いづ)” の例文
いづるに車あり、入るに家あり、衣食亦た自ら適するに足るものあり、旅するについえあり、病むときに医あり、何不自由もなく世を渡り
主のつとめ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
さて一同の目の前には天下の浮世絵師が幾人よって幾度いくたび丹青たんせいこらしても到底描きつくされぬ両国橋りょうごくばしの夜の景色が現われいづるのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
盛りにて仙境のおもひあり聞く熱川にえがはには温泉のいづる所ありと此等こゝらに暑を避けて其の湯に塵をそゝぐならば即身即仙とんだ樂しき事なるべきに
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
世に越後の七不思議なゝふしぎしようする其一ツ蒲原郡かんばらこほり妙法寺村の農家のうか炉中ろちゆうすみ石臼いしうすあなよりいづる火、人みな也として口碑かうひにつたへ諸書しよしよ散見さんけんす。
彼女の若き日の憧れは、未来の外交官たる直也の妻として、遠く海外の社交界に、日本婦人の華として、咲きいづることではなかつたか。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
向ひの家の二階のはづれをわづかにもれいづる影したはしく、大路にたちて心ぼそくうちあふぐに、秋風たかく吹きて空にはいさゝかの雲もなし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すれば是は容易の公事くじでなしの惣右衞門めはとしこそ老込おいこみたれど並々なみ/\の者に非ずかれこれ評定所へいづるならば此方が是迄の惡事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
目をばまさる鏡とせんとてわがかの水(人をしてそのなかにて優れる者とならしめん爲流れいづる)のかたに身をかゞめしその早さにはかじ 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「ええ、御免下さいまし、甚だ推参なわけで、飛んだ失礼でございまするが、手前通りがかりのもので、」といいいづる。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰も見ていないと思って自分の寝室でいかなる行動にいづるか——聖なる神秘はあなた方の行手に! これによってまずいささかの御満足を与え得れば
なんでもこの山巓さんてんを少しくだったくさむらの中には、どこかに岩間から湧きいづ清泉せいせんがあるとは、日中ふもとの村で耳にしたので
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
運命とは神意にいづるものにもあらず、天命にもあらず、怪異にもあらず。古昔希臘ギリシヤ人は以為おもへらく、人智の得て思議すべからざる者是れすなはち運命なりと。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
(中略)さて此娘、(中略)つとめにいづる其日より、富豪の大臣かかり、早速さそくに身うけして、三八夫婦母おやも大阪へ引きとり、有りしにかはるくらしと成り
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ぢり/\と汗腺かんせんからしぼいづあせあとつけられたながれのみちたないで其處そこだけ蕎麥そばほこりあらつてる。かれはおつたのまへ暑相あつさうけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いづるに自動車あり、るに明眸皓歯めいぼうかうしあり、面白い書籍あり、心をとろかす賭博とばくあり、飽食し、暖衣し、富貴あり、名誉あり、一の他の不満不平あるなくして
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
某国の他教を禁ずる、必竟ひっきょう自国の平安を保つの主意にいづるがごときは、すなわちこれを禁ずるの権利あり。
鎔岩ようがん大部分だいぶぶん火口底かこうていから次第しだい火口壁かこうへき上部じようぶまであがつてつひ外側そとがはあふいづるにいたることがある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
やがて三たび馬のいなながして中庭の石の上に堅き蹄が鳴るとき、ギニヴィアは高殿たかどのを下りて、騎士の出づべき門の真上なる窓にりて、かの人のいづるを遅しと待つ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
イエスこたえけるは人はパンのみにていくるものにあらずただ神の口よりいづすべてことばるとしるされたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
と言葉をのこしてわが部屋をいづればホッと息つきましたが、このは到頭寐転ねこかしをくわせられ不平でお帰りになり、其の次のも/\同じような手でうまく逃げられて
こめたはらよりぜに蟇口がまぐちよりいづ結構けつこうなかなに不足ふそく行倒ゆきだふれの茶番ちやばん狂言きやうげんする事かとノンキに太平楽たいへいらく云ふて、自作じさく小説せうせつ何十遍なんじつぺんずりとかの色表紙いろべうしけて売出うりだされ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
為にはやく人家ある所にいづるの方針ほうしんらざるべからざるを以て、く議論の沸騰ふつたうしたるなり。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
平和へいわみだ暴人ばうじんども、同胞どうばうもっ刃金はがねけが不埓奴ふらちやつ……きをらぬな?……やア/\、汝等おのれらよこしまなる嗔恚しんにほのほおの血管けっくわんよりながいづむらさきいづみもっさうとこゝろむる獸類けだものども
春の花いづれとなく皆開けいづる色ごとに目おどろかぬは無きを、心短く打すてゝ散りぬるが恨めしうおぼゆるころほひ、此花のひとりたち後れて夏にさきかゝるなん、あやしく心にくゝ
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
いつのよいかにして賜はることを得べきなど思ひいづるまゝに有しこと恋しく、世の人のうらめしう、今より後の身心ぼそうなど取あつめて一つ涙ひぬものから、かく成行なりゆきしも誰ゆゑかは
