黒髪くろかみ)” の例文
年齢としのころ三十あまりと見ゆる女白く青ざめたる㒵に黒髪くろかみをみだしかけ、今水よりいでたりとおもふばかりぬれたる袖をかきあはせてたてり。
袖もなびく。……山嵐さっとして、白い雲は、その黒髪くろかみ肩越かたごしに、裏座敷の崖の欄干てすりに掛って、水の落つる如く、千仭せんじんの谷へ流れた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
星の空にそびえた一本の白樺しらかば、その高き枝にみどりの黒髪くろかみ風に吹かして、腰かけていたひとりの美少女、心なくしてふと見れば
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あねは、なんとおもったか、そのおんなのそばにちかづいて、ひとみなかをのぞきました。すると、なが黒髪くろかみおんなかたにかかりました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うでをくんで背中をまるめている、あなたの緑色のスエタアのうえに、お下げにした黒髪くろかみが、颯々さつさつと、風になびき、折柄おりからの月光に、ひかっていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
まつろうひざもとから、黒髪くろかみたばりあげた春重はるしげは、たちまちそれをかおてると、次第しだいつの感激かんげきをふるわせながら、異様いようこえわらはじめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
えて精限り根限り弾いた「黒髪くろかみ」のようなやさしいものや「茶音頭」のような難曲やもとより何の順序もなく聞きかじりで習ったのであるからいろいろのものを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きらりとひか金属きんぞくのもとに、黒髪くろかみうつくしい襟足えりあしががっくりとまへにうちのめつた。血汐ちしほのしたヽる生首なまくびをひっさげた山賊さんぞくは、くろくちをゆがめてから/\からと打笑うちわらつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
八雲やくもさす出雲いづも子等こら黒髪くろかみ吉野よしぬかはおきになづさふ 〔巻三・四三〇〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
おどろいたことには、とらのやうに大切たいせつにしてゐるウェルスの手紙てがみなどれた折鞄をりかばんのなかから、黒髪くろかみたば短刀たんたうとが、かみにくるんで、ひもいはへられたまゝ、竹村たけむらまへ引出ひきだされたことであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そのときたちまち、右手みぎてたかく、御秘蔵ごひぞう御神剣ごしんけんかざし、うるし黒髪くろかみかぜなびかせながら、部下ぶか軍兵つわものどもよりも十さきんじて、草原くさはら内部なかからってでられたみことたけ御姿おんすがた、あのときばかりは
これは四十がらみの、黒髪くろかみに白を交えた男である。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
紅玉のくちびる蘭麝らんじゃ黒髪くろかみをどれだけ
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
いまさらになにとか云はむ黒髪くろかみ
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
黒髪くろかみ長き吾身こそ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くちにはへどむづかしかるべしとは十指じつしのさすところあはれや一日ひとひばかりのほどせもせたり片靨かたゑくぼあいらしかりしほうにくいたくちてしろきおもてはいとゞとほほどりかかる幾筋いくすぢ黒髪くろかみみどりもとみどりながらあぶらけもなきいた/\しさよわれならぬひとるとてもたれかは
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
美女たをやめは、やゝ俯向うつむいて、こまじつながめる風情ふぜいの、黒髪くろかみたゞ一輪いちりん、……しろ鼓草たんぽゝをさしてた。いろはなは、一谷ひとたにほかにはかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、竹童はそのまえにつかれたからだをすえ、咲耶子はうちしおれて、紫蘭しらんのかおる黒髪くろかみを、あかい獣蝋じゅうろうのそばにうつむけていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さるをおんそうしば/\こゝにきたりて回向ゑかうありつる功徳くどくによりてありがたき仏果ぶつくわをばえたれども、かしら黒髪くろかみさはりとなりて閻浮えんぶまよふあさましさよ。
「あたしね、「黒髪くろかみ」をあげたらこんどは「春雨はるさめ」だわ。いヽわね。は る さ め…………」
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
あるのことです。りっぱな、おじょうさまの馬車ばしゃもんまえまると、おじょうさまは、黒髪くろかみ両方りょうほうのふくよかなかたみだした、半裸体はんらたいわかおんなをつれて、おうちなかへはいられました。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さきはひのいかなるひと黒髪くろかみしろくなるまでいもこゑく 〔巻七・一四一一〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
梅花ばいかの油黒髪くろかみ
