さけ)” の例文
岸を噛む怒濤が悪魔のほえさけぶように、深夜の空にすさまじく轟いているほかは、ひっそりと寝鎮ねしずまった建物の中に、何の物音もしていない。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「何するんだい。慶次郎。何するんだい。」なんて高くさけびました。みんなもこっちを見たので私も大へんきまりが悪かったのです。
鳥をとるやなぎ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ビーちゃん、せみはいる?」と、とおくから、こちらをさけびました。B坊ビーぼうは、なんとなく、すまなそうなかおつきをして、あたまをふり
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
火事くわじをみて、火事くわじのことを、あゝ火事くわじく、火事くわじく、とさけぶなり。彌次馬やじうまけながら、たがひこゑはせて、ひだりひだりひだりひだり
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いっしょに笑って、それで別れて帰ってゆく、小林先生のうしろ姿が、つぎの曲がり角に消えさるまで、生徒たちは口ぐちにさけんだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
吾々われ/\覺醒かくせいせりとさけぶひまに、私達はなほ暗の中をわが生命いのちかわきのために、いづみちかしめりをさぐるおろかさをりかへすのでした。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ワーッという声のなだれ、かかれ、かかれと、ののしるさけび。すさまじい山つなみは、よせつかえしつ、満山を血しぶきにめる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
与一はあらゆるものへ絶望を感じている今の状態から自分を引きずり上げるかのような、まるで、笞のようにピシピシした声でさけんだ。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
玄竹げんちくてこすりのやうなことをつて、らにはげしく死體したいうごかした。三にん武士ぶしは、『ひやア。』とさけんで、またした。——
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
『ぼくと恋愛だって!』と、この男はさけびました。『そいつはさぞかし愉快ゆかいだろうな! 見物人は夢中むちゅうになってさわぎたてるだろうよ!』
今度こんどふたつのさけごゑがして、また硝子ガラスのミリ/\とれるおとがしました。『胡瓜きうり苗床なへどこいくつあるんだらう!』とあいちやんはおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
このごろ時局だ時局だとさけんでいる人たちはむろんのこと、それにおどらされている人たちも、自分では本気のつもりなんですよ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
見性けんしやうしたに、うれしさのあまり、うらやまあがつて、草木さうもく國土こくど悉皆しつかい成佛じやうぶつおほきなこゑしてさけんだ。さうしてつひあたまつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たッた一をでも宣言おほせられたならば、小生それがし滿足まんぞくいたす。たゞ嗚呼あゝ」とだけさけばっしゃい、たッた一言ひとことラヴとか、ダヴとか宣言おほせられい。
こういうとき、私は強い衝動にられて、し許さるるなら私は大声げて「タロー! タロー!」と野でも山でもさけまわり度い気がする。
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「やあ! 女だ。」とまた群衆はさけんだ。橋桁に、足溜あしだまりを得た人夫は、屍体を手際よく水上に持ち上げようとしているらしい。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「あっ。」とわか姉さんはさけびました。そして竹竿たけざおをほうり出すと、両手をひろげて新吉しんきちのからだを受け止めようとしました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
見物人が「やア御両人ごりやうにん。」「よいしよ。やけます。」なぞとさけぶ。笑ふ声。「静かにしろい。」としかりつける熱情家ねつじやうかもあつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
わたくしあきれてそうさけびましたが、しかしおじいさんはれいによってそんなこと当然あたりまえだとった風情ふぜいで、ニコリともせずわれるのでした。——
見合せ一せいさけんで肩先より乳の下まで一刀に切放せば茂助はウンとばかりに其儘そのまゝしゝたる處へ以前の曲者くせもの石塔せきたふかげよりあらはれ出るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けたたましい動物のさけびと共にいからしてんで来た青年と、圜冠句履えんかんこうりゆるけつを帯びてった温顔の孔子との間に、問答が始まる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「あのひところしてください。」——つまはさうさけびながら、盜人ぬすびとうですがつてゐる。盜人ぬすびとはぢつとつまままころすともころさぬとも返事へんじをしない。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
シューラはシャツ一まいで立ったまま、おいおいいていた。と、ドアのそと騒々そうぞうしい人声ひとごえや、にぎやかなさけごえなどが聞えた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
「猫の子!」と、ジナイーダはさけぶと、ぱっと椅子から立ち上がって、毛糸のまりをわたしのひざへほうり出したまま、部屋からけ出して行った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
