江戸えど)” の例文
「それは、とんでもないことです。あなたのようなとしのわかい、たびになれないおぼっちゃんが、一人ひとり江戸えどへおいでになるなんて。」
下町したまちはうらない。江戸えどのむかしよりして、これを東京とうきやうひる時鳥ほとゝぎすともいひたい、その苗賣なへうりこゑは、近頃ちかごろくことがすくなくなつた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此女このをんなくにかられてたのではない、江戸えどつたをんなか知れない、それは判然はつきりわからないが、なにしろ薄情はくじやうをんなだから亭主ていしゆおもてき出す。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
これで当人はわたし江戸えどっ子でげすなどと云ってる。マドンナと云うのは何でも赤シャツの馴染なじみの芸者の渾名あだなか何かに違いないと思った。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうよ。おまけにこいつァ、ただのおんなつめじゃァねえぜ。当時とうじ江戸えどで、一といって二とくだらねえといわれてる、笠森かさもりおせんのつめなんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
露柴はすい江戸えどだった。曾祖父そうそふ蜀山しょくさん文晁ぶんちょうと交遊の厚かった人である。家も河岸かし丸清まるせいと云えば、あの界隈かいわいでは知らぬものはない。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
江戸えどから、田舎いなかへのがれてくる時分じぶんに、みんないろいろなものをてて、のままでげなければなりませんでした。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
受るも口惜くちをしと父樣はとてもうかまれまじきにより私しこと早々さう/\江戸えどへ參り實否をうけたまはり自然此書中の如くに候へばほねを拾ひ御跡おんあととぶらひ申さんと云を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これからのち室町時代むろまちじだいからときぎて江戸えど時代じだいいたるまで、そんなにすぐれた歌人かじんは、おほくはてまゐりませんでした。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
暑かった江戸えどの一日も終わって、この貧しいとんがり長屋にも、自然はすこしの偏頗へんぱもなく、日暮れともなれば、涼しい夕風を吹き送るのでした。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ふるいもあたらしいも、愚老ぐらう洒落しやれなんぞをまをすことはきらひでございます。江戸えどのよくやります、洒落しやれとかいふ言葉ことばあそびは、いやでございます。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
慶応けいおう生れの江戸えど天下の助五郎すけごろう寄席よせ下足番げそくばんだが、頼まれれば何でもする。一番好きなのは選挙と侠客きょうかくだ。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
無論一部の事にはそろへども江戸えど略語りやくご難有ありがたメのと申すが有之これあり難有迷惑ありがためいわくそろかるくメのりやくし切りたる洒落工合しやれぐあひ一寸ちよつと面白いと存候ぞんじそろ。(十九日)
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
鉋太郎かんなたろうこたえました。これは、江戸えどから大工だいく息子むすこで、昨日きのうまでは諸国しょこくのおてら神社じんじゃもんなどのつくりをまわり、大工だいく修業しゅぎょうしていたのでありました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
... ただの江戸えどであるよりも生粹きつすゐとつけたはうよろこぶらしい)それから、その——(をつとといつていゝか、つばめ?——すこし、禿はげすぎてゐるが)あいする於莵吉おときちは十一も齡下としした
江戸えどの味覚は、浅草山谷にとどめを差すように、会席料理八百善の名は、沽券こけんが高かったのだった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それを御祝儀ごしゅうぎとも苗祝とも名づけて、常例にしていた土地も遠国にはあるが、蕉門しょうもんの人たちの熟知したきょう江戸えど中間の田舎には、近世はもうあまり聞かなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もう家康は駿府すんぷ隠居いんきょしていたので、京都きょうとに着いた使は、最初に江戸えどへ往けという指図さしずを受けた。使はうるう四月二十四日に江戸の本誓寺ほんせいじに着いた。五月六日に将軍に謁見えっけんした。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この江戸えど川の流れはどこからこんなに水をたたえて漫々まんまんと流れているのだろうと思うのだ。——薄青い色の水が、こまかな小波さざなみをたてて、ちゃぷちゃぷと岸のどろをひたしている。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それも製作技術の智慧からではあるが、丸太まるたを組み、割竹わりだけを編み、紙をり、色をけて、インチキ大仏のその眼のあなから安房あわ上総かずさまで見ゆるほどなのを江戸えどに作ったことがある。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
江戸えど町醫者まちいしや小田東叡をだとうえい安政あんせいねん十二ぐわつ出版しゆつぱん防火策圖解ばうくわさくづかい)なるものかかべすぢかひをれることを唱道しやうだうしたくらゐのことでそれ以前いぜんべつ耐震的工夫たいしんてきくふう提案ていあんされたことはかぬのである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
江戸えど時代に元園町という町はなかった。このあたりは徳川とくがわ幕府の調練場となり、維新後は桑茶栽付所となり、さらにひらかれて町となった。昔は薬園であったので、町名を元園町という。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
