それ)” の例文
の一のかはをがれたために可惜をしや、おはるむすめ繼母まゝはゝのために手酷てひど折檻せつかんけて、身投みなげをしたが、それのちこと
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いづれもそれ等印象派の画家がまだ名を成さない時代に買ひ集めたものが多いらしく、リユイル氏が愛蔵して売品としない物許ばかりである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それすこぎて、ポカ/\するかぜが、髯面ひげつらころとなると、もうおもく、あたまがボーツとして、ひた気焔きえんあがらなくなつてしまふ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
俊男の頭の中には今、自分が病身の爲に家庭に於ける種々さま/″\なる出來事を思出した。思出すとそれ大概たいがい自分の病身といふに基因きゐんしてゐる。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
野暮やぼ先生正に何処かで捨子を拾って来たのだと思うた。爺は唯にや/\笑って居た。それは私生児であった。お春さんの私生児であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
愛書家ビブリオフィル。ビブリオフィルと云う語は、十八世紀の終り頃から一般に行われ出したので、それ以前はフィルビブリオンと云う語が用いられた。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
頸筋くびすぢぶたこゑまでがそれらしい老人らうじん辨當べんたうをむしやつき、すこ上方辯かみがたべんぜた五十幾歳位いくさいぐらゐ老婦人らうふじんはすしを頬張ほゝばりはじめた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
そうかと云って男がベッドに睡っている間にあの煙草を撒いたのでもない。それは男がベッドから遠く離れたところで重傷しているので解る。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かれすぐ自分じぶんちか手拭てぬぐひかぶつたおつぎの姿すがたおもむろにうごいてるのをた。それ同時どうじひそか草履ざうりおと勘次かんじみゝひゞいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そしてそれに対して反省せんとする気魄きはくは、そのころの家持にはもう衰えていたのであっただろうか。私はまだそうは思わない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
辰めが一生はあなたにと熱き涙わが衣物きものとおせしは、そもや、うそなるべきか、新聞こそあてにならぬ者なれ、それまことにしてまことある女房を疑いしは
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
又盛になるけもある、とうのは今度私が亜米利加アメリカに行た時には、それ以前、亜米利加に行た時よりも多く金をもらいました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
毎度敬之進が世話に成ること、此頃こなひだはまた省吾が結構なものを頂いたこと、それこれやの礼を述べ乍ら、せか/\と立つたりすわつたりして話す。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それに梅子などはどうやら其の僻論へきろんに感染して居るらしいので、おほいに其の不心得を叱つたことだ、ことに近頃彼女あれの結婚について相談最中のであるから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お定は呆然ぼんやりと門口に立つて、見るともなくそれを見てゐると、大工の家のお八重の小さな妹が駆けて来て、一寸来て呉れといふ姉の伝言ことづてを伝へた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かうして謡ひ物としての独立性を認められた短歌は、それ自体の中に、本歌モトウタ及び、助歌反乱の末歌スヱウタの二部を考へ出して、ながめ謡ひを以て、間を合せた。
彼女の生前、私は自分の製作した彫刻を何人よりもさきに彼女に見せた。一日の製作の終りにもそれを彼女と一緒に検討する事が此上このうえもない喜であつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
それ甚麼どんなはずみ相近あひちかづく事につたのであるか、どうも覚えませんけれど、いつかフレンドシツプが成立なりたつたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先刻よりお菊は無念こらへしが思はずワツと泣出しお前はな/\強欲がうよく非道ひだうの大惡人今眼前がんぜん母樣の御命に迄かゝは難儀なんぎそれを見返らぬのみならず罪科つみとがもなき母樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
頭だけじゃ救われない、浸礼しんれい教会なんかじゃ水の中へ潜らせると言い出した。それ左様そうだと思う。折角洗礼を授けてやっても救われなくちゃ何にもならない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それこのていすべて機關きくわん適用てきようしたので、てい進行しんかうも、三尖衝角さんせんしやうかく廻旋くわいせんも、新式水雷發射機しんしきすいらいはつしやき運轉うんてんも、すべてこの秘密ひみつなる活動力くわつどうりよくによつて支配しはいされてるのである。
それつゞいては小體こがらな、元氣げんきな、※鬚あごひげとがつた、かみくろいネグルじんのやうにちゞれた、すこしも落着おちつかぬ老人らうじん
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
縱令たとひ化物ばけものても、それ理性的りせいてき乾燥無味かんさうむみなものであつて、情的ぜうてき餘韻よいんふくんでない。したがつてすこしも面白味おもしろみい。ゆゑ文運ぶんうん發達はつたつしてると、自然しぜん化物ばけものくなつてる。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「『もと妻であつた』それが理由でせう。然し今は、『あかの他人』、さうでせうもう。」
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
