店先みせさき)” の例文
「さあ、きなものをおいなさい。」と、お菓子屋かしや店先みせさきで、どこかのおかあさんが、やさしく子供こどもにいっていられるのもあります。
少年の日二景 (新字新仮名) / 小川未明(著)
若いころの自分には親代々おやだい/\薄暗うすぐらい質屋の店先みせさきすわつてうらゝかな春の日をよそに働きくらすのが、いかにつらくいかになさけなかつたであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
連て訴へしが番頭は進み出私しは油町伊勢屋三郎兵衞名代喜兵衞と申もの御座ござ主人しゆじん店先みせさきへ一昨夜九ツどきすぎ此法師このほふし來り戸を叩きて一夜の宿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
やがて雁首がんくび奇麗きれいいて一ぷくすつてポンとはたき、またすいつけておたかわたしながらをつけてお店先みせさきはれると人聞ひとぎきかわるいではないか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
このを『年輪ねんりん』とひます。材木屋ざいもくや店先みせさきつて、まる材木ざいもくのはしをれば、これが年輪ねんりんかと、すぐにわかります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
表に待つてゐた三四郎が、気が付いて見ると、店先みせさき硝子張がらすばりたなに櫛だの花簪はなかんざしだのがならべてある。三四郎は妙に思つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「えゝ、なさけねえ奴等やつらだな」ぢいさんはかけかみてた。店先みせさき駄菓子だぐわしれた店臺みせだいをがた/\とうごかすものがあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私はその前までは西瓜はただ八百屋の店先みせさきに売りに出されているだけのものとばかり思っていた。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
かゝあどものひきづツてゐるぼろ をみると、もうやめよう、もうやめようとはおもふんですが、またすぐ酒屋さかや店先みせさきをとほつて、あのいいぷうんとくるにほひをぐと
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
奉天城内ほうてんじやうないのと勸工場くわんこうぢやうへはひつて、店先みせさきならべてあつた麻雀牌マアジヤンパイうつくしさにかれて
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
三社樣さんじやさま御神輿おみこしが、芳原よしはらわたつたときであつた。なかちやうで、ある引手茶屋ひきてぢやや女房にようばうの、ひさしくわづらつてたのが、まつり景氣けいきやつきて、ほのかうれしさうに、しかし悄乎しよんぼり店先みせさきたゝずんだ。
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これをどこかへりとばして、みんなでうまいものをってべようといました。それでわたしは古道具屋ふるどうぐやられて、店先みせさきにさらされて、さんざん窮屈きゅうくつな目にあいました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
林太郎はある荒物屋あらものや店先みせさきへ立ち、学校でならったていねいな言葉ことばで聞きました。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
と彼は云って、バットの近所にある野間薬局の店先みせさきにずかずか入っていった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、店先みせさきって、なるほど、たくさんいろいろな仏像ぶつぞうや、彫刻ちょうこくがあるものだと、一ひととおかざられてあるものにとおしたのです。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしこれもまた、長吉ちやうきちには近所の店先みせさき人目ひとめこと/″\く自分ばかりを見張みはつてるやうに思はれて、とても五分と長く立つてゐる事はできない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
蝙蝠傘屋かうもりがさやまへにも一寸ちよつとまつた。西洋せいやう小間物こまもの店先みせさきでは、禮帽シルクハツトわきけてあつた襟飾えりかざりにいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほんとにおぶうならかへりに吃度きつとよつておれよ、うそきだからなにふかれやしないと店先みせさきつて馴染なじみらしきつツかけ下駄げたをとこをとらへて小言こゞとをいふやうなものひぶり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ふゆひくうてしづんだ。舊暦きうれきくれちかつて婚姻こんいんおほおこなはれる季節きせつた。まち建具師たてぐし店先みせさきゑられた簟笥たんす長持ながもちから疎末そまつ金具かなぐひかるのをるやうにつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つかひ盡しはや一錢もなくなりいと空腹くうふくに成しに折節をりふし餠屋もちや店先みせさきなりしがたゝずみて手の内を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さむかぜなかを、この老人ろうじんあるいてきました。棺屋かんやまえにさしかかって、ふと、その店先みせさきにあったかんや、花輪はなわれると