江戸えどからている小供こどもはそれがうらやましくてたまらなかったものでございましょう、自分じぶんではおよげもせぬのに、女中じょちゅう不在るすおり衣服きものいで、ふか水溜みずたまりひとつにんだからたまりませぬ。
むかし、関東地方を治めてゐた殿様がありまして、江戸えどに住んでゐられました。
鬼カゲさま (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
「お前に退治が出来たら、おひる前のうちに江戸えどまで三度往復おうふくして見せる。」
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
江戸えど時代には、金魚飼育というものは貧乏びんぼう旗本のていのいい副業だったんだな。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
先生の函館時代はずいぶんさみしかったようですが、しかしその六年の間に先生がいろいろやってみたことは、それから江戸えどに出てもっと大きな舞台へ乗り出して行った時の役に立ちました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
〔評〕關八州くわんはつしうは古より武を用ふるの地と稱す。興世おきよ反逆はんぎやくすと雖、猶將門まさかどに説いて之にらしむ。小田原のえきほう公は徳川公に謂うて曰ふ、東方に地あり、江戸えどと曰ふ、以て都府とふを開く可しと。
こんどは、黄金豹は、日本橋にほんばし江戸えど銀行にあらわれました。
黄金豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
江戸えど名題なだい曲独楽きょくごまむすめ一座嵐粂吉あらしくめきち
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田舎いなかの一しょう江戸えどでも一しょう
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
江戸えどをみせよう」源六げんろく
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
江戸えど勇健いさみはだあや
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
榎本えのもとはどうしているのでしょうか。江戸えどにきているといううわさはかぜのたよりにきいたのですが、それもたしかめることができません。
衣類きものより足袋たびく。江戸えどではをんな素足すあしであつた。のしなやかさと、やはらかさと、かたちさを、春信はるのぶ哥麿うたまろ誰々たれ/\にもるがい。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
太い女だ、ひどいやつがあるもんだ、どうかしてもう一度江戸えどつちみ、女房にようばうつて死にたいものだ、お祖師様そしさまばちでもあたつたのかしら。
そりゃァもう仙蔵せんぞうのいうとお真正しんしょう間違まちげえなしの、きたおせんちゃんを江戸えど町中まちなかたとなりゃァ、また評判ひょうばん格別かくべつだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そうじて江戸えど人間にんげん調子てうしかるうて、言葉ことばしたにござります。下品げひん言葉ことばうへへ、無暗むやみに「お」のけまして、上品じやうひんせようとたくらんでります。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
どうやらおぼえのある地図——その下に、一行の文字が走っていて、武蔵国むさしのくに江戸えど麻布あざぶ林念寺前りんねんじまへ柳生藩やぎうはん上屋敷かみやしき
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこで仕方がないから、こっちも向うの筆法を用いてつらまえられないで、手の付けようのない返報をしなくてはならなくなる。そうなっては江戸えどっ子も駄目だめだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おのれが得意と一ツにし一手にてあきなひせし故なり然るに又上州じやうしうの吉三郎ならびに母のおいね兩人は利兵衞が江戸えどへ店を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ながあいだ江戸時代えどじだい泰平たいへいゆめやぶれるときがきました。江戸えど街々まちまち戦乱せんらんちまたとなりましたときに、この一人々ひとびとも、ずっととおい、田舎いなかほうのがれてきました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
このひと明治めいじ以後いご新派しんぱ和歌わかといふものに、非常ひじよう影響えいきようあたへたひとですが、それまではあまりひとからさわがれなかつたのです。江戸えどすゑから明治めいじはじめにかけてきてゐたひとです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
わたしが、獨身どくしんであつたなら!)なかでも、時雨しぐれさんは、美人びじんである(多分たぶん女性ぢよせい美人びじんであるといはれることをよろこぶにちがひない、とわたししんじてゐるのだが——)それからまた、生粹きつすゐ江戸えど
「わしら、江戸えどから西にしほうへいくものです。」
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「その代りに江戸えどだけは残りますよ。」
江戸えど蝙蝠こうもり
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
適塾てきじゅくでねっしんに勉強べんきょうしている諭吉ゆきちのもとへ、とつぜん、江戸えど中津藩奥平家なかつはんおくだいらけのやしきから、使つかいのものがやってきました。
あさからばんまで、いいえ、それよりも、一生涯しょうがい、あたしゃ太夫たゆうと一しょにいとうござんすが、なんといっても、おまえいまときめく、江戸えどばん女形おやま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
のち江戸えど元二げんじいたところは、本所南割下水ほんじよみなみわりげすゐんで祿千石ろくせんごくりやうした大御番役おほごばんやく服部式部邸はつとりしきぶていで、傳手つてもとめておな本所林町ほんじよはやしちやう家主いへぬし惣兵衞店そうべゑたな
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)