おだや)” の例文
新字:
くりけた大根だいこうごかぬほどおだやかなであつた。おしなぶんけば一枚紙いちまいがみがすやうにこゝろよくなることゝ確信かくしんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
きみばかりでない、ぼく朋友ほういううち何人なんぴといま此名このな如何いかぼくこゝろふかい、やさしい、おだやかなひゞきつたへるかの消息せうそくらないのである。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
まへ内外ないがい火山かざん巡見じゆんけんした場合ばあひ記事きじかゝげていたが、諸君しよくん兩方りようほう比較ひかくせられたならば、國内こくない火山作用かざんさようがいしておだやかであつて
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
だがのいづれの相乘あひのりにも、ひとしくわたしくわんせざることふまでもない。とにかく、色氣いろけいさゝ自棄やけで、おだやかならぬものであつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
錢形平次の前に引出されて、そのおだやかな人柄と、思ひやりの深い言葉を聽くと、性も他愛もなく、娘心の弱々しさに返るのです。
今日けふごと浪路なみぢおだやかに、やがあひとも※去くわこ平安へいあんいはひつゝ芙蓉ふようみねあふこと出來できるやうにと只管ひたすらてんいのるのほかはないのである。
別れて出たては至極しごくおだやかで、白山はくさんあたりから通つて來る、或大工だいくと懇意になつて、其大工が始終長火鉢のそばに頑張つてゐた。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
さうするどくもなく敢へて妙策めうさくろうせずしづかにおだやかにもみ合つてゐる光けいたるやたしかに「さくらかざして」のかんなくもない。
私たちはみんな、何時か死なゝければならないのだし、私を連れて行く病氣はひどく苦しくない、おだやかな漸進的なものなの。私の氣持も安らかよ。
乃ちかねを受けておだやかに(これ彼の言なり)彼等を放てるなり、またそのほかの職務つとめにおいても汚吏の小さき者ならでいと大なる者なりき 八五—八七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
縁側えんがはて、たかひさしあふぐと、くろかはら小口こぐちだけそろつて、ながく一れつえるそとに、おだやかなそらが、あをひかりをわがそこはうしづめつゝ、自分じぶんうすくなつてところであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども勿論もちろんおだやかな日和ひよりばかりはつづきません、ある時はからすが來て折角せつかくえかけたその芽をついばみ、ある時は恐ろしいあらしがあれて、根柢こんていから何ももをくつがへしてしまひます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
元來もとよりぷくつゐなかそだちて他人たにんぜずのおだやかなるいへうちなれば、さして此兒このこ陰氣いんきものに仕立したてあげるたねけれども、性來せいらいをとなしきうへこともちひられねば兎角とかくもののおもしろからず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロミオは言葉ことばおだやかに、この爭端さうたんとるらぬよし反省はんせいさせ、ふたつには殿とののおいかりおもひやれ、と聲色せいしょくやはらげ、ひざげて、さま/″\にまうしましたなれども、中裁ちゅうさいにはみゝしませぬチッバルト
風にもまれて暮したりやうやく五日のさる下刻げこくに及び少し風もしづまり浪もやゝおだやかに成ければわづかに蘇生そせいの心地してよろこびしが間もなく其夜の初更しよかうに再び震動しんどう雷電らいでん颶風ぐふうしきりに吹起ふきおこり以前にばいしてつよければふね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一人、劍持だけはまだ何かおだやかでない目附をしてゐた。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
おきなる島山しまやまいたゞき紫嵐しらんつゝまれ、天地てんちるとして清新せいしんたされてときはま寂寞じやくばくとしていつ人影じんえいなく、おだやかにせてはへすなみろう
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ほそふえで、やがて木賃宿きちんやど行燈あんどうなかえるのであらうと、合點がつてんして、坂上さかがみやゝものひがおだやかにつたのである。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「旦那を殺した奴? そいつはおだやかぢやないな。——一體誰が誰を殺したといふのだ。落着いて話して見るが宜い」
