はり)” の例文
そのうちにも、時計とけいはりはこくこくとたっていったのです。いつもかえ時間じかんより一時間じかん、二時間じかん、二時間半じかんはんぎてしまったのです。
夕焼けがうすれて (新字新仮名) / 小川未明(著)
おくさんのこゑにはもうなんとなくりがなかつた。そして、そのままひざに視線しせんおとすと、おもひ出したやうにまたはりうごかしはじめた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
十六ではまだはりたなくつてもいゝといふのはそれは無理むりではない。しか勘次かんじいへでおつぎの一かうはりらぬことは不便ふべんであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それはやはり火のようにえておりました。けれども気のせいか、一所ひとところ小さな小さなはりでついたくらいの白いくもりが見えるのです。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ほそはりほどな侏儒いつすんぼふしが、ひとつ/\、と、歩行あるしさうな氣勢けはひがある。吃驚びつくりして、煮湯にえゆ雜巾ざふきんしぼつて、よくぬぐつて、退治たいぢた。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私の衣類のがらの見立てなども父がしたようであったし、肩揚かたあげや腰揚こしあげのことまでも父が自分で指図さしずして母にはりを採らせたようであった。
ここははり別所べっしょというところの山の奥の奥。谷合たにあい洞穴ほらあなへ杉の皮をき出して、鹿の飲むほどな谷の流れを前にした山中の小舎こや
腹部おなか病気びょうきでございました。はりされるようにキリキリと毎日まいにちなやみつづけたすえに、とうとうこんなことになりまして……。』
はりがふれてもピリッと感じるであろう柄手つかで神経しんけいに、なにか、ソロリとさわったものがあったので竹童は、まさしく相手の得物えものと直覚し
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の心臓しんぞうであったら出血のために動かなくなってしまうほどたくさんはりが布をさし通して、一縫いごとに糸をしめてゆきます——不思議な。
といいながらうりをりますと、中にはあんじょう小蛇こへびが一ぴきはいっていました。ると忠明ただあきらのうったはりが、ちゃんと両方りょうほうの目にささっていました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
獸骨器のみぎゑがきたるは魚骨器なり。上端じやうたんの孔は糸を貫くにてきしたり。おもふに此骨器はあらき物をひ合はする時にはりとして用ゐられしならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
悦ばせはりある魚はなぎさに寄る骨肉こつにくなりとて油斷は成じ何とぞ一旦兩人の身を我が野尻のじりへ退きて暫時ざんじ身の安泰あんたいを心掛られよと諫めければ傳吉は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お姫さまは、ひとあし歩くたびごとに、魔法使いが前に言ったとおり、とがったはりか、するどいナイフの上をふんでいるような思いがしました。
身長みのたけしやくちかく、灰色はいいろはりごと逆立さかだち、するどつめあらはして、スツと屹立つゝたつた有樣ありさまは、幾百十年いくひやくじふねん星霜せいさうこの深林しんりん棲暮すみくらしたものやらわからぬ。
わたしがまだ来なかったじぶん、ジョリクールは肺炎はいえんにかかったことがあった。それでかれのうでにはりをさして出血させなければならなかった。
竪川の——その頃はよく澄んでいた水に、ポンとはりほうって、金煙管きんぎせる脂下やにさがりにくわえたことに何の変りもありません。
なにとはなしにはりをもられぬ、いとけなくて伯母をばなるひと縫物ぬひものならひつるころ衽先おくみさきつまなりなど六づかしうはれし
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
開化のあらゆる階段を順々に踏んで通る余裕をもたないから、できるだけ大きなはりでぼつぼつ縫って過ぎるのである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たとへば、それがあさの九であつたと假定かていして、丁度ちやうど其時そのとき稽古けいこはじめる、時々とき/″\何時なんじになつたかとおもつてる、時計とけいはりめぐつてく!一時半じはん晝食ちうじき
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ダリヤの園を通ると、二尺あまりの茶色ちゃいろひもが動いて居る、と見たは蛇だった。蜥蜴とかげの様なほそい頭をあげて、黒いはりの様なしたをペラ/\さして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかたなく、おとうさんはふたたびはりを手にとりました。むすこのほうは、あるこなひきのところにやとわれました。
その震える頭とじっと定めたひとみとは、極を求める磁石のはりを思わせた。かくていくら到着を長引かしても、ついには向こうへ着かなければならなかった。
宮沢は自分が寂しくてたまらないので、下女もさぞ寂しかろうと思いって、どうだね、はり為事しごとをこっちへ持って来ては、おれは構わないからと云ったそうだ。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
シカシ土針ガ何故れんげさうノコトニナルカト云フニ、先ヅ土針カラ解イテ見ヨウ、即はりはぎノコトナリ
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
いととほしたはりがまだ半襟はんえりからかれないであつたとて、それでんだとて、それでいゝのだ! いつわたしがこのからされたつて、あのひかりすこしもかはりなくる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
数歩すほを行けば、宮が命を沈めしそのふちと見るべき処も、彼がけたる帯をきしそのいはほも、歴然として皆在らざるは無し! 貫一が髪毛かみのけはりの如くちてそよげり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その時計のはりが十時十分前をさしました。カチカチ、カチカチ、時間は休みなく、すすんでいきます。
仮面の恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ってとうさんがちゃかっている柱時計はしらどけいころは、その時計とけいはりが十していた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「今夜は、おへやへ赤土をまいておおき、それからあさ糸のまりをはりにとおして用意しておいて、お婿むこさんが出て来たら、そっと着物のすそにその針をさしておおき」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
あのへやの時計とけいときたら、動くのは、ちゃんとまちがいなく動くし、時間じかんだって、元気げんきよく打つんだけど、はりだけがいつも六時を指したきりなのよ。どうしたのかしら?
