わたし)” の例文
かう云ふ問題が出たのですが、実を云ふと、わたし生憎あいにくこの問題に大分だいぶ関係のありさうな岩野泡鳴いはのはうめい氏の論文なるものを読んでゐません。
わたしが十一か二の年の冬の夜だつたと覚えてゐる。お父さんは役所の宿直番で、私はお母さんと二人炬燵こたつにさしむかひにあたつてゐた。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
越前ゑちぜん武生たけふの、わびしい旅宿やどの、ゆきうもれたのきはなれて、二ちやうばかりもすゝんだとき吹雪ふゞき行惱ゆきなやみながら、わたしは——おもひました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどわたしおなじい七つ、八つばかりの子供こどもが、毎日まいにち五、六にんあつまって鬼事おにごっこをしたり、こまをまわしたりしてあそんでいました。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「まあ、宇佐美さん、断然久し振りねエ、何んという風の吹き廻しでしょう、近頃はわたし貴方あなたの禿げ振りを夢に見て仕様が無いのよ」
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ああ、わたしが月謝の袋屋さんだつたら! 私はどんなに幸だつたらう。私はこんなに心配しないでもすんだのに。そして私は月謝の袋を
ところで、どういふわけで、そんな子ともの私が寫眞しやしんなどはじめるやうになつたかといへば、そのころわたしは、三宅克巳氏ちよの「せう寫眞術しやしんじゆつ
……あの子供たちを育てるためには、わたしたちも、ずゐぶん苦労をして来たものだ。でも子供は、やつぱり大切にしてやるべきものだ。
母の日 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「それはいかん、どうかして、傷を見てから、薬をつけんといかん、わたしの印籠の中には、好い金創の薬があるから、つけてあげよう」
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのうつくしいそらうばはれてゐたを、ふと一ぽん小松こまつうへすと、わたし不思議ふしぎなものでも見付みつけたやうに、しばらくそれにらした。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
わたしはそのときはなれたところから見ていたのです。最初牛の群れとおおかみの群れとが原中でばったり出くわしたと思ってください。
川口かはぐちの、あしのたくさんえてゐる、そのあしさきが、みんなとれてゐる。これは、たれつたのかとまをしますと、それは、わたしです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
どうも、そうさんもあんまり近頃ちかごろ御出おいででないし、わたし御無沙汰ごぶさたばかりしてゐるのでね、つい御前おまへこと御話おはなしをするわけにもかなかつたんだよ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
神樣かみさま、どうかおきになつてください。わたしはあなたもよく御承知ごしやうちののんべえ です。わたしがのんべえ なためにいへ生計くらしくるまです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
しかわたしすこしも身體からだ異状いじやういです、壯健さうけんです。無暗むやみ出掛でかけること出來できません、何卒どうぞわたし友情いうじやうことなんとかしようさせてください。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
まア/\死ぬのは何時いつでも死なれるから、わたしも斯うやってお前を助けるからはいざおしになさいと刄物を渡す訳には人情として出来ん
「こんなことでおまへ世間せけんさわがしくてやうがないのでね、わたしところでも本當ほんたうこまつてしまふんだよ」内儀かみさんは巡査じゆんさ一寸ちよつとてさうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「こんど日向ひゅうがからお召しよせになったあの髪長媛かみながひめを、お父上にお願いして、わたしのおよめにもらってくれないか」とおたのみになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
原文はほど長いものであるから、今そのようつまんでに紹介する。で、その中にわたしとあるのは、即ちの目撃者たる画工自身の事だ。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大學者だいがくしやさまがつむりうへから大聲おほごゑ異見いけんをしてくださるとはちがふて、しんからそこからすほどのなみだがこぼれて、いかに強情がうじやうまんのわたしでも
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かつ面白おもしろ人物じんぶつであるから交際かうさいして見給みたまへとふのでありました、これからわたしまた山田やまだ石橋いしばしとを引合ひきあはせて、桃園とうゑんむすんだかたちです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
したがつてわたしは、以前いぜん同郷的愛着どうきやうてきあいちやく同藩的偏見どうはんてきへんけんうしなつたとおなじやうに、いま次第しだい國民的愛着こくみんてきあいちやく國家的偏見こくかてきへんけんうしなつたのであつた。
わたしは、そんなむごい事をしたおぼえはないがと、赤とんぼが、首をひねって考えましたとき、おじょうちゃんが大声でさけびました。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
けれどわたし如何どういふものか、それさはつてすこしもなく、たゞはじ喰出はみだした、一すぢ背負揚しよいあげ、それがわたし不安ふあん中心点ちうしんてんであつた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「おや/\ひどいことをしますね。そんなはずはありませんが、お前さん、わたしの言つたとほり五合の小豆を煮て喰べさせましたか?」
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そりやわたしは、ひどいにあつているんですから——あのおやじくらい、ごうつくばりでケチンボで、人情にんじょうなしの野郎やろうはないですよ。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
