あた)” の例文
旧字:
かくすにゃあたらないから、有様ありようにいってな、こと次第しだいったら、堺屋さかいやは、このままおまえにはあわせずに、かえってもらうことにする」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これはつまり土地とち御守護ごしゅごあたらるる神様かみさまでございまして、その御本体ごほんたい最初はじめからどおしの自然霊しぜんれい……つまり竜神様りゅうじんさまでございます。
囲炉裡ゐろり焚火たきびをしておあたんなさいまし、おこまんなすつたらう此雪このゆきでは、もう此近このちかく辺僻へんぴでございまして御馳走ごちそうするものもございません。
同時にまた、教科書の間に隠した『梅暦うめごよみ』や小三こさん金五郎きんごろうの叙景文をばあたりに見る川筋の実景に対照させて喜んだ事も度々であった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「彼はゲームの結果を知りたがっていた。さしあたり、君の大当りなんか、何といって彼が説明するだろうかなア。はッはッはッ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勿論彼は密送前みつそうまへから本葬にかゝるまで十も、あによめの弟にあたる人のいへの二かいはなれに閉籠とぢこもつてゐて叮重ていちやうにされゝばされるほど気が痛んだ。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
むし居所ゐどころくわつともたがの、かんがえてれば、お前様めえさまは、たゞ言托ことづけたのまれたばかりのことよ。なにつてかゝるにはあたらなんだか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
お時が出て行くや否や、小林はやぶからぼうにこんな事を云い出した。お延は相手が相手なので、あたらずさわらずの返事をしておくに限ると思った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてこんな有様ありさまはそれから毎日まいにちつづいたばかりでなく、しそれがひどくなるのでした。兄弟きょうだいまでこのあわれな子家鴨こあひる無慈悲むじひつらあたって
そのもっとも力を致したるは勘定奉行かんじょうぶぎょう在職中ざいしょくちゅうにして一身を以て各方面にあたり、横須賀造船所よこすかぞうせんじょ設立せつりつのごとき、この人の発意はついでたるものなり。
何にも為る事がない、ただもう倦怠るい、仕方が無いので妹の鏡台を縁側に持ち出して又かうやつて剃刀の刃をあたる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
その時部屋の窓の外にあたって、この時の音は少し消魂敷けたたましい。バン……と鳴って響いた。すなわち妻が死んだのであった。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
これ写本しやほんの十がうあたるので、表題ひやうだい山田やまだ隷書れいしよで書きました、これせた山田やまだの小説が言文一致げんぶんいつちで、わたしの見たのでは言文一致げんぶんいつちの小説はこれ嚆矢はじめでした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この時にあたり徳川政府は伏見ふしみの一敗た戦うの意なく、ひたすらあいうのみにして人心すで瓦解がかいし、その勝算なきはもとより明白なるところなれども
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
親族が一心に祈祷きとうをしていると、夜分雨戸にどんとあたる物がある。明けて見るとその児が軒下にきて立っていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あたり彼等の親しい様子を見せつけられては、今更らの様に、烈しい嫉妬を感じないではいられなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あたしの叔父は利口だから、それで、ああいう見事なことを思いついたんですが、日本には、あなたのようなとぼけたひとが多いので、これは大いにあたりました
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そしてわたくしがかまちに上るのをそのまゝ抱きかゝえるようにして炉端へ連れて行き、わたくしを炉にあたらせながら、そこへ周章あわてゝ出て来た宿のおかみさんに
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その鳴ると同時、おばアさんからはうらみ抜かれて、そして今息を引きけている嫁の寝ている天井の一方にあたって、鼠ともつかずいたちともつかぬものの足音が響いた。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
あたさわりないよう、暇を出してくれと云い残して、お義父とうさんは、出かけておしまいになりましたよ
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其れからキキイはいろんな部屋へ移つて廻つた。おれの部屋の下にあたる二階の、今ムウラン・ルウヂユの踊場をどりばへ出る音楽しや夫婦が住んで居る部屋などにも二ヶ月居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「だつて、そのくれゐあためへだア。お前さアばか、勝手な真似して、うらとがめられるせきはねえだ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
おいたるおやせたるかたもむとて、ほねあたりたるもかゝはいとゞ心細こゝろぼそさのやるかたなし。
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
若しすべての文学者ぶんがくしやかつ兵役へいえき従事じゆうじせしめば常備軍じやうびぐんにはか三倍さんばいして強兵きやうへいじつたちまがるべく、すべての文学者ぶんがくしや支払しはら原稿料げんかうれうつもれば一万とん甲鉄艦かふてつかん何艘なんざうかをつくるにあたるべく
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
