“敲(たゝ)” の例文
思へば現(うつゝ)とも覺えで此處までは來りしものの、何と言うて世を隔てたる門(かど)を敲(たゝ)かん、我が眞(まこと)の心をば如何なる言葉もて打ち明けん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
彼(かれ)は色々(いろ/\)な事情(じじやう)を綜合(そうがふ)して考(かんが)へた上(うへ)、まあ大丈夫(だいぢやうぶ)だらうと腹(はら)の中(なか)で極(き)めた。さうして爪(つめ)の先(さき)で輕(かる)く鐵瓶(てつびん)の縁(ふち)を敲(たゝ)いた。其時(そのとき)座敷(ざしき)で
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『敲(たゝ)く以上(いじやう)は何(なに)か意味(いみ)が無(な)くてはならない』と云(い)つて歩兵(ほへい)は、愛(あい)ちやんに關(かま)はず續(つゞ)けました、『若(も)し吾々(われ/\)二人(ふたり)の間(あひだ)に戸(と)があつたとしたら。 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
鉄平は戸口をつと這入(はひ)つて、正面にある離座敷(はなれざしき)の雨戸を半棒(はんぼう)で敲(たゝ)きこはした。戸の破れた所からは烟が出て、火薬の臭(にほひ)がした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
並(なら)んだ二台(だい)に、頭(あたま)からざつと浴(あび)せて、軒(のき)の雨(あめ)の篠(しの)つくのが、鬣(たてがみ)を敲(たゝ)いて、轡頭(くつわづら)を高(たか)く挙(あ)げた、二頭(とう)の馬(うま)の鼻柱(はなばしら)に灌(そゝ)ぐ風情(ふぜい)だつたのも、谷(たに)が深(ふか)い。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
門(もん)は例(れい)の通(とほ)り開(あけ)つ放(ぱな)しだから敲(たゝ)く世話(せわ)も入(いら)ず、二人(ふたり)はずん/\と内(うち)へ入(はひ)つて見(み)たが草木(くさき)が縱横(じゆうわう)に茂(しげ)つて居(ゐ)るのでラクダルの居所(ゐどころ)も一寸(ちよつと)知(し)れなかつた。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ホト/\敲(たゝ)きて入來り御目に懸(かゝ)るは初(はじめ)てなれど私(わたく)し事去年(きよねん)の冬金子を落(おと)したるは斯々(かく/\)なりと段々譯を咄し其節請取に罷出ませうとは存じたれども大金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
狸が浮れて腹太鼓を敲(たゝ)きやアがって夜が明けて戸を明けて見ると、三匹位(ぐれ)え腹ア敲き破ってひっくり返(けえ)って居る
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貝を吹き鐘を敲(たゝ)いて徳政令(とくせいれい)の発布を幕府に迫り、一切の貸借関係を一瞬にして、無効にさせるのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ニキタはぱツと戸(と)を開(あ)けるより、阿修羅王(あしゆらわう)の荒(あ)れたる如(ごと)く、兩手(りやうて)と膝(ひざ)でアンドレイ、エヒミチを突飛(つきとば)し、骨(ほね)も碎(くだ)けよと其鐵拳(そのてつけん)を眞向(まつかう)に、健(したゝ)か彼(かれ)の顏(かほ)を敲(たゝ)き据(す)ゑた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
跳ね起きて、いづくを宛(あて)ともなく、狹く曲りたる巷(ちまた)を走りぬ。途にて逢ひたるは、杖もて敷石を敲(たゝ)き、高聲にて歌ふ男一人のみなりき。しばらくして廣きところに出でぬ。
慈愛の懐(ふところ)から思ひも寄らぬ孤独の境界(きやうがい)に投げ出された子供は、力の限り戸を敲(たゝ)いて、女中の名や、家にはゐない親しい人の名まで交(かは)る/″\呼び立てながら、救ひを求めてゐた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
お京(きやう)さん居ますかと窓の戸の外に來て、こと/\と羽目を敲(たゝ)く音のするに、誰れだえ、もう寐て仕舞つたから明日來てお呉れと嘘を言へば、寐たつて宜いやね、起きて明けてお呉んなさい