「あなたは、あの人を御存知ないのです——あの人のことを何も仰しやつてはいけませんわ。」私はおだやかに云つた。
「そんぢや、おとつゝあおれつから」といつた。ときばかりはおだやかな挨拶あいさつ交換かうくわんされた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それより二隻にせきあひならんで、海原うなばらとう幾千里いくせんりやがて、芙蓉ふえうみね朝日あさひかげのぞまでの、壯快さうくわいなる想像さうぞうむねえがき、れては、海風かいふうおだやかなる艦橋かんけうのほとり、濱島武文はまじまたけぶみ春枝夫人等はるえふじんらあひかたつて
ちゝおだやかならぬいろうごかして、あらたまつてなにかのとひざすゝめれば、わたし今宵こよひかぎ原田はらだかへらぬ决心けつしんまいつたので御座ござります、いさむゆるしでまいつたのではなく、かして、太郎たらうかしつけて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
分つは勿論の事なれども其中にも成るとならざるとは大いにちがひあることなりたとへば町内に捨物すてものの有りし時拔身ぬきみ白刄しらはなりともさや脇差わきざし何處其處どこそこすてこれ有候としたゝめて訴へればおだやかに聞ゆるなりよつて此訟訴書の無事に御取上に成る樣にとて長助は種々しゆ/″\に心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「すゞめ三羽さんばはと一羽いちはといつてね。」とちやん格言かくげんまで出來できた。それからおもふと、みゝづくをもつて、たちま食料問題しよくれうもんだいにする土地とち人氣にんきおだやかである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「女房か、それとも娘がやられたのか、お前の意氣込みがおだやか過ぎるから、その綺麗な娘のお雪さんぢやあるめえ」
それはさうと、私の最もおだやかな氣持ちが衝動しようどうを受けようとしてゐる。そんな豫感がしますよ。さあ、それが實際になるかどうか見る爲めにとゞまつてゐらつしやい。
たゞそのしろかほあたりから肩先かたさきへかけてやなぎれたうすひかりおだやかにちてる。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
急ぎて大坂まで上り此所よりふねに乘しところをりよく海上もおだやかにて滯留とゞこほりなく讃州丸龜へ到着たうちやくし江戸屋清兵衞と尋ねしに直樣すぐさま知れければ行て見るにはなしよりも大層たいそうなるかまひにて間口八間に奧行廿間餘の旅籠屋にてはたらき女十二三人見世番料理番の下男七八人又勝手にはこもかぶりの酒樽さかだる七八本を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
和吉さんはおだやかな良い人ですよ。——そりや、あの若さですもの、家にばかり居るわけぢやございません。
が、こともおろかや如法によほふ荒海あらうみあまつさ北國日和ほくこくびよりと、ことわざにさへふのだから、なみはいつもおだやかでない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「正面から喉へ短刀を突つ立てられる若い娘が、膝も崩さず、斯んなおだやかな顏で死なれるものだらうか」
きりもかゝり、しももおりる……つきくもればほしくらし、大空おほぞらにもまよひはある。まよひも、それおだやかなれども、むねふさが呼吸いきとぢる、もやくやなあとの、いなびかり、はたゝがみを御覽ごらんぜい。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
口癖に褒めてゐたのは『鬼の面』の品吉だけで——さう/\この二、三日、親分のところの姐さんを褒めてゐたさうですよ。綺麗でおだやかで、人柄が親切らしいつてね。
しづかな、おだやかな日中ひなかしよして、猶且なほか暴風ばうふうまれ、らるゝ、瞬間しゆんかんおもむきあり。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
金があつて情け深くて、人柄がおだやかで、これが昔、人斬庖丁を二本、腰にブラ提げて、肩で風を切つた人とは、どうしても受取れないほどの物柔ものやはらかな中老人だつたのです。
今年ことし三月さんぐわつなかばより、東京市中とうきやうしちうおだやかならず、天然痘てんねんとう流行りうかうにつき、其方此方そちこちから注意ちういをされて、身體髮膚しんたいはつぷこれを父母ふぼにうけたりあへそこなやぶらざるを、と父母ふぼおはさねども、……生命いのちしし
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見たところ背の低い脂肥りの五十前後、顏は死の苦惱もなくおだやかで、何んとなく愚鈍ぐどんにさへ見える表情です。恐らく物慾と女漁をんなあさり以外は、何んの興味も持たない人柄でせう。
平次はおだやかに促しました。