私はふと口ごもりながら、あの林のなかの空地にあった異様な恰好かっこうをした氷倉こおりぐらだの、その裏の方でした得体えたいの知れないさけび声だのを思い浮べた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かれまた野茨のいばらかぶうつつて、其處そこしげつた茅萱ちがやいてほのほが一でうはしらてると、喜悦よろこび驚愕おどろきとの錯雜さくざつしたこゑはなつて痛快つうくわいさけびながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
金太郎ははじめ、氣にもかけず聞きながしてゐたが、「助けてくれえ、助けてくれえ、とさけびながら下りていつたさうだ」
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
軍曹殿ぐんそうどの軍曹殿ぐんそうどのはやはやく、じうはやく‥‥」と、中根なかねきし近寄ちかよらうとしてあせりながらさけんだ。じうはまだ頭上づじやうにまつげられてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
小原は血眼になってさけびまわった、とこのとき三年生は調神社つきのみやじんじゃに集まって何事かを計画しているといううわさがたった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
『それ發射はつしや!。』とわたくしさけ瞬間しゆんかん日出雄少年ひでをせうねんすかさず三發さんぱつまで小銃せうじう發射はつしやしたが、猛狒ゴリラ平氣へいきだ。武村兵曹たけむらへいそうおほいいかつて
ある時書院の雨戸をしめて居た妻がきゃっとさけんだ。南の戸袋に蛇が居たのである。雀が巣くう頃で、雀のにおいを追うて戸袋へ来て居たのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
てられる立禁たちきんふだ馘首かくしゆたいする大衆抗議たいしうこうぎ全市ぜんしゆるがすゼネストのさけび。雪崩なだれをはん×(15)のデモ。
わたしは、やっとのことで、おおかみなんていなかったんだ、あの「おおかみがきた」というさけび声は、わたしのそら耳だったのだ、とわかりました。
わざと五つの女の子をひざの上にき寄せて、若い妻は上向いていた。実家へ帰る肚を決めていた事で、わずかにさけび出すのをこらえているようだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
艇長はついに云った。気の毒ながら、この向う見ずの記者に下艇げていして貰うより外はないと。すると先刻さっきからジッと考えこんでいた進少年が大声でさけんだ。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そへてふくろふさけ一段いちだんものすごしおたか決心けつしん眼光まなざしたじろがずおこゝろおくれかさりとては御未練ごみれんなりたかこゝろさきほどもまをとほきはめし覺悟かくごみちひと二人ふたり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロボはうなりもさけびもせず、だまってなすがままに身をまかせた。その目は光っているが、私たちには向けられていない。遠くの草原をじっと見ている。
一行中の朴拳闘ぼくけんとう選手が、この男をみるなり、「金徳一だ!」とさけび、けよって手をにぎっていましたが、その男の表情は、依然いぜん白痴はくちに近いものでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
このときなみだはらはらといてた。地面ぢめんせ、気味きびわるくちびるではあるが、つちうへ接吻せつぷんして大声おほごゑさけんだ。
若崎は拝伏はいふくして泣いた。供奉ぐぶ諸官、及び学校諸員はもとより若崎のあの夜の心のさけびを知ろうようは無かった。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
らせんといふなららん。らうとおもへば、どんなことつてもきつつてせるが、ナニ、んなくそツたれ貝塚かひづかなんかりたくはい』とさけぶのである。
と思うと、ワッとさけんで逃げだしたいのですが、おそろしさに、からだがしびれたようになって、声をたてることも、身うごきすることもできなくなってしまいました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大聲おほごゑで『雲飛うんぴ先生せんせい、雲飛先生! さう追駈おつかけくださいますな、わづか四兩のかねで石を賣りたいばかりに仕たことですから』と、あだか空中くうちゆうひとあるごとくにさけるのに出遇であつた。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
佐助は我が眼前朦朧もうろうとして物の形の次第しだいに見え分かずなり行きし時、俄盲目にわかめくらあやしげなる足取りにて春琴の前に至り、狂喜きょうきしてさけんで曰く、師よ、佐助は失明いたしたり
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
我を助けよ助けよとさけびぬれど、聞き入れず。つひに切らるるとおぼえてゆめめたりとかたる。
国家事業であるから世間の人に私の品物しなものを買えとさけんで押売りするようなことになりはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
アッとさけもなく、うしなつたラランは、おそろしいはやさでグングンと下界したちていつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
こう一言さけんだお政は、きゃくのこした徳利とくりを右手にとって、ちゃわんを左手に、二はい飲み三ばい飲み、なお四はいをついだ。お政の顔は皮膚ひふがひきつって目がすわった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一年ひとゝせせきといふ隣駅りんえき親族しんぞく油屋が家に止宿ししゆくせし時、ころは十月のはじめにて雪八九尺つもりたるをりなりしが、夜半やはんにいたりて近隣きんりん諸人しよにんさけよばはりつゝ立さわこゑねふりおどろか
彼は小父おじをどんなに見違みちがえていたことかと考えた。自分じぶんから見違えられていたために、小父はかなしんでいるのだと考えた。彼は後悔こうかいねんにうたれた。こうさけびたい気がした。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)