さだ)” の例文
秘密警備隊員の笹枝弦吾ささえだげんごは、さだめられた時刻が来たので、同志の帆立介次ほたてかいじと肩をならべてS公園のわきをブラリブラリと歩き始めていた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まだ西も東も知らないいはけない心でも、後々あとあとまでも美しい夢のやうにさだかに、心のなかに取り入れ納めることが出來る物ではなからうか。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
さだめし今頃はひもじい思いを遊ばしながら、うっかり里へ出ることもならずに、淋しい山奥にじっと隠れていらっしゃるのであろう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし段々だんだん落着おちつくにしたがって、さすがにミハイル、アウエリヤヌイチにたいしてはどくで、さだめし恥入はじいっていることだろうとおもえば。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さだめてあの張作霖ちやうさくりんがそんなふう相好さうかうくづしてのけぞりかへつただらうとおもふと、そのむかし馬賊ばぞく荒武者あらむしやだつたといふひとのよさも想像さうざうされて
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
いやいや、はじめがあればおわりのあるものだ。まれたものはかならぬにまったものだ。これは人間にんげんさだまったみちでしかたがない。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
取出し源兵衞といふ餠屋や有と繰返くりかへし改めしに茗荷屋みやうがや源兵衞と云があり是は近頃遠國ゑんごくより歸し人ときゝ及ぶさだめてこれならんと寶澤にも是由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なほ父をして子にむかひてやぶさかならしむる者、人の己をそしるを聞き、事のまことさだかにせんためクリメーネのもとに行きしことあり 一—三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「そうだが、このさきはわからないが、とにかくいまのところでは天下平静へいせい御岳みたけ兵学大講会へいがくだいこうえも、今年はさだめしにぎわしかろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第二 毎日まいにち食餌しよくじ三度さんどかぎり、分量ぶんりやうさだし。夜中やちゆう飮食いんしよくせざるをもつともよしとす。たゞし食後しよくご少時間しばらく休息きうそく運動うんどうはじむべきこと
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
が、ものおと人聲ひとごゑさへさだかには聞取きゝとれず、たまにかけ自動車じどうしやひゞきも、さかおとまぎれつゝ、くも次第々々しだい/\黄昏たそがれた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いまだに宿やどとてもさだまるまじく、はゝ此樣こんになつてはづかしい紅白粉べにおしろい、よし居處ゐどころわかつたとてひにてもれまじ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あのおりおもいのほか乱軍らんぐん訣別わかれ言葉ことばひとつかわすひまもなく、あんなことになってしまい、そなたもさだめし本意ほいないことであったであろう……。
「ハ、表面おもて立つた媒酌人と申すも、いまだ取りさだめたと申す儀にも御座りませぬ、いづれ其節何殿どなたかに御依頼致しまする心得で——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
其後そのご一週間いつしゆうかんむなしく※去すぎさつたならば、櫻木大佐さくらぎたいさつひには覺悟かくごさだめて、稀世きせい海底戰鬪艇かいていせんとうていともに、うみ藻屑もくづえてしまうことであらう。
わたしおもひどほりのふかこゝろざしせたかたでなくては、をつとさだめることは出來できません。それはたいしてむづかしいことでもありません。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
「二日二晩に及ぶ折檻せつかんの後、奧樣には、よく/\思ひさだめたものと相見え、昨夜、——深更しんかう、見事に生害してお果てなされた」
かく此決心このけつしんさだまるや、かれさら五年ごねんあひだ眞黒まつくろになつてはたらきそして、つひに一の小學校せうがくかう創立さうりつして、これを大島仁藏おほしまじんざう一子いつし大島伸一おほしましんいちけん
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
糟谷かすやはいよいよ平凡へいぼんな一獣医じゅうい估券こけんさだまってみると、どうしてもむねがおさまりかねたは細君であった。どうしてもこんなはずではなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いやな旦那をつとめて好きな役者狂ひの口直くちなおしにも少し飽きが来れば、さだまる男一人ひとりにかしづいて見たい殊勝の願ひを起す。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と夫婦の情で逢いたいから、すぐに飛出してこうかとは思ったが、一歳ひとつになるおさだの顔を見せたいと思いまして、これを抱起して飛んで参り
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また松島まつしまでは、老母ろうぼ少女しようじよとがあはせてはうむつてありましたが、これはさだめし祖母そぼ孫娘まごむすめとが同時どうじ病死びようししたものをはうむつたものとおもはれます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
忠兵衛の家は、この二人の内いずれかのすえであるか、それとも外に一豊の弟があったか、ここににわかさだめることが出来ない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それでもかれ強健きやうけん鍛練たんれんされたうでさだめられた一人分にんぶん仕事しごとはたすのはやゝかたぶいてからでもあなが難事なんじではないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二人ふたり子供こどもをどこかへやってしまいました。それからというもの、わたしは、ところさだめず、さまよっているのであります……。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは長い習慣でさだめられた規則のように、誰も犯すものがなかったという事です。ところがある晩新しい客が来ました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
