幾度いくど)” の例文
れか這入はいって来る、電報がかかる、訪問客が来る、折角せっかく考えていたことを中途で妨げられて、またヤリ直すことが幾度いくどあるか知れぬ。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それが出来たら今度はまたサラダ油を一杯混ぜてまた酢を半杯という風に都合サラダ油を三杯酢を二杯の割で幾度いくどにもよく混ぜます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「これからをつけろ。」と、小僧こぞうゆるしてやりました。小僧こぞうは、幾度いくどあたまげて、ほかのくるまといっしょにはしりました。
はととりんご (新字新仮名) / 小川未明(著)
幾度いくどか二人はつんのめりそうになった。両腕を互の首根っ子に廻わして、お互にまた引きずったり、もたれかかったりしていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
監獄にいた時どうだとか云うことを幾度いくども云って、息張いばるかと思えば、泣言を言っている。酒のにおいが胸の悪い程するのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
さうすると勘次かんじちからきはめてうす中央ちうあうつ。それが幾度いくど反覆はんぷくされた。には木立こだち陰翳かげつてつきひかりはきら/\とうすから反射はんしやした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
燕は目をきょろきょろさせながら羽根を幾度いくどか組み合わせ直してくびをちぢこめてみましたが、なかなかこらえきれない寒さでつかれません。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
じつは、故郷こきやうへの往復わうふくに、ころ交通かうつう必要上ひつえうじやうむを幾度いくど長途ながみちくるまにたよつたため、何時いつとなくるのにれたものであらうとおもふ。……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そこへゆくと歌のすきなマスノは、きりきりいをするような苦労をした。ただ歌いたいために有頂天うちょうてんになり、親にそむいて幾度いくどか家出をした。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
くさなか半身はんしんぼつして、二人ふたりはいひあらそつてゐた。をとこはげしくなにかいひながら、すぶるやうにをんなかた幾度いくど小突こづいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そういうことが、幾度いくどもくりかえされたので、五—六年のうちに、何百匹というウサギが、裏庭に、うずめられました。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『ですからなぜ、あの家住みませんでしたか。私あの家、面白いの家と思いました』と幾度いくど繰返くりかえして口惜くやしがった。
かういつたところで、あぢはひは、あなたがたがめい/\に、幾度いくどもくりかへんでなければおこつてないとおもひます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
そのわたくし幾度いくどとなくこの竜宮街道りゅうぐうかいどうとおりましたが、何度なんどとおってても心地ごこちのよいのはこの街道かいどうなのでございます。
かうしたおもひを取集めて考へることは、一しやうちう幾度いくどもないやうにさへ思はれた。人間はたゞ※忙そうばううちに過ぎてく……あぢはつてる余裕すらないと又繰返した。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ふゆ月夜つきよなにかに田町たまちあたりをあつめにまわると土手どてまで幾度いくどいたことがある、なにさむいくらゐきはしない、何故なぜだか自分じぶんらぬが種々いろ/\ことかんがへるよ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
近頃ちかごろはそれが段々だん/\いてて、宗助そうすけ機會ばあひも、ねん幾度いくど勘定かんぢやう出來できくらゐすくなくなつたから、宗助そうすけ役所やくしよ出入でいりに、御米およねまたをつと留守るす立居たちゐ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
幾度いくどとなく有りがとうを繰返くりかえしたのであったが、それがその人の一生涯の恐らく最終の感激であった。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
致さず押返おしかへして予が沙汰に及ばざる内は幾度いくども御ことわり申立べし是は其方より上意をそむくにはあらいはば我等が御意を背儀なれば少しも心遣ひなく存じをるべしと御懇切ねんごろなる御意を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
またどうすゞをまぜるとるのに容易よういで、しかもかたくつて丈夫じようぶであるといふことも、最初さいしよ偶然ぐうぜんつたらしいのでありますが、幾度いくどかの經驗けいけんどう九分くぶすゞ一分いちぶをまぜあはすと
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その地図の下に立ってみすぼらしい身装みなりの青年が、その地図の上の距離を計ったり、っと凝視みつめていたりして、淋しい表情で帰って行くのを、私は幾度いくど見かけたか知れなかった。
郷愁 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
つてうさぎ氣遣きづかはしげに自分じぶんかた幾度いくどました、それから爪先つまさきあがり、あいちやんの耳元みゝもとちかくちせて、『あいちやんが死刑しけい宣告せんこくもとにある』とふことをさゝやきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
幾度いくどけてもチヤンと、存生中ぞんしやうちゆう物言ものいとほり、音色おんしよくはつするのだから其人そのひとふたゝ蘇生よみかへつ対話たいわでもするやうな心持こゝろもちになるのだから、おほきにこれ追善つゐぜんためからうと考へられまする。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
