のぼ)” の例文
ゆうすなわちとくとくすなわちゆうと考えられていた。かかる時代にはよしや動物性が混じ、匹夫ひっぷゆう以上にのぼらずとも、それがとうとかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いま廿日はつかつきおもかげかすんで、さしのぼには木立こだちおぼろおぼろとくらく、たりや孤徽殿こきでん細殿口ほそどのぐちさとしためにはくものもなきときぞかし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
子家鴨こあひるはみんながれだって、そらたかくだんだんとのぼってくのを一心いっしんているうち、奇妙きみょう心持こころもちむねがいっぱいになってきました。
彼は努めて驚きを隠し、はるかに△△を励したりした。が、△△は傾いたまま、ほのおや煙の立ちのぼる中にただうなり声を立てるだけだった。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の足が一歩々々梯子段をのぼって行くほど、逆に彼を引きおろすようにする何物かゞあって、少年は心でそれとたゝかいながらあがり詰めた。
ベンヺ おゝ、ロミオ/\、マーキューシオーはおにゃったぞよ! あの勇敢ゆうかんたましひ氣短きみじか此世このよいとうて、くもうへのぼってしまうた。
(お前は今日きょうからおれの子供だ。もう泣かないでいい。お前の前のおかあさんや兄さんたちは、立派りっぱな国にのぼって行かれた。さあおいで。)
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
姨捨山おばすてやまの月(わが心慰めかねつ更科さらしなや姨捨山に照る月を見て)ばかりが澄みのぼって夜がふけるにしたがい煩悶はんもんは加わっていった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
月は野の向こうにのぼって、まるくかがやいていた。銀色ぎんいろもやが、地面じめんとすれすれに、またかがみのような水面すいめんただよっていた。かえるが語りあっていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
しなあさから心持こゝろもち晴々はれ/″\してのぼるにれて蒲團ふとんなほつてたが、身體からだちからいながらにめうかるつたことをかんじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
次の晩、ぼくが、二等船室から喫煙室きつえんしつのほうに、階段をのぼって行くと、上り口の右側の部屋から、溌剌はつらつとしたピアノの音が、流れてきます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
有王 成経殿はこのたび宰相さいしょうの少将にのぼられるといううわさでございます。平氏に刃向はむかうことなどは思いもよらぬように見受けられます。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
王子おうじうえのぼってたいとおもって、とう入口いりぐちさがしたが、いくらさがしても、つからないので、そのままかえってきました。
だからもうこの上、何も云ひはしない。カァター、早く! 早く! 太陽はもう直ぐのぼる。そして私はこの男を行かせなくちやならないのだ。
見て扨は重五郎日頃ひごろ我につらく當りしはかへつなさけありし事かと龍門りうもんこひ天へのぼ無間地獄むげんぢごく苦痛くつうの中へ彌陀如來みだによらい御來迎ごらいかうありて助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此処の縁側から、上野の森の上にのぼる、後の月を眺める景色の良さは、明るい昼の太陽の下でも、充分に想像がつきます。
わたくしちうんで船室せんしつかたむかつた。昇降口しようかうぐちのほとり、出逢であひがしらに、下方したからのぼつてたのは、夫人ふじん少年せうねんとであつた。
翌朝あけのあさむねくもあふいで、いさましく天守てんしゆのぼると、四階目しかいめ上切のぼりきつた、五階ごかいくちで、フトくらなかに、金色こんじきひかりはなつ、爛々らん/\たるまなこ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あの先代半六が隠居所となっていた味噌納屋の二階への梯子段はしごだんのぼったり降りたりするには、足もとがおぼつかなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
駅長は親切に私をいたわって階壇をのぼるとその後から紳士と工夫頭とがついて来た。壇を昇りきると岡田が駆けて来て
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
九階は白き木造でそびえ五階は八角柱であり、白と黒とのだんだん染めであったと思う。私は二つとものぼって見た事を夢の如く思い起す事が出来る。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
何の信仰! 何の希望! 木村は葉子がえた道を——行きどまりの袋小路を——天使ののぼり降りする雲のかけはしのように思っている。あゝ何の信仰!
