一時いちじ)” の例文
悪徳新聞のあらゆる攻撃を受けていながら、告別の演説でも、全校の生徒を泣かせたそうである。それも一時いちじの感動ばかりではない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
すなは一時いちじ活動かつどうしたのちは、暫時ざんじ休息きゆうそくして、あるひ硫氣孔りゆうきこう状態じようたいとなり、あるひ噴氣孔ふんきこうとなり、あるひはそのような噴氣ふんきまつたくなくなることがある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
英山は文化初年鳥居清長歿し続いて喜多川歌麿世を去りしのち初めは豊国と並び後には北斎と頡頏きっこうして一時いちじ浮世絵界の牛耳ぎゅうじれり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
くろかみと、淡紅色ときいろのリボンと、それから黄色い縮緬ちりめんの帯が、一時いちじに風に吹かれてくうに流れるさまを、あざやかにあたまなかに刻み込んでゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
苦笑くせうしたので、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさをはじめ、一座いちざ面々めん/\あまりの可笑をかしさに、一時いちじにドツと笑崩わらひくづるゝあひだに、武村兵曹たけむらへいそう平氣へいきかほわたくしむか
ふすましずかに開いて現われたのが梅子である。紳士の顔も梅子の顔も一時いちじにさっとこうをさした。梅子はわずかに会釈して内に入った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其のお米を買うたって一時いちじ沢山たんと買って知れては悪いと思いましたから、狐鼠こっそり少し買い、一朱もお金を出せば薪も買えれば炭も買える
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
またある時は一時いちじに部屋いっぱいに集まって来た人びとにむかって、この物語を話して聞かせたこともあったそうである。
人々の呼んだり叫んだりする声——大勢の人々があわてふためいて一時いちじに色々な事をがやがや怒鳴っているのであった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
つてればてきなかだ。てきなかで、けるのをらなかつたのはじつ自分じぶんながら度胸どきやうい。……いや、うではない、一時いちじんだかもわからん。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
海の上は何千何万の白馬黒馬が駈けまわるように波が立って、沢山につなぎ合わせた船を一時いちじつぶそうとしました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そのころにはすでに土器どきつく專門せんもん技術者ぎじゆつしやもゐたのでせうけれども、のち時代じだいのようにたくさんの土器どき一時いちじ製造せいぞうするようなことはすくなかつたらしく
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
自分で独立して苦学し得るまでのほんの一時いちじの間である、その間ぐらいは大叔父が私を置いてくれないはずはない。
ことしの夏、この山奥の小さな村に悪い病気がはやった時、清造の両親りょうしん一時いちじに病気のためになくなりました。
清造と沼 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
し又すべての文学者ぶんがくしや一時いちじ殺戮さつりくすれば其死屍しゝは以て日本海につぽんかいうづむべく其は以て太平洋たいへいよう変色へんしよくせしむべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「ああ、そのことなら、吾輩としても、願ってもないことです。よろしい。では他の将軍たちを退場させましょう。おい諸君。君たちは一時いちじ別室へ遠慮せよ」
それよ今宵こよひよりは一時いちじづゝの仕事しごとばして此子このこため收入しうにふおほくせんとおほせられしなりき、火氣くわき滿みちたるしつにてくびやいたからん、ふりあぐるつち手首てくびいたからん。
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
市郎も流石さすがきもを冷して、いよいよ小さくなっていると、又もや石をがらがらと投げ落す奴がある。敵は一人ではないらしい、大小の岩石が一時いちじに上から落ちて来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひめ一時いちじ本物ほんものかとおもつて内々ない/\心配しんぱいしましたが、けないはずだから、ためしてようといふので、をつけさせてると、ひとたまりもなくめら/\とけました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
何しろ私を始め箕作秋坪そのほかの者は、一時いちじ彼に驚かされてそのままソーッと棄置すておいたことがあります。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼はこの世に一人の宮を得たるが為に、万木一時いちじに花を着くる心地して、さきの枯野に夕暮れし石も今た水にぬくみ、かすみひて、長閑のどかなる日影に眠る如く覚えけんよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
随って、あの恐しい疑いも、いつしか忘れるともなく忘れた形で、彼女は仮令明日はどうなろうと、ただ、この楽しみを一時いちじでも長引かせたいと願うばかりでありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こはかれが一時いちじたはむれなるべし、かゝる妖魅えうみの術はありながら人にあざむかれてとらへらるゝは如何いかん
そこ彼等かれらあいちやんに爭論さうろん繰返くりかへしてかせました、みんながのこらず各々おの/\一時いちじはなすので、それを一々いち/\正確せいかくることは、あいちやんにとつて非常ひじよう困難こんなんでありました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
一時いちじがやがやとやかましかった生徒達はみんな教場きょうじょう這入はいって、急にしんとするほどあたりが静かになりました。僕はさびしくって淋しくってしようがないほど悲しくなりました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そこは気持ちよく優雅に飾ってありました。が、そこの暖炉棚の上に、私の妻の等身大の肖像画が飾ってあるのを見つけた時、私の疑念は一時いちじにムラムラと燃え上がりました。