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(さいの神のまつり下にしるす)又去年むこよめをむかへたる家の門(かど)に、未明(みめい)よりわらべども大勢あつまり、かの斗棒をもつて門戸を敲(たゝ)き、よめをだせむこをだせと同音によばゝりたゝく。
○志(こゝろざし)は行ふものとや、愚(おろか)しき君よ、そは飢(うゑ)に奔(はし)るに過ぎず。志は唯(たゞ)卓を敲(たゝ)いて、なるべく高声(かうせい)に語るに止(とゞ)むべし。生半(なまなか)なる志を存せんは、存せざるに如かず、志は飯を食はす事なければなり。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
乾(から)ツ風が吹き荒(すさ)んで、森の中の梢といふ梢は、作り声をしたやうに、ざわ/\と騒ぎ立ち、落葉が羽ばたきをしながら、舞ひ立つて、夜もすがら戸を敲(たゝ)き、屋根を這(は)ひずり廻る、風の無い夜は
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
そして敵をのめらせて敲(たゝ)きつけたのだ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
冀(ねがは)くは来りてわが門を敲(たゝ)くなかれ。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風、永井壮吉(著)
拳(こぶし)で荒々(あら/\)しく戸(と)を敲(たゝ)くと、戸(と)は中(なか)から制服(せいふく)を着(つ)けた、圓顏(まるがほ)で蛙(かはづ)のやうに大(おほ)きい眼(め)をしたモ一人(ひとり)の歩兵(ほへい)の手(て)で開(ひら)かれました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
提灯を持つて、拍子木を敲(たゝ)いて來る夜廻の爺いさんに、お奉行樣の所へはどう往つたら往かれようと、いちがたづねた。
最後の一句 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「何(ど)うだ、一盃遣(や)らないか」と、前にあつた葡萄酒の壜(びん)を持つて振(ふ)つて見せた。中(なか)にはまだ余程這入つてゐた。梅子は手を敲(たゝ)いて洋盞(コツプ)を取り寄せた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
初見(しよけん)の土地(とち)へ対(たい)しても、すつとこ被(かぶ)りもなるまいし……コツツンと音(おと)のするまで、帽子(ぼうし)の頂辺(てつぺん)を敲(たゝ)いて、嵌(は)めて
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
余りひどく表を敲(たゝ)くから、側の馬小屋に繋(つな)いでありました馬が驚いて、ヒイーン、バタ/\/\と羽目を蹴(け)る。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さげ詫入る處を猶も又めつた打ちに打ち敲(たゝ)き頓(やが)て蹴飛(けとば)し蹴返(けかへ)して直に請人石町甚藏店の六右衞門を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
『解(わか)つたか馬鹿野郎(ばかやらう)!』と、イワン、デミトリチは※(さけ)んで、拳(こぶし)を固(かた)めて戸(と)を敲(たゝ)く。『やい開(あ)けろ! 開(あ)けろ! 開(あ)けんか! 開けんなら戸(と)を打破(ぶちこは)すぞ! 人非人(ひとでなし)! 野獸(けだもの)!』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
これに乘れる寢衣(ねまき)着たる翁とやさしき花賣娘とは、早くも惡劇(いたづら)のためよりは避難のためと見て取りぬと覺しく、娘は輕く我手背を敲(たゝ)き、例の玉のつぶて二つ投げかけしのみなれど
お京(きやう)さん居(ゐ)ますかと窓(まど)の戸(と)の外(そと)に來(き)て、こと/\と羽目(はめ)を敲(たゝ)く音(おと)のするに、誰(だ)れだえ、もう寢(ね)て仕舞(しま)つたから明日(あした)來(き)てお呉(く)れと嘘(うそ)を言(い)へば、寢(ね)たつて宜(い)いやね、起(お)きて明(あ)けてお呉(く)んなさい