二箇所にかしよ火元ひもとゆきもつしにかゝつたが、祖母そぼいへよりも身體からだ大事だいじだといつて重幸少年しげゆきしようねんせいしたけれども、少年しようねんはこれをきかないで、幾度いくどゆきはこんでて、つひめたといふ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ねえ、おじさん、小言こごとを言うわけじゃないけど、幾度いくども聞くぜ、その話は……。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ワグネリスムスの波は、幾度いくども幾度も繰り返して世界の音楽界を洗い去った。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ひとうはさととも彼女かのぢよいたではだん/\その生々なま/\しさをうしなふことが出來できたけれど、なほ幾度いくどとなくそのいたみは復活ふくくわつした。彼女かのぢよしづかにゐることをつた。それでもなほそのくゐには負惜まけをしみがあつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
林太郎はしろ公といっしょに幾度いくどとなく往来おうらいのすみっこにたち止まっては
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
とまたきくので、正三君は同じことを幾度いくども答えなければならなかった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『うん、あのはなしか。あれは幾度いくどいても面白おもしろいな。』と、ひかけた但馬守たじまのかみは、不圖ふと玄竹げんちくたてあたまに、剃刀創かみそりきずが二ヶしよばかりあるのを發見はつけんして、『玄竹げんちく、だいぶあたまをやられたな。どうした。』
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
足の疲れはいよいよ甚しく、時には犬に取り巻かれ人に誰何すいかせられて、からくも払暁あけがた郡山に達しけるが、二本松郡山の間にては幾度いくどいこいけるに、初めは路のかたわらの草あるところにこしを休めなどせしも
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
... くやしがりて幾度いくども仕合をいどむはほとんど国辱こくじょくとも思えばなるべし)この技の我邦に伝わりし来歴はつまびらかにこれを知らねどもあるいはいう元新橋鉄道局技師(平岡凞ひらおかひろしという人か)米国より帰りてこれを
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ある晩のこと茶音頭の手事てごとを稽古していると佐助のみが悪くてなかなか覚えない幾度いくどやっても間違えるのに業をやして例のごとく自分は三味線を下に置き、やあチリチリガン、チリチリガン
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人で畫板ゑばんたづさ野山のやま寫生しやせいしてあるいたことも幾度いくどれない。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
霜燒けがなほりてシャツを洗ふなり幾度いくども濯ぎかたくしぼれる
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
その工合一つで火気を経済的に使えるのだ。これはスープ鍋だが何を煮る時にも使う。火は朝一度起したきりで幾度いくどの料理でも出来る。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かれは、こういって、ぶらぶらしていました。そして、に、幾度いくどということなく、戸口とぐちたり、はいったりしていました。
生きている看板 (新字新仮名) / 小川未明(著)
教師けうしそのあとで、嬰兒あかご夜泣よなきをしてへられないといふことでぢき餘所よそした。幾度いくど住人すみてかはつて、今度こんどのはひさしくんでるさうである。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
足掛あしかけねんまたが籠城ろうじょう……つき幾度いくどとなくかえされる夜打ようち朝駆あさがけ矢合やあわせ、い……どっとおこときこえ
身は桜町家さくらまちけ一年いちねん幾度いくどの出替り、小間使こまづかひといへば人らしけれど、御寵愛ごてうあいには犬猫いぬねこ御膝おひざをけがす物ぞかし。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さういふさわぎをして幾度いくどかもぢ/\と身體からだうごかして勘次かんじおもつてばあさんのまへすゝんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
妹の頭は幾度いくども水の中に沈みました。時には沈み切りに沈んだのかと思うほど長く現われて来ませんでした。若者も如何かすると水の上には見えなくなりました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
かういつても、あなたがたかんがへててくれなければわからないことだが、幾度いくどもくりかへしてもらひたくおもひます。意味いみからいへば、かはおとがよいといふだけのことです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
私は何となくこういう風に打捨てられた荒地をばかつて南支那へんにある植民地の市街の裏手、または米国西海岸の新開地の街なぞで幾度いくども見た事があるような気がする。
あまりに多くありすぎるのを考えて愁然しゅうぜんとし、『人生は短かすぎる』と幾度いくども言って嘆息たんそくした。
という句があるが、コウいう心持こころもちでおれば、至る所に青山せいざんありで、い心持がしようと思う。おのれをあざむくのかも知れないが、幾度いくどダマされても、私はこの心持でおりたいと思う。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
『だうりで先刻さつきから幾度いくども、證明書しようめいしよちですかつて、婦長ふちやうさんがかほしました。』
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
そして、こちらの計画がうまく奏効そうこうするだろうか。実に待遠まちどおしい、ドキドキする三時間でした。もう振向こうか、もう振向こうかと、辛抱しんぼうがし切れなくなって、幾度いくど頸を廻しかけたか知れません。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
にんじんは、その時まず、一人でいることの快楽を味わうのだ。彼は暗闇の中でいろんなことを考えるのが好きである。一日中のことを思い出してみる。幾度いくどとなく、あぶないところを助かってよかった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
『けど、もつと分明はつきりへとつたつてそれは無理むりよ』あいちやんはきはめてつゝましやかにこたへて、『でも、わたしはじめッから自分じぶん自分じぶんわからないんですもの、幾度いくどおほきくなつたりちひさくなつたりしたんで、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)