年紀としのころは二十七八なるべきか。やや孱弱かよわなる短躯こづくりの男なり。しきり左視右胆とみかうみすれども、明々地あからさまならぬ面貌おもてさだかに認め難かり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
江戸時代には一と口に痲疹はいのちさだめ、疱瘡は容貌きりょう定めといったくらいにこの二疫を小児の健康の関門として恐れていた。
いくら難船の船乗りが星で方角をさだめようたって雲で見えはしない。天文台の星の係りも今日は休みであくびをしてる。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
生徒の数も段々えて、塾生の数は常に二百から三百ばかり、教うる所の事は一切いっさい英学とさだめ、英書を読み英語を解するようにとばかり教導して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ぜにげては陰陽いんようさだめる、——それがちょうど六度続いた。おれんはその穴銭の順序へ、心配そうな眼をそそいでいた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……彼は小川に沿うてきつもどりつしている。おさだまりの月の光が、ちらちらと動いて、女の編針あみばりのように入り交る。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「分りました、では、僕達を妙子に会わせて下さい。直接あれの口から聞き度いのです。妙子はさだめし波越さんの手で捉えられているのでしょうね」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さだめし君は、多忙を極めて居るであろうが、然し僕は、君がどんなに多忙な中でも、僕のこの手紙を終りまで読んでくれるであろうと堅く信じて居る。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
とにかく愛子は某富豪華族の御落胤で、おさだまりの里子上りの養母ははおやに、煮て喰われようと焼いて喰われようと文句の云えない可哀相な身上であった事。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お駒さんは誰とも美しく附き合っていたようですが、一番仲好くしていたのはおさだという下新造したしんのようでした。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、自ら手拭出して拭きたりしも、化学染めの米沢平、乾ける後には、さだめて斑紋ぶちを留めたらん。気の毒に。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
利根とね水源すゐげん確定かくていし、越後えちごおよ岩代いわしろ上野かうずけの国境をさだむるを主たる目的もくてきとなせども、かたは地質ちしつ如何いかん調査てうさし、将来しやうらい開拓かいたくすべき原野げんやなきやいなや良山林りやうさんりんありやいなや
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
髪はこの手合てあいにおさだまりのようなお手製の櫛巻なれど、身だしなみを捨てぬに、小官吏こやくにん細君さいくんなどが四銭の丸髷まるまげ二十日はつかたせたるよりははるかに見よげなるも
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その同じ敵の家が今再び私の眼前に見えて來た。前途はまださだかならず、まだ私の心はいたんでゐるのだ。今もまだ私はこの地上の放浪者のやうな氣がしてゐた。
その歴史がこういう歴史であったとかりさだめてごらんなさい……この教会を建てた人はまことに貧乏人であった、この教会を建てた人は学問も別にない人であった
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「それもそうだな。ともかく、我々はたったいま着いたところで、まだ地の理を研究していない、さあ上ってひとつ、前途の方針をとっくりとさだめようじゃないか」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
カピ妻 はて、其方そなた仁情深なさけぶか父御てゝごをおちゃってぢゃ。其方そなた愁歎なげきわすれさせうとて、にはかにめでたいをおさだめなされた、わし其方そなたつひおもひがけぬめでたいを。
「至極じゃ。至極じゃ。蘭書の絵図と、寸分の違いもござらぬ。和漢千載の諸説は、みな取るに足らぬ妄説とさだまり申した。医術はもはやオランダに止めを刺し申した」
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
最初さいしよドードてうは、いついて競爭レース進路コースさだめました、(「かたち正確せいかくでなくてもかまはない」とドードてうひました)それから其處そこた一たいのものがみン
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いかで/\我命をば助けよかしと涙おとしてびけれど(その言語今の世のことばならで、さだかには聴取りかねしとぞ)、いといぶかしくや思ひけん、其儘そのまま里へせ還りて
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
穰苴じやうしよすなはへうたふ(一二)ろうけつし、りてぐんめぐへい(一三)ろくし、約束やくそく(一四)申明しんめいす。約束やくそくすでさだまる。夕時せきじ莊賈さうかすなはいたる。穰苴じやうしよいはく、『なんすれぞおくるる』
「ワッハッハ、矢をはなちてまずえんさだむ、これすなわち事の初めなり。どうだ、驚いたか」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私が疲れると呉服屋のさだちやんが自慢のお祭囃子の腕にうんとよりを掛けてたゝきました。
泣き笑ひ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
其のガスの中から、斷えずカタ/\、コト/\と、車の音やら機械の音やら何やら何うしてゐても聞きさだめることの出來ぬにぶい響がれて來る………都會の音==活動の響だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)