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(さいの神のまつり下にしるす)又去年むこよめをむかへたる家の門(かど)に、未明(みめい)よりわらべども大勢あつまり、かの斗棒をもつて門戸を敲(たゝ)き、よめをだせむこをだせと同音によばゝりたゝく。
此美吉屋(みよしや)で二月二十四日の晩に、いつものやうに主人が勝手に寝て、家族や奉公人を二階と台所とに寝させてゐると、宵(よひ)の五つ過に表の門を敲(たゝ)くものがある。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やがて咖啡(コーヒー)が出(で)る。一人(ひとり)が椅子を離れて立つた。与次郎が烈(はげ)しく手を敲(たゝ)くと、他(ほか)のものも忽(たちま)ち調子を合せた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
でも、こゝには、金銀如山(きんぎんやまのごとく)、綾羅(りようら)、錦繍(きんしう)、嘉肴(かかう)、珍菓(ちんくわ)、あり餘(あま)つて、尚(な)ほ、足(た)りないものは、お使者(ししや)の鬼(おに)が手(て)を敲(たゝ)くと整(とゝの)へるんです、それに不足(ふそく)はありません。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
此処(こゝ)へ大橋の方から前橋(まえばし)の松屋新兵衞(まつやしんべえ)が駈付けてまいりましたが、人ごみで少しも歩けませぬ、突退(つきの)け撥返(はねかえ)し、或(あるい)は打たれ或は敲(たゝ)かれ、転がるように駈出しましたが
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
譬(たと)へばお前(まへ)が中(なか)に居(ゐ)て敲(たゝ)いたとする、さうすれば私(わたし)はお前(まへ)を外(そと)へ出(だ)してやると云(い)ふものだらう、ね
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
堅く閉て早(はや)寢(ね)たる樣子也(やうすなり)然れども此所を起(おこ)して尋ねずば何(いづれ)にも尋ぬる方あるまじと思ひ門の戸を敲(たゝ)きて呼起(よびおこ)すに未だ内には寢ざるにや年寄たる嫗(をんな)の聲にて應と言て門の戸を開(あけ)友次郎の顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
われは扉をほと/\と敲(たゝ)きしに、寺僮は我が爲めに門を開きつ。そは曾てわが市長に伴はれて來ぬる時、我にチチヤノとカノワとの墓を指(ゆびざ)し教へしことあれば、猶我面を見知り居たりしなり。
歸(かへ)りは例(れい)の窓(まど)を敲(たゝ)いてと目算(もくさん)ながら横町(よこちやう)を曲(まが)れば、いきなり後(あと)より追(お)ひすがる人(ひと)の、兩手(りやうて)に目(め)を隱(かく)して忍(しの)び笑(わら)ひするに、誰(だ)れだ誰(だ)れだと指(ゆび)を撫(な)でゝ、何(なん)だお京(きやう)さんか、小指(こゆび)のまむしが物(もの)を言(い)ふ
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『可(い)いか、貴樣(きさま)の頭(あたま)を敲(たゝ)き破(わ)るぞ! 人殺奴(ひとごろしめ)!』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
昨夕(ゆふべ)飲んだ麦酒(ビール)は是(これ)に比(くら)べると愚(おろか)なものだと、代助は頭(あたま)を敲(たゝ)きながら考へた。幸(さいはひ)に、代助はいくら頭(あたま)が二重(にぢう)になつても、脳の活動に狂(くるひ)を受けた事がなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほと/\と板戸を敲(たゝ)き、「この執念深き奥方、何とて今宵(こよひ)に泣きたまはざる」と打笑(うちわら)ひけるほどこそあれ、生温(なまぬる)き風一陣吹出で、腰元の携(たづさ)へたる手燭(てしよく)を消したり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこで門を敲(たゝ)かれた時、門番がすぐに立つて出て、外に来たものの姓名と用事とを聞き取つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