甲戌こうじゅつおおい斉眉山せいびざんに戦う。うまよりとりに至りて、勝負しょうはいあいあたり、燕の驍将ぎょうしょう李斌りひん死す。燕また遂にあたわず。南軍再捷さいしょうしてふるい、燕は陳文ちんぶん王真おうしん韓貴かんき、李斌等を失い、諸将皆おそる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ボートルレは伯爵の持ってこさせた鶴嘴つるはしで階段のところを壊し初めた。ボートルレの顔色は気が引きしまっているためにまっ蒼であった。突然、鶴嘴は何かにあたってはね返った。
なに貴方あなた探偵たんていしたり、質問しつもんをしたり、ここへてするにはあたらんです。どこへでもほかってしたほうがよいです。わたくしはもう昨日きのう貴方あなたなんためたのかがわかりましたぞ。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それで私はここでいくらかのすぐれた科学者の事蹟じせきについて皆さんにお話ししてようとするのにあたって、まずガリレイのことから始めるのが、当然の順序であると考えるのです。
ガリレオ・ガリレイ (新字新仮名) / 石原純(著)
世の青年子弟が一の学校を卒業すれば天晴あっぱれ自ら何の事もべしと信じ、無経験の身を以て大胆なる事業にあたり遂に失敗して世をうらみ自ら苦むもの比々ひひとしてなこれなり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それも藤岡の祖父にあたる人は川ばたにうづくまれる乞食こじきを見、さぞ寒からうと思ひし余り、自分も襦袢じゆばん一枚になりて厳冬の縁側に坐り込みし為、とうとう風を引いて死にたりと言へば
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「銅貨一枚なけりゃ煙草入れ一つもねえや。これぁどうもあためえじゃねえと思うな。」
瞰上みあぐれば我が頭の上には、高さ幾丈の絶壁が峭立きったっていて、そこはの虎ヶ窟なることを思いあたった。若い男と女とが社会のうるさい圧迫をのがれて、自由なる恋をたのしんだ故蹟こせきである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この檜原の宿しゅくとても、土地の人から聞くと、つい昨年までは、その眼の前に見える湖の下にあったものが、当時、上から替地かえちを、元の山宿やましゅくであった絶項の峠の上にあたる、この地に貰って
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
本当に是でい事だと思って、其言葉の尾にすがって、何処かの雑誌へ周旋をと頼んだ。こんなのを盲目めくらまぐあたりと謂うのだろう。機を制せられて、先生も仕方がなさそうに是も受込む。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
日本と関係ふかかった Sieboldシイボルト(1796-1866)の妹さんが、郊外に住んでいることを知ったので、上さんに一寸あたって見たが、上さんはまた怪訝けげんな顔をしたかとおもうと
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
きみのひじがあたって、眼鏡めがねんだんだよ。」と、青木あおきが、説明せつめいしました。そういわれると、小西こにしも、「ああ、あのときか。」と、おもったのでありましょう。じっと眼鏡めがねていましたが
眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
近所の人にもくわしくあたってみましたが、昨夜酉刻半むつはん(七時)少し過ぎ、火の番の拍子木が通って間もなく、悲鳴を聞いて近所の人が駆けつけると、湯帰りらしいお滝が、ドブ板を枕にして
天門てんもんあたり——隅返すみがえし、人と、中張なかばり張手はりて無し——阿Qのぜにはお取上げ——」
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
係蹄わなにかけて豚とりに来た犬を捕ったら、其れは黒い犬だったそうで、さしあたり白の冤はれたようなものゝ、要するに白の上にあしき運命の臨んで居ることは、彼の主人の心に暗いかげを作った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かたまってようやくの思いをして帰ったとの事だが、こればかりは、老爺おやじが窓のところへたつて行って、受取うけとった白衣びゃくえ納経のうきょうとを、あたり見たのだから確実のだんだといって、私にはなしたのである。
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
ふわふわと、毎日を、本当に私たち人間ってやつは、うわそらで生きているんだ。なんとなく、それがあたりまえだと思いながら、自分にそう弁解をつづけながら、上の空で毎日を送り迎えしている。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
おそれあたりて、わがにくあらたなるべし。」みんなあとから、かみあかい、血色けつしよく一人ひとりとほる。こいつにけていたのだから、きふ飛付とびついてやつた。この気味きみわるで、そのくちおさへた。
神使にあたりたる人潔斎けつさいして役をつとむ。これを大夫といふ。
それがなんで人気を呼ぼう、あたろうはずがなかった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
時には安らかにそれで以て君は君の薄い髯をあたる。
産土うぶすなかみがあって、生死せいし疾病しっぺい諸種しょしゅ災難等さいなんとう守護しゅごあたってくれればこそ、地上ちじょう人間にんげんはじめてそのその生活せいかついとなめるのじゃ。
十分に手当を致し其ののちとうとう縁切えんきりとの事になりましたが、あた十月とつきにすみの産落しましたのが山三郎、それから致して此のおすみには
「さァ、大方おおかたそんなことでげしょうが、どっちにしてもながいことじゃござんすまい。そこはあたりやす。こっちへおいでなすッて。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
美女たをやめ背後うしろあたる……山懐やまふところに、たゞ一本ひともと古歌こか風情ふぜい桜花さくらばな浅黄あさぎにも黒染すみぞめにも白妙しろたへにもかないで、一重ひとへさつ薄紅うすくれなゐ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ぢや、君が菓子をかひけばいのに」と代助は勝手かつてながら、門野かどのあたつた。門野かどのはそれでも、まだ、返事をした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)