かへつ)” の例文
『いや/\、わたくしかへつて、天外てんぐわい※里ばんり此樣こんしまから、何時いつまでも、君等きみら故郷こきようそらのぞませることなさけなくかんずるのです。』と嘆息たんそくしつゝ
内儀かみさんは什麽どんなにしてもすくつてりたいとおもしたら其處そこ障害しやうがいおこればかへつてそれをやぶらうと種々しゆじゆ工夫くふうこらしてるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それがかへつて未だ曾て耳にしたためしのない美しい樂音を響かせて、その音調のあやは春の野に立つ遊絲かげろふの微かな影を心の空にゆるがすのである。
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
郵船会社の方がかへつて四円乃至ないし四円五十銭と申すのは、余りに公平を欠きまする様で——第一に国家の公益で無い様に思ひまするので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
わたしいまゐるところ日本にほんいえでございます。わたし日本にほんうちきでございます。日本にほん西洋家屋せいようかおくはお粗末そまつかへつかんじがわるうございます。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
かへつて説淺草福井町に駕籠舁かごかきを渡世として一人は權三といひ一人は助十とよび二人同長屋に居てまづしきくらしなれども正直ものといはれ妻子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
カイアヹエ君は又仲介者を立ててこの社長の文章を詰問して取消を請求したが、社長は応ぜざるのみかかへつて仲介者を説服せつぷくした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
けつして心服しんぷくつかまつらじ、しかするときもく命令めいれいおこなはれで、そむものきたらむには、かへつ國家こくからんとならむこと、憂慮きづかはしくさふらふ
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして信吾は、加藤に対してすこしの不快な感を抱いてゐない、かへつてそれに親まう、親んでして繁く往来しよう、と考へた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さるが故に、私は永代橋えいたいばしの鉄橋をばかへつてかの吾妻橋あづまばし両国橋りやうごくばしの如くにみにくいとは思はない。新しい鉄の橋はよくあたらしい河口かこうの風景に一致してゐる。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
飯粒めしつぶらるゝ鮒男ふなをとこがヤレ才子さいしぢや怜悧者りこうものぢやとめそやされ、たまさかきた精神せいしんものあればかへつ木偶でくのあしらひせらるゝ事沙汰さたかぎりなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
自分じぶんはじめたが、いてるうち、かれま/\しいとおもつたこゝろまつたえてしまひ、かへつかれ可愛かあいくなつてた。そのうちにをはつたので
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かへつてわく/\して、少しも手が付かないやうに、信一郎も飛ぶが如くに、過ぎ去らうとする時間を前にして、たゞ茫然と手を拱いてゐるだけだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
聴きね、わが思ふやう、基督が世にありし頃に為せるところ何人なんぴとをも退しりぞけし跡はなく、世にさげすまるゝ者にはかへつて慈悲を垂れたまへる事多かりき。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
正義其物そのものも本来の意味から云へば平衡を得た「力」に過ぎないといふ事を忘れた。「力」の方が原始的で、正義の方はかへつ転来てんらい的であるといふ事も忘れた。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
爲替相場かはせさうば騰貴とうきにもかゝはらず糸價しかかへつ騰貴とうき賣行うれゆきまた良好りやうかうなりしに米國證劵市場べいこくしようけんしぢやう不安定ふあんてい糸價しか下落げらくしたるは我國わがくに生糸貿易きいとぼうえき非常ひじやう遺憾ゐかんとするところである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
ひさりのせふが帰郷をきゝて、親戚ども打寄うちよりしが、母上よりはかへつせふの顔色の常ならぬに驚きて、何様なにさま尋常じんじやうにてはあらぬらし、医師を迎へよと口々にすゝめ呉れぬ。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
仕掛ながれの末には杜若かきつばたなど咲き躑躅つゝぢ盛りなりわづかの處なれど風景よし笠翁りつをうの詩に山民習得ならひえて一身ものうかん茅龕ばうがんに臥しうみて松にかへつ辛勤しんきんとつ澗水かんすゐおくる曉夜を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ときにはまた、あのおそるべき打撃だげきのために、かへつ獨立どくりつ意志いし鞏固きようこになつたといふことのために、彼女かのぢよくゐふたゝ假面かめんをかぶつてみづかやすんじようとこゝろみることもあつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「我慢して呉れ。」と詫びる様に言はれるのがかへつて気の毒で辛かつた。一日に一囘はかのお君婆さんの所へ行つて、一時間程愚図ついて来た。そこへ集つて来る人達は
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
頭痛の所へ打ちますとかへつ天窓あたまが痛んだり致しますので、あまり療治れうぢたのむ者はありません。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
主人はつて外を見た。丁度八と目を見合せるやうになつたが、もとより藪の中が見える筈はない。八は少しもおくれたやうな気はしないで、かへつて主人を旦那だんならしいと思つた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
辻売つじうりる処売物うりもの台架だいたなもみな雪にて作る、是を里言りげんにさつやといふ。○獣狩けだものがり追鳥おひとり。○積雪せきせついへうづかへつ寒威かんゐふせぐ。○なつ山間やまあひの雪を以て魚鳥うをとりにく擁包つゝみおけば敗餒くさらず。