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗助そうすけ苦笑くせうしながら窓硝子まどがらすはなれてまたあるしたが、それから半町はんちやうほどあいだなんだかつまらないやう氣分きぶんがして、徃來わうらいにも店先みせさきにも格段かくだん注意ちゆういはらはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
下巻には楽屋総浚そうざらひのさま面白く尾上雷助らいすけの腰掛けて髪をはする床屋とこや店先みせさき大谷徳治おおたにとくじが湯帰りの浴衣ゆかた手拭てぬぐいひたいにのせ着物を小脇こわきかかへて来かかるさまも一興なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こんな溝板どぶいたのがたつくやう店先みせさきそれこそひとがらがわろくてよこづけにもされないではないか、お前方まへがたすこしお行義ぎようぎなほしてお給仕きふじられるやうこゝろがけておれとずば/\といふに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見られ今日けふ其方店先みせさきに金子の落し物はなかりしやと尋ねらるゝに十右衞門はかうべ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いろいろのみせにまじって、一けんの筆屋ふでやがありました。おじいさんが、店先みせさきにすわってふとふでや、ほそふでをつくっていました。
山に雪光る (新字新仮名) / 小川未明(著)
女は言葉ことばで邪魔を否定した許ではない。かほでは寧ろ何故なぜそんな事を質問するかと驚ろいてゐる。三四郎は店先みせさきの瓦斯のひかりで、女の黒いのなかに、其驚きを認めたと思つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あれこゑ此町このまちにはかせぬがくしとふでやの女房にようぼうしたうちしてへば、店先みせさきこしをかけて往來ゆきゝながめしがへりの美登利みどり、はらりとさが前髮まへがみ黄楊つげ鬂櫛びんぐしにちやつときあげて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ついこの間も麻布網代町辺あざぶあみしろちょうへんの裏町を通った時、私は活動写真や国技館や寄席よせなぞのビラが崖地がけちの上から吹いて来る夏の風にひるがえっている氷屋の店先みせさき、表から一目に見通される奥の間で十五
そのしたに、ちいさなかけ茶屋ぢゃやがあって、ひとのいいおばあさんが、ひとり店先みせさきにすわって、わらじや、お菓子かしや、みかんなどをっていました。
青葉の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
團子屋だんごや頓馬とんまたゞおかぬとうしほのやうにわきかへるさわぎ、筆屋ふでやのき掛提燈かけぢようちんもなくたゝきおとされて、つりらんぷあぶなし店先みせさき喧嘩けんくわなりませぬと女房にようぼうわめきもきかばこそ、人數にんず大凡おほよそ十四五にん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
再び芝居町の名物高麗こうらいせんべいの店先みせさき(第七図)に花菱はなびしの看板人目を引き
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また、商店しょうてんは、すこしでもよけいに品物しなものろうとおもって、店先みせさきをきれいにかざって、いたるところで景気けいきをつけていました。
酔っぱらい星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夕暮ゆふぐれ店先みせさき郵便脚夫いうびんきやくふ投込なげこんできし女文字をんなもじ書状ふみ一通いつゝう炬燵こたつ洋燈らんぷのかげにんで、くる/\とおびあひだ卷收まきをさむれば起居たちゐこゝろくばられてものあんじなること一通ひととほりならず、おのづといろえて
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
するとせまみちうえへ、片側かたがわちいさな店先みせさきから、紫色むらさきいろ光線こうせんがもれてきて、あるひとところだけ紫色むらさきいろつちうえいろどっていました。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こちらからると、なすや、きゅうりや、大根だいこんなどが、店先みせさきにならべられて、午後ごご赤色あかいろをしたひかりけていました。
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
したいて、おも荷物にもつくるまけていていましたおとうとは、こちらをきました。そしてあにかおわせますと、くるまのかじぼうろして、店先みせさきへやってきました。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幸吉こうきちが、けると、黒犬くろいぬは、弾丸だんがんのようにして、叔父おじさんが、仕事しごとをしている店先みせさきのブリキいた蹴散けちらして、路次ろじけてはらっぱのほうげていったのです。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おじさんは、いつも元気げんきで、ちいさい店先みせさきで、子供こどもたちのあたまを、ジョキジョキっています。
子供の床屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むすめは、だまって、それをていましたが、この人形にんぎょうこそ自分じぶんってかえって、ながあいだわすれがたい記念きねんにしようとおもいました。そこで、彼女かのじょ店先みせさきけて、なかはいりました。
気まぐれの人形師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はなは、あの花屋はなや店先みせさきを、どんなにこいしくおもったでしょう。
花と人の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)