わたしはおまえさんのためをおもってそうってげるんだがね。とにかく、まあ出来できるだけはやたまごことや、のどならことおぼえるようにおし。
「豆をひくにしてもるにしても、おまえの腕ではとてもできないし、わたしの考えでは当分休むよりほかにしかたがないが、そうすると」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そのようなことを口へ出していうはずもなし聞くはずもありませぬけれどもわたしにはよくわかっておりますと申すのでござりました。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ハイ、御覽ごらんとほり、むらではおほきな建物たてものです。しかしこのおてら村中むらぢう人達ひとたちめにあるのです。わたしはこゝに御奉公ごほうこうしてるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
入れ札ではその密告者を決して当人に洩らさないおきてです。龍平だって、まさか、わたしがそうしたのだとは知らずに死んだに違いない……。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくわたしはばけものといふものは非常ひぜう面白おもしろいものだとおもつてるので、これくわんするほんの漠然ばくぜんたる感想かんさうを、いさゝこゝぶるにぎない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
わたしは帝國ホテルの廻廊の椅子に腰をおろして、玻璃はり越しに中庭を眺めてゐた。いろいろな刺戟から免れて心の閑かな時であつた。
(旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
『去年ですか。わたしは又、其点そこに気が付かなかつたもんですから……』と、孝子は少しきまり悪気わるげにして、其児の名を別の帳簿に書入れる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
くだるわ、/\、/\。ながれは何處どこまでつてもきないのかしら?『いままでにわたしいくマイルちたかしら?』とあいちやんは聲高こわだかひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
今まで蒸熱かった此一室ひとまへ冷たい夜風よかぜが、音もなく吹き込むと「夜風に当ると悪いでしょうよ、わたしは宜いからお閉めなさいよ、」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わたしりあのSさんのやうにみなさんにもうおわかれです、でもねわたしいまおほきなおほきな丘陵きうりようのやうに、安心あんしんしてよこたはつてゐますのよ。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
わたし追々おいおいに取る年だ。世間の取沙汰のしずかになるのを待っているうちには大方眼も見えず筆を持つ手も利かなくなろう……。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日本国民は此雪を誇ります、けれ共わたしいまだ我国民によりて我神意を発揮されたる何の産物をも見ない、彼等は兵力を誇ります
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
わたしは、おぢいさんと おばあさんの、正直なのに かんしんしました。ですから、その 百円で、あの のらねこを 売って もらひます。
赤いねこ (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
なんだって、おまえへい乗越のりこえてて、盗賊ぬすびとのように、わたしのラプンツェルをってくのだ? そんなことをすれば、いことはいぞ。」
今年の四月頃から懐妊の気味で、其の前から出るのはいるのと言つて居たが、愈々いよいよ上京の話が決ると、『わたしばかり置いて行くのかえ、おつかさん』
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
わたしおもひどほりのふかこゝろざしせたかたでなくては、をつとさだめることは出來できません。それはたいしてむづかしいことでもありません。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
どんな容子の人だとくと、かばんを持ってる若い人だというので、(取次とりつぎがその頃わたしが始終げていたかわ合切袋がっさいぶくろを鞄と間違えたと見える。)
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
わたし貴方あなたに無理にお願をしてバイヲリンの稽古けいこまでして、家庭をにぎやかにしやうと心掛けてゐるやうな譯ぢやございませんか。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わたし先頃さきごろフランスの西海岸にしかいがんにあるカルナックといふところおほきいいしつたのでありますが、いまみつつにをれて地上ちじようたふれてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
おもひせまつて梅川うめかはは、たもとをだいてよろ/\よろ、わたしはうへよろめいて、はつとみとまつて、をあげたときしろゆびがかちりとつたのです。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
わたしたちが、子供こどものころから、したしみなれてきた一休いっきゅうさんは、紫野大徳寺むらさきのだいとくじ、四十七代目だいめ住職じゅうしょくとして、天下てんかにその智識ちしき高徳こうとくをうたわれたひとでした。
先生と父兄の皆さまへ (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
そこへおともだちがておはなしをしてゐると、どこから這入はいつてたものか、また椽側えんがはた、わたしあわてゝ障子せうじ締切しめきつた。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
それは、わたしも知っているのだ。知っているからこそお前に相談をするのだ。実はあの朝太郎というお子は、殿のお世継よつぎ吉松よしまつ様というかたなのだ。
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)