黄色な顔 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
しかし樹木じゆもくによつては氣候きこう急激きゆうげき變化へんかのためまたは、病虫害びようちゆうがい一時いちじおとしたりすると、この生長状態せいちようじようたい例外れいがい出來できて、完全かんぜんあらはれず、半分はんぶんぐらゐでえるのがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
このさまを見たる喜左衛門は一時いちじの怒に我を忘れ、この野郎やろう、何をしやがったとののしりけるが、たちまち御前ごぜんなりしに心づき、冷汗れいかんうるおすと共に、蹲踞そんきょしてお手打ちを待ち居りしに
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたしとしても、たとい一時いちじは満足したとはいえ、二重の生活にはもうあきました。
今を去る三十年の昔、三だいばなしという事一時いちじの流行物となりしかば、当時圓朝子が或る宴席において、國綱くにつなの刀、一節切ひとよぎり船人せんどうという三題を、例の当意即妙とういそくみょうにて一座の喝采を博したるが本話の元素たり。
国賊として使役しえきせられたる身の、一時間内に忠君愛国の人となりて、大赦令の恩典に浴せんとは、さても不思議の有様かな、人生まぼろしの如しとは、そもやがいいそめけんと一時いちじはただ茫然ぼうぜんたりしが
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ひつそりと怖気をぢけづく、ほんの一時いちじ気紛きまぐれにつけ込んで
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
敵も、味方も、一時いちじにしんとなりました。
兎と亀 (新字新仮名) / ロード・ダンセイニ(著)
あれよ/\とみてゐると水煙みづけむりきゆうおとろくちぢて噴出ふんしゆつ一時いちじまつてしまつたが、わづか五六秒位ごろくびようくらゐ經過けいかしたのちふたゝはじめた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
此時このとき不意ふゐに、車外しやぐわい猛獸まうじうむれ何者なにものにかおどろいた樣子やうすで、一時いちじそらむかつてうなした。途端とたん何處いづくともなく、かすかに一發いつぱつ銃聲じうせい
しか肝心かんじん家屋敷いへやしきはすぐみぎからひだりへとれるわけにはかなかつた。仕方しかたがないから、叔父をぢ一時いちじ工面くめんたのんで、當座たうざかたけてもらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一時いちじに思い詰るのは尤もだが、気の晴れることはッともないんざますよ、まア正孝はん上んなましよ、彼処あすこに立ってる人は何
折から梢の蝉の鳴音なくねをも一時いちじとどめるばかり耳許みみもと近く響き出す弁天山べんてんやまの時の鐘。数うれば早や正午ひるの九つを告げている。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うかしたか、おうら。はてな、いまころんだつて、したへはおとさん、怪我けが過失あやまちさうぢやない。なんだか正体しやうたいがないやうだ。矢張やつぱ一時いちじ疲労つかれたのか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
九月になって、大学の課程が始まるので、国々へ帰っていた学生が、一時いちじに本郷界隈かいわいの下宿屋に戻ったのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
大島仁藏翁おほしまじんざうをう死後しご權藏ごんざう一時いちじ守本尊まもりほんぞんうしなつたていで、すこぶ鬱々ふさいましたが、それも少時しばしで、たちまもと元氣げんき恢復くわいふくし、のみならず、以前いぜんましはたらしました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
よし一時いちじ陸奧みちのく名取川なとりがはきよからぬながしてもし、はゞかりのなか打割うちわりてれば、天縁てんえんれにつて此處こヽはこびしかもれず、いまこそ一寒いつかん書生しよせいもなけれど
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
水を泳ぐと木に登ると全く別のように考えたのは一時いちじまよいであったと云うことを発明しました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「分りませんか。あの密室の中に二人、外の暗闇に一人、一時いちじに三人のお客様です。というのは、あすこの板壁に目につかぬ程の節穴があるからですよ。ね、お分りでしょう」
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかも富山と宮とは隣合となりあひに坐りければ、夜と昼との一時いちじに来にけんやうに皆狼狽うろたへ騒ぎて、たちまちその隣に自ら社会党ととなふる一組をいだせり。彼等の主義は不平にして、その目的は破壊なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かうしたおそろしい洪水こうずいはどうしておこるのかといへば、それはむろん一時いちじ多量たりようあめつたからですが、そのあめ洪水こうずいになるといふそのもとは、つまりかは水源地方すいげんちほう森林しんりんあらされたために
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
此湯硫黄ゆわうの気ありてよく疥癬しつるゐし、一時いちじ流行りうかうして人群をなせり。
もとより彼を信ずればこそこの百年の生命をもまかしたるなれ、くまで事を分けられて、ほしもは偽りならん、一時いちじのがれの間に合せならんなど、疑ふべきせふにはあらず、他日両親のいきどほりを受くるとも
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
一時いちじに響く野の砥石、かずかぎりなきのにほひ——
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
取り捲いて一時いちじにわつと襲ひかゝりました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)