとは過ぎていないのに、女の迎いをいそがせる。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「では、ぼくたちはいそぎますから、これで失礼します。美術品はじゅうぶん注意して、たいせつに保管するつもりですから、どうかご安心ください。では、さようなら。」
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かの有名な森蘭丸らんまる。その蘭丸の従兄弟いとこであり、そうして過ぐる夜衣笠山まで、巫女を追って行った若武士なのである。信長の大切の命を受け、京へいそいでいるところであった。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
別に深く底意地そこいじの悪いというほどの人ではないが、妙に大事の場合などになるとその時をはずしていなくなったりして、毎度、いそがしい時などに困らされたものでありますが
ゆるやかな単純たんじゅん幼稚ようちな歌で、重々しいさびしげな、そして少し単調たんちょうな足どりで、決していそがずに進んでゆく——時々長い間やすんで——それからまた行方ゆくえもかまわず進み
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
いそがしきシネマトグラフの中なれば、誰とわかねど突拍子とつぺしもなく現はれて気狂きちがひのごと
緑の種子 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
心持こゝろもちになつて、自分じぶん暫時しばらくぢつとしてたが、突然とつぜん、さうだ自分じぶんもチヨークでいてやう、さうだといふ一ねんたれたので、其儘そのまゝいそいでうちへり、ちゝゆるし
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わたし畢生ひつせい幸福かうふくかげえてしまつたかのやうにむねさはがせ、いそいで引出ひきだしてた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
不意ふいにうるんだつまひとみ刹那せつな意識いしきしながら、をつとはわざとげつけるやうにつた。なにおもいものがむねた。そして、をつと壁掛かべかけると、いそあしにアトリエのはうつてつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
丁度てうど墓門ぼもんにでもいそぐ人のやうな足取あしどりで、トボ/\と其の淋しいあゆみつゞけて行ツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
にんじんは、いそいでこういう。それが一番都合つごうのいい弁解だと思ったからである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
とうさんがいそいでしたきますと、橿鳥かしどりたかうへからそれをまして
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
いそいであたしは一掴ひとつかみくさむしつて、此児このこくちいてやつて、かうつた。
たう/\わらべ、まつどきなたん、果報かほ時のなたん、いそのぼれ、御祭おまつりよすらに
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
甚兵衛はいそいで家へかえりまして、綺麗きれいな女の人形を一つ取り、その中にくぎをいっぱいつめて、くぎとがったさきが、みな外の方にくようにこしらえあげました。それをってさるの所へもどってきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あちこちへ投げ飛ばされたり、倒されたりしたのをいかにもいそいで
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
而して自称憂国家の作するところ多くは自儘じまゝなり。彼等は僻見多し、彼等は頑曲ぐわんきよく多し。彼等は復讐心を以て事を成す。彼等は盲目の執着を以て業をいそぐ。彼等は夢幻中の虚想を以て唯一の理想となす。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
セミョノフの砲艦はうかんひとつてゐるを背向そがひにしつつ我はいそげり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ただ、一そう道をいそぎ出しただけである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いそがしくあお団扇うちわの紅は浮く
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「さあ、いそがしいぞ!」
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)