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一 下部しもべあまた召使めしつかうともよろずの事自から辛労を忍て勤ること女の作法也。舅姑の為に衣を縫ひ食を調へ、夫に仕て衣を畳みしきものを掃き、子を育てけがれを洗ひ、常に家の内に居てみだりに外へいづべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
骨折れた蝙蝠傘かうもりがさをさしかけてかどいづれば
心の姿の研究 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
牡丹しべ深くわけいづはち名残なごりかな 芭蕉
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
極みなき地平の物語りいづる物語り
天の海 (新字新仮名) / 今野大力(著)
ああはらはたが腐た人は子の可愛さも分りはすまい、もうお別れ申ますと風呂敷さげて表へいづれば、早くゆけゆけとて呼かへしてはくれざりし。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アーノルドの「あづま」世にいづるの時は近しと聞く、英国の詩宗が文覚を観るの眼光いかんは、読者と共に刮目くわつもくして待つべし。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ほらざれば家の用ふさ人家じんかうづめて人のいづべきところもなく、力強ちからつよき家も幾万斤いくまんきんの雪の重量おもさ推砕おしくだかれんをおそるゝゆゑ、家として雪をほらざるはなし。
人にさそはれ夕凉ゆうすずみいづる時もわれのみはあらかじめ夜露の肌をおかさん事をおもんばかりて気のきかぬメリヤスの襯衣シャツを着込み常に足袋たびをはく。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
曲翠きよくすゐとふ発句ほつくを取りあつめ、集作ると云へる、此道の執心しふしんなるべきや。をういはく、これ卑しき心よりわが上手じやうずなるを知られんと我を忘れたる名聞よりいづる事也。」
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼等かれらため平生へいぜいほとんどなかば以上いじやう無駄むだ使つかはれてほのほかまどくちからまくれてつた。しか餘計よけいれていづほのほかれ自由じいううしなうてこほらうとしてあたゝめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あるひ外壁がいへき上部じようぶしようじたからいづることもあり、また側壁そくへきかしてそこからあふることもある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
しんとして、谷のかけひの趣あり。雲山岫さんしゅうくごとく、白気くだんの欄干を籠めて、薄くむらむらと靉靆たなびくのは、そこから下りる地の底なる蒸風呂の、煉瓦れんがを漏れいづる湯気である。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
這入はひりながらオイ/\貴樣はいさましき根性こんじやうだな日々一文づつ貰ひ居ながら稻葉丹後守樣の御屋敷へまかいづるなどとあま口巾くちはゞツたきことを云ものかなと大いにわらひつゝ文右衞門の容體なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いづればまた曠野ひろのにて燒石やけいし昔し噴出せしまゝなり開墾せんにも二三尺までは灰の如き土にて何も作りがたしとぞ此所こゝは輕井澤より沓掛くつかけ追分小田井の三宿の間なり四里程なれば忽ち小田井に着きて滊車を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
いづべくとして出ずなりぬ梅の宿
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
いづるとると もとよりさだまり有り
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
隣家となりける遲咲おそざききのはなみやこめづらしき垣根かきねゆきの、すゞしげなりしをおもいづるとともに、つき見合みあはせしはなまゆはぢてそむけしえりあしうつくしさ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
●さて熊をとる種々しゆ/″\じゆつあり。かれがをる所の地理ちりにしたがつて捕得とりえやすき術をほどこす。熊は秋の土用よりあなに入り、春の土用に穴よりいづるといふ。
縁日の事からもう一人私の記憶に浮びいづるものは、富坂下とみざかした菎蒻閻魔こんにゃくえんまの近所に住んでいたとかいう瞽女ごぜである。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文士の前にある戦塲は、一局部の原野にあらず、広大なる原野なり、彼は事業をもたらし帰らんとして戦塲に赴かず、必死を期し、原頭の露となるを覚悟して家をいづるなり。
人生に相渉るとは何の謂ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
おびやかし味方に付る時は江戸表えどおもて名乘なのりいづるに必ず便利べんりなるべしと不敵にも思案を定め彼奧座敷に至り燭臺しよくだいあかりをともしとねの上に欣然きんぜんと座を胴卷どうまきの金子はわきの臺に差置さしおき所持の二品を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とつかつかとおもていづれば、廊下をばたばたと走る音して姿は見えずに
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんでえ※等あねら勘次かんじ無意識むいしきにさういつた。かれむねのあたりにいづあせは、わづか曲折きよくせつをなしつゝ幾筋いくすぢかのながるゝみちつくつてる。其處そこには蕎麥そばからからられぬほどづつほこりいてしめつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
尋ねんなど思ひ續くるうち夜は明けしが嬉しや雨も止みぬ馬二ひき曳き來り二方荒神にはうくわうじんといふものに二人づゝ乘すといふ繪に見話には聞しが自ら乘るは珍しく勇み乘りて立ちいづれば雨の名殘の樹々の露えりに冷たく宿しゆく
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
何故なぜでもいけませぬ、わたしわがまゝゆゑまをすまいとおもときうしてもやでござんすとて、ついとつてゑんがはへいづるに、くもなきそらつきかげすゞしく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)