羽音はおと)” の例文
そこへ、くもったそらに、羽音はおとをさせて、一のからすがんできたかとおもうと、ちょうど、すずめのまっているうええだにきてりました。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
たか羽音はおとでもあるやうにうなつておとは、その竹竿たけざをにしたひと口端くちばたとがらせてプウ/\なに眞似まねをしてせたこゑでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
庭の橄欖かんらん月桂げっけいは、ひっそりと夕闇に聳えていた。ただその沈黙がみだされるのは、寺のはとが軒へ帰るらしい、中空なかぞら羽音はおとよりほかはなかった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのあぶ羽音はおとを、くともなしにきながら、菊之丞きくのじょう枕頭ちんとうして、じっと寝顔ねがお見入みいっていたのは、お七の着付きつけもあでやかなおせんだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
此頃このごろ空癖そらくせで空は低く鼠色ねずみいろくもり、あたりの樹木じゆもくからは虫噛むしばんだ青いまゝの木葉このはが絶え間なく落ちる。からすにはとり啼声なきごゑはと羽音はおとさはやかに力強くきこえる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこを通ると、みつばちの羽音はおとがしていた。白っぽい松の芽が、におうばかりそろいのびているのも、見ていった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
陽気な陽気な時節ではあるがちょっとの間はしーんと静になって、庭のすみ柘榴ざくろまわりに大きな熊蜂くまばちがぶーんと羽音はおとをさせているのが耳に立った。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一議いちぎに及ばず、草鞋わらじを上げて、道を左へ片避かたよけた、足の底へ、草の根がやわらかに、葉末はずえはぎを隠したが、すそを引くいばらもなく、天地てんちかんに、虫の羽音はおとも聞えぬ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
突然とつぜんぱた/\とけたゝましい羽音はおとすぐあたまうへさわいだ。たけこずゑとまつてはとにはかおどろいてとほげたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
みょうな風を切るような羽音はおとをたてて、まるで地獄の底から悪魔の飛行機がまいあがってくる感じでした。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ああ、救いが目の前にやって来ましたわ、そうおもって、お妃は喜びに胸をとどろかせました。白鳥たちは、ばたばた羽音はおとを立てながら、お妃の近くにとんで来ました。
サヤサヤという羽音はおとといっしょに、一羽の小鳥が窓から飛び込んできて、書机デスクのそばの止まり木にとまった。背中が葡萄色で、つばさに黒と白の横縞よこじまのある美しい懸巣かけすである。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
りわたったなつの日、風の夜、ながれる光、星のきらめき、雨風あめかぜ小鳥ことりの歌、虫の羽音はおと樹々きぎのそよぎ、このましいこえやいとわしい声、ふだんきなれている、おと、戸の音
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ほんの一時間じかんはしったとおもうころ、へさきにってこうをながめていたきじが、「あれ、あれ、しまが。」とさけびながら、ぱたぱたとたか羽音はおとをさせて、そらにとびがったとおもうと
桃太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ある日庭を歩いて居ると、突然東の方からあらしの様な羽音はおとを立てゝ、おびただしい小鳥のむれ悲鳴ひめいをあげつゝ裏の雑木林ぞうきばやしに飛んで来た。と思うと、やがて銃声がした。小鳥はうまいものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
種類しゆるゐなにと初めより一定不致候いつていいたさずさふらう十日に一通の事もあるべく一日に十通の事もあるべし、かき鳴らすてふ羽音はおとしげきか、端書はがきしげきかこれもつて僕が健康の計量器けいりやうきとも被下度候くだされたくそろ勿々さう/\(十三日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「ああ、虫の羽音はおとのようですね、ブーン、ブーンという、蚊のような音ですね」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、あやしい羽音はおとが、またも空に鳴った。はッとしてふたりが船からふりあおぐと、大きなをえがいていた怪鳥けちょうのかげが、しおけむる遠州灘えんしゅうなだのあなたへ、一しゅんのまに、かけりさった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
渡り鳥の帰って来る羽音はおとを、炉辺ろへんく情趣のわびしさは、西欧の抒情詩、特にロセッチなどに多く歌われているところであるが、日本の詩歌では珍しく、蕪村以外に全く見ないところである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
たゞ折々をり/\きこゆるものは豌豆ゑんどうさやあつい日にはじけてまめおとか、草間くさまいづみ私語さゝやくやうな音、それでなくばあきとり繁茂しげみなか物疎ものうさうに羽搏はゞたきをする羽音はおとばかり。熟過つえすぎ無花果いちじくがぼたりと落ちる。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かすかな羽音はおと、遠きに去る物の響、逃げて行く夢のにおい、古い記憶の影
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聞け、物の音、——飛びがふいなご羽音はおと
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
土蜂すかる羽音はおとの甘さ、青葉の吐息といき
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、おそろしい、おおきな羽音はおとは、だんだんせまってくるようながいたしました。からすは、もはや、いのちたすからないものとおもいました。
