そつ)” の例文
見るなとかたせいせしは如何なるわけかとしきりに其奧の間の見まほしくてそつ起上おきあがり忍び足して彼座敷かのざしきふすま押明おしあけ見れば此はそも如何に金銀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不圖、旅人は面白い事を考出して、そつと口元に笑を含んだ。紙屑を袂から出して、紙捻こよりを一本ふと、それで紙屑を犬の尾にゆはへつけた。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
『あゝつ、』といまはしさにはらつて、すはなほして其処等そこらみまはす、とそつ座敷ざしきのぞいた女中ぢよちゆうが、だまつて、スーツと障子しやうじめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大洞は、色を失つて戦慄せんりつするお加女の耳にちかづきつ、「こし気を静めさして今夜の中にそつと帰へすがからう——世間に洩れては大変だ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
暫時しばらく準教員も写生の筆をめて眺めた。尋常一年の教師は又、丑松の背後うしろへ廻つて、眼を細くして、そつ臭気にほひいで見るやうな真似をした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お浪暁天あかつきの鐘に眼覚めて猪之と一所に寐たる床よりそつと出るも、朝風の寒いに火の無い中から起すまじ、も少しさせて置かうとのやさしき親の心なるに
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
もしかこの世界が私の手製だつたら、相馬君のやうな心掛のいゝ人には、そつ内証ないしようで打明けてやりたいものだ。
父は姉のお君にそつと正宗の二合瓶を買はせて来て、私の寝台の下で壁の方を向いて、冷のまゝで、お茶でも飲む様な振をしながら、こつそり飯茶碗で飲んだ。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
暮方より同じ漁師仲間の誰彼だれかれ寄り集いて、端午の祝酒に酔うて唄う者、踊る者、はねる者、根太も踏抜かんばかりなる騒ぎに紛れて、そつみぎわに抜出でたる若き男女あり。
片男波 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
職務しよくむるのはまへにも不好いやであつたが、いまなほそう不好いやたまらぬ、とふのは、ひと何時いつ自分じぶんだまして、かくしにでもそつ賄賂わいろ突込つきこみはぬか、れをうつたへられでもぬか
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そつかくして出てくのを主人が見て、アハヽこれが子供の了簡れうけんだな、人が見たらかへるとは面白おもしろい、一ツあの牡丹餅ぼたもちを引き出して、かへるいきたのをれておいたら小僧こぞうかへつておどろくだらうと
日本の小僧 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
或る晩の事、自分は相變らず、そつうち脱出ぬけだして、門の外まで出ると
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
重四郎はこれさひはひと娘の部屋へやのぞき見れば折節をりふしお浪はたゞひと裁縫ぬひものをなし居たるにぞやがくだんのふみを取出しお浪のそでそついれ何喰なにくはかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『アラ。』と言つて、智恵子も立つたが、う思つてか、外から見られぬ様に、男の背後うしろに身を隠して、そつと覗いて見たものだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そつゆすぶる、したがつてゆすぶれるのが、んだうをひれつまんで、みづうごかすとおな工合ぐあひで、此方こちらめればじつつて、きもしづみもしないふう
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不思議なことには、熱い涙が人知れず其顔を流れるといふ様子で、時々すゝり上げたり、そつと鼻をんだりした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
慾の深い水神様は、もつとほかの物をも欲しがつてるのかも知れないと、気の毒な旅人は、荷物の中から虎の皮の弓嚢ゆみぶくろを取り出して、惜しさうにそつと河に落してみた。
其處そこのところをそつ赤手すでつかまへて呉れる…… 暖い手で、にぎツてツても、すまアしててのひらツてゐるやつを螢籠の中へ入れる…… 恰ど獄屋ひとや抛込ほうりこまれたやうなものだが、ちつともそれには頓着しない。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
掛内に這入はひりふしみ居し折柄をりから燒場の外面おもての方に大喧嘩おほげんくわが始りし樣子故何事かと存じそつと出てうかゞひしにくらき夜なれば一かうわからず暫時しばらく樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此語の後に潜んだ意味などを、察する程に怜悧かしこいお定ではないので、何だか賞められた様な気がして、そつと口元に笑を含んだ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
多時しばらくにはへもられなからうとおもはれましたので、そつつゆなかを、はなさはつて歩行あるいてたんでございます。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
成るべく家内には遠ざかるやうにして、そつうちを抜け出して来ては、独りで飲むのが何よりの慰藉たのしみだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
満谷氏はその後、人づてにそつと熊岡氏の小鼓の事を訊いてみた。
此の後に潜んだ意味などを察する程に、怜悧かしこいお定ではないので、何だか賞められた樣な氣がして、そつと口元に笑を含んだ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
せきをすると、じつるのを、もぢや/\とゆびうごかしてまねくと、飛立とびたつやうにひざてたが、綿わたそつしたいて、立構たちがまへで四邊あたりたのは、母親はゝおやうちだとえる。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
で、小児こどもみたいに、そつと自分の指を蒲団の中から出して見たが、菊池君は力が強さうだと考へる。ト、私は直ぐ其喧嘩の対手を西山社長にした。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
