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前齒
太綱の
一端を
前齒に
銜へてする/\と
竿を
上りて
直に
龍頭に
至る。
蒼空に
人の
點あり、
飄々として
風に
吹かる。これ
尚ほ
奇とするに
足らず。
「
白紙手頼り
水手頼り、
紙捻手頼りにい……」と
巫女の
婆さんの
聲は
前齒が
少し
缺けて
居る
爲に
句切が
稍不明であるがそれでも
澁滯することなくずん/\と
句を
逐うて
行つた。
三四日前彼は
御米と
差向ひで、
夕飯の
膳に
着いて、
話しながら
箸を
取つてゐる
際に、
何うした
拍子か、
前齒を
逆にぎりゝと
噛んでから、それが
急に
痛み
出した。
指で
搖かすと、
根がぐら/\する。