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのときりて小鳥ことりをびつくりさせるものは、きふ横合よこあひから飛出とびだ薄黒うすぐろいものと、たか羽音はおとでもあるやうなプウ/\うなつておとです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この頃の空癖そらくせで空は低く鼠色ねずみいろに曇り、あたりの樹木からは虫噛むしばんだ青いままの木葉このはが絶え間なく落ちる。からすにわとり啼声なきごえはと羽音はおとさわやかに力強く聞える。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と同時に大きなはえが一匹、どこからここへまぎれこんだか、にぶ羽音はおとを立てながら、ぼんやり頬杖ほおづえをついた陳のまわりに、不規則な円をえがき始めた。…………
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わがゐたる一株ひとかぶの躑躅のなかより、羽音はおとたかく、虫のつと立ちて頬をかすめしが、かなたに飛びて、およそ五、六尺へだてたるところつぶてのありたるそのわきにとどまりぬ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
氣疎けうとげにはためく羽音はおとをりをり
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
たつる羽音はおとを觀しや君。
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
からすが、つよ羽音はおとをたてて、んできたのをると、こまどりは、さもびっくりしたようですが、やはりらぬかおをしてうたいつづけていました。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
画札えふだを握った保吉は川島の号令のかかると共に、誰よりも先へ吶喊とっかんした。同時にまた静かに群がっていた鳩はおびただしい羽音はおとを立てながら、大まわりになかぞらへ舞い上った。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とほ彼方かなたからひた/\と小刻こきざみけてるのは、二本足ほんあし草鞋わらぢ穿いたけものおもはれた、いやさまざまにむら/\といへのぐるりを取巻とりまいたやうで、二十三十のものゝ鼻息はないき羽音はおと
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
側は漂渺ひょうびょうたる隅田の川水青うして白帆に風をはらみ波に眠れる都鳥の艪楫ろしゅうに夢を破られて飛び立つ羽音はおとも物たるげなり。待乳山まつちやまの森浅草寺せんそうじの塔の影いづれか春の景色ならざる。実に帝都第一の眺めなり。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幾世いくよなやみの羽音はおとさへ
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
羽音はおとを聞けば葛城の
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
千万ちよろづ羽音はおとしら
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
水をかすめて去来する岩燕いわつばめを眺めていると、あるいは山峡やまかい辛夷こぶしの下に、みつって飛びも出来ないあぶ羽音はおとを聞いていると、何とも云いようのない寂しさが突然彼を襲う事があった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのこころよ羽音はおとが、まだ二人ふたりねむっているうちから、夢心地ゆめごこちみみこえました。
野ばら (新字新仮名) / 小川未明(著)
さいさゞなみ鴛鴦おしどりうかべ、おきいはほ羽音はおととゝもにはなち、千じん断崖がけとばりは、藍瓶あゐがめふちまつて、くろ蠑螈ゐもりたけ大蛇おろちごときをしづめてくらい。数々かず/\深秘しんぴと、凄麗せいれいと、荘厳さうごんとをおもはれよ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水禽みづとり羽音はおとのわかれ。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
あるのこと、そらに、するどい羽音はおとがしました。電信柱でんしんばしらはもうあきになったから、いろいろのとりあたまうえわたるけれど、こんなに力強ちからづよく、はねきざとりは、なんのとりであろうとかんがえていました。
頭をはなれた帽子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
うみみどりさけなるかな。後苑こうゑん牡丹花ぼたんくわ赫耀かくえうとしてしかしづかなるに、たゞひとめぐはち羽音はおとよ、一杵いつしよ二杵にしよブン/\と、ちひさき黄金きんかねる。うたがふらくは、これ、龍宮りうぐうまさときか。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
草芝をづるほたる羽音はおとかな
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おなじ場所では余り沢山たくさんには殖えないものなのであろうか知ら? 御存じの通り、稲塚いなづか稲田いなだ粟黍あわきびの実る時は、平家へいけの大軍を走らした水鳥みずどりほどの羽音はおとを立てて、畷行なわてゆき、畔行あぜゆくものを驚かす
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このとき、どこからか、青々あおあおとした、うえんで、すがすがしい空気くうきに、羽音はおとをたてる一くろ水鳥みずどりがあったかとおもうと、小川おがわふちりました。それは、くちばしの黄色きいろばんだったのです。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、つかれて、やまいただきやすんでいると、空遠そらとおく、がんの一群ひとむれが、羽音はおときざんで、うみほうをさしていくのがられたのでした。このとき、すずめは、自分じぶん故郷こきょうおもしたばかりでありません。
温泉へ出かけたすずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
さればこそ烈しく聞えたれ、此の何時いつ身震みぶるいをするはえ羽音はおと
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
巣立すだちのころか、羽音はおとつて、ひら/\と飛交とびかはす。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)