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
人心地ひとごこちもなく苦しんだ目が、かすかいた時、初めて見た姿は、つややかな黒髪くろかみを、男のようなまげに結んで、緋縮緬ひぢりめん襦袢じゅばん片肌かたはだ脱いでいました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笛は喨々りょうりょうとうむことなく、樺の林をさまよっている。やがて、そこに人かげがうごいた。見ればひとりの美少女である。長くたれた黒髪くろかみに、らんの花をさしていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒髪くろかみのかげの根付ねづけたまは、そらへとんでいつてはあをひかつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
といひかけてつツち、つか/\と足早あしばや土間どまりた、あまのこなしが活溌くわツぱつであつたので、拍手ひやうし黒髪くろかみさきいたまゝうなぢくづれた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かる黒髪くろかみそよがしにかぜもなしに、そらなるさくらが、はら/\とつたが、とりかぬしづかさに、花片はなびらおとがする……一片ひとひら……二片ふたひら……三片みひら……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むねに咲いた紫羅傘いちはつの花の紫も手に取るばかり、峰のみどりの黒髪くろかみにさしかざされたよそおいの、それが久能谷くのや観音堂かんおんどう
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
脚絆きゃはんを堅く、草鞋わらじ引〆ひきしめ、背中へ十文字に引背負ひっしょった、四季の花染はなぞめ熨斗目のしめ紋着もんつき振袖ふりそでさっ山颪やまおろしもつれる中に、女の黒髪くろかみがはらはらとこぼれていた。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
をんなざうどう仰向あふむけに、かたふなべりにかゝつて、黒髪くろかみあしはさまり、したからすそけて、薄衣うすぎぬごとかすみなびけば、かぜもなしにやはらかな葉摺はずれのおとがそよら/\。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はないろうつくしく、中肉ちうにくで、中脊ちうぜいで、なよ/\として、ふつとくと、黒髪くろかみおとがさつとつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雲の黒髪くろかみ桃色衣ももいろぎぬ菜種なたねの上をちょうを連れて、庭に来て、陽炎かげろうと並んで立って、しめやかに窓をのぞいた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とそれならぬ、姉様あねさんが、山賊の手に松葉燻まつばいぶしの、乱るる、ゆらめく、黒髪くろかみまでが目前めさきにちらつく。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
をあげて黒髪くろかみをおさへながらわきした手拭てぬぐひでぐいとき、あとを両手りやうてしぼりながらつた姿すがたたゞこれゆきのやうなのをかゝ霊水れいすいきよめた、恁云かういをんなあせ薄紅うすくれなゐになつてながれやう。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さらば、といって、土手の下で、分れぎわに、やや遠ざかって、見返った時——その紫の深張ふかばりを帯のあたりで横にして、少し打傾うちかたむいて、黒髪くろかみかしらおもげに見送っていた姿を忘れぬ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨露あめつゆ黒髪くろかみしもと消え、そですそこけと変って、影ばかり残ったが、おかおの細くとがったところ、以前は女体にょたいであったろうなどという、いや女体の地蔵というはありませんが、さてそう聞くと
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ながしところに、浅葱あさぎ手絡てがらが、時ならず、雲から射す、濃い月影のようにちらちらして、黒髪くろかみのおくれ毛がはらはらとかかる、鼻筋のすっととおった横顔が仄見ほのみえて、白い拭布ふきんがひらりと動いた。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婿君むこぎみのふみながら、衣絵きぬゑさんのこゝろつたへた巻紙まきがみを、繰戻くりもどすさへ、さら/\と、みどりなす黒髪くろかみまくらみだるゝおとかんじて、つめたいまでさむくしながらも、そのは、つゝしんたいしたのである。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
薄紅ときいろ撫子なでしこと、藤紫ふじむらさき小菊こぎくかすかいろめく、友染いうぜんそつ辿たどると、掻上かきあげた黒髪くろかみ毛筋けすぢいて、ちらりと耳朶みゝたぼと、さうして白々しろ/″\とある頸脚えりあしが、すつとて、薄化粧うすげしやうした、きめのこまかなのさへ
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くも黒髪くろかみごとさばけて、むねまとひ、のきみだるゝとゝもに、むかうの山裾やますそに、ひとつ、ぽつんとえる、柴小屋しばごや茅屋根かややねに、うす雨脚あめあしかつて、下草したぐさすそをぼかしつゝ歩行あるくやうに、次第しだい此方こちら
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)