口惜くちを)” の例文
きことにしてかねやらんせうになれ行々ゆく/\つまにもせんと口惜くちをしきことかぎくにつけてもきみさまのことがなつかしくにまぎれてくに
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
知られで永くみなんこと口惜くちをしく、ひとつには妾がまことの心を打明け、且つは御身の恨みの程を承はらん爲に茲まで迷ひ來りしなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
も見ずににげさりけり斯ることの早兩三度に及びし故流石さすがの久八もいきどほり我が忠義のあだ成事なること如何いかにも/\口惜くちをしや今一度あうて異見せん者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つけられていると聞いて「男の子やもいとけなけれど人中に口惜くちをしきこと数々あらん」とかの女は切なくうたったこともあった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かしこう心定りて口惜くちをしき事なく、悲しきことなく、くやむことなく恋しきことなく、只本善ほんぜんの善にかへりて、一意に大切なるは親兄弟さては家の為なり。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
されど狼狽うろたへたりと見られんは口惜くちをしとやうに、にはかにその手を胸高むなたかこまぬきて、動かざること山の如しと打控うちひかへたるさまも、おのづからわざとらしくて、また見好みよげにはあらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
他に詮術せんすべのあらばこそ、口惜くちをしけれど吾はたゞ
手前てまへ口惜くちをしいとぞんじまして。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ういふ樣子やうすのやうなことをいふてきましたかともひたけれど悋氣男りんきをとこ忖度つもらるゝも口惜くちをしく、れは種々いろ/\御厄介ごやつかい御座ござりました
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
など書きつらねたるさへあるに、よしや墨染の衣に我れ哀れをかくすとも、心なき君にはうはの空とも見えん事の口惜くちをしさ、など硯の水になみだちてか、薄墨うすずみ文字もじ定かならず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
互に憎し、口惜くちをしとしのぎを削る心のやいばを控へて、彼等は又相見あひみざるべしと念じつつ別れにけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うつもらふがよい懇切ねんごろさうに申きけ居直ゐなほりて御奉行樣私よりも願ひ上ます妹の安は此三次めが殺せしと承まはる上からはすぐにも打果うちはたすべきやつなるに現在げんざい妹の敵と名乘なのるそばに居ながら手も出されぬ我が身は如何に口惜くちをしとがみを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
他處目よそめうらやましうえて、面白おもしろなりしが、旦那だんなさまころはからひの御積おつもりなるべく、年來としごろらぬことなきいへきをばかり口惜くちをしく
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
口惜くちをしとの色はしたたかそのおもてのぼれり。貫一は彼が意見の父と相容あひいれずして、年来としごろ別居せる内情をつまびらかに知れば、めてその喜ぶべきをも、かへつてかくうれひゆゑさとれるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
申すも恐れある事ながら、御父重盛卿は智仁勇の三徳をそなへられし古今の明器めいき。敵も味方も共に景慕する所なるに、君には其の正嫡と生れ給ひて、先君の譽をきずつけん事、口惜くちをしくはおぼさずや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
見わたすをかの若葉のかげ暗う、過ぎゆきけんかげも見えぬなん、いと口惜くちをしうもゆかしうもたゞ身にしみてうちながめられき。
すゞろごと (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母親はゝおやあまきならひ、毎々こと/″\にしみて口惜くちをしく、父樣とゝさんなんおぼすからぬが元來もと/\此方こちからもらふてくだされとねがふてつたではなし
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
無下むげいやしきたねにはるまじ、つまむすめそれすらもらざりし口惜くちをしさよ、宿やどあるじ隣家となりのことなり、はば素性すじやうるべきものと、むなしくはなどすごしけん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此方こちら此通このとほりつまらぬ活計くらしをしてれば、御前おまへゑんにすがつてむこ助力たすけけもするかと他人樣ひとさま處思おもはく口惜くちをしく、我慢がまんではけれど交際つきあひだけは御身分ごみぶん相應さうおうつくして
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
正太は何故なにとも得ぞ解きがたく、烟のうちにあるやうにてお前はどうしても変てこだよ、そんな事を言ふはづは無いに、可怪をかしい人だね、とこれはいささか口惜くちをしき思ひに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
正太しようた何故なにともきがたく、はたのうちにあるやうにておまへうしてもへんてこだよ、其樣そんことはづいに、可怪をかしいひとだね、とれはいさゝか口惜くちをしきおもひに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なにきておんさげすみはづかしゝ、むつましかりしも道理だうり主從しうじゆうとはのみなりしならんなど、きみおもはれたてまつらん口惜くちをしさよ、これゆゑ雪三せつざうゆゑなり、松野まつの邪心じやしん一ツゆゑぞ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