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ぼうさんはそのうち人里ひとざとに出て、ほっと一息ひといきつきました。そしてはなやかにさしのぼった朝日あさひかって手をわせました。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ひばりくん、それはちがうでしょう? なるほど、きみうみに、野原のはらに、まちに、むらに、びかけている。そして、くもうえまでたかのぼってびかけている。
平原の木と鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからはこのやま不死ふしやまぶようになつて、そのくすりけむりはいまでもくもなかのぼるといふことであります。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
博士の云うとおり、○○獣の落ちた穴の中からは、最前までゆうゆうと立ちのぼっていた白気はっきは見えなくなっていた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
折から空高くさしのぼっているお月様の光でその男を見ますと、それは武士らしいいかにも強そうな男でした。その男は、二郎次が目をさましたのを見ると
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
みちかたわらにこれを立て少しくもたれかかるようにしたるに、そのまま石とともにすっと空中にのぼり行く心地ここちしたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いまのぼるのをなさい、なん神々かう/″\しい景色けしきではないか』とやさしく言葉ことばをかけるまで、若者わかものなにおもひまもなく、ただ茫然ばうぜん老人らうじんかほたのです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
高々たかだかのぼっているらしく、いまさら気付きづいた雨戸あまど隙間すきまには、なだらかなひかりが、吹矢ふきやんだように、こまいのあらわれたかべすそながんでいた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
なぜならば彼らは山国の住民で日夜山をのぼりする。それもただ降り昇りするだけでなくて、重い荷物を背負って急いで降り昇りする程強い人民である。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
父は主計官としてだいぶ好い地位にまでのぼった上、元来が貨殖かしょくの道に明らかな人であっただけ、今では母子共おやことも衣食の上に不安のうれいを知らない好い身分である。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
裏の坂をのぼってゆくのを見送った後、そのまんまぼんやり窓にもたれていると、しばらくしてからその同じ坂を、花籠を背負い、小さな帽子をかぶった男が
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それに『よりいい条件』の生活がしたかったら、なぜもっと、勉強して上の方へ、のぼるようにしないんだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
何んでも御階段をのぼり切ったところに柱があってその装飾として四頭のちんを彫れという御命令であった。
玄竹げんちく本殿ほんでんのぼつて、開帳中かいちやうちう滿仲公みつなかこう馬上姿ばじやうすがた武裝ぶさうした木像もくざうはいし、これから別當所べつたうしよつて、英堂和尚えいだうをしやう老體らうたい診察しんさつした。病氣びやうき矢張やは疝癪せんしやくおもつたのであつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
向日葵ひまわり毎幹まいかん頂上ちょうじょうただ一花いっかあり、黄弁大心おうべんたいしんの形ばんごとく、太陽にしたがいて回転す、し日が東にのぼればすなわち花は東にむかう、日が天になかすればすなわち花ただちに上にむか
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「お日様、お早うございます。今日きょうまた椰子の実をいただきに出ました。」と、蟹はお日様に御礼を言います。お日様はにこにこしてだんだん高く空におのぼりになります。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
皇朝くわうてうの昔、七〇誉田ほんだの天皇、兄の皇子みこ七一大鷦鷯おほさざききみをおきて、すゑ皇子みこ七二菟道うぢきみ七三日嗣ひつぎ太子みことなし給ふ。天皇崩御かみがくれ給ひては、兄弟はらからゆづりて位にのぼり給はず。
重く河原のおもてを立ちこめていた茜色を帯びた白い川霧がだんだん中空をさしてのぼってくる朝陽の光に消散して、四条の大橋を渡る往来の人の足音ばかり高く聞えていたのが
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
このうるはしかたちをば見返り勝に静緒は壁側かべぎはに寄りて二三段づつ先立ちけるが、彼のうつむきてのぼれるに、くし蒔絵まきゑのいとく見えければ、ふとそれに目を奪はれつつ一段踏みそこねて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
小初は腰の左手を上へ挙げて、額に翳している右の腕にえ、まぶしくないよう眼庇まびさしを深くして、今更いまさらのように文化の燎原りょうげんに立ちのぼる晩夏の陽炎かげろうを見入って、深い溜息ためいきをした。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
せめて燒跡やけあとなりとも弔はんと、西八條の方に辿り行けば、夜半よはにや立ちし、早や落人おちうどの影だに見えず、昨日きのふまでも美麗に建てつらねし大門だいもん高臺かうだい、一夜の煙と立ちのぼりて、燒野原やけのはら
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
へえゝ成程なるほど、十八けんめんとは聞いてゐましたが、立派りつぱなもんですな。近「さ段々だん/″\のぼるんだ。梅「へえなんだかうも滅茶めちやでげすな……おゝ/\大層たいさう絵双紙ゑざうしあがつてゐますな。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
みなのぞきていさゝかも家内に故障さゝはりなく平安無事ぶじなる者をえらび、神㕝じんじの前のあけ神主沐浴斎戒もくよくさいかい斎服さいふくをつけて本社にのぼり、えらびたる人々の名をしるして御鬮みくじにあげ、神慮しんりよまかせて神使とす。
小止おやみもなく紛々として降来ふりくる雪に山はそのふもとなる海辺うみべの漁村と共にうずも天地寂然てんちせきぜんたる処、日蓮上人にちれんしょうにんと呼べる聖僧の吹雪ふぶきに身をかがめ苦し山路やまじのぼり行く図の如きは即ち然り。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしながらそのようなたか殿堂でんどう近寄ちかよることや堂上どうじようのぼることは年齡ねんれい無關係むかんけいなことであるから、わが讀者どくしやたま/\かような場所ばしよ居合ゐあはせたとき大地震だいぢしん出會であふようなことがないともかぎらぬ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
と、縄は物があってかけたように空中にかかったので、手許にある分を順順に投げあげると縄は高く高くのぼっていって、その端は雲の中へ入った。それと共に手に持っていた縄もなくなった。
偸桃 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そしてふかぶかと胸一杯むねいつぱいに匂やかな空氣を吸込すひこめば、ついぞ胸一杯に呼吸したことのなかつた私の身體からだや顏には温い血のほとぼりがのぼつて來て何だか身内に元氣が目覺めて來たのだつた。………
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
やはり堂にのぼらずしてみたるは恥かしき次第なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)