たゞち)” の例文
印南は嘗て蘭軒に猪牙ちよき舟のたいを求められて、たゞちに蛇目傘と答へたと蘭軒雑記に見えてゐるから、必ずや詩をも善くしたことであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
余は昨夜も例の如く街にの見ゆるや否や、たゞちに家を出で、人多くあつまり音楽湧出わきいづるあたりに晩餐を食してのち、とある劇場に入り候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
太綱ふとづな一端いつたん前齒まへばくはへてする/\と竿さをのぼりてたゞち龍頭りうづいたる。蒼空あをぞらひとてんあり、飄々へう/\としてかぜかる。これとするにらず。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、またたゞち自分じぶんことものい、ことわかるものはいとでもかんがなほしたかのやうに燥立いらだつて、あたまりながらまたあるす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それがいへかへればたゞちくるしい所帶しよたいひとらねばならぬ。そこにおつぎのこゝろ別人べつにんごと異常いじやうめられるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
真理しんりは我と我の家族かぞくより大なり、この決心けつしん実行じつこうあらん教会けうくわいたゞち復興ふくこうはじむべし、れなからん乎、復興はおはりまでつもきたらざるべし。
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
大陸の方で砲火を交へて居る最中に、それがたゞちに芝居に仕組まれて舞台にのぼるといふことは、妙に私の旅情をそゝつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
中禪寺の區長に迎へられて、人々と共に宿に還るとたゞちに湖に泛んだ。モーターボートで湖を一周しようといふのである。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
兼好が人に代って鹽谷えんやの妻に送るのふみに比するも、人の感情を動かすの深き決してかれに劣らざる可し、是も亦他に非ず其の文のたゞちことばを写せばなり
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
罹災者りさいしやたゞちにまたみづか自然林しぜんりんからつて咄嗟とつさにバラツクをつくるので、がう生活上せいくわつじやう苦痛くつうかんじない。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
夜食を済すと、呼ばずして主人は余のへやに来てくれたので、たゞちに目的を語り彼より出来るだけの方便を求めた、主人は余の語る処をにこついて聞いて居たが
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
つげれば是さへ喜びて忽地たちまち心地は能く成けり忠兵衞たゞち結納ゆひなふそろへる中に其日は暮行くれゆ明日あすあさに品々を釣臺つりだい積登つみのぼせ我家の記章しるし染拔そめぬきたる大紋付の半纒はんてん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一種の苦い感じが夕立雲の空に拡がる如く急に心頭におほひかぶさつて、折角の感興も之が為に台なしにされたとかで、氏はたゞちに之を日本人の排外思想と見做みな
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
著者は多少思考を費した上、この説に同意して、たゞちに煤煙の前半、即ち要吉が郷里きやうりに帰つて東京に出て来る迄の間を取敢とりあへず第一巻として活版にする事に決心した。
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
おおかすでございましたから早四郎は頬をふくらせてってく。五平はたゞちにお竹の座敷へ参りまして。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たゞちにそを棄て去りしといふ、そのせきを逸するのけんあるものから、かくはことわりおくのみ。
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
但したゞちに兩商え賜はらず、一旦烈侯(新太郎光政君)へ渡し給ふて之を拜領す(伯耆民談)。此年より兩商は將軍家の拜謁を辱ふして、時服を拜受し竹島の名産あはびを奉貢す。
他計甚麽(竹島)雑誌 (旧字旧仮名) / 松浦武四郎(著)
友の思想と自分の思想とはつねほとんど同じで、其の一方の感ずることはやがまた他方たほうひとしく感ずる處であるが、いま場合ばあひのみは、私はたゞち賛同さんどうの意をひやうすることが出來なかツた。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
実に可懐なつかしかつたのです、顔を見ると手をつて、たゞち旧交きふこうあたゝめられるとわけで、其頃そのころ山田やまだわたし猶且やはり第二中学時代とかはらずしばんでましたから、往復わうふくともに手をたづさへて
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
然れども一たび田口君の手をれば新しき物となりて出で来るなり。ミダスは其杖に触るゝすべての物を金にしたりき。田口君は其眼に触るゝ物を以て、たゞちに自家薬籠の中の材となす。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
あいちやんはこの急激きふげき變化へんくわ一方ひとかたならずおどろかされました、逡巡ぐづ/″\してる場合ばあひではないとつて、たゞちつたかけはうとしましたが、顎があし緊乎しツかり接合くツついてしまつてるので
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
國民こくみん消費節約せうひせつやく徹底的てつていてきにして、それがあきらか外國貿易ぐわいこくぼうえきうへあらはこれつて金解禁きんかいきん出來できたことをかんがへてると、今日こんにちたゞち日本にほん經濟界けいざいかい堅固けんごになつたとははれないけれども、この財政ざいせい整理緊縮せいりきんしゆく
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
ればこれもつたゞちに人口の減少を論じ仏蘭西フランス衰頽すゐたいを唱へるのは杞憂であつて、たとひ都会人の出産数は減少しても常に地方人がこれを補充するから都会の人口はむしろ加はるとも減る事は無い訳である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