昼も夢に見て独言ひとりごとにいふ情なさ、女房の事も子の事も忘れはててお力一人に命をも遣る心か、浅ましい口惜くちをしいらい人と思ふに中々言葉はいでずして恨みの露を目の中にふくみぬ。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ひるゆめ獨言ひとごとにいふなさけなさ、女房にようぼうことことわすれはてゝおりき一人ひとりいのちをもこゝろか、あさましい口惜くちをしいらいひとおもふに中々なか/\言葉ことばいでずしてうらみのつゆうちにふくみぬ。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
五日いつかとたゝずにかぶとをぬがなければらないのであらう、そんなうそきの、ごまかしの、よくふかいおまへさんをねえさん同樣どうやうおもつてたが口惜くちをしい、もうおきやうさんおまへにははないよ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ものいはゞ振切ふりきらんずそでがまへあざけるやうな尻目遣しりめづか口惜くちをしとるもこゝろひがみか召使めしつかひのもの出入でいりのものゆびればすくなからぬ人數にんずながら一人ひとりとして相談さうだん相手あひてにと名告なのりづるものなし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
内々は彼方あちらがたに成たるも口惜くちをし、まつりは明後日あさつて、いよいよ我がかたが負け色と見えたらば、破れかぶれに暴れて暴れて、正太郎がつらきず一つ、我れも片眼片足なきものと思へばやすし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
聞く毎々ことごとに身にしみて口惜くちをしく、父様ととさんは何とおぼし召すか知らぬが元来もともと此方こちから貰ふて下されと願ふて遣つた子ではなし、身分が悪いの学校がどうしたのと宜くも宜くも勝手な事が言はれた物
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大威張に出這入ではいりしても差つかへは無けれど、彼方あちらが立派にやつてゐるに、此方がこの通りつまらぬ活計くらしをしてゐれば、御前の縁にすがつてむこ助力たすけを受けもするかと他人様ひとさま処思おもはく口惜くちをしく
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ふいとつてうちをば御出おであそばさるゝ、行先ゆくさきいづれも御神燈ごじんとうしたをくゞるか、待合まちあひ小座敷こざしき、それをば口惜くちをしがつてわたしうらみぬきましたけれどしんところへば、わたし御機嫌ごきげんりやうがわるくて
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三之助に雑煮のはしも取らさるると言はれしを思ふにも、どうでも欲しきはあの金ぞ、恨めしきは御新造とお峯は口惜くちをしさに物も言はれず、常々をとなしき身は理屈づめにやり込るすべもなくて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
口惜くちをしげに相手あひてにらみしこともありしがそれは無心むしんむかしなり性來せいらい虚弱きよじやくとて假初かりそめ風邪ふうじやにも十日とをか廿日はつか新田につた訪問はうもんおこたれば彼處かしこにもまた一人ひとり病人びやうにん心配しんぱい食事しよくじすゝまず稽古けいこごとにきもせぬとか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
田中屋たなかや柔和おとなしぶりにごまかされて、一つは學問がくもん出來できおるをおそれ、横町組よこてうくみ太郎吉たらうきち、三五らうなど、内々ない/\彼方あちらがたになりたるも口惜くちをし、まつりは明後日あさつて、いよ/\かたいろえたらば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
身は疳癪かんしやくに筋骨つまつてか人よりは一寸法師ぼし一寸法師とそしらるるも口惜くちをしきに、吉や手前てめへは親の日になまぐさをやつたであらう、ざまを見ろ廻りの廻りの小仏と朋輩の鼻垂れに仕事の上のあだを返されて
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
疳癪かんしやく筋骨すぢぼねつまつてかひとよりは一寸法師いつすんぼし一寸法師いつすんぼしそしらるゝも口惜くちをしきに、きち手前てめへおやなまぐさをやつたであらう、ざまをまはりのまはりの小佛こぼとけ朋輩ほうばい鼻垂はなたれに仕事しごとうへあだかへされて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
うらめしきは御新造ごしんぞとおみね口惜くちをしさにものはれず、常〻つね/″\をとなしき理屈りくつづめにやりこめすべもなくて、すご/\と勝手かつててば正午しようご號砲どんおとたかく、かゝるをりふし殊更ことさらむねにひゞくものなり。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あのころ旦那だんなさまが離縁りえんをやると一言ひとことおつしやつたが最期さいごわたし屹度きつと何事なにごと思慮しりよもなくいとまいたゞいて、自分じぶん不都合ふつがふたなげて、此樣こん不運ふうんな、なさけない、口惜くちをしいてんめておきなさるなら
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
家藏持參いへくらぢさん業平男なりひらをとこたまかほ我等われらづれに勿體もつたいなしお退きなされよたくもなしとつれなしやうしろむきにくらしきことかぎならべられても口惜くちをしきはそれならずけぬこゝろにあらはれぬむねうらめしく君樣きみさまこそは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くすがながら口惜くちをしきなりりとてもひとこと斷念あきらめがたきはなにゆゑぞはでまんの决心けつしんなりしが親切しんせつことばきくにつけて日頃ひごろつゝしみもなくなりぬと漸々やう/\せまりくる娘氣むすめぎなみだむせびて良時やゝありしが
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)