それにちげえねえやな。でえいち、ほかにあんなにおいをさせる家業かぎょうが、あるはずはなかろうじゃねえか。雪駄せったかわを、なべるんだ。やわらかにして、はりとおりがよくなるようによ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
金太郎は中學で物理の時間に四かくをりのやうなはりさい工のはこの中に人間を入れておいて、そのはこに高あつ電流を通じても、中の人間は少しも知らないで平然としてゐられる
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
ひととき、「入れ食いの手水鉢ちょうず」のように釣れる。多いときには、一度に五、六尾はりにかかってくる。ボックスの戸をあけてみると、一間先も見えないくらいに吹雪ふぶいている。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
ひとつはあをぎりののように、ひろがつたおほきなかたちのもので、これを『濶葉樹かつようじゆ』とよび、もうひとつはまつのようにはりかたちをしたつたでこれを『針葉樹しんようじゆ』とよびます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それでその長い竿さおはりといい、今でも沖繩などではこの助手の役を針刺はりさしとよんでいる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして、はりと糸とを持って自分と一しょに来てください、とたのみました。それから
しき見分みわけきませんから、心眼しんがん外題げだいを致しましたが、大坂町おほさかちやう梅喜ばいきまう針医はりいがございましたが、療治れうぢはうごく下手へたで、病人にはりを打ちますと、それがためおなかが痛くなつたり
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
外國がいこくたとへにも、金持かねもちが天國てんごくくのは、おほきなぞうはりあなをとほらせるよりもむつかしいといつてゐますが、さういつた滿足まんぞくしきつた氣持きもちばかりでゐては、人間にんげんにはしみ/″\と
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
周三は、臺所に立ツて顏を洗ツてゐる間、種々な物をて、そして種々な事を考へた。彼の頭は自由の空氣に呼吸こきふするやうになツても、依然としてせわしく働いて、そしてはりのやうにするどい。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
南は標高二八四一米のレンゲ岳(また)に始まり、うねうねと屈曲していはするものの、大体において真北を指し、野口五郎のぐちごろう烏帽子えぼし蓮華れんげはりじい鹿島槍かしまやり五龍ごりゅう唐松からまつ等を経て北
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
はりねずみ、りす、それから、わたしの好きで好きでたまらなかったあのしめっぽい落葉おちばのにおい。……わたしは今これを書きながら、白かばの林のにおいをしみじみかぐような気持がします。
時計の秒はりは進むと子が死にて父へ母へとつたふる絶えぬ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
柱時鐘はしらどけい見詰みつむれば、はりのコムパス、搾木しめぎ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
芝草しばくさほゝを、背筋せすじを、はりのやうに
はりによくにた その細い
魔法の笛 (新字新仮名) / ロバート・ブラウニング(著)
なんでも、あおいかえるをはりにつけて、どろぶかかわで、なまずをり、やまからながれてくる早瀬はやせでは、あゆをるのだというはなしでした。
都会はぜいたくだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
はりに、青柳あをやぎ女郎花をみなへし松風まつかぜ羽衣はごろも夕顏ゆふがほ日中ひなか日暮ひぐれほたるひかる。(太公望たいこうばう)はふうするごとくで、殺生道具せつしやうだうぐ阿彌陀あみだなり。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎは二ちやうばかり上流じやうりう板橋いたばしわたつてつて、やうやくのことでえだげてそのはりをとつた。さうしてまた與吉よきちぼうけてやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これははり別所べっしょというところに住んでいて、表面は猟師、内実は追剥おいはぎを働いていた「鍛冶倉かじくら」という綽名あだなの悪党であります。