またたとへば、父母ふぼはととさま、ははさまんですこしもつかへなきのみならず、かへつ恩愛おんあいぜうこもるのに、なにくるしんでかパパさま、ママさまと、歐米おうべい模倣もはうさせてゐるものが往々わう/\ある。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
寫眞しやしんも、このころねこしやく子もやるといふ風な、はやりものになつて、それに趣味しゆみを持つなどゝいふのがへんたり前ぎるかんじで、かへつがひけるやうなことにさへなつてしまつた。
私はこれを「いつまさに共に西牕の燭をりて、かへつて巴山夜雨の時をかたるべき」と読む。
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
其れで筆を執らうなどとは考へないけれど、じつとうして寝て居ると種種いろいろの感想が浮ぶ。坐禅でもして居る気で其を鎮めようとしてもかへつて苦痛であるから、唯妄念の湧くに任せて置く。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
若き時の過失あやまち人毎ひとごとまねかれず、懺悔ざんげめきたる述懷は瀧口かへつて迷惑に存じ候ぞや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
其為に時としてはかへつて逆に、古い世にこそ、庶物の精霊が神言をなしたものとすら考へる様になつた。「イハね」「ねだち」「草のかき葉」も神言を表する能力があつたとする考へが是である。
かへつてその中には、欧米各国の基督教的精神と、一致すべきものさへある。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その方がかへつて容易に真実に近づくことが出来るやうに思へるからだ。
詩と現代 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
かへつて老伯の議論を誤解したる者なりとふ可し。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
こうとならずして、かへつとがめのあらむも
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
御承知の如く生は歌よみよりは局外者とか素人とかいはるゝ身に有之從つて詳しき歌の學問は致さず格が何だか文法が何だか少しも承知致さず候へども大體の趣味如何に於ては自ら信ずる所あり此點に就きてかへつて專門の歌よみが不注意を
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
それが如何どうしたものか何時いつにやらひど自分じぶんからおしなそばきたくつてしまつて、他人たにんからかへつ揶揄からかはれるやうにつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もよほしける次の間なる吉兵衞は色々と思案し只此上は我膽力わがたんりよく渠等かれらに知らせ首尾しゆびよくはからば毒藥もかへつて藥になる時あらん此者共を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あと二軒を見残して旅館オテルへ帰つたのは午前二時であつた。僕は飲み慣れない強い酒を色色いろいろ飲んだのでかへつて頭が冴えて容易に寝附かれなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
吾等われら幾年月いくねんげつ苦心慘憺くしんさんたんみづあわいや親愛しんあいなる日本帝國につぽんていこくために、計畫けいくわくしたことが、かへつてき利刀りたうあたへることになります。
「さア、何卒どうぞ是れへ」とお加女が座をいざりて上座を譲らんとするを「ヤ、床の置物は御免ごめんかうむらう」と、客はかへつて梅子の座側に近づかんとす
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
むかうに見える劇場の内部は天井てんじやうばかりがいかにも広々ひろ/″\と見え、舞台は色づきにごつた空気のためかへつて小さくはなはだ遠く見えた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
りながら外面おもて窮乏きうばふよそほひ、嚢中なうちうかへつあたゝかなる連中れんぢうには、あたまからこの一藝いちげいえんじて、其家そこ女房にようばう娘等むすめらいろへんずるにあらざれば、けつしてむることなし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
加之しかのみならず文学者ぶんがくしやもつ怠慢たいまん遊惰いうだ張本ちやうほんとなすおせツかいはたま/\怠慢たいまん遊惰いうだかへつかみ天啓てんけいかなふをらざる白痴たはけなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
それも私一人の為めに村教育が奈何どううのと言ふのではなし、かへつてお邪魔をしてる様な訳ですからね。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さして行かんには此の峠など小さき坂とも見做すべし風越かぜごしみねといふも此あたりだと聞しかど馬士まごねから知らずかへつて此山にて明治の始め豪賊を捕へたりなどあらぬ事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
今別当の夜遊に出たのを真面目な顔で叱つて、自分に盗んだ物の事を問ふときには、何のわけだか知らないが、かへつ気色けしきやはらげてゐるやうなのを見て、八はいよいよ主人がすきになつた。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ところ当今たうこんではみな門弟等もんていらや、孫弟子共まごでしども面白おもしろをかしく種々いろ/\に、色取いろどりけてお話をいたしますから其方そのはうかへつてお面白おもしろい事でげすが、円朝わたくし申上まうしあげまするのはたゞ実地じつちに見ました事をかざりなく
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
だがそれをかへつてよいことにして顧みないとは良心が許さぬ、今まで妹のことなどは少しも気にかけて居なかつた、が如何にも心配して居るらしく、手紙を出す毎に真先に妹の容子を尋ねた
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
やゝともすると深みの足りない裏面を対照としてかへつて思ひ出させるだけである。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
或人は此書に於て露伴の文章やうやく西鶴を離れて独創の躰をいだせりと言ひしが、文章に於ては或は然あらんかなれども、其想に至りてはかへつて元禄を学ぶこと前の著述よりも多きに似たるを怪しむ。
破れる時にはかへつて速かに乱離することを知つてをります。
我が祈り:小林秀雄に (新字旧仮名) / 中原中也(著)