世の中の女の幾人が、卑しい男の犧牲になつてゐるのだらうと、その特別の場合から、たゞちに一般の男と女の行爲を推測して憤慨した。自分は決して、そんな下等な大人にはなるまいと心の中で誓つた。
貝殻追放:016 女人崇拝 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
だ近辺の噂にては倉子のみさお正しきは何人も疑わぬ如くなれど此辺の人情は上等社会の人情と同じからず上等の社会にては一般に道徳と堅固にして少しのかどあるもたゞちに噂の種とり厳しく世間より咎めらるれど此辺にては人の妻たる者が若き男に情談口を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その市に上つたのは恐くは甲申の春であらう。茶山は当時たゞちに一部を蘭軒に寄せたのに、其書が久しく届かずにゐたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
轡蟲くつわむしくらいなかへはなたれゝば、たゞちこゑそろへてく。土地とちれが一ぱんにがしや/\といふ名稱めいしようあたへられてるだけやかましくたゞがしや/\とく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「それぢや小常磐せうときはの方は宜敷よろしく頼んだよ。式が済んだら新夫婦に写真を撮らせて、たゞちに料理屋へ廻らせる。よし。」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
貴方あなたなどは、才智さいちすぐれ、高潔かうけつではあり、はゝちゝとも高尚かうしやう感情かんじやう吸込すひこまれたかたですが、實際じつさい生活せいくわつるやいなやたゞちつかれて病氣びやうきになつてしまはれたです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そしてそれが朽敗きうはいまたは燒失せうしつすれば、またたゞちにこれを再造さいざうした。が、れどもきぬ自然しぜんとみは、つひ國民こくみんをし、木材以外もくざいいぐわい材料ざいれうもちふるの機會きくわいざらしめた。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
愚弟たゞちに聞きれて、賢兄にいさんひな/\と言ふ、こゝに牡丹咲の蛇の目菊なるものは所謂いはゆる蝦夷菊えぞぎく也。
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しミツシヨンより金をもらこと精神上せいしんじやうかれかれ教会けうくわいの上にがいありとしんずればたゞちに之をつにあり、我れゆるとも可なり、我の妻子さいしにして路頭ろとうまよふに至るも我はしのばん
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
しきて今や/\と相待あひまちける所へ三五郎次右衞門寺社奉行じしやぶぎやう郡奉行こほりぶぎやう同道にて來りしかば祐然は出迎いでむかたゞち墓所はかしよへ案内するに此時三五郎は我々は野服のふくなれば御燒香せうかうを致すはおそれあり貴僧きそう代香だいかう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
新開地だけにたゞ軒先障子などの白木の夜目にも生々なま/\しく見ゆるばかり、ゆか低く屋根低く、立てし障子は地よりたゞちに軒に至るかと思はれ、既にゆがみて隙間よりはつりランプの笠など見ゆ。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
料理人クツク片手かたて胡椒こせうはこもつました、あいちやんはすでかれ法廷ほふていはいらぬまへに、戸口とぐちちかく、通路とほりみち人民じんみんどもが、きふくさめをしはじめたので、たゞちにそれがだれであつたかを推察すゐさつしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
加之しかのみならず透谷の感性は非常に強かりしかば僕等が書き放し、言ひ放しにしたるものも、透谷に取つてはそれが大問題を提起したるが如く思はれしを以てたゞちに其心裏に反撃の波浪をき起したるならん。
透谷全集を読む (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
それは石壁の岸高きが下に碧潭深く湛へてゐる一大河にかゝつてゐる橋が、しかもたゞちに對岸にかゝつてゐるのでは無く、河中の一大巨巖が中流に蟠峙ばんぢして河を二分してゐる其巨巖に架つてゐるので
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ゆゑたゞちこゝ不景氣ふけいきるのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
若し通途つうづの説を以て動すべからざるものとなして、たゞちに伊沢氏の伝ふる所を排し去つたなら、それは太早計たいさうけいではなからうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
疾風しつぷう威力ゐりよくさへぎつてつゝんだほのほ退けようとしてその餘力よりよく屋根やね葺草ふきぐさまくつた。たゞち空隙くうげきつてます/\其處そこちからたくましくした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
是迄これまで虚心きよしん平氣へいきで、健全けんぜんろんじてゐたが、一てう生活せいくわつ逆流ぎやくりうるゝや、たゞちくじけて落膽らくたんしづんでしまつた……意氣地いくぢい……人間にんげん意氣地いくぢいものです、貴方あなたとても猶且やはりうでせう
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
雇ふより年若としわかなれ共半四郎の方がたしかならんとて右五十兩の金に手紙を添てわたせしかば半四郎は是を請取て懷中くわいちうし急用なればたゞち旅支度たびじたくして出立しゆつたつせんとするを見て親半右衞門兄半作ともに是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それから講釈かうしやくはうると、まことらしいけれどもかんがえさせずたゞちうそだとわかる。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
停車場を出るとたゞちに自動車に乘つて山上へと心ざした。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)