始(はじま)りはお屋敷外(そと)を槍持六尺棒持を連れて見廻らんければなりません、槍持は仲間部屋(ちゅうげんべや)から出ます、棒持の方は足軽部屋から出(で)て、甃石(いし)の処をとん/\とん/\敲(たゝ)いて歩(あ)るく
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
先生は熟睡してゐる。三四郎は静かで好(い)い心持になつた。爪(つめ)で鉄瓶(てつびん)を敲(たゝ)いて見た。熱(あつ)い湯を茶碗に注(つ)いでふう/\吹(ふ)いて飲んだ。先生は向(むかふ)をむいて寐てゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うつゝ責(ぜめ)とか申(まを)すのに、どら、ねう鉢(ばち)、太鼓(たいこ)を一齊(いちどき)に敲(たゝ)くより、鉦(かね)ばかりですから、餘計(よけい)に脈々(みやく/\)へ響(ひゞ)いて、貫(とほ)つて、其(そ)の苦(くる)しさつたら、日(ひ)に三度(ど)も注射(ちうしや)の針(はり)を刺(さ)されます
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私は斬られたなら敵(かたき)があらう、其敵は私がかうして討つと云つて、庭に飛び降りて、木刀で山梔(くちなし)の枝を敲(たゝ)き折つた。母はそれに驚いて、其後は私の聴く所で父の噂をしなくなつたさうである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
敵の行方は八州へも頼んでえたから、今に関取が出て来れば手分(てわけ)えして富五郎を押えて敲(たゝ)いたら、大概(たいがい)敵は一角に違(ちげ)えねえと思ってるくらいだから、機嫌の悪い事が有るなら私にそういって
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夫(それ)で能(よ)く自分(じぶん)で自分(じぶん)の頭(あたま)を振(ふ)つてみて、二つのものを混(ま)ぜやうと力(つと)めたものである。彼(かれ)は今(いま)枕(まくら)の上(うへ)へ髪(かみ)を着(つ)けたなり、右(みぎ)の手を固(かた)めて、耳(みゝ)の上(うへ)を二三度敲(たゝ)いた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
棧(かけはし)の亭(ちん)で、遙(はるか)にポン/\とお掌(て)が鳴(な)る。へーい、と母家(おもや)から女中(ぢよちう)が行(ゆ)くと、……誰(たれ)も居(ゐ)ない。池(いけ)の梅(うめ)の小座敷(こざしき)で、トーンと灰吹(はひふき)を敲(たゝ)く音(おと)がする、娘(むすめ)が行(ゆ)くと、……影(かげ)も見(み)えない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
予(かね)てお名前(なめえ)は聞いて居りましたがあなたが業平の旦那様ですか、道理で腕に応(こて)えがあると思った、仔細というは外(ほか)でもない、少し訳があって此の島の取締り役人を敲(たゝ)き殺し、一同死ぬ気でございます
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
宗助(そうすけ)は人(ひと)のする如(ごと)くに鐘(かね)を打(う)つた。しかも打(う)ちながら、自分(じぶん)は人並(ひとなみ)に此(この)鐘(かね)を撞木(しゆもく)で敲(たゝ)くべき權能(けんのう)がないのを知(し)つてゐた。それを人並(ひとなみ)に鳴(な)らして見(み)る猿(さる)の如(ごと)き己(おの)れを深(ふか)く嫌忌(けんき)した。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、驟雨(しうう)の凄(すさま)じさは少(すこ)しもない。すぐ、廻(まは)り縁(ゑん)の座敷(ざしき)に、畳屋(たゝみや)の入(はい)つてゐたのも、何(なん)となく心(こゝろ)ゆく都(みやこ)の時雨(しぐれ)に似(に)て、折(をり)から縁(ゑん)の端(はし)にトントンと敲(たゝ)いた茣蓙(ござ)から、幽(かすか)に立(た)つた埃(ほこり)も青(あを)い。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)