窓際まどぎは紫檀しだんたくはさんでこしおろし、おたがひつかがほでぼんやり煙草たばこをふかしてゐると、をんな型通かたどほ瓜子クワスワツアはこんでくる。一人ひとり丸顏まるがほ一人ひとり瓜實顏うりさねがほそれ口紅くちべにあかく、耳環みゝわ翡翠ひすゐあをい。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
また、男女間の妬情とじょうに氏はほとん白痴はくちかと思われるくらいです。が氏とて決してそれを全然感じないのではないそうですが、それにいて懸命けんめいになる先に氏は対者あいてに許容を持ち得るとのことです。
それを思うとお繁さんの居ない今日、岡村に薄遇されたのに少しも無理はない。予も腹のどん底を白状すると、お繁さんから今年一月の年賀状の次手ついでに、今年の夏も是非柏崎へお越しを願いたい。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
古学に対する彼の学説は必ず大いに聞くべきものありしならんも、今日において遺稿などのそれちょうするに足るものなきは遺憾なり。今その歌について多少その主義を表したりと思ふものを挙げんに
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
詮議もついそれなりけりに済んで了ったとは、なんぼう哀れなる物語。
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雪の上には階段状に足場が刻まれ、それに沿うて十間か十五、六間ごとに三尺程の鉄の杭を打ち込み、杭の頭には針の孔のように輪が造られて、夫へ彼の大きな岩から垂れ下げた鋼索が引き通されている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それり?』とあいちやんはグツトいかりをんでひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しずけさはそれさへもいと遠く思はるゝまでしずけさに
たゞミハイロにはそれが分らなかつた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
「どうしてそれが分かったのですか」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それといふのが、時節柄じせつがらあつさのため、可恐おそろしわるやまひ流行はやつて、さきとほつたつじなどといふむらは、から一めん石灰いしばひだらけぢやあるまいか。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わづかに六畳と二畳とに過ぎない部屋は三面の鏡、二脚の椅子、芝居の衣裳、かつら、小道具、それから青れた沢山たくさん花環はなわとでうづまつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
けれどわたし如何どういふものか、それさはつてすこしもなく、たゞはじ喰出はみだした、一すぢ背負揚しよいあげ、それがわたし不安ふあん中心点ちうしんてんであつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「フム、それぢやんだな、お前はおれが此の家を陰氣にしてゐるといふんだね。」と冷靜にツて、さて急に激越げきえつした語調となる。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
父はしばらく三稜鏡をいぢつてゐたが、ふとそれもつて炉の火をのぞいた。すると意外にも炉の炎がやはり七つの綾になつて見える。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
おほきな子供こどもはそれつといつて惡戯いたづらそれとらうとする。子供等こどもら順次じゆんじみなそれにならはうとする。さうするとちひさな小供こどもたゞいたやうにく。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私の全心が愛のほのほで燃え尽きませうとも、それを知らせる便宜たよりさへ無いぢやありませんか、此のまゝがれて死にましても
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
我今まで恋とう事たるおぼえなし。勢州せいしゅう四日市にて見たる美人三日眼前めさきにちらつきたるがそれは額に黒痣ほくろありてその位置ところ白毫びゃくごうつけなばと考えしなり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼女はいつの間にか油絵勉強の時間を縮少し、或時は粘土で彫刻を試みたり、又後には絹糸をつむいだり、それを草木染にしたり、機織はたをりを始めたりした。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
人の頭上に落ちてくるという事実をしたたむるのです、僕の身の上のごとき、まったくそれなので、ほとんど信ずからざるあやしい運命が僕をもてあそんでるのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
サルオガセがぶら下ったり、山葡萄やまぶどうからんだり、それ自身じしん針葉樹林の小模型しょうもけいとも見らるゝ、りょくかつおう、さま/″\の蘚苔こけをふわりとまとうて居るのもある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
乃公は此人は那麽そんなに嫌いでもない。君の持っているのはそれは何かねと訊くから、是は日記帳です、未だ買いたての貰いたての写したてのホヤホヤですと答えた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これために無けなしの懐裏ふところを百七十円ほどいためて、うんと参つた、かり小文学せうぶんがくをも硯友社けんいうしや機関きくわんかぞへると、それが第七期、これが第八期で、だ第九期なる者が有る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
真黒まつくろに煤びた屋根裏が見える、壁側に積重ねた布団には白い毛布がかかつて、それに並んだ箪笥の上に、枕時計やら鏡台やら、種々いろんな手廻りの物が整然きちんと列べられた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
貴下あなた海上かいじやう法則ほうそくりませんか、たとへ如何どんことがあらうとも船員せんゐん以外いぐわいものそれくちばしれる權利けんりいです、またわたくし貴下あなたから其樣そん報告ほうこくける義務ぎむいです。
目鋭めざとい叔父は直にそれて取つて、一寸右のひぢで丑松を小衝こづいて見た。奈何して丑松も平気で居られよう。叔父の肘がさはるか触らないに、其暗号は電気エレキのやうに通じた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)