折要歩せつえうほは、そつ拔足ぬきあしするがごとく、歩行あゆむわざなやむをふ、ざつ癪持しやくもち姿すがたなり。齲齒笑うしせうおもはせぶりにて、微笑ほゝゑときつね齲齒むしばいたみに弱々よわ/\打顰うちひそいろまじへたるをふ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
軈てお定は、懷手した左の指を少し許り襟から現して、柔かい己が頬をそつでて見た。小野の家で着て寢た蒲團の、天鵞絨の襟を思出したので。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
若旦那わかだんなは、くわつと逆上のぼせたあたまを、われわすれて、うつかり帽子ばうしうへから掻毮かきむしりながら、拔足ぬきあしつて、庭傳にはづたひに、そつまどしたしのる。うちでは、なまめいたこゑがする。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やがてお定は、懐手した左の指を少し許り襟から現して、柔かい己が頬をそつと撫でて見た。小野の家で着て寝た蒲団の、天鵞絨の襟を思出したので。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
引寄ひきよせてもげないから、そつれると、尻尾しつぽ一寸ちよつとひねつて、二つも三つもゆびのさきをチヨ、チヨツとつゝく。此奴こいつと、ぐつとれると、スイとてのひらはいつてる。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『は? は。それア何でごあんす……』と言つて、安藤はそつと秋野の顏色を覗つた。秋野は默つて煙管を咬へてゐる。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ひかけて——あしもずらして高足駄たかあしだを——ものをで、そつ引留ひきとめて
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『ハ? ハ。それア何でごあんす……』と言つて、安藤はそつと秋野の顔色を覗つた。秋野は黙つて煙管をくはへてゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
青年わかものくから心着こゝろづいて、仏舎利ぶつしやりのやうにさゝげてたのを、そつ美女たをやめまへした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『そんでヤハアお常ツ子もかかつたアな。』と囁いて、一同みんなそつと松太郎を見た。お由の眼玉はギロリと光つた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
うかとおもふと、一人ひとりで、おもひにねるか、湯氣ゆげうへに、懷紙ふところがみをかざして、べにして、そつうでてたことなどもある、ほりものにでもしよう了簡れうけんであつた、とえるが
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
モウ心配で心配でたまらなくなつて、今もそつと吉野の室に行つて、その帰りの遅きを何の為かと話してゐた所。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぎんなべ一つつゝむ、おほきくはないが、衣絵きぬゑさんの手縫てぬひである、友染いうぜんを、そつけた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その信吾が今日媒介者なかうどが來たも知らずにゐると思ふと、もう心配で/\堪らなくなつて、今もそつと吉野の室に行つて、その歸りの遲きを何の爲かと話してゐたのである。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
……其處そこいらがしづかで、だれおどろかさないとえて、わたしたちをても、げないんですよ。えんからぢき其處そこに——もつとも、あゝ綺麗きれいとりが、とつて、雨戸あまどにもそつ加減かげんはしましたけれども。
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『屹度、なんですよ。先生からおあしを貰つたから歩くのが可厭いやになつて、日の暮れまで何處かで寢てゐて、日が暮れてから、そつと歸つて來て此村へ泊つて行つたんですよ。』
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
あつとつて一座いちざなかにはそつゆびさきでてて、其奴そいつながめたものさへあり。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『屹度、なんですよ。先生からおあしを貰つたから歩くのが可厭いやになつて、日の暮れるまで何処かで寝てゐて、日が暮れてからそつと帰つて来て此村ここへ泊つて行つたんですよ。』
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
を、そつばして、おくすりつゝみつて、片手かたてまる姿見すがたみ半分はんぶんじつて、おいろさつあをざめたときは、わたしはまたかされました。……わたし自分じぶんながら頓狂とんきやうこゑつたんですよ……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そつと左の二の腕に手を遣つて見た。其処に顔を押付けて、智恵子は何と言つた⁉
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
行燈部屋あんどんべやそつしのんで、裏階子うらばしごから、三階見霽さんがいみはらし欄干てすり駈上かけあがつたやうである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
芸妓には珍しく一滴も飲まぬ市子は、それとさとつてか、そつと盃洗を持つて来て、志田君に見られぬ様に、一つ宛空けて呉れて居たが、いつしか発覚して、例の円転自在の舌から吹聴に及ぶ。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
だつて、なん企謀たくらみあそばすんではなし、ぬしのあるかただとつて、たゞ夜半よなかしのんでおひなさいます、のあの、垣根かきね隙間すきまそつとおらせだけの玉章ふみなんですわ。——あゝ、此處こゝでしたよ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もつとも、二ぎにまゐつたんですから、もんくゞりもしまつてて、うら𢌞まはつたもわかりましたが、のちけばうでせう……木戸きどは、病院びやうゐんで、にました死骸しがいばかりを